第31話 大和司とオオカミ退治。
遅くなりましたが、続きです。
おれたちが、オオカミモドキクイーンを迎え撃とうとしたその時、それまで森の中に隠れていた女騎士が街道へと飛び出してきた。
「ヤマトツカサ! お前たちでは敵わない、下がっていろ!!」
ファルネーゼといったか、女騎士はおれ達に向かってくるオオカミモドキクイーンの進路を遮るように立つと、魔法で自分を強化した。
「キャスト プロテクション、キャスト ストレングス」
魔法も使いこなすのか……にしても、この女、さっきおれのことをフルネームで呼んでたな……やはりおれのことを調べていたということか……
「キャスト アイスアロー」
ファルネーゼが作り出した氷の矢がオオカミモドキクイーンに直撃する……がまったく意に介さずオオカミモドキクイーンが前足を振りかぶって振り下ろす。ファルネーゼは、敢えて距離を詰めて状態をかがませることによって、その攻撃をかわしてカウンターを合わせる。流れるようなその体裁きに思わず声が漏れる。
「すごい……」
その後も、ファルネーゼは、オオカミモドキクイーンの攻撃を、噛みつきに対しては、その身を翻してかわし、前足の振り下ろしに対しては、剣を合わせて受け流して綺麗にかわしてく。そして、オオカミモドキクイーンの隙をついて、確実にダメージを与えていく。これなら倒せるんじゃないか?そんなことを思わせる立派な戦いぶりだった。
「ふむ、あの嬢ちゃん、このままでは負けるじゃろうな」
「あれだけ押しているし大丈夫じゃないのか!?」
「わかっとらんなぁ、ツカサも。 あの嬢ちゃんの攻撃では、致命傷をあたえることができん。 そのうち、体力がつきて攻撃をかわせなくなったらダメじゃろうな。 つまり、ジリ貧というやつじゃな」
ナーシャの言葉を合図とでもしたように、オオカミモドキクイーンの攻撃が初めてファルネーゼの身体を捉える。オオカミモドキクイーンの異様に発達した爪はファルネーゼの着たチェインメイルを容易に切り裂いて鮮血が流れる。
「キャスト マイナーヒール」
ファルネーゼは一度距離をとると、魔法で傷を治し、何事もなかったように戦いへと戻っていく。しかしながら、オオカミモドキクイーンの攻撃をかわす姿には、先ほどまでの余裕がないような気がする。
助太刀するか?しかし、目の前の戦いは速く、激しくとても今のおれが割って入れるように見えなかった。ナーシャに何とかしてもらう?だが、どういう理由かわからないが後をつけてくるような者の前でその力を見られるのはマズい気がする。
ナーシャの方を見ると、値踏みをするようにナーシャもこちらのことを見つめていた。
おれが決断をする事ができないでいる間にも、ファルネーゼとオオカミモドキクイーンとの戦闘は続いていく。時間の経過とともにファルネーゼが流す血の量も多くなってきており、いよいよ決断を迫られたその時……
「ヤマトツカサ! 私が今から少しずつ、こいつを引き離す! 十分距離が取れたら街に走って援軍を要請してくれ!!」
思わず息を飲んだ。女の子が、おれたちのために、あれだけ身体を張って戦っているのに、保身を考えておれは何をやっていたんだ!!
「リエル、ゼンさんのところまで行って、増援の要請を頼んできてくれ」
「しかし、ツカサさま……」
あー、ナーシャがいるし。今回は本気?出すからこっちは大丈夫
そう言うと、おれはステータスボードを操作して、職業を村人へと戻す。剣士として真っ当な(?)レベルの上昇を経験したからか、ステータスの上昇を実感として感じられる。Tears of Dragonは羽のように軽く感じられ、まさに身体に羽が生えた状態とでもいうのか?今まで脅威に感じられていたオオカミモドキクイーンだが、今では全く脅威を感じなくなった。もしかして、Lvアップの効果は心にも作用するのかもしれない。
おれは、リエルが外門の方へ駆けていくのを見届けると、ファルネーゼとオオカミモドキクイーンの方へと視線を戻した。
ファルネーゼは一流の騎士なんだろう。その宣言どおりにオオカミモドキクイーンを巧みに誘導し、森の奥の方へ奥の方へと移動をしていた。その様子を見ていると、これは本当に増援がくるまで耐えてしまうのではないかとも思わせてくれた。
しかし、次の瞬間、均衡を保っていた戦闘に決定的な変化が訪れた。
何度かオオカミモドキクイーンの攻撃が当たっていたからだろう。その時、ファルネーゼの背後にある木が、運悪くファルネーゼの方へと倒れる。決して大木とまでは言えないが、、森の木はどれもしっかりと成長しており、あれが身体の上に倒れたら、きっとただではすまないだろう。
ぎりぎりで、その身をかわしたファルネーゼだったが、態勢を崩したところに、その隙を待っていたオオカミモドキクイーンが襲いかかった。
それを見たおれは、もう無意識に地面を蹴っていた。
体勢の悪い中から放った、ファルネーゼの全身全霊をこめた突き(カウンター?)がおオオカミモドキクイーンの身体をつらぬいた。しかし、その勢いは止まることはなく、オオカミモドキクイーンの右前足をファルネーゼ目がけて振り下ろした。
その瞬間、ぎりぎり間に合ったおれが、オオカミモドキクイーンとファルネーゼの間に飛び込んだ。そこに、オオカミモドキクイーンの前足が勢いよく振り下ろされてくるが、それをおれはあっさりと受け止めた。ファルネーゼは全ての力を使い切ってしまったのか、気を失って地面に崩れ落ちてしまった。
とりあえず、こいつを片付けないとか……オオカミモドキクイーンが今度はその口を開けて噛みついてくる。その大きな口の中でも一際大きな牙、犬歯だろうか?を掴んでその噛みつきを受け止めると、その牙を一気に引き抜いた。
「キャイーン!!」
オオカミモドキクイーンが犬のような鳴き声を上げて飛び退いた。剣や槍などで傷を負うことはあっても、まさか牙をこんな形で引き抜かれるとは思わなかっただろう。
おれは、Tears of Dragonを上段に振りかぶるとオオカミモドキクイーンと対峙……しようとしたのだが、オオカミモドキクイーンはちょっとその身体を伏せたかと思うと、次の瞬間、尻尾を巻いて逃げていった……
「おーい……」
今のステータスだと、追いつけないことはなさそうだが、全力で逃げていく姿をみて、さすがにそんな気は起こらなかった。
「所詮は動物じゃからな、敵わぬとわかったら逃げていくもんじゃ」
ナーシャがいう。野生の本能?ってやつか……まあ、ドラ○エとかで低Lvのモンスターが逃げいくようなものか……
「それにしてもツカサよ、お主やはり、力を隠しておったの?」
「まあ、隠しているというわけでもなくはないんだが……というかナーシャ? ナーシャが、この前みたいにけん制してくれたら、最初から逃げていったんじゃないのか、アレ?」
「おー、それは、まったくきづいておらんかったわー」
ナーシャさん、何ですか?その棒読み……
おれの力を確かめたかったということなのか……?
「まあ、あの嬢ちゃんが本当に危なくなったら助けてやる気ではおったけどのぅ。 それより嬢ちゃんを助けてやったらどうじゃ? ツカサ」
地面に横たわったファルネーゼは凄い汗をかいており、その顔は蒼白だった、きっと体力と魔力の使いすぎなんだろう。改めてファルネーゼのことをよく見てみると、リエルほどとまでは行かないが、年若い女の子らしく、その腕は細く、この細腕でおれたちを守るために戦っていたのかと、こちらが情けない気持ちになる。抱き上げた身体も非常に軽く感じられた。(まあ、実際には鎧も着ているので、ステータスの影響でなのだが)ファルネーゼを抱えると、近くの柔らかそうな地面の上におろしてやる。ファルネーゼの身体に土がついているのを見て、アイテムボックスから取り出した外套を敷いて、そちらももう一度ファルネーゼを移してやる。
本当に精も根も使い果たしたのだろう。その表情は苦しそうに見える。
おれは、ファルネーゼの身体を包んでいる鎧を外して楽にしてやった。(決して、エロい気持ちからじゃありませんよ!!)
チェインメイルだけの姿になったファルネーゼの表情は若干楽になった様な気がする。おれはアイテムボックスから、布を取り出して、その額の汗をぬぐってやった。
チェインメイルは、非常に精巧に作られており、薄手の布のような厚さしかないが、その全体が汗で濡れているのが見える。また、チェインメイルはオオカミモドキクイーンによって、様々な部分が切り裂かれており、その切れ目からその下にあるファルネーゼの肌がちらちらと見える。
ゴクリ
何故かつばを飲み込んだおれは、手に持った布をファルネーゼの身体へと近づける。
「これは、医療行為、医療行為だ……」
バシンッ!!!
そのとき、頭がものすごい勢いではたかれた。
「何が医療行為じゃ!」
幼女に叩かれた頭を押さえたおれは、我に返る。
「はっ、おれはいったいなにをやっていたんだー」
棒読みをすると、幼女がにらんできた。
「ご、ごめん。 ナーシャ、じゃあ、身体を拭いてやってくれ」
そういって、ナーシャに布を渡すと、おれはナーシャに叩かれた頭をなでながら反対側へと振り向いた。今のおれは、村人Lv99のままのはずなのに、確かに痛かった。さすがはブラックドラゴンということか……
もう、村人でいる必要もないだろう、そう思って、職業を剣士に戻しておく。村人のままにしておいても、問題ないかもしれないが、どういう拍子にそのずば抜けた身体能力を使ってしまうかわからないので、非常時以外は村人にならない方がいいのだろう。
後ろからは、ナーシャがファルネーゼのチェインメイルを脱がせているのだろう、なにやら魅惑的な音が聞こえてくる。振り向きたい誘惑に非常に駆られるが、今振り向くと幼女に何をされるかわからないので、観念してやめておく。
「もうよいぞ、ツカサ」
そういわれて振り向くと、ファルネーゼは、地面に敷いてあった外套を着せられた状態で寝かされており、その顔は先ほどよりは楽になっているようだった。
なんだか肌色分が減ってがっか……いや何でもありませんよ?
「さあ、ツカサ、この嬢ちゃんを背負って帰るぞ。 リエルも心配してるじゃろう」
ナーシャがあごをファルネーゼの方に振って指図する。うん、ですよねぇー。幼女にあごで使われるの図ここに極まり……
ナーシャに手伝ってもらって、気を失ったままのファルネーゼを背負うと俺たちは、外門を目指して歩き出した。
森を抜けたとき、街の方から、馬に乗った兵士達がこちらに走って来るのが見えた。リエルが呼びに行ってくれた、増援だろう。その一団も我々を発見したよう
でこちらに向かって更にスピードを上げてくる。先頭を走る馬の後ろに乗ったリエルが、こちらに向かって手を振っているのが見える。馬の走る勢いで、外套が頭から外れてその金髪を惜しげ無くさらしているリエルの表情はうれしそうで、ああ、おれは初めてこの子の笑顔を見たかもしれない。背中にファルネーゼのぬくもりを感じながら、おれはそんなことを思っていた。
飲み会に連れていかれたとおもったら、帰ってきたのが朝でした……
送別会や何やらでバタバタしており、更新も遅れ気味ですが、大体こんな感じではしていこうと思っているので、お付き合い頂ければ幸いです!
これで、どうやら10万字を超えたようです。
原稿用紙250枚分ですか^^;
量を書こうとするとやっぱり継続が大事ですねぇ……
継続できるように頑張ります!