第32話 大和司とメイドさん?
更新遅くなりました!32話目だそうです。
「ツカサさま!」
リエルが駆け寄ってきて、こちらに飛び込んで……こずに立ち止まった。その視線が俺の背中へと向いている。
「無事だったんですね」
「ああ、リエルもありがとうな。 こんなにすぐ増援を呼んでくれて」
「べつにこれくらい普通です」
リエルがはだけていたフードをかぶりなおしながら、そっけなく言う。うーん、慌ててはくれたんだろうな……
「マリアローズ様!!」
その時、リエルより少し遅れて到着してきた女性……いや、メイドさんがこちらに走ってきた。メイドさんって、なんというか、本物?は初めて見たけどすごい迫力があるな……
しかも、そのメイドさんはただのメイドさんではなかった。栗色の髪の毛に白いカチューシャ、黒ワンピースとフリルの付いた白いエプロンは動きやすいように短く、脚には、先端にこれもフリルが付いたニーソックスのようなもの を履いている。しかし、特徴的なのは、足、手、腰には銀色の甲冑を嵌めており腰に剣、背中には盾を背負っていた。戦うメイドさんという感じがちょうどいいだろう。
なんとなく圧倒されていると、そのメイドさんは、まっすぐにこちらへ向かってきて、おれの背中に背負われたファルネーゼを確認し、こちらに声を掛けてくる。
「マリアローズ様は大丈夫ですか!?」
その声に反応したのか、気を失っていたファルネーゼが少し身じろぎをした。どうやら気がついたようだ。
「う、ううん……」
「マリアローズ様!」
「うるさいわねぇ。 どうしたの、エマ? ここは……?」
おれに背負われたままのファルネーゼがあたりを見渡して、自分の現状を確認しようとして、おれと至近距離で目が合って固まった。
「お、おはよう?」
どうして、いいかわからなかったので、とりあえず挨拶とかをしてみる。
「な、何であなたが!? オオカミモドキクイーンは!? あと、早くおろしなさい!!」
ファルネーゼが背中の上で暴れ出す。
「痛い、痛いって。 おろすから、暴れるな」
乱暴な女だなぁ……おれは、暴れるファルネーゼを落とさないようにそっと地面におろした。地面におろされたファルネーゼは、そこに立つ……ことが出来ずに、地面に座り込んでしまった。本当に体力を全て使い切ったのだろう。そこにエマさんが抱きついた。
「いつも本当に無茶をするんですから……」
「エマ……ごめんね」
ファルネーゼがそっとエマの背に手を伸ばす。二人は言葉なくしばらく抱き合っていたが、やっと落ち着いたのか、エマさんが立ち上がった。
「マリアローズ様。 馬車を用意しておりますので、詳しい話は、そちらで聞かせていただけますか? 護衛も付けずに一人で行動されたこと、納得いくご説明をしていただけるのですよね?」
ゴゴゴゴゴッ
エマさんは、笑顔なのだが、何故か後ろから効果音が聞こえてくる。ファルネーゼは、ものすごくばつの悪そうな顔をしている。
なんとなく、ざまあみろという気持ちで、ニヤニヤしながら縮こまるファルネーゼを見ていると。エマさんがこちらへと振り向いた。
「そちらの方も、よろしいでしょうか?」
「は、はいっ」
NOという選択肢はおれには無いようだった。
おれの返事を聞くと、エマさんは、背筋をピンと伸ばして、馬車へと歩いていく。
「あ、あの、エマ? 私ちょっと立てなくて……」
エマさんが立ち止まって、ファルネーゼを見た後で、おれの方へと向きなおった。
「申し訳ありません、お名前を頂いてもよろしいでしょうか?」
「大和 司で、大和が家名で、司が名前だ」
「では、ヤマト様。 申し訳ありませんが、お嬢様に手を貸して差し上げて頂けないでしょうか?」
「え?」
「女性に手を貸すことは、古来、殿方の役目と存じ上げております」
「は、はい……」
メイドさんには逆らえない!
「立てるか?」
そう言って、ファルネーゼを立たせて肩を貸そうとすると、ファルネーゼがエマに聞こえないように小声で話しかけてくる。
(なによ?)
(エマさんがああ言っているだろう?)
(なんで、あなたの手を借りないといけないのよ?)
(ほら、でもエマさんがこっち見ているぞ)
(あなたの手を借りるくらいなら自分で歩いていくわ)
そう言って、ファルネーゼは立ち上がろうとしてみるが、すぐにへたり込む。
「ああ、もう」
そう言って、おれはファルネーゼを抱え上げた。そう、いわゆるお姫様抱っこというやつである。
「ちょっと、何をするのよ!」
「降ろしなさい!!」
「自分で歩くから~!!」
なんか手にした荷物が何かを言っているようだが、気にせずにエマさんが向かっている馬車まで運んで行った。ファルネーゼも最後の方には観念したのか静かになっていた。
馬車は、二頭引きの大きめの馬車で木製の屋根がつけられており、その外側は布で覆われているなかなか立派なものだった。馬車に乗りやすいように足元に置かれた脚立(?)のようなものを使いエマさんの後から馬車の中に入る。
エマさんは、馬車の中に入った俺たちを見て。
「お似合いですよ、マリアローズ様。 ヤマト様」
「馬鹿なこと言わないで!!」
思い出したようにファルネーゼが暴れだしたので、ファルネーゼを床へと下した。エマさんに助けられて、ファルネーゼは御者台の方にあるベンチへと腰をおろした。過度の疲れからか、ファルネーゼの顔が少し赤い。エマさんはファルネーゼを楽しそうに見ているが、ファルネーゼはその視線に盛んに咳払いなどをしている。
「ヤマト様も、そちらにお座りください」
所在なく立ち尽くしていると、エマさんが座るように薦めてくれた。
「その前に、仲間を呼んでもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
メイドさんの許可も出たようなので、少し離れたいちから、馬車の中を見ていた、リエルとナーシャを呼び寄せる。リエルとナーシャが馬車へと入ってきたので、二人も馬車内のベンチに座らせた。ナーシャがおれの隣、リエルがおれの向かいに座っている。
全員が座ったのを確認すると、エマさんが御者に馬車を出すように指示をして、馬車が動き出した。
「では、皆様お揃いになったようなので、お話を伺いましょうか? さあ、マリアローズ様?」
ファルネーゼは、最初何かを躊躇していたのだが、エマさんのプレッシャーに耐えられずぼそぼそと話し出した。ファルネーゼの話をまとめると。
○ 先日の大爆発の原因を調査したものの何も手がかりを発見できなかったこと。
○ 冒険者ギルドでおれのことを見つけた時に、大爆発の後にきた旅人だと、何かを目撃するなどして手がかりを持っているかもしれないし、ひょっとすると犯人かもしれないと思ったこと。(特におれは、黒髪という見たことのない髪の毛の色をしていたし、外套を着た仲間を連れているなど、見るからに怪しいと思ったらしい)
○ おれたちの情報については、泊まっている宿を含めて、エミリーさんから聞き出していたらしい。
○ 確証もなく人を疑っていることなどをエマに知られることを避けるために、一人で行動していたとのこと。
○ 特に怪しいこともなかったので、街に帰ろうとしたところオオカミモドキクイーンが現れたので、おれたちを守るために飛び出して今にいたるとのこと。
最後の方はおれたちも知っている話である。エマさんに知られないようにあたりのところで、ファルネーゼがエマさんに説教されていたが、そのあたりは無駄に長かったので割愛をしておく。エマさんは、ファルネーゼを叱りつつも、その眼は優しかった。きっと、主人のことを本当に好きなんだろう。
ファルネーゼの記憶はそこで終わっていたので、そこからはおれの補足になる。オオカミモドキクイーンについては、ファルネーゼの最後の決死の一撃で大きな傷を負って逃げて行ったと、ファルネーゼが一人で倒したことにしておいた。ほとんど一人で戦っていたことも事実だしね。
B級のモンスターを倒すにはBランクの冒険者であればパーティである必要が有り、一人で倒すには、少なくともA級の実力が必要とされる。B級のモンスターがこんな街の近くででることは滅多になく、放っておけば大きな被害が街に与えられたかもしれない。
ファルネーゼが一人でオオカミモドキクイーンを倒したということはすごいことらしく、エマさんもその表情を崩してびっくりしていた。
「マリアローズ様、今回のことでお父様も認めてもらえるのではないでしょうか?」
エマさんがそう言ってファルネーゼに話しかけている。こちらまでは聞こえないが、ファルネーゼもエマさんのセリフで何かを思ったのか、ファルネーゼがエマさんに何かを話しかけている。またもや所在がなくなった。リエルとナーシャの方をみると、リエルは話しているファルネーゼとエマさんの方を見ており、ナーシャはこちらにもたれかかって眠っていた。
ちなみに、ファルネーゼがやはりこちらのことを聞きたがったので、大爆発については、旅の途中に巻き込まれただけで、しかも気を失っていたのでほとんど何もわからなかったこと、この世界の地理なんかわからないが、とりあえず東の遠くの国から旅をしてここまできたこと、リエルは従者で、ナーシャについては良家のお嬢様で特別な力を持っていると無理やり気味にごまかしておいた。ものすごくうさん臭そうな感じだったが、ナーシャの整い過ぎた容姿に疑い半分ということで納得したようだ。そりゃこんな幼女を連れていたら怪しいだろう……
回想をしていると、馬車がその足を止めた。しばらく前から街の中に入っていたようなことについては、あたりの喧騒からわかっていた。御者から伝言を聞いたエマさんがこちらに話しかけてくる。
「どうやら冒険者ギルドについたようです。 ヤマト様は本日クエストをやっていたように聞きますので、報告もあろうかと思いこちらにお連れ致しましたが、よろしかったでしょうか?」
街に入ったけれど降ろされず、何処に連れていかれるのだろうと若干思っていたが、気を利かせてくれたようだ。なんというか、エマさんはすごいできる人な気がするな。
「ありがとうございます、助かります。 リエル」
リエルに声を掛けて、立ち上がらせると、ナーシャを抱き上げる。またもや、お姫様抱っこというやつである。
「「あっ」」
なぜか、リエルとファルネーゼの声がはもった。
「?」
二人の方を振り向くと、リエルはうつむいて、ファルネーゼは横へと顔をそむけてしまった。なんなんだ??
「では、エマさんありがとうございました。 ファルネーゼさま、我々の命を助けてくれて、ありがとうございました」
領主の娘ということもあり、若干不本意ではあるが、丁寧にお礼を言っておく。
「わ、悪かったわね、そのつけたりして。 あと、マリアローズでいいわよ」
そういったファルネーゼ、いやマリアローズは、顔を赤くしてまたそっぽを向いてしまった。なんだ、まともにしていたら、かわいいじゃないか。
そんなことを思っていたら、リエルに服の裾を引っ張られたので、エマさんに会釈をして馬車を後にした。
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(領主の館)
「一人で、B級のモンスターを追い払ったというのか……」
「お父様も私が伊達や酔狂でやっていないということが分かったのではないでしょうか? 剣も使えないような、政しかやっていないような人はお断りします。 自分の伴侶は自分で選びます」
今まで思っていたことをすべて父へとぶつけることがやっとできた。生涯の伴侶か……その時、何故かヤマトツカサの顔が頭に浮かんだ。何を考えているの私は。私は、頭を振って変な考えを振り払うと、まだ呆然としている父を置いて父の執務室を後にした。
部屋をでると、エマが近寄ってきた。
「ご立派でした、マリアローズ様。 私はヤマト様は、悪くないと思いますよ」
そう言って、エマがいじわるそうな顔で笑う。
「馬鹿なことを言わないで! もう、兵舎に戻るわよ!!」
そう言って、エマを置き去りにして歩き出したが、今私の顔は赤くなっているだろう。
誤記チェックもそうそうですが、とりあえず投稿しておきます~
どうも忙しくてペースが落ちてますが、目標は2~3日に1回、少なくとも週1回は更新できるように頑張っていきたいと思います!
気長にお待ちいただければ!
リエルさんの影が薄いような気がする今日この頃……リエルのターンはそのうちくるはずです……