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国境自衛隊
作:宮村 鴻



section:6-2


 閏紀と立夏と霜降。喋ることがなければ、別段口を開かずに敵軍の襲来しゅうらいを警戒していた。
「なんでもいいから、邪魔だけはするなよ」
 唐突に呟く閏紀を立夏が見上げると閏紀は警戒を続けたまま言葉を紡いだ。
「お前の自己満足でこちらに被害が来るようなことをするなって言ってんだ。俺はお前がなんと言おうと任務はまっとうする。作戦の邪魔になる奴らは抹殺まっさつする」
 反論もせずに黙っている立夏に尚も閏紀は言葉をかける。
「人を殺したくないんなら、戦場になんか来なければいいんだ」
 極論、だ。それが許されることなら、立夏は戦場に来ていない。背を向けて、他人に任せた所で良い方に転ぶわけではない。それを知っていたからこそ、立夏はここにいる。
「俺は一人でも多くの人の命を救いたい。その為には、思ってるだけじゃダメなんです。戦争を終わらせるのは俺たちの役目なんです」
「だから、お前は甘ったれなんだよ。誰一人傷付けずに戦争を終わらせようなんて思ってるのは」
「ちょい待ち。お前らさ、極端過ぎんだろ。」
 いつ終わるとも知れない口論に終止符を打ったのは今までじっと黙って二人の言い分を聞いていた霜降だった。途端に不満を顔全体で現すのは閏紀だ。彼は立夏の甘い考えを第三者が肯定するのが気に食わないのだ。
「別にお前を否定する訳じゃないさ、閏紀。隊長の命は遂行する。でもな、…狂ってるよ、お前ら。行き過ぎた正義は時に悪になるって聞いたことないか? それが分からなくなっちまうのが戦争、なんけどな」
 最後の言葉は二人に言ったのか、それとも、自分自身に言い聞かせたのか。霜降の言葉に答える声は無く、沈黙が流れた。
 背後の扉の奥からは定期的に銃声が聞こえる。それに比べて、立夏たちの所に敵兵が来ることはほとんどない。
「…それにしても、静かだな。気持ち悪いくらいだ」
「嵐の前の静けさってやつっすかね」
「やめろ、お前が言うと洒落しゃれにならん」
 これから、激しい戦闘が起こるのだ、むしろ起こって欲しい、と願っていることが分かる閏紀の顔を見て、霜降はため息を吐いた。
「本当に静かっすね」
 座ってしまいたい、と思う自分の足に気合いを入れながら、立夏が呟いた。
 銃を構えながら、周りを見回す。

 人の気配はそこかしこに感じるが襲ってくる様子はない。敵意は感じるのに、殺気を感じられない。
 気配の元は軍人ではないのか? だとしたら、考えられるのは一つしかない。
「村の、住人?」
 立夏の呟きと、同時に悲鳴が一つ。構えた銃で照準を合わせると、少女が一人、地面を凝視ぎょうししたまま叫んでいた。先程倒した兵士の死体がそこにあったのだ。
「なんでこんな所に…っ!」
 もう条件反射としか言いようがない。立夏は少女を保護するために走り出す。同時に敵軍の兵士も何処からか姿を現した。兵士と少女と立夏が一直線上に結ばれる。撃たなければ自分が撃たれる、立夏は理解したが、少女を守ることを先行させてしまう。少女を抱きしめ、自分が盾になれば彼女だけは救えるのだ。
「伏せろォ!」
 響いたのは誰の声か。立夏は少女の腕をつかみ、地面にひれ伏した。
 フルオートに設定していたのか、銃声は一気に十ほど響き、余韻よいんと共に砂埃すなぼこりが消えた頃には聴覚の機能がいちぢるしく低下していた。
「大丈夫?」
 手を貸して少女を立たせると、彼女は頷いて何処かへと走っていってしまった。
「馬鹿野郎っ、何してんだ!?」
 呆然とその場に腰を下ろしていると、霜降の怒声と拳骨が降ってきた。
「った〜。すみません。だって体が勝手に動くんです」
「………人を助けるのがいいことだとは限らないんだぞ」
「どういうことですか?」
 歯切れ悪く霜降が口を開くと、その後を継いだのは閏紀だった。
「ここに住んでる人たち、きっと何処かに隠れているんだろうね。あの子は好奇心か冒険心か勝手に出てきてしまった。軍の命令に背いたとして、殺されるだろうな。監督不行き届きで母親諸とも、ね」
「ふざけるな!」
「事実だよ。ね? 霜降さん?」
 どうしても信じたくない立夏は、霜降の顔を願いを込めて見つめた。閏紀の言い分を否定して欲しかった。しかし、霜降は苦虫を噛み潰したように眉間に皺を寄せて、頷いた。
「…それが、一番有力だろうな。」
「助けようとか思うなよ。俺たちには関係のない話だ」
「でも、……」
「お前はどこの国の人間だ」
「………………」
「それが答えだよ」
 自分にはどうしようもないことだ、とは頭で理解しようと思っていても、心が否定する。出来れば敵国の人間も出来るだけ死んで欲しくない、立夏は常日頃思っていた。


『みんな生きてるか? 教会内に爆弾の設置が終わった。各自バラバラに逃げろ。合流地点はポイント4、時間は2000《フタマルマルマル》とする』
「ラジャー」
 冬至のこの伝令が作戦終了を意味する。教会を潰してしまえば、こちらが有利、とまではいかないが敵軍にばかり有利な状態ではなくなる。それを狙っての今回の作戦だったのだ。

「よし、バラけるぞ」
「はい、じゃあ、また後で」
 霜降の声かけと共に閏紀と立夏は全員バラバラの方向に駆け出した。そうすることによって、ポイント4の所在を隠すことが目的だった。
 立夏が村を抜け、森に入った所で轟音と地響きが大地を震わせ、教会の崩壊を告げた。これで教会からの狙撃はなくなり、貯蔵していたものも取り出しにくくなっているはずだ。一段落ついた。作戦の終了である。

 ポイント4に向かうすがら、立夏の頭を過るのは、先程の少女のことばかり。作戦は終わったとはいえ、敵地の真っ只中で他のことに気を奪われるのは死に直結する。しかし、一度考えてしまった立夏の頭から離れてくれることはなかった。
「……間違ってるよ。こんな世界。なんで人が死ななきゃいけないんだ」
 口に出しても戻ってくるのは沈黙ばかりで、木々の間から聞こえる鳥の声だけが空しくこだました。














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