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傭兵・アレックス
作:志藤慧



そこは砦だった。

剣と剣がぶつかり合い、弓矢が交錯しては城壁から弓兵が落ち、敵の弓兵もまた倒れる。

いわば戦場だ。

そして、砦を守る騎士達の中に黒い鎧を纏い剣を振るう騎士がいた。

彼の名は―アレックス。死神アレックスと呼ばれているただの一傭兵である。



<傭兵・アレックス>


ここの要塞に派遣されたのは、去年の冬からであった。
若き傭兵、アレックスは元々何処かの国の近衛隊長だったこともあることもあって、それを看板に金を稼いでいた。
そして今回の戦の報酬は金貨8枚。なかなかにいい額だ、ということで彼はここを選んだ。
戦争の最前線であるこの砦は当然、危険も多い。
ついさっきまで隣で飯を食っていた奴は首を刎ねられて、現在は土の中で眠っている。
アレックスはやれやれ、といった様子で誰も居ない座席を見た。

「どうした?新入り。」

そこに歩兵部隊の隊長が座り、アレックスに声をかけた。

「いえ、別に。ただ…最前線ってのも凄い場所だなと思っただけです。」

「ハハハ!まぁ左遷先だし、そりゃ危険だってあるさ。お前さんはどっから飛ばされてきた?」

「自分は傭兵です。本国の依頼掲示板を見つけて引き受けたに過ぎません。金貨8枚って結構おいしいですからね。」

隊長はフン、と鼻で笑った。

「お前が、噂の傭兵か。若きにしてその力は無双っていう…」

「そんな噂が…大げさだなぁ。」

苦笑いを浮かべつつアレックスはパンをかじった。
そのパンはボソボソとして、あまり美味しいものではなかった。

「お前以外に傭兵は10人くらい居たんだが、今日の戦で3人になったみたいだぜ?しかも1人は手と足を失ってるって…」

「そりゃ彼らに運がないだけでしょ。もしくは腕が悪いとか。」

「だろうな。ったく、金がいいからって危険な任務とも知れず引き受けるなんてホント、馬鹿みてぇだ。死んじまったらなんにもならねぇってのに。」

隊長はぐい、と葡萄酒を呷った。
その目には悲しみのようなものが混ざっているのをアレックスは見逃さなかった。
おそらく、死んだ傭兵の中に知り合いでも居たんだろう。まったく、そんな事くらいでいちいち悲しんでるなんて気楽なモノだと彼は心の中で嗤った。

「その…あれだ。ご愁傷様です。」

「ああ。お前も無茶なコトすんなよ…死神・アレックスっていったって、死ぬ時は死ぬんだからな。」

―そんな事わかっている
アレックスは立ち去る隊長の後姿を見て、そう思った。
七年くらい前だろうか。自分が初めて近衛騎士団に入った時、身近な人達がどんどん死んでいった。
幼馴染で同期だった兵卒も命を落とした。自分に剣を教えた師匠もまた、戦死してしまった。
いちいち悲しんでられない、と思ったのが5年前。アレックス、二十歳の頃だった。そうして25歳になるまでずっと、1人で戦ってきた。
だから、盟友の死など微塵も悲しくなくなった。

(そろそろ戻るか…)

アレックスは食器を持って立ち上がり、その場を立ち去った。



そして、翌日…


「敵襲!!敵襲っ!!」

けたたましい鐘の音とともに兵士達がそれぞれの持ち場につく。
傭兵部隊は隊長の言葉通り、アレックスを含め四人しかいなかった。
そして剣を持って出陣する。城壁からは弓を放ち、敵の侵攻を食い止めるが予想以上に動きが早かった。
何人か城壁の中に入り、剣兵達が襲い掛かってくる。

(来るかっ―!)

アレックスは剣を抜き、切りかかってくる兵士の腕を刎ね、次に向かってくる兵士は剣ごと眉間を斬りつけ倒した。
明らかに旗色は悪い。
門をぶち破られ、敵がドッと攻めはいってきた。
剣兵、槍兵、弓兵、武将…アレックスは斬った兵の数がやがてわからなくなるくらいに敵を殺していた。
血糊で斬れなくなった剣を捨て、死んでいる兵士の鞘から剣をもらい戦う。

(むぅ、この戦…負けるかもな。)

そうなると金貨はもらえなくなる。
ギリギリまで持ちこたえ、戦利品のある宝物庫から持てるだけ宝を持って帰ろう、とアレックスは考えた。

「うがっ!」

目の前の兵士の喉に剣を突き刺す。彼の鎧が赤く染まる。
ついに兵士達が城内へと侵攻してきた。

(まずい!陥落してからじゃ宝が持って帰れなくなる!)

次は倒れている味方武将の鞘から剣を盗み、城内へと駆け込んだ。
城の中は乱戦状態。アレックスは迷うことなく、宝物庫のドアの前に立った。

「何だお前!早く戦場に戻らんか!」

見張りの兵はアレックスを見るなり、顔を歪ませ、怒鳴りつけた。

「………悪いね。」

「何っ…ぐふっ!!」

見張りの兵を殺し、宝物庫をぶちやぶる。
予想通り、金貨があった。彼は金貨の箱をひとつ持ちさっさと砦から逃げ出した。
中には金貨が100枚くらい入っている。
城壁を抜け、近くの森に入った頃には誰も追ってくる者は居なくなっていた。
そして夕方―砦から剣の交わる音が止んだ。

「終わったのか…」

砦は陥落したのだろう。
自分に死ぬな、と言ってくれた歩兵隊長。そして傭兵達。
彼らも生きてはいまい…
砦の頂上に立つ敵国の旗が猛々しく、そして気高く翻っていた…その旗を見てアレックスは妙に虚しくなった…


傭兵・アレックス  了





























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