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国境自衛隊
作:宮村 鴻



section:7



 立夏が着いた頃、ポイント4にはまだ冬至と芒、霜降しかいなかった。
「みんな、遅いですね」
「そうでもないさ。中にいた奴らは逃げ出すのも大変だろうしな」
「俺たちは頑張った方なんだよ」
 中に、最奥にいた筈の冬至たちだが、隊長格は一番にいた方がいいだろうという、冬至なりのけじめだった。

「そういえば、閏紀さんは遅いですね。外にいたのに」
 立夏にしては当然の疑問だ。閏紀にしても外にいたのは立夏、霜降と同じ条件だったはずだ。
「あぁ、あいつは寄り道が好きだからなぁ。時間ギリギリに来るつもりなんじゃねぇか」
 いつものことだから気にするな、と何でもないことのように霜降は言った。
「生き残ってる兵士に見つかってないとも限らないしな。だとしたら時間一杯使ってでもいてもらわないと困る」
 ポイントに着いた安心感からか、すっかりリラックスした状態で冬至が霜降の後に続けた。
「そういうもんなんですか?」
「そういうもんなんですよ」
 尋ねるとそっくりそのままの声音で返され、少し居心地の悪い思いをしながら、立夏はようやく腰を下ろした。


 それから清明、小雪、雨水の順で到着し、残りは閏紀だけとなった。
 彼は、霜降の言葉通り時間ギリギリの到着だった。
「本当にギリギリだな」
「遊んでた訳じゃないんすから、勘弁かんべんしてください」
 揶揄やゆするような霜降の言葉に、疲れたような笑顔でそう返して、閏紀は背負っていたリュックを地面に下ろした。
「隊長、ちょっといいですか?」
 腰を下ろしたままだった冬至に声をかけ、閏紀は彼に立つようにうながす。
 冬至は何も問わずに立ち上がり、立夏たちにもうしばらく休むように告げると、閏紀と連れ立って林の奥へと姿を消した。

 みんなの前では話せない、内容なのだろう。立夏は落ち着きなく辺りを見回したが、他の隊員はいままでと同じように休んだままだった。
「霜降さん、二人、どこいったんすか?」
「…さぁな。まぁ、いつものことだから、後で直接聞いてみたらどうだ?」
「いや、教えてもらえる訳ないっすよ」
「必要なら教えてくれるさ」
 霜降はそう言ったが、立夏は閏紀が話してくれるとは到底とうてい思えなかった。
 必要がなければ、極力お互いが避けようとしているのだ。まして、周りに聞かせたくない内容の話を立夏にしてくれると思う方がどうかしている。

 しばらくして帰ってきた二人に立夏は視線を向けてみたが、案の定相手にされずに終わった。
「皆ご苦労だった。これから宿舎に戻り、到着次第、小雪は俺の部屋に来てほしい。後のみんなは通常任務に着き、引き続き警戒を続けてくれ。以上。解散だ」
 その言葉と共に霜降たちは立ち上がり、周りを警戒しながらではあるが、各々のペースで宿舎へと戻った。

***

 立夏は隊舍に戻ると通常任務である、宿舎付近の見回りに出かけた。
 今回は、同室の雨水と同じ時間帯の担当だ。各々区画を分けて、警戒しながら巡回する。作戦のすぐ後だ。敵軍も攻撃は仕掛けてこないと思うが、諜報活動など、何もしていない可能性は低い。予備警戒だとしても気は抜けなかった。
「今日の当番は立夏くんなんだね。ご苦労様」
 声をかけられて振り返る。彼の目の前にいたのは、髪の長い一人の女性だった。
「え……っ? あの、」
 顔を見ても分からない。自分の部隊に女の人がいた、と言うことでさえ初耳な立夏は狼狽うろたえるばかりでろくな返事も出来なかった。
「…分からないか。ん、…いいよ。お仕事、頑張ってね」
 そう言って<彼女>は手を振り、国境付近へと繋がる道を歩き出した。
「あの、…そっちは」
「いいの。大丈夫だから」
 もう一度、大きく手を振ると、彼女はそれきり振り返らずに歩いていった。
 取り残されたような気分になった立夏はフリーな左手で頭を掻いて、困惑を紛らわせた。
「立夏、小雪さんはもうこっちに来た?」
 呆然としていた立夏に声がかかる。振り返らなくても分かる。雨水の声だ。小雪は見ていない。その事を伝える為に首を振ったが、先程の女性が脳裏によぎった。
「……そういえば、さっき女の人が来たよ。国境の方に行ったけど。うちに、女性隊員ていたっけ?」
 立夏にしては至極自然な問いだった。しかし、雨水はそれを聞いた途端、何ともいえない悔しそうに眉を潜めると、立夏の頭を叩いた。
「本部の方にいない事はないけど、それ、小雪さんだよ。……あー、お前知らなかったっけ? 国境越えて任務に行くとき女だと向こうの警戒心が薄れるから、って小雪さんいつも女装していくんだ」
 そうだったのだ。これで、立夏が<彼女>に対して抱いた違和感の説明が付けられる。大丈夫なはずだ。これから、侵入する事を任務としているのだから、国境を越えない事には話にならない。
「小雪さん、…だったんだ」
「お前、どうせろくでもない返事したんだろ」
 返事どころか、反応でさえ、満足に出来なかった。
「そういうの。ちゃんとやっておいた方がいい。あの時やっておけば、って思うのしんどいから」
 声音に影を感じて、立夏は慌てて雨水の顔を見つめた。雨水は下を向いていて表情はよく分からなかったが、何かを思い出しているのだろう事は容易に分かった。
「とりあえず、今俺たちに出来る事はここを守り切る事だけだ。小雪さんが無事に戻ってきた時にここが無くなっていたんじゃ。顔向け出来ないからな」
「それもそうだ」
 過ぎてしまったことは悔やんでも仕方がない。それよりも各々が行うべき事をきっちりこなした方が結果的に良い方向へ転ぶものだ。それは、隊員全員が経験のある法則のようなものだった。


次回から徐々に急展開していきます。お楽しみに











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