3,違った出会い
どこにでもありそうな道の、どこにでもありそうな電柱柱の前で、鞄をユラユラさせながら待っている女の子、中森青子がいた。
「悪い〜青子!」
大きな声を出しながら青子に向かって走ってくるのは、黒羽快斗。
家からずっと走ってきたのか、「はぁはぁ」と息を切らせながら今も「悪い」と連発していた。
どうやら青子と快斗は、一緒に大学に行くことになったようだった。
「もぉ!遅いよ快斗、10分も遅刻」
青子は、プクッと頬を膨らませた。
「あ〜……寝坊!そう、寝坊したの俺」
と、なぜか冷や汗を垂らしながら快斗は言う。
目も、キョロキョロと動いている。
いつものポーカーフェイスはどうしたのか。
「寝坊?明日は寝坊しないでよね。今日はこの青子様が特別に許してあげるんだから」
「はいはい、OKです」
快斗は「エヘッ」とでも言いそうな笑顔を青子に向けるが、頭の中では苦笑いをしていた。
(……寝坊なわけねえだろ。大事な大事な「怪盗KID」の服にしみつけちゃって、しみぬきしてたんだよ!たくっ……白だからしみを落とすのにそうとう時間がかかっちまったよ)
これが、頭の中での苦笑いの理由である。
「新一〜!早くしなさいよぉ」
「悪りぃ、悪りぃ」
工藤邸のドアの前で、蘭は腰に手を当てながら新一に向かって言った。
と言うより、怒鳴りつけたと言った方が正確だろう。
蘭は頬をプクッと膨らませながら、工藤邸が出てくる新一を軽く睨みつけた。
そんな新一は、少しボサッとした髪型で工藤邸から外に出てくる。
「もぅ!登校初日から遅刻する気なの?それに髪の毛、寝癖が付いてる」
蘭はクスッと、哀がいつも笑うように笑った。
近くにある木がサワサワと揺れる。
まるで、木も新一のことを見て笑っているようだ。
新一は一瞬「ムッ」とした顔を蘭に向けたが、それは一瞬にして消え去った。
(アホクサッ………)
そう感じたのだ。
「たくっ寝癖なんてどうでもいいだろっ、さっ行くぞ。園子に早く来いって言われてたんだろ」
「え?うん……」
蘭は頬をプクッと膨らませていたが、新一の一言『さっ行くぞ』でコロッと顔が変わり、なんとも可愛い笑顔となった。
ちなみに、新一が蘭との待ち合わせに遅れた理由は「寝坊」だ。
今度は本当に「寝坊」なのだ。
新一と蘭(園子)が入った大学は、帝丹大学。
小・中・高・大、と全て帝丹がついた学校に入っている。
改めて思うと、とてもスゴイ。
新一と蘭は、顔から笑みが消えることなく大学の門をくぐった。
−ほうどう−
「うわぁ〜。すごい、すごいよ!ねぇ、新一ってば」
蘭は目をキラキラと輝かせながら、今も「すごい」を連発していた。
クリスマスに、サンタさんからプレゼントをもらった時の子供のようだ。
『わぁ!サンタさんからのプレゼントだぁ、やったやったやったぁ♪』
とう感じだ。
「あ〜はい、はい、はい、はい。見りゃ分るっつの」
新一は、呆れた顔を蘭に向ける。
「ガキか」とでも言うような顔だ。
「ククク……アハハハハッ」
新一が呆れた顔を見せ、目が合ったとたんに蘭が笑い出した。
「お、おい。何笑ってんだよ」
「だ、だって!新一が「はい、はい、はい、はい。」って連発したんだもんっ……アハハハハッ」
「は?何言ってんの蘭。オメェーだろ、「すごい、すごい」って連発してたのは!」
「えぇー!?してない、してない」
蘭は顔の前で、手をフリフリと振る。
新一は、ジト目で蘭の顔を見つめた。
だんだんと、微生物を頑張って肉眼で見ようとしているような目つきに変わっていく。
(いや、してたから。思いっきり連発してたからな、蘭。つーか蘭、どっかネジ落としたか?こんな爆笑するかぁ、普通……)
新一がそんなことを思っているうちに、蘭の笑いは止まったようだった。
「さっさ、どこかの席に座ろうよ」
「あ、おう」
そうして、隣同士で席に座る。
結構真ん中のほうの席だ。
周りがよく見渡せて、気持ちの良い気分になる。
そして、茶色の机が新鮮さを出してくる。
森にいるような気分だ………とまではいかないが、なかなか良い。
新一も蘭も、自然と笑顔が顔に浮かび上がってきていた。
「蘭!新一君も」
聞き覚えのある声が、新一と蘭の耳に響く。
「園子〜♪」
最初に声を上げたのは、蘭だった。
笑顔の蘭と園子を、新一はつまらなそうな顔で見ていた。
それはそうであろう。
蘭と園子は女。新一は男。
いくら幼馴染だと言っても、やはり女は女。男は男なのだ。
「あっ!ゴメンね、新一君。せっかく蘭と2人っきりだったのに」
園子は、いたずらっぽく新一の顔を見る。
「ちょ、ちょっと園子!何言ってんのよぉ。とにかく、私の隣に座って」
「うん、そうさせてもらう♪それじゃあ新一君、蘭の隣を座らせて頂きまーす♪」
園子はそう言って、ドカッと座る。
新一は、そんな園子を微生物を頑張って肉眼でみようとしているような目つきではないが、ジト目で見つめた。
「やだ園子、おばさんみたい」
「えぇ?!それはないでしょー」
楽しく会話を始めた蘭と園子。
新一は、つまらなそうな顔をしてほうどうの中を眺めていた。
すごく、広い。
それに、見ているだけでさわやかな気分になるようだった。
新一は、1つ深呼吸をした。
「快斗、早く早く」
「へい、へ〜い」
快斗と青子が、走ってほうどうに入っていく。
「うっわ〜ほとんど席うまってんじゃん」
快斗はほうどうの全体を見渡した。
しかも、敬礼をするときのような手も付いている。
「大丈夫♪絶対にどこかは空いてるはずなんだからっ」
「まぁ、そりゃなぁ……」
快斗の言葉が終わらないうちに、青子に腕を引っ張られ、言葉は中断する。
そのまま走る青子に腕をつかまれたまま、付いていく。
というより、引っ張られて連れて行かれている状態だ。
まるで、犬の散歩だ。
犬の散歩をさせていた快斗が犬の青子に先を起こされ、付いているロープをぐんぐんと引っ張られながらついていく。
そんな光景のようだ。
「あっ!あった、あった。空いてる席あったよ」
「あ?おっ本当だ」
そう言って、空いている席に快斗と青子が座った。
一番はじっこの席で、丁度2席空いていた。
その2席以外は、全て人が座っている。
快斗が奥の席に座り、青子が一番はじっこの快斗の隣の席に座る。
(ふぅ〜)
座れる席が見つかり、快斗は心の中でホッと息をつく。
快斗は、ふと隣の席の人を見た。
「げっ……」
(やべやべ、つい声に出しちまった)
快斗は、そう思いながら顔を前に向ける。
隣に座っているのは、男の人。
なかなかの美少年で、カッコイイ。
しかもよくテレビに出ているし、新聞にも載っている。
「どうしたの?快斗」
突然青子に名前を呼ばれ、冷や汗を垂らしながらポーカーフェイスを作る。
「なんでもねぇよ」
「あっそう」
青子はそれだけ言うと、あとは何も追求せずに、持ってきた文房具をあさり始めた。
快斗はと言うと、チラッとまた隣の男の人を見ていた。
(コイツ、どうみても………クドウ シンイチ だよな。たくっ俺ついてねーな、こんなヤツの隣に座っちまうなんてよぉ)
快斗は、顔を前に向けて「はぁ〜」とため息をつく。
快斗がまだ心の中でぶつぶつ言っている中、快斗の隣の男の人「工藤新一」も快斗のことをチラッと見ていた。
(ん?なんだ、この感じ……この感じ、なんか知ってるような気がする。なんか、俺がコナンの時にも会ったことがあるような)
新一は、あごに手を当てる。
探偵モードに入ったのだ。
そんな時快斗は、心の中で「あっ」と呟いていた。
(そういえば、工藤新一って江戸川コナンだったんだよな。へぇ〜元の姿に戻れたんだ)
快斗は、意味なく得意げに笑った………というより笑ってしまった。
自然とそんな笑顔が浮かび上がってきてしまったのだ。
快斗の心の奥では、コナンが新一に戻ることを望んでいたのだろうか、それは快斗にしか分からない。
青子は、そんな快斗の顔を不思議そうに見つめているだけだった。
「あっ……」
新一は、あごから手を放して呟いた。
「ん?どうしたのよ新一」
「へ?いやいや、なんでもねーよだから」
新一は不思議な日本語を言いながら、顔の前で手をフリフリと振った。
なぜ「あっ……」と声を出したかというと、それはもちろん謎が解けたからである。
(そうだ、この感じ………大胆不敵で神出鬼没の大怪盗。怪盗キッドだ!)
新一も、意味なく得意げに笑ってしまっていた。
そしてやはり、そんな新一を不思議そうに見つめる蘭。
でも不思議そうに見つめていたのは、蘭だけではなかった。
見られると厄介になる人物にも、見られてしまったのだ。
「あやしいわね」
園子が、蘭にしか聞こえない声で呟く。
「え?」
園子は、一度髪を手ではらうとしゃべりだした。
「あやしいって……何が?」
「新一君よ、新一君!」
園子は、軽く新一を睨み付ける。
「今、顔がにやけてたでしょ?きっと、他の女に目移りしてたのよ!」
「め、目移り?」
蘭はチラッと横目で新一を見る。
新一は何事もなかったように、ほうどう内を見渡していた。
「まったく、蘭という綺麗で可愛い奥さんがいるってのに………」
園子は机にひじをつけて、手を顔の頬に当てた。
「お、奥さんってねぇ園子!そんなんじゃないってばぁ」
「またまたぁ〜そんなこと言っちゃって」
園子はいたずらっぽい笑みで蘭を見つめる。
蘭の方は、顔を赤くして園子の顔を見つめていた。
そんな2人を新一は、チラッと見る。
そのとたん、新一の顔は「はぁ?」とでも言うような顔に変わる。
それもそのはず。
新一は園子と蘭が何を話していたかなんて、聞いていない。
だから、すごく不審に見えてしまうのだ
いたずらっぽい笑みを浮かべる園子と、顔を赤くしている蘭。
でも、知らなくて良いことは、世の中にはたくさんある。
蘭と園子の話しは、そんな中の1つに選ばれたのだ。
ほうどう内が、さっきよりもガヤガヤと騒がしくなったように聞こえた。
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