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2頁  神門練磨の書1 ――『恐怖の大王』―― 
 とまあ、いつもの騒がしい朝飯の時間も過ぎ去り、父さんは準備を整えて、会社へと行ってしまった。てか、今日日曜なのに仕事が在るのか父さん? ……まあ、取り敢えずようやく家の中が静かになる。夏だと言うのに、まだそう温度は高くなく、シャツにジーパン一つじゃ、涼しさ以上に少し寒さみたいなものまで感じてしまう。どうせ今日も崇華すうかが来るだろうから、今の内に着替えておこう。
 二階の自室に戻って、適当な服に着替えると、着替えた服を洗濯籠に放り込み、夏休みが始まって以来手付かずになっていた学生鞄の中を見てみようという気になり、中身をぶちまけてみた。……流石に夏休みの友達はいなかったが、受験関連の宿題がかなり出ていた。しかも、登校日までに仕上げて、おまけに丸付けもしなくてはならない。全く以て面倒な事だ。
 せっかくやる気がちょっとばかし在るんだ、やれる奴だけでもやっておこうと思い、勉強机に向かって、問題集を開いてみる。……やる気メーターが一瞬で撃沈し、そのまま問題集を閉じてベッドに転がり込もうという気になった。――が、このまま放置しておけば後々(ひど)い目に遭うと分かっているオレは、仕方なくシャーペンを握り締めて、問題を解いていく。
 そんなこんなで時刻は午前九時。そろそろ来る頃だなと思い、宿題を机に置きっ放しにして、立ち上がる。久し振りに勉強したからだろう、妙な充実感を味わえた。……一週間以上勉強しないと、簡単な問題ですら手を焼いてしまうって、オレには学習能力が無いのか? と疑ってしまう。
 ――呼び鈴の音が階下から聴こえて来る。オレはそれを聴きつけ、部屋を出て階段を下り、玄関へと歩いていく。
「はーい」
 と声を掛けつつ、玄関の戸を開けると、物凄く慌てている感じの少女が、息を切らして入り込んで来た。
「たたっ、大変だよ練磨! 大変なんだよー!」
 そう言ってオレの服の(すそ)を握り締め、がくがくとオレの体を揺さ振る崇華。その表情から見て、かなり慌てているらしい。顔面蒼白、と言うか単純に外の陽射しが強過ぎて、崇華の顔が逆光になってしまって見辛いだけかも知れない。それに、黒髪も変に伸ばしているから、目元がハッキリしない。せっかく大きな黒瞳なんだから、それが際立つように髪を短くすればいいのに、とオレは思っているのだが。
「……何が大変なんだ、崇華? 学校が時空消滅でもしたか?」
「違うんだよぅ、練磨! もっともっと、もぉーっと大変な事なんだよっ」
「分かったから、落ち着け崇華。まずは三回回ってワンって言え」
「えとえと、……それって、落ち着くっていうより錯乱してない?」
 ちっ、ばれたか。
 崇華の奴、変な所で勘が鋭いからな。今度からはもっと巧妙な手を考えねばならないな。
 とか思っている内に、崇華がようやく落ち着いて来たらしい。さっきよりは冷静な感じで、オレを見上げる。
「……知ってる、練磨?」
「何をだよ」
「実はね……昔々、とってもすごい予言をする人がいたんだよ」
「……うん?」
「いたんだよぅ!」
 食い下がる崇華に、オレは話が進まない事を察し、仕方なく頷く。
「その人の予言は、とっても当たるんだよぅ。今までも色んな事を予言して来たんだっ」
「……それで?」
「その人がね、すっごーい予言をしちゃってるの!」
 ……大体先が読めて来たけど、オレは敢えて崇華に話させる事にした。促すべく、小さく頷いてやると、
「一九九九年七月に、恐怖の大王が世界を滅ぼしちゃうんだって!」
 ……遠くでスズメの鳴く声が聴こえる。
 アスファルトを(あぶ)っている太陽が、(まぶ)しい。
 目の前の少女は、何故か戦々恐々と(おび)えている。
「……なぁ、崇華」
「なになに?」
「今日の日付、分かるか?」
 え? と崇華が眼を点にして、その後、「う〜ん」と悩み始める。
 十秒後、崇華が顔を上げる。
「八月一日だよぅ!」
「……ちなみに、西暦?」
「一九九九年」
「……」
「……」
「……」
「………………あ、あれ?」
 ……一九九九年八月。
 今年も暑かった。


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