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0頁  始まりの書    ――『Beginning dream』――
 ………………
 ……何か聴こえる。聴こえるけど、何て言ってるのかまでは聴き取れない。聴き取れないけど、お祈りのような声音に聴こえる。聴きようによっては呪詛(じゅそ)とか、呪文(じゅもん)のように聴こえなくも無い。不思議な声の叙唱(じょしょう)
「……とばよ、……れの許へと届け……」
 やっぱり呪文のようだ。たとえ歌だとしても、オレには呪文の詠唱(えいしょう)にしか聴こえない。……って、これはゲームのやり過ぎかな。頭がぼんやりしてて、あまり深くは考えられないような状態だけれど、その呪文の意味だけは何と無く感じ取れる。
「――遥かなる地の王の御言葉よ、この繁栄の世に住まう我の許へと届け……」
 同じ文章の繰り返し(リピート)。ずっとずっと、同じ言葉を吐き続けているのは、どうやらオレの予想では女性のようで、妙に澄んだ声がオレの耳に吸い込まれていく。……綺麗な声だな、とぼんやりと思った。
 大体その辺からだろうか。耳に吸い込まれて来る声が、頭の中で創られた言葉なんじゃないかって気づいたのは。まあ、詰まる所、オレは夢を見ているんだと思う。こんな綺麗な声を出すような友達も親戚もいないし。
 徐々に、映像のようなものが浮かび上がり、オレは現実の世界とは離れた、『夢』として確立した世界を頭に刻み込む。……まあきっと、これも起きたら忘れちゃうんだろうな、とか思って、思ってもすぐに忘れちゃうから適当に考えていた。流石(さすが)に夢の中だから、思うように体が動かないし、ちゃんとした意志が在っても勝手に場面に流されてしまう。……夢ってそんなもんだよな? 
 焦点が合わないのか、始めは曇りガラスでも間に在るかのように、うっすらとしか見えなかったが、段々と明確化していき、やがてそこが大きな教会のような場所だと悟った。
 大きなステンドガラスに、首が痛くなりそうなほど高い天井、通路となる中央に続く道には金色の刺繍(ししゅう)が入った赤い絨毯(じゅうたん)、両サイドに並ぶ多数のベンチ……部屋の奥の中央には、一瞬キリストかと思ったけど、どうやら違うようで、ただの十字架が立てかけられている。それもまた部屋の大きさに合った、何メートル在るかよく分からない大きさを保っている。
 オレのいる場所は、教会の本堂であろう十字架を掲げられた部屋の空中だった。どうやら浮いているようで、アングル的にはお祈りをする女性――いや背丈からして少女、と言った所だろうか――を見下ろしている形になる。
 少女の後姿から察するに、すごい美人さんだって分かる。長い金髪はそれ自体が光を放っている位に手入れが行き届いていて、とても鮮やかに映えている。動けるかな? と思って少女の顔を拝見しようと宙を掻くように体に念じてみた。夢なんだから、もう少し自由に行動させてくれよ。と思ってみたが、体は思うように動かない。ただ、少女の後姿を見たまま、浮いた状態で固まってしまっている。
「遥かなる地の王の御言葉よ、この繁栄の世に住まう我の許へと届け……」
 少女はひたすら同じ言葉を繰り返している。それがお祈りの決まり文句なんだろうか。それを繰り返す事で何か起こるのかな? オレにはよく分からない。ただ、ずっと聴いていると眠たくなるのは間違いない。
 ひたすら続く歌うような言句に、オレは夢の中なのに眠気を覚えて、欠伸(あくび)をした。ふぁ〜、眠い。
「! 届きましたわ! 託宣(たくせん)が届きました!」
 少女はすっくと立ち上がり、妙に黄色い声を上げて喜んでいる。オレは欠伸を噛み殺しつつ、何を言ってるんだろうと(いぶか)しげに感じて、少女を見下ろした。
「やはり、予言の通りでしたわ……間も無く、『滅びの王』がこの地に降りる……」
 ……何を言ってるんだろう? まあ夢の中だし、何を言ってても別にオレは構わないんだけど……妙にリアルな空気を感じて、オレは少しだけ働く頭で思考を開始してみる。
 託宣……とか言ってたな。さっきからの呪文は、その託宣を聴くためのものだったんだな、きっと。……うん、まあ確証は無いけれど、そういう事にしておこう。だとして、託宣の中で、『滅びの王』とかが地に降りるとか言ってたのは……うぅむ、サッパリ分からん。
 オレの沈思も空しく、少女は扉の方に振り返って、歩きながら(つぶや)きを漏らした。
「世界が混沌(こんとん)に満ちる……かの王が降りるのは時間の問題だわ……早く、皆に知らせないと!」
(お……)
 振り返った金髪の少女の顔を見て、やっぱり美人さんだったと(うなず)く。まだ幼い顔立ちだけど、充分可愛さが滲み出ていて、見るからに和やかな空気を発していそうに思える。体つきから、まだ十代も半ばに差し掛かった位だろうと推測してみる。チラリと見えた碧眼(へきがん)も、パッチリと開いていて可愛げが在る。早足で通路を渡る時に、小さな足がチョコチョコ動いている様が見えて、可愛いなあと思ってしまう。その可愛げな顔が苦悶の表情に彩られていたのが、唯一残念な点だ。
 重そうな木の(きし)む音が響いて扉が開かれると、柔らかそうな太陽の光が聖堂の中に差し込んだ。少女が滑り込むように外へ消えると、扉が自重で閉まり、また聖堂の中に荘厳なる静寂が戻って来た。
 ……世界が混沌に満ちる、ね。要するに、この夢の中では世界が危機に見舞われてる訳だ。それは大変だー、とは思うものの、オレに何ができるって訳でもないだろう。所詮夢の中、世界を救う前に起きてしまうのが落ちだ。オレが夢の中でぼんやりと漂っていると、やがて世界が白んでいき、徐々に記憶の中の景色となって頭の中が洗浄されるように消えていく…… 


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