2,2人が歩む道
「新一、ねぇ新一てばぁ!」
「あんだよ、さっきから」
雲1つない、青空。
サンサンと降り注ぐ太陽の光。
その下で、いつものような会話が繰り広げられていた。
「新一!」
「なんだよ蘭。さっきから新一新一うるさいんですけどー」
新一の言葉に、蘭はプクッと頬を膨らませる。
「なんだよってねぇ、あたしの話し聞いてたの?」
「…………………」
新一は何も言わず、雲1つない青空を見上げた。
太陽の光に、目を細める。
「いや〜今日は良い天気ですねぇ」
「ほ〜らっ!新一ったら、やっぱり聞いてなかったのね!その無言が語ってるわよ」
「ほ〜いよっ!スミマセンでした」
新一は、今だに頬をプクッと膨らませている蘭をよそに、そこらへんに落ちている石を思いっきり蹴り飛ばした。
その石は、コロンコロンと転がっていき、草の陰で止まった。
「かわいそう、新一に蹴られた石」
「うるせぇ」
2人……新一と蘭は今、正確に言うと今日から大学生になった。
大学名は「帝丹大学」という。
もちろん、新一と蘭は同じ大学。
ちなみに、園子も同じ大学だった。
そして今はその帝丹大学の入学式の帰り道である。
「とうとう、大学生だね」
「ん?あぁ、そうだな。つーか何おばさんみたいなこと言ってんだよ」
「ん?なんか言った!?」
蘭は、ムッと顔をしかめた。
その顔を新一にグイグイ近づけていく。
新一はまったく気にしていない様子だが……。
「あっ、じゃあ俺こっちだから……またな、蘭」
と、何事もなかったように手を振ってくる新一に対し蘭は
「えっ!?あ、あぁうん……またね、新一」
と、今までのことは綺麗サッパリ忘れて、笑顔で手を振り替えした。
新一は、自分の家に向かって真っ直ぐと歩いていく。
当たり前だが、いずれ工藤邸に到着する。
新一は、工藤邸のドアの前に立って鞄の中をガサゴサとさぐり始めた。
探しているもの、それは工藤邸のドアを開ける鍵。
新一は、いたるところまでドンドン手を突っ込んでいく。
鞄についている小さなポケット、底のほうと手を突っ込む。
やっとのことで鍵を見つけ出し、鍵穴にグサッと鍵を差し込む……………が、おかしい。
家の鍵が、開いている。
家を出る時は、ちゃんと鍵を閉めたはず……なのに開いている。
しかも、銀色のポストに入っていたはずの新聞がない。
それに、雑草がぼうぼうだった庭も綺麗に掃除されている。
し・か・も、部屋の明かりまでもがついている。
新一の脳裏に、ある2人の顔が浮かんだ。
「ふぅー……」
と、新一は深呼吸をする。
そして、ドアノブに手をかけてゆっくりとまわし、勢い良くドアを開けてリビングまで突っ走る。
パンッ!
パーンッ!!
リビングに入ったとたんに、部屋中にクラッカーの音が鳴り響いた。
クラッカーの中身が、ヒュラヒュラと床に舞う。
「なっ……」
新一は、顔をひきつらせた。
ドッと手から鞄がずり落ちる。
「新ちゃん、おかえり〜♪」
「おぉ新一、久しぶり!」
なんとも、のほほんとした顔で有希子と優作が出迎えた。
有希子と優作は、のほほんとしながらも満面の笑顔で出迎えていた。
そして新一との距離は約1mだというのには関わらず、フリフリ手を振る。
それとうって変わって新一は、苦笑いを浮かべていた。
「おかえり〜♪って……久しぶり!って……なんで2人がここにいるんだよ!」
クラッカーの音に負けず、新一は大声出す。
そんな新一の顔は、「怒」「悲」「楽」「笑」が入った複雑な顔をしていた。
まぁ、一言ですませば「喜怒哀楽」なのだ。
有希子は新一が大声を出したと同時に、手で耳をパッとふさいだ。
優作もムッと顔をしかめる。
「もぉ、そんなに大声を出さなくったって良いじゃないの!」
「そうそう、それにここは工藤邸だぞ新一?父さん達がいたって別におかしいことはない」
優作は、フッと得意げに笑った。
有希子も優作に負けず、うんうんと頷きながら得意げな顔をした。
「まぁ、新ちゃん♪そういうことだから」
「ハハハ……」
新一はまた、苦笑いを浮かべる。
新一が持っていた鞄が新一に同情するように、新一の足元にパタリと倒れた。
有希子と優作が工藤邸に帰ってきたのは、丁度新一が大学に行っている頃。
その時にはもう持ってきた鞄などは片付けてしまい、息子の帰りを楽しみにして待っていたようだった。
新一は諦めたように、「ハァ……」と一息ついてから、近くの椅子に座る。
「んで、何で帰って来たんだよ?あと、いつ帰るの?」
と、新一は興味なそうにその辺にあるものを、キョロキョロと見ながら言った。
それもそうだ、辺りが綺麗に掃除されているのだから。
それに、タンスなどの配置が少し模様替えをされているような気もする。
「あら、私達は外国に帰るつもりはないわよ」
「あぁそう、もう帰らないのね………ってはぁ!?」
新一はパッと顔を上げて、また大声を出した。
「ハッハッハ、新一も反応が鈍くなったものだなぁ。関心、関心」
「関心してる場合じゃねーだろっ!つーか、んなことで関心するな」
本気で納得する優作に、新一が呆れた顔で突っ込みを入れる。
もちろん、突っ込みの時の手はついていない。
「で、何?ずっとここに住むわけじゃねーだろうな…………」
「流石新ちゃんね、その通りよ♪ずっとここに住まさせてもらうつもりヨ」
新一は、目をパチクリさせる。
一瞬だけ、ほんの一瞬だけ新一の思考回路がSTOPした。
「な、なんでだよ!?」
新一は、ガタッと音をたてて椅子から立ち上がった。
新一の口は、ポカンと開いている。
綺麗な丸の形で開いていた。
そんな新一をよそに、有希子と優作は緑色の湯のみでお茶を飲んでいた。
温かい緑茶のようだ。
湯のみからは、モワモワと湯気がたっている。
優作の眼鏡が、少しくもったように見えた。
「別にいいじゃないの、それにこれからは寂しくないわよ♪いつでもお母さん達がいるからネ」
有希子はそう言って、緑茶を口の中に流し込んだ。
「あっ、茶ばしらだぁ!やったわ」
有希子はガッツポーズを1人寂しくやった。
「なっ、寂しくなんかねーよ!それにどうせ、日本見学♪とか言ってほとんど家を開けるくせに」
「ハッハッハ、おい有希子新一にバレてしまったぞ」
有希子と優作は、新一を見てアハハ♪と笑いながら緑茶を飲み続ける。
新一は、顔を思いっきりしかめた。
でも、有希子と優作が笑うのを見て、しだいに新一の顔にも笑顔が浮かんでいた。
「あっ!そうそう新ちゃん」
「ん?」
有希子は、テーブルの上に置いてあった大きな茶色の紙袋を取り、新一の前に持っていった。
「何だよコレ」
新一は嫌な予感がしつつ、ポーカーフェイスを保って有希子に聞く。
「フフ♪あのね、部屋の中を掃除してたらで出来たのよぉ〜新ちゃんが小さい頃のアルバムとか」
新一の予感は、見事に的中した。
事件の真相が的中するのは良いが、嫌の予感を的中したときは何とも言えない気持ちになる。
「そうなんだよ、小学校の頃のあゆみとかプリント、テストも出て来てな♪」
「もぉ〜笑いっぱなしで最高でした♪」
最後だけは、有希子と優作で見事はもらせながら、ニッコリと満面の笑みを新一に向けた。
プツ
何か、何かが今「プツ」っと切れた。
「………何笑ってんだよ!たくっ自分の息子のもん見てゲラゲラ笑いやがってー!どーせそれを知り合いの人とかに、見せたりしゃべったりするんだろっ!!」
新一の何かが今「プツ」っと切れ、大音量の声が工藤邸に響く。
「たくっ、そんなのお見通しなんだよ!今までの経験上な」
新一は、「チッ」と誰にも聞こえないように舌打ちをした。
それほど、笑われて嫌なものでもあったのだろうか。
「や、やだぁ〜新ちゃんったら♪そんなことするわけないでしょぉ」
「うんうん」
と冷や汗を垂らしながら笑顔で言う有希子に、優作も口裏を合わせる。
「……!!まさかもう、知り合いにしゃべりやがったな」
新一の鋭い瞳が、ビシッと有希子と優作に刺すように当たる。
「………新ちゃん、ゴメンね?エヘッ」
有希子は、舌を一瞬出して謝る。
優作も………優作は舌を出してはいなかったが、「スマン」と一言言って頭を軽く下げた。
「ふ、ふ、ふざけんなぁー!!」
今の新一の声は、間違いなくクラッカーの音よりも大きかったはずだ。
そしてもちろん、工藤邸に大音量で響き渡る。
隣の阿笠邸にも聞こえていたかもしれない。
工藤邸の窓は、パッカリと全て開いていたのだ。
全開だった。
それならば、阿笠邸だけではなく通りすがりの人にも聞こえていただろう。
そしてもし、阿笠邸に聞こえていたら阿笠博士はどう思っただろうか。
「元気じゃのぉ〜」とか。
「賑やかじゃのぉ〜」とか。
「新一はいつになっても、変わらんのぉ〜」とか。
そして、もし阿笠邸に住んでいる灰原哀が聞いていたら、どう思っていただろう。
「騒がしいわね」とか。
「まったく、工藤君はいつになってもある意味バカね」とか。
「楽しいのは良いけど、近所迷惑よ」とか。
哀も博士も、それぞれそう思っていただろう。
そして戻って、工藤邸。
「はぁ〜……」
思ったよりも大声を出すのにに疲れたらしく、新一は椅子に座りなおした。
「あっ、そうだそうだ……はい、コレ」
「ん?何だよ、それ」
有希子に渡されたのは、茶色いフェルトで作られている「くまのキーホルダー」だった。
新一は、有希子からくまのキーホルダーを受け取ると、くまのキーホルダーを高々と上に上げた。
そして、ジーっとくまのキーホルダーを見つめる。
「何これ、外国からのみやげ?俺こんなの要らないぜ」
有希子は小さく、「えっ」と呟いてから頬ををプクッと膨らませた。
「もぉ!それはお土産じゃないわ、新ちゃんったら忘れちゃったのぉ?」
「んなこと言われたって、覚えてないもんは仕方ねーだろ」
新一は、くまのキーホルダーを見つめながら顔をしかめた。
「そうか〜そのキーホルダー、新一の一番の宝物だったんだぞ!休みの日には、そのキーホルダーをくれた子の話しばっかりでさ、父さんだって話したいことあったんだぞ」
「ふーん」
新一は興味なそうに、そっけなく返事をする。
新一は、持っていたくまのキーホルダーをブラブラと揺らしだした。
そこまで、この話しに興味がないのであろうか。
「しょうがないわね、覚えてないんだったらこのprivataeyeの工藤有希子が思い出させてあげる」
新一は別にいいのにと思いながらも、有希子の視線が痛かったので話しを聞くことにした。
「ある日、公園に遊びに行った時に新一と同じ位の年の子と、お友達になったのよ。それで、お友達になったその子の名前は、黒羽快斗って言うの」
「黒羽快斗?」
新一は、あごに手を当てる。
そして、自分の頭の中を探っていったが、そんな名前の覚えはまったく無かった。
記憶のカケラすら、無いのだ。
「それで、快斗君と新ちゃんは毎日のように公園で一緒に遊んでいたわ。とても仲が良かったのよ!蘭ちゃんの遊びの誘いも断って遊びに行ってたんだから」
有希子は、机にあるぬるくなった緑茶をゴクッと飲み干した。
「でもね!ここからが大切なの………快斗君が新ちゃんにこのくまのキーホルダーを渡した次の日から、快斗君は公園に来なくなっちゃったのよ。それでも新ちゃんは毎日、毎日公園に行っていたけどね。いつか快斗君が公園に来るんじゃないかって…………」
有希子の瞳には、ジワジワと涙が浮かんできていた。
「それで?その黒羽快斗ってやつはどうなったの?」
新一は、いつの間にかに有希子の話しに聞き入ってしまっていた。
優作も、真剣に聞いているような目つきを有希子に向けていた。
有希子は、うんと頷いてまた話し始めた。
「それで、快斗君が新ちゃんにくまのキーホルダーを渡している間に、快斗君のお父さんと話していたんだけど…………快斗君はね、引っ越してしまったのよ。それで、公園にも遊びに行けなくなってしまたわけなのよ」
有希子は、しょんぼりとした顔を新一に向ける。
そんな顔をしながら、新一がずっと持っていたくまのキーホルダーを手に取った。
というか、無理矢理奪い取ったと言った方が正確だろう。
「快斗君ね、引っ越す前にこのくまのキーホルダーを渡したかったんだって。小さいながらも一生懸命頭を働かせて、くまのキーホルダーのデザインを作ったのよ。それをあるお店に持っていって作ってもらったんですって」
新一は、「へぇ」とでも言うように、ものすごく納得した顔をして2回頷いた。
「それじゃあ、このくまのキーホルダーは黒羽快斗って人が自分でデザインしたんだな」
新一は、有希子が持っているくまのキーホルダーを懐かしそうに目を細めて見つめた。
「へぇ、そんなことがあったんだな」
新一は、有希子に聞かせてもらったが何も思い出すことが出来なかった。
だが、くまのキーホルダーを見ていると、何だか懐かしさを感じるようだった。
「どうだ、新一……何か思い出したか?」
3人の間に、数秒の間が空いた。
有希子と優作は、しっかりと新一の瞳を見つめている。
新一も、有希子と優作の瞳を交互に見つめた。
そして、額に冷や汗を垂らす。
「まったく、思い出せねぇ」
「あっそ」
有希子と優作は、「やっぱりね」と言う顔をして新一を見つめた。
「坊ちゃま、坊ちゃま」
ある家の、ある一室で1人のおじいさんが大学生位の青年に話しかけた。
「ん?どうしたんだ、寺井ちゃん」
声をかけた主は、寺井と呼ばれる元気なおじいさん。
声をかけられたのは、今日晴れて大学生となった黒羽快斗。
「先ほど部屋を掃除をしておりましたら、このような物が………」
そう言って、寺井は自分の手にある物を快斗に見せた。
すると、快斗の顔にはほんのりと笑みが浮かんでいく。
「あっ、これ……」
「ご存知ですか?」
寺井が首を傾げると、快斗は子供のように「うん!」と頷いた。
「あぁ、これはな……俺がデザインしたくまのキーホルダーなんだぜ」
快斗は、くまのキーホルダーを高々と上げて見つめた。
茶色のフェルトで出来たくまのキーホルダーのようだ。
そして「フフッ」と笑いながら、懐かしそうな瞳でくまのキーホルダーを見つめていた。
新一との思い出を懐かしそうに、思い出しているのであろうか。
「世界に……世界にたった1つしかない、くまのキーホルダー♪」
やはり、覚えてはいなかった。
「ねぇ寺井ちゃん、このくまのキーホルダー何処で見つけたの?」
快斗はくまのキーホルダーを見ながら、嬉しそうに寺井に聞いた。
「はい、隣の部屋のタンスの下でございます」
(はんっ、そんなところにあったのか!探しても見つからなかったわけだ)
快斗は、心の中でそんなことを思いながらも、本当に嬉しそうにフンフ〜ンと鼻歌を歌い出した。
R R R R R R R R R 〜
その時、快斗のズボンのポケットに入っている携帯がブルブルと震え出した。
「ん?」
快斗は、ポケットからブルブルと震えている携帯を取り出し、通話ボタンをポチッと押す。
「も〜しもし」
快斗は、気がぬけたような声で電話に出た。
『あっ、快斗〜?あたし、青子だよ』
「あぁ、青子ってことは分ってます〜で、何の用?」
電話に出ると、メチャクチャ元気な青子の声が聞こえてくる。
快斗は、相手には見えないことを良いことに、思いっきり呆れた顔をした。
『今日からあたし達、晴れて大学生になったでしょ?だから、一緒に大学に行こうよ』
「はぁ?んなもん、1人で行けよ」
『………ムッ…』
電話の向こうで、青子が頬をプクッと膨らませているのが良く分かる。
快斗も「膨らんだな」と小さな声で呟いた。
『このバ快斗!』
突然、大声で青子が快斗に怒鳴りつけた。
快斗は思わず「ひぃぃっ」と叫んでしまった位だ。
快斗は携帯を持っていないほうの手で、自分の耳を優しくさする。
「たくっ、うるせ〜!バカにバカなんて言われたかねーよ」
青子に負けずと、快斗も思いっきり携帯に怒鳴りつける。
『快斗がバカなんだから、しょーがないでしょ!それに、青子はバカじゃないもん』
「はんっ、こーやって言い合ってる俺等がバカなんだよ」
快斗は、自分にも青子にも呆れたような顔をして言った。
『…………そ、そうだね』
自分にも快斗にも呆れたのは、青子も同じであった。
まぁ、要するに……快斗も青子も2人とも自分がバカだと認めしまっているのだ。
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