国境自衛隊(2/10)PDFで表示縦書き表示RDF


任務、開始です。
少しグロい表現がありますので、ご注意ください。

4.18 誤字の報告を受けましたので直しました。
   ご報告ありがとうございました。


国境自衛隊
作:宮村 鴻



section:2


 
 中途半端な時間を雨水は作戦の概要書類を見ながら、立夏は愛用の武器の手入れで時間を潰した。二人は早めに部屋を出たものの部隊内では五分前行動が原則の為、雨水たちが行った時にはすでに全員が宿舎前に集合していた。
「立夏、雨水! 遅いぞ。…と言ってもまだ時間よりは前だがな」
「ならいいじゃないっすか。隊長ー」
「遅くなってすみません、冬至トウジさん」
「大丈夫だよ、雨水。今言った通り時間まだ時間があるからな」
 隊長と呼ばれた男は集まった隊員の中では若い方に分類されてしまう。ひょろりと伸びた背に短く刈った黒い髪。縁の細い黒の眼鏡をかけているが、それが戦闘服に違和感無く似合ってしまうのは、ある意味彼の特技だ。
「朝早いが寝ぼけている奴はいないか? これから二つの班に分かれて現場まで行く。チームαは霜降ソウコウさんと小雪サユキ閏紀ジュンキ、雨水、それから立夏。チームβは俺とノギ白露ハクロさん、清明キヨアキだ。チームαは狙撃場所での狙撃及び、護送車の足を止めろ。チームβは護送車の狙撃場所への誘導だ。時間がないから、作戦の確認はそれぞれの班でやるように」

 立夏たちチームαの責任者は霜降というチーム最年長の男だった。最年長と言っても歳はそろそろ四十に差し掛かろうという所だ。今回彼はチーム全体の指揮と護送車の足を止める狙撃を担当するように冬至から任命されていた。
「じゃあ、確認するか。今回は護送車の足留めと中に乗ってる重役の確認が仕事だ。足留めはまぁ、俺だな。走っている車のタイヤに弾ぶちこんでやるよ。スポッターは小雪に頼む。立夏は小雪と一緒に見てろ。何事も経験だ。閏紀と雨水は護送車が止まったら中にいる人物を確認、確保しろ。運転手については不問だ。好きにしていい」
「つまり、殺してもいいんすね」
「あまり暴走するなよ。雨水は閏紀を良く見ておいてくれ」
「はい、分かりました」
「じゃあ、行くかね」
 その言葉にチームαの面々は腰を上げた。
 ジープに乗り込み、運転手は閏紀、助手席には霜降が座った。残りのメンバーは荷台に車座で座った。
 エンジン音の後、車体が動き、立夏は揺れにバランスを崩した。
「ちゃんと座ってなきゃだめだよ」
 倒れた立夏を抱き止めたのは、女性のような細い肢体の隊員だった。前髪が長く表情は隠れて見えないが、口調と声音で穏やかな性格をしているのが窺える。
「小雪さん、……ありがとうございます」
「いいえ、どういたしまして」
 お礼を言って離れるも、気恥ずかしくて立夏は顔を俯かせて黙った。しかし、耳まで赤くなっているのは隠しようがなく、それに気付いた雨水は笑いをこらえるのに必死だった。

 狙撃ポイントの近くまで車で行くと、一端車を降りてさらに近くまでは歩きで向かった。
 その際に車を草や木でカモフラージュするのを忘れてはいけない。草地を移動した車のタイヤ跡は注意深く見れば何処に待機しているかも分かってしまうからだ。
 徒歩で移動した面々は狙撃班と突入班に分かれ、狙撃班は小高い丘に、突入班は道のすぐ傍の草地に身を潜めた。
「αからβへ。無事、ポイントに到着。これから実行に移ります」
 チーム長であり、狙撃手である霜降の代わりに、小雪が無線で連絡を取る。その間、霜降は銃弾のセットに余念がない。
『βからαへ。了解した。健闘を祈る』
 雑音で聞き取りにくいスピーカーの向こうから、隊長の声が聞こえ、小雪は満足そうに頷いた。
「立夏くん狙撃手は敵を仕留めるまで、他のことに気を回していられないんだ。だから、狙撃は基本二人一組。狙撃手をサポートする観測手が必要となるんだよ」
「サユ、今日はよく喋るな。後輩がいると張り合いが違うのか?」
「そうでもないですよ。何事も経験って言ったの霜降さんです」
 経験、ねぇ。と呟いて霜降は匍匐ほふくしたままの姿勢を僅かに動かした。
「そういやぁ、坊主はここに来て一年になるのか?」
「はい。来月で一年です」
 突然、霜降が振り向き、立夏と目が合う。こちらを見るとは思っていなかった所為で身体が過敏に反応し、カモフラージュ用の布ががさりと音を立てた。
「慣れたか? 戦場の空気には」
「慣れるもなにも、あまり戦闘に参加させてくれないじゃないですか」
「坊主は幹部候補だからな。戦場で何をしてるかってことが分かればいいんだよ」
「俺は、幹部になるためにここに来た訳じゃないです」
「じゃあ何のためだ」
「霜降さん。来ます。いい加減にしてください。立夏くんもしゃがんで。悪目立ちするよ?」
 終わりの見えない禅問答に終止符を打ったのは小雪だった。彼は双眼鏡を覗いたまま、振り返らずに二人を叱咤する。声音に有無を言わせない響きが有り、立夏は口を閉じ、霜降は思い出したようにスコープを覗き直した。

「二十秒後にターゲットが狙撃ポイントを通過予定。気温二十三度、湿度七十パーセント、風速毎時は四.八キロメートルです」
「りょーかい」
 視線は動かさない。深く呼吸を繰り返し、指は引金に掛けておく。僅かな隙を見逃すことのないように瞬きは自然と少なくなり、呼吸は細く長くなっていった。
「立夏くん、後方確認」
「は、はい。…異常無しです」
 狙撃に敵が気付いていないとは言い切れない状態だ。狙撃手の後方にも気を配っていなくてはいけない。予備のライフルを抱えて立夏は振り返って後方の安全を確認した。
「お、目標確認。奴ら、相当焦ってるな。キヨはどんだけせっついたんだ?」
 チームβの運転手に文句を吐きつつ、霜降は照準を合わせる。小雪は周りに気を配りつつも、狙撃の邪魔にならないように口を閉じたままだ。
 後は霜降のタイミングが合うのを待つばかり。そして、霜降の呼吸が止まった瞬間、彼の手元から轟音が二つ。片側の前後輪を狙撃された車は大きく旋回して止まった。
「成功です。お疲れさまでした」
「おうさ。後は雨水たちに任すだな」

 狙撃ポイントの傍の草むらに身を隠していた雨水と閏紀が車両に近付く。手振りで役割を決め、雨水は運転手を、閏紀は護送中の要人の確認に当たった。
 雨水は運転席を素早く確認。まだ運転手がいることを確かめると車のドアに背を付いた。左手でサブマシンガンのマガジンを支える。息を吸うと同時に右手でドアを開き、それを盾にしながら右手を引金にかける。応戦がないことを確認して運転席を覗く。
 運転手と助手席に一人軍人がいた。銃口を突き付けると、二人は恐れたように頭の後ろに手を組んだ。運転席のドアから二人を引きずり出す。膝をつけて座らせるが、武器を所持しているか確認する必要もある。だが一人でやるのは危険だ。雨水は銃を突き付けて警戒したまま閏紀が後ろから出てくるのを待った。
「雨水、無事か?」
「うん、大丈夫だけど。…でも、そういうことだったんですね」
 地面に座る二人に警戒を続けつつ、雨水は閏紀の方を向いた。閏紀が連れてきた人物を見た瞬間、雨水は眉を顰めて精一杯の落胆と失望を表した。
「お久しぶりです。師匠せんせい
「雨水君、か。随分顔が変わったものだね」
「そうしたのは貴方たちです」
 閏紀は話の内容が掴めなくて雨水の袖を引っ張ったが、彼は閏紀の方を見ずに口だけを淡白に動かした。
「この人は俺と、立夏が軍学校にいた頃講師をしていらっしゃった先生だよ。俺たちを戦場に送り出した途端、今度は敵に塩を送るんですか?」
「雨水君。戦争が理論と正義だけで動いていると思っちゃあいけない」
「雨水、聞くな。それは白露さんたちの仕事だ」
 先程は袖を引くだけだった閏紀の腕は今度は雨水の腕を強く引き、これ以上の対象との会話を諌めた。
 閏紀は雨水に周りの警戒と、運転手の行動の警戒を任せて、運転手たちの武器を確認した。個人の身体と、車の中を見て積んであった武器をひとまとめにすると、自分たちの後ろに置いた。
「さて、軍人先生には後でじっくり話を聞くとして、君たちはどれくらいの情報を持っているのかな?」
 閏紀は太腿に括り着けてあった小銃を取り出すと、兵士の顎に銃口を密着させて微笑んだ。
「どうする? 今喋らなきゃウチ自慢の拷問担当に任すしかないけど」
「喋れる訳ねぇだろ!」
「本当にいいんだ? まずはそうだな。メジャーに水責めかな。その次は火責め。まだ喋らなきゃその内、爪剥いだり、歯砕いたり? ウチの医師せんせいは手加減しないよ」
「俺は知らない! 何も知らないんだ!」
 叫んだのは兵士の隣に座らせていた運転手。なるほどよく見ればまだ雨水や立夏と同じぐらいの年頃。閏紀が淡々と述べた拷問の内容に我慢ができなくなったのだろう。一般の青年としては当たり前かもしれないが軍人としては失格だ。本当のことを口に出すべきではない。結果として命が助かる可能性が上がる訳ではないのだから。
「さて、それが信用に足るのかは、やっぱり医師せんせいに任せないといけないね」
 にっこりと笑った閏紀に青年運転手は望みを打ち切られたように項垂うなだれた。
「閏紀。あまり遊ぶな」
「ごめんごめん」
 ふざけた調子で雨水に近付くとそっと彼の耳元で囁いた。
「でも、運転手については不問だったよね? 殺すの?」
「うん、冬至さんが言ったんだ。運転手たちの身柄は必要ない」
「うわぁっ!」
 突然、青年が奇声を上げて駆け出した。雨水の言葉が聞こえてしまったのだろう。
 雨水は驚いた様子もなく、走っていく背中めがけて弾丸を撃ち込んだ。確実に命を奪えるように面積の広い胴体部分に集中して撃つと、青年はすぐに地面にひれ伏し、二三度痙攣した後あっけなく息を引き取った。
「後は、あんただけ」
「さっさと殺すがいい。どうせこの状態で生きて解放してもらおうなんて考えていないさ」
「こんな任務受けた方が失敗したね。御愁傷様」
 閏紀があっさり笑い、雨水が彼の頭に銃口を付けるのとほぼ同時に雨水の背後から悲鳴のような静止の声が聞こえた。
 雨水は慌てることもなく素早い足さばきで兵士の背後に回ると、銃口は運転手の頭に付けたまま声の方向に目を向けた。
 草や木の枝で作ったカモフラージュ用のマントを脱ぎ捨て、丘から立夏が駆け下りてくる所だった。
「やめろ!」
「…立夏。どうして持ち場を離れるんだ」
「どうして撃ったんだ。無抵抗だったし、武器も持っていなかったんだぞ」
「質問に答えろよ」
 お互い自分の意見を通したまま、引き下がる気配は一向に見せない。
 しばらく睨み合って、視線を外したのは雨水だった。
「あのまま逃げられて困るのは俺たちだ。敵を前に逃げて帰ったことは褒められるべきことじゃないが、俺たちの武器や人相、伝えれば罰も多少考慮して軽くなるだろうな。その代わり俺たち部隊に与えられるのは今以上の危険だ。こちらの戦力が分かれば向こうの出方も変わってくる。お前は兵士を一人見逃す代わりに、俺たちと国中の人間の命を売ったことになるんだ」
「……それでも、俺は殺しをしたくはないよ」
「じゃあ、今お前が死ね」
 雨水は自分が出来得る限りに低く、殺気のこもった声で立夏に声を放った。
「俺は、お前がなんと言おうと、みんなの命を取る」
 一方的な宣言の後、雨水は立夏の反論を許さずに運転手の頭を撃ち抜いた。

+++


読みにくい名前ばかりですみません。
出来るだけ一気に出す人数は小分けにしていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。











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