1,幼き頃
「ねぇ、一緒に遊ぼうよ」
「うん、いいよ。一緒に遊ぼう!」
色んな子供がワイワイ楽しく遊ぶ公園。
すべり台や砂場、ブランコやシーソーなどと色々な遊具がある。
その中のジャングルジムのてっぺんで、1人の少年が隣にいる少年に話しかけた。
小さな2人の少年は、だいたい4才位であろう。
2人の少年は、小さな体でせっせとジャングルジムから降りて行き、下まで降りると近くのベンチに座った。
結構ねんきが入った、木で出来ているベンチだ。
でも、すごく丈夫でかなり大きい。
小さな少年2人が座るのを見ると、ベンチがもっと大きく見える。
数秒の間があいてから、1人の少年が言った。
「俺、黒羽快斗って言うんだ!」
「俺は、工藤新一!よろしくな」
「うん、よろしく!」
2人は数秒見つめ合ったあと、満面の笑みを浮かべた。
そして2人の目には、キラキラ輝く大きな瞳がやどっていた。
「なぁ新一、砂場で大きな山作ろう!」
「うん!いいよ快斗」
初めて出会ったにもかかわらず、たった数分前に出会ったにもかかわらず、2人はお互いに名前で呼び合っていた。
そして、砂場へとタッタと走っていき、さっそく砂の山作りに取り掛かった。
2人は、大きな大きな砂の山を作るために、色々と工夫をしながら楽しそうに砂の山を作っていく。
例えば、土を水でぬらして硬い土にしたり、場所によってはサラサラの柔らかい土をのせたりとして、新一と快斗は大きな砂の山を作っていった。
どんどんと、大きな砂の山が出来てくる。
〜♪〜♪♪〜♪〜
公園内に、5時を知らせる音楽が鳴り始めた。
ここの公園は、5時になると音楽が流れて教えてくれる便利な公園。
しかも5時だけではなく、午前12時・午後3時・午後5時・午後6時の時間にも音楽が流れる。
音楽が流れる公園は、ここの他にはあまり無いであろう。
5時を知らせる音楽が流れると、公園内にいる子供達は友達と帰っていったり、子供を迎えに来た親でいっぱいだった。
その中には、新一と快斗の親も含まれる。
「新ちゃ〜ん」
「快斗〜」
2人は砂場にある砂の山をチラッと見ると、砂場を離れて自分の親の元へと駆けていく。
親が迎えに来た頃には、砂の山はとても大きな立派な山となっていた。
新一と快斗の身長の下半身位まで高さ位、余裕にありそうだ。
でも、2人はそんな立派な砂の山を残してタッタと自分の親の元へと駆けていった。
「それじゃあ新ちゃん、帰りましょ♪」
「うん」
新一は、ニッコリ笑って有希子の顔を見上げる。
そんな新一の顔につられて、有希子もニッコリと笑った。
「じゃあ、帰ろうな快斗」
「うん」
快斗は、ニコッと満足げな笑みをしながら盗一を見上げた。
そんな快斗の顔につられて、盗一もニコッと笑う。
そして新一も快斗も公園から出て、自分の家の方向へと足を向ける。
新一と快斗、お互いに反対の方向に進んでいく。
2人の背中と背中が顔を見合わせ、自分の目と目は自分の帰る方向へと真っ直ぐに向いていた。
でも、真っ直ぐ向いていた目は、クルンと後ろを振り向いた。
新一と快斗は、同時に後ろを振り向き、それと同時に大きく息すう。
「明日も来るから」
2人はそう言うと、お互いに笑顔を見せてまたお互いに背を向けた。
今度こそ、目は真っ直ぐと進む方向へと向いている。
そんな様子を見た、新一の親「有希子」と快斗の親「盗一」は、お互いの目を見て軽く頭を下げて挨拶をする。
そして、一足はやく前を向いている自分の息子とともに、また歩き出す。
当然のごとく、2人の親は自分の息子に聞いた。
「ねぇ新ちゃん、新しいお友達?」
有希子は、一度後ろを振り向いた。
「うん!あのね、公園のジャングルジムのところでお友達になった、黒羽快斗って子だよ」
「へぇ〜そうなの!良かったわね、新ちゃん」
新一はニッと笑う。
いかにも、「いいでしょ〜」と自慢をするような顔で笑っていた。
有希子も、そんな新一の顔を見て自然と笑みが浮かんでいた。
「なぁ快斗、あの子は誰だい?新しい友達か?」
盗一は、一度後ろを振り向いた。
「あのね、公園のジャングルジムのてっぺんで友達になった、工藤新一って子だよ♪」
快斗は、瞳をキラキラと輝かせながら口を動かした。
「そうか〜良かったな快斗、友達が増えて」
「うん!」
快斗はニヒヒと笑った。
そんな快斗を見て、盗一も思わずニヒヒと笑った。
新一と快斗は、次の日もその次の日も……。
毎日毎日公園に行って遊んでいた。
また、砂場で大きな大きな山を作ったり、たった2人なのにかくれんぼをしたり、鬼ごっこをしたりと2人だけでも随分と充実した遊びをしていた。
そのたびに、新一と快斗の服はドロンコまみれになり、ちょっとだけ新一は有希子に快斗は盗一に怒られたこともあったけど、そんなことは気にしてられない。
今も見せ付けるように、服をドロンコまみれにして堂々帰っていく位だ。
そして、新一と快斗がいつもいつも仲良く一緒に遊ぶため、有希子と盗一も良く話すようになっていた。
そんな会話の中では、優作と盗一が知り合いということも分かり、休日も新一や快斗付きで遊びに行くようにもなっていた。
−そんなある日−
新一と快斗は、ジャングルジムのてっぺんまでのぼった。
「あのね、新一に渡したい物があるんだ」
「渡したい物?」
快斗はそう言うと、スボンのポケットに手を突っ込んで2つの小さな紙袋を取り出した。
「はい」
快斗は、2つの紙袋のうちの1つを新一に渡す。
もう1つの紙袋は、自分の分のようだ。
新一は、それをそっと受け取りまじまじと見つめた。
白い小さな紙袋だった。
その白い小さな紙袋には、黒い色で「THE 手作り屋」と書かれている。
多分、紙袋の中身を買ったりなんだりしたお店の袋だろう。
だが、まだ4才の2人には英語も漢字も読むことができない。
読めるのは、「THE 手作り屋」の「り」だけである。
「ねぇ新一、開けてみてよ!」
「うん!」
新一は、ドキドキと胸を高鳴らせながら紙袋の封をゆっくりと開けた。
紙袋の中に入っていたのは、可愛いくまのキーホルダーだった。
茶色のフェルトで出来ているようだ。
目と鼻の部分は、黒いビーズで出来ていてクリッとしていてとても可愛い。
しかも、手と足が自由に動かせるようになっている。
そして、くまの体の部分には「しんいち」をローマ字で書いた時の頭文字、「S」のマークが入っていた。
「可愛い!」
「だろぉ♪俺も持ってんだよ」
快斗は自分の分の紙袋を開けた。
中には、新一と同じくまのキーホルダーが入っていた。
でも、くまの体の部分には「S」ではなく「かいと」をローマ字にした時の頭文字「K」のマークが入っていた。
新一と快斗は、お互いのくまのキーホルダーを見合いながらニコッと笑った。
「快斗、本当にもらっていいの?」
「もちろん!新一のために俺が考えて作ってもらったキーホルダーなんだから♪」
そう、このくまのキーホルダーは世界に2つしか存在しない貴重なキーホルダーなのだ。
それはなぜかというと、「THE 手作り屋」というお店は、自分がアイデアしたものを紙などに書いてお店に持っていくと、できるものならそのとおりに作ってくれるのだ。
つまり、快斗は自分でデザインしてお店で作ってもらったということだ。
「ありがとう、快斗」
新一は、くまのキーホルダーを高々と上に上げながら言った。
快斗も満足げな笑みを浮かべている。
でも、数秒経つと快斗の顔は、満足げな笑みから真剣な顔に変わっていた。
「新一」
「何?快斗」
快斗は、何かを言おうとしたが一旦口を閉じ、下を向いた。
だが、何かを決意したようにパッと顔を上げて、真剣な瞳で新一を見つめた。
「快斗?」
快斗の真剣な瞳を見て、新一の頭には不安がよぎる。
新一は無意識のうちに、ゴクッと唾を飲み込んでいた。
「あ、あのさ……俺と新一って、何処に行っても友達だよね?」
快斗は真剣な瞳でありながら、悔しい・悲しいの2つの言葉が入り混じったような表情を新一に向ける。
「………もちろんだよ、快斗!俺達は何処に行っても友達だよ」
「………だよな」
快斗はニパッと笑う。
でも、そんな快斗の顔にはまだ、寂しそうな表情が残っていた。
そんな表情を新一が読み取ることを出来たのか、それは新一自身にしか分からない。
「大切にしてね、くまのキーホルダー」
快斗は、新一が持っているくまのキーホルダーをつんつんと人差し指でつつきながら言った。
「もちろん♪ずっと大切にするよ」
今度は、新一が快斗の持っているくまのキーホルダーをつんつんと人差し指でつつく。
〜♪〜♪♪〜♪〜
おなじみの、5時を知らせる音楽が流れ始めた。
すると、公園の入り口から有希子と盗一が一緒に入ってくる。
何かを話しながら、新一と快斗がいるジャングルジムに向かって歩んでいく。
話している内容は分からないが、2人の顔は悲しい表情をしていた。
「新一、行こう」
「うん」
2人はせっせとジャングルジムから降りて行き、めいいっぱいの笑顔で自分の親の元へと駆け寄って行った。
「新ちゃん、楽しかった?」
「うん!」
新一は、一度思いっきり高くジャンプをした。
それほど楽しかったのであろうか、快斗からプレゼントが嬉しかったのか。
やはり、それは分からない。
「快斗、今日も良く遊んだな」
「うん!」
快斗は、目には「寂」の文字が浮かんでいたが、それでもめいいっぱいの笑顔を見せていた。
それぞれ、自分の親と話し終わるとクルリと体の向きをかえて、お互いの目と目を合わせる。
「また、絶対に遊ぼうね新一」
「うん!遊ぼうね、快斗」
2人はそれだけ言うと、お互いに手を振りながら自分の帰路につく。
やがて、お互いの顔が見えなくなっていく。
小さく、小さくなっていくのが見える。
いつもならもう背中と背中を見せて真っ直ぐ歩いていのだが、今日は違った。
ずっとずっと、手を振って声を掛け合っていた。
でもお互いに相手の姿が見えなくなると、新一も快斗もしっかり前を向いて歩き出した。
(いつか絶対、また遊ぼうな。新一)
(また明日、絶対に遊ぼうな。快斗)
そう、心の中で思いながら2人は家に向かってどんどん、どんどんと歩いていった。
キラキラと輝く瞳を、真っ直ぐに向けて進んでいく。
次の日も、その次の日も、そのまた次の日も。
新一は公園に行った。
だが、快斗が公園に来ることは一度もなかった。
そしていつしか、そんな幼き頃の思い出は2人の頭から消えかかっていた。
あの、くまのキーホルダーのことも。
お互いが公園で遊んだことも。
楽しくて、楽しすぎて毎日毎日笑みがこぼれていたことも。
全て。
|