我慢は体に毒
本編に戻ります!!
俺とメアル、マーラオはレガニールに向かうため即座にオーセンを出た。そしてこのレガニールへ向かう道程にはもう1人同行者が居る。グレイブさんである。どうもレガニールに奥さんが3人居り全員が穏健派のため、その身を案じて同行を申し出てくれた。しかもその内の1人がマーラオの知り合いで王城勤めのメイドらしい。その人も捕らえられているとマーラオが教えてくれた。グレイブさんはその事を聞いて「アイツは強い奴だから大丈夫さ」と言っていたが、その表情は心配そうにしていた。俺もその人の無事を祈っておいた。そうして俺達はレガニールへと向かうのだが普通に徒歩で向かうなら1カ月程かかり、またオーセンとレガニールの間には広大な森が存在しており案内無しでは確実に迷うそうだ。だが馬車は目立つため使えず俺達は徒歩……というか走って向かう事にした。この森を熟知しているというマーラオの案内の元、俺達は走り続けた。俺はまぁアレだし、メアルを頭に乗せているので問題ないのだが、グレイブさんもSランク冒険者なのでかなりの速度で走っている。そんな俺達にもマーラオは着いてきていた。まぁ何回か休憩は挟んでいたけど、森を一直線に突っ切る形で進んでいるので普通に馬車で向かうよりは全然進んでいると思う。
そうしてそろそろ休憩かな?と思う所で街道近くへと出たのだが、どこにでも邪魔者は現れるみたいだ。俺とグレイブさんは咄嗟にマーラオを庇う形で前へと飛び出す。
「ちょ、ちょっと……待てぃ!!いや、待って下さい……」
間違いなくその風貌は盗賊である。薄汚れた服装に腰には長剣を下げており、何日も洗ってないのか肌は薄汚れている。その顔も無精ひげを生やし、いかにもな感じなのだが……なのだが……その顔は青白くなって脂汗を至る所にかいており、手でおなかを押さえていた。腹痛かな?
「お、お前達……紙……いや、金を置いていけ」
「……紙が欲しいんだ」
「金だっつって……んだろ……うがぁ!!」
ヤバイんですね?ギリギリなんですね?盗賊は必死に何かを堪えている様子だ。俺とグレイブさんはどうしようかと顔を見合わせると、とりあえずその盗賊に向け声を掛ける。
「そっか……金が欲しいのかぁ……なら抵抗するしかないよなぁ……」
「そうですね……紙なら直ぐ渡してもいいんですけど、金となると戦ってでも拒否するしかないですね。しかし、こちらも急いでいるし戦うとなると時間が掛かるし、困りましたねぇ……」
「そうなんだよなぁ~……それは困るよなぁ……どっちも」
俺とグレイブさんはニヤニヤしながら言葉を交わす。盗賊はその間も俺達のやり取りを聞きながら「あっ」とか「うぅ」とか言いながら必死に堪えている。いつまで耐えられるのかなぁ。もちろん俺達は何かが決壊した瞬間、この場を即座に立ち去るつもりだ。
「ね、ねぇ?あの人苦しそうだけど助けなくていいの?」
そんな俺達にマーラオが後ろから声を掛けてきた。
「え?あぁ、だって盗賊だし。助ける義理はないでしょ?」
「そうだな。助けた瞬間、意趣返しに斬りかかってくるかもしれないしな」
「そっかぁ」
「「だから今俺達が出来るのは精一杯時間を延ばしまくる事さ」」
俺達の言葉に盗賊の顔が絶望に染まった。カタカタと震え、口をパクパクしている。だが、次の瞬間「うっ」と言いながら唇を突き出して空を仰いだ。片方の手は尻を押さえている。ついにきたのか?俺とグレイブさんは即座にこの場からマーラオを連れて離れる態勢へと移るが、盗賊はしばらくその態勢で居たが急に大きく息を吐いて荒々しく呼吸を繰り返していたかと思うと小さく笑いだした。
「フ……フフフ……ア~ッハッハッハッ!!!」
すると唐突に大きく笑いだした。ど、どうした?まさか出ちゃったのか?何がとは言わないが……
「治まったぞぉ~!!波は過ぎたぁ~!!さぁてめえら覚悟はいいか!!さっさと有り金を置いて去らなかった事を後悔させてやるよ!!」
そう言って盗賊が剣を抜き放ち、俺達へとその切っ先を向けてきた。馬鹿な!!治まっただと!!ちっ、めんどうな。まさか治まるとは。俺とグレイブさんはめんどくさい事になったと顔をしかめると、さっさと終わらそうと戦闘態勢へと移行する。その行動に盗賊は反応を示し、懐から更に短剣を取り出し構えた。
「甘いぜ!!俺様が2対1でビビるとでも思ったのか?俺は2刀流でも全然やれるんだぜ!!俺様の強さを見せつけてやる!!せいぜいさっさと逃げなかった事を後悔するんだな!!」
盗賊が大きく腕を広げてこちらへと斬りかかってきた。俺とグレイブさんは即座に終わらせようとその場から飛び出そうとしたが……
「「……」」
「……うぅ……波が……」
「あの人また苦しみだしたけど……」
マーラオが言うように盗賊は剣を放りだして再びおなかと尻に手を当てて何かを我慢していた。治まったと思ったら来るんだよね。盗賊の顔色を見るとどうやら先程よりも強い波が来ているようで口をパクパクして必死に堪えていた。目には涙を浮かべて俺達の方を見てくる。
「……お願いします……もう行って下さい……もう動けないんです……やばいんです……女の子の前で……したくないです……お願いします……尊厳を守って下さい……」
「……行くか」
「……そうですね」
グレイブさんは無言で懐から何も書かれていない紙を出すとそっと盗賊の目の前の地面に置いた。俺達は音も匂いも届かないように急いでこの場から去った。