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Treasure
作:美月


私にだけ教えてくれる?

あなたにとっての“宝物”って何?

私はね―――





『Treasure』





「早くしないと、阿笠博士もずっと待ってくれてるよ?」

 せっかくの日曜日。阿笠博士が久しぶりに遠くへ連れて行ってくれるというのに、新一ったらあんまり嬉しくなさそうで。
でも、どうしてそんな顔をされるのかは、解っている。
きっとその原因を作ってしまっているのは、私だろうということにも薄々は感付いていた。
だけど、やっぱり、せっかくだから笑顔でいてほしかった。
何てったって、今日は――



「二人とも着いたぞ!」

 よっこらせ、と言いながらドアを開けた阿笠博士に倣って、私も勢いよくドアを開けた。
その後ろから、相変わらず疲れた顔をした新一も出て来る。

 阿笠博士が連れて来てくれた場所は、遊園地のような賑やかな場所ではなく、海だった。
いつも優しくて、いつも明るい笑顔で、私たちにとって、本当の祖父のような人。
毎年のようにゴールデンウィークは決まって、どこかに連れて行ってくれる。
それが楽しみで、新一との想い出も増える日だから、こんなに嬉しくて嬉しくて仕方ないのに。


「新一君、どうかしたのか?元気ないのう…」

「へ?」

 何を考えていたのかは知らないが、新一は気が抜けた返事をした。
博士がそれを聞いた時、私は思わず目を逸らしてしまった。
これくらいのことなら昔から、よくあった。
小学校に入学したばかりの頃にも、私の名前を呼べずに『毛利』と呼んでいる頃もあった程で。
慣れてしまいたくはないけれど、何度かそんなことがあっても辛い気持ちはいつも一緒な自分がいるのも確か。

「ねえ、新一?」

「?」

「何でそんな楽しくなさそうな顔するの?せっかく来たんだからもっと…」

「そんなんじゃねーよ…」

 それが楽しくなさそうなの、と続けようとしたが、これ以上言ったらもう話しかけてくれないかもしれないと思い、口をつぐんだ。
ふと、先程ズボンのポケットに仕舞い込んだものを、ポケットの上から触ってみた。
ゴツゴツした固い感触と、冷たい温度が目の前でそっぽを向く、新一のよう。
何でこんなもの拾っちゃったんだろう、と後悔しながらポケットに触れていた手をゆっくりと離した。

 阿笠博士が横目でこちらを伺っているような、そんな視線を感じた。
私たちに元気がない時は、いつだって心配してくれて。
博士の愛車の中にこっそりと乗せてある、それ程大きくもない袋。
可愛い女の子向けではなく、新一に合うようにとラッピングが施されたそれは、自らの出番を今か今か、と心待ちするかのように一人車内に取り残されている。
しかも、見えないように置いて来たつもりなのに、車外から丸見えで。

――そんなに渡してほしいのかなあ…渡す本人の私は、こんなに渡したくないのになあ…



 新一の機嫌が悪い理由くらい、解っている。ここに来る前から、阿笠博士がゴールデンウィークの計画を立てた時から知っていた。
事の発端は噂だった。新一が不機嫌な理由はこれのせい。
学校で『噂』と呼べる程のものではないけれど、それに似たようなものが囁かれていて。
お互いが『いつも一緒にいる幼なじみのことを好きなんだろ?』とふざけて言われていて。
それが私以上に新一にとっては気に入らなかったらしい。
やっぱり、そんなこと言われて黙っておけるほうがすごいけど、さすがに私にまで話しかけてくれなくなると、落ち込んでしまった。
せっかく前々から用意していたモノも、このままでは計画倒れになってしまう、と不安にもなっていた。

 そんなの嫌だ、と思って慌てて博士の所まで駆け寄って、車の鍵を開けてもらった。
私の慌てた様子を見て驚いていた博士は、何も言わずについて来てくれた。
しかし、新一はと言うと、全く驚いていなくて、寧ろ、そっぽを向けたままの背をこちらに向かすこともなく、じっと佇んでいた。

「はい、これ!新一のために買ったんだよ?あげる!あと…これも」

 いきなり名前を呼ばれてさすがに驚いたのか、やっとこちらを振り返ってくれた。
嬉しくて嬉しくて堪らなかったが、そんなことはどうでもいいから、また新一がそっぽを向く前に早く言うことを言って、渡すものを渡さないと。

 一歩、新一に近づくために足を踏み出すと、私たちの間を冷たい潮風が流れた。
左から右に抜けて、私が今やろうとしていることを、止めさせようとするかの如く。
波は、ザアザアと不均等なリズムを奏でている。
ここまで来ると、それら全てが私の決意を邪魔しているように思えていた。
こういう時に限って、目が、耳が、全身が、その神経を集中させてしまって、この気持ちをどうしたら良いのか解らなくなる。

 いつか、この三人で見た夕日のような、海の向こうに沈んでいこうとしている太陽が目の前にあるというのに。
でも今は、立場が逆転していて太陽が私たちのことを見ている。
綺麗だ、と感じる余裕すらなくて、一気に新一に近づく。

毎年の恒例行事だけど、ここまで緊張したことは、多分これが初めてだろう。

 小さな掌の上に差し出したモノは、新一の大好きなサッカーボールを入れた袋と、先程この海岸で拾ったばかりの貝殻。
拾った時は、薄っすらとピンクに染まっていたのに、今改めて見てみると、夕焼け色に染まっている。
これも綺麗だな、と感じた。


「新一、十二歳のお誕生日おめでとう!また私より一つ年上になっちゃったね!」


 夕焼けに染まってよく見えなかったけれど、新一の頬も夕焼けのように赤く染まっているように見えた。
何も言わなかったけれど、よく考えてみれば、いつも夕日を見ている時の新一の顔は真っ赤になっているかもしれない。
ただの偶然か、私の思い込みだろうけど。
でも、本人には聞かない。これで、機嫌直してくれたら嬉しいなあ…。

「蘭…あ、ありがとな。ちょ、ちょうどボール欲しかったんだ。今使ってるのももうボロボロだったから……
た、大切にするよ。この貝殻も部屋に飾っておくから…」

「そっか…よかった!」

 上手く言葉が喋れてなくて、しどろもどろになっている新一を他所に、私は博士のほうを向いて、ニコッと笑ってみせた。
すると、博士も同じように私と、そして新一にも笑みを浮かべていた。

 ラッピング、と言ってもまだまだ綺麗にできなくて、お気に入りの袋にお気に入りのシールを貼って、『誕生日おめでとう新一!」と書いただけのもの。
そんな袋だけど、案外、新一はそれを破らないようにゆっくりと開けてくれて――そのシールに気付いてくれた。

「これって、もしかして…」

 そう言ってくれるのを待っていたかのように、私は口を開いた。
待ってたのは、満更、嘘ではないけれど。

「そうだよ。昨年、新一が私の誕生日プレゼントでくれたシールだよ。
気に入ったからずっと使わなかったんだけど、やっぱり新一の誕生日には使わないとなーと思って…
それ、私の“宝物”なんだ!」

「あ、ありがとな…」

「ねえねえ、新一の宝物は何?教えて?」

「オ、オレは…」

 一瞬、ちらりとこちらを向いた新一の視線を私は逃さなかった。
すぐに目を逸らされたけど、今のは何だったんだろう…。

「ホ、ホームズだよ!ホームズの小説だよ!」

「ふう〜ん……」

 頭上に『?』を並べていた私だけど、新一の宝物はホームズの本なの?と思いながら、来年の今頃のことを思い浮かべた。
中学生になった私の手に握られているのは、新一の宝物の『ホームズの本』。
それを貰って喜ぶ新一の顔。それを見て笑顔になる私。
素敵な未来を想像しながら、博士の宝物も聞きに行った。






 「ワシはのう…」と答える博士と幼なじみを視界の片隅に入れながら、「オレの宝物は………」と小さく呟いた新一の声は、風に掻き消されていた。





こんばんは。初めての方は初めまして。美月と申します。こちらに投稿させて頂くのも久しぶりです!!もう1ヶ月振りです(^^;

さて、今日は待ちに待った『新一、そしてコナンの誕生日v』ということで、絶対5月4日に投稿してやると使命感を燃やして書きました(笑)本当は連載で載せようとしていたこのお話だったのですが、忙しくて連載は無理なので短編になりました(^^;

余談ですが、今日ようやく『紺碧の棺』を見てきまして。最高でしたが、驚いたというよりショックだったことがひとつありました。それは、誕生日のお話で今日投稿しようとしていたネタと映画のあるネタが被っていた!ということです;(どれかは皆様のご想像にお任せしますが、多分分かると思います;)それによって完成間近だった話はボツで新しく書いていたらこんなギリギリの時間に…;
そんなことはどうだっていいのですが、一応、ふたりの設定は小学6年生です。原作等ではまだ明らかにされていない歳のふたりが書きたかったんです…

長々と申し訳ありません;(次にこちらに来るのはいつになるだろうか…)それでは、読んで下さってありがとうございました。













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