えー 大変長らくお待たせいたしましたー 9話でございますー
…いや、ほんとすまんかった。仕事が忙しかったっていうのもあるけど、なにより自分の書きたいことを文にするのに凄く時間かかった。こういうのを難産っていうのかね?
その甲斐あってというか、そのせいというか…最長の9500文字程度となりました! ごめんまって帰らないで!
…お茶とお菓子と枕とBGMを用意してお読みください。
第9話 賭ける想い
―Side アリス―
私はいま、竜騎士のみなさんが使用する武器がしまわれた倉庫の中に居ます。
本来であれば魔法兵の、しかもまだ二等兵の私がおいそれと入れるような場所ではないのですが…
「あの、そろそろ私が連れてこられた理由を聞きたいんですけど…」
「もうすこし待っててくれ。準備ができたら話すからさ」
私の目の前にはいつぞやのお客様…ハンターさんが立ってます。先ほどまではもう一人、名前は知りませんが中尉の階級章をつけた女性がいらしたのですが、ハンターさんと2、3言交わすと、出て行ってしまいました。
――今日もいつものように訓練していたのですが、途中で上官によばれて行ってみるとハンターさんと中尉さんが。「おう、久しぶり。ちょっと来てくれ」と連れ去られ、今も何がなんだか分からないままです。
私、なにかしたんでしょうか。覚えはないんですけど。…それとも。
その考えを、ぶんぶんと頭を振って追い出します。それはないはず、あのことは誰にも話していないし、他にもいろいろ手は打ってるし――
「あー、アリスさん」
「ひゃ、ひゃい!?」
「その、取って食う気はないから、そんな不安そうな顔しないでくれよ。ちゃんと説明するから」
「あ、あう。すみません…」
顔に出てしまっていたようです。うぅ…気をつけないと墓穴を掘ってしまうかもしれません。
* * *
「――やあ、ただいま」
「おっ、ようやくお出ましかバーナード君。待ちわびたぞ」
あれから数刻、ハンターさんや戻ってきた中尉さん―シルヴィア中尉だそうです―と自己紹介し合いながら待機していると、出入り口付近から声が。男性のようです。
「戻ってくる途中で中佐に呼ばれてね。…はいこれ。軍からの正式な協力要請書だって。報酬についてとかいろいろ書いてあるから、目を通しておくように、だそうだよ」
ハンターさんのところにやってきて、なにやら書類を渡しています。少尉の階級章をつけてるけど、歳は私とあまり変わらないように見えます。そういえばシルヴィア中尉も若そうだなぁ。
「わかった。で、オッサンの方は?」
「それが…」
少尉さんが取り出したのは…手帳、かな? ハンターさんはそれを無言で受け取りました。手帳は小さめのものですが表紙はぼろぼろで、よく使い込まれているのがわかります。
「とりあえず、これで役者はそろったな。…おっと、アリスさん。こいつはバーナード君。竜騎士隊の一人で階級は――えっと…」
「少尉だよ。…よろしくアリスさん。バーナード・ウィリア少尉です。大変だろうけど一緒にがんばろう」
と、少尉さんが歩み寄ってきて手を差し出してきました。私も手を出して、彼の手を握ります。…優しそうな外見とは裏腹に、けっこうごつごつとした手でした。
「あ、はい。アリス・ウェンライト二等兵です。後衛魔法兵です。こちらこそ――あれ?」
「ん? どうしたの?」
「…あの、大変だろうけどって、一体何が…?」
なんだろう、ものすごくいやな予感がしてきました。おそるおそるバーナード少尉に訊いてみると…
「えっと、今回の任務はトライホーンの討伐なんだけど…あれ、まだ聞いてなかったの?」
トライホーンの討伐? トライホーン、とらいほーん………“駆ける雷”!?
「ええええええええええええええっ!?」
――拝啓、お師匠様。軍に入ってまだ半年ですが、私はとんでもないことに巻き込まれているようです。
―Side アリス End―
* * *
「では、これより竜騎槍の試射を行います」
「ああ、よろしく頼む」
ところ変わって、ここは屋外の訓練場だ。竜騎士であるシルヴィアとバーナードが竜騎槍を構え、今まさに撃たんとしているところである。俺はそれを少し離れたところから見ている。そして、隣に並んでいるのはアリスさんだ。
最初は驚いていたアリスさんだが、後方での支援をしてくれるだけでいいからなどと説得し、止めとしてシルヴィアに言ってとってきてもらったアーネスト直書の命令書を渡すと、涙ながらに了承してくれた。
だが、彼女を選んだのはどうやら正解だったようだ。ちらっと横のアリスさんに目をやる。巻き込んだようなものだから、と最悪ベルクトの街で待機してもらうことを提案したのだが、「私も軍人ですから」と却下した。見た目は虫も殺せないような女性だが、なかなかの胆力を持っている。
ついでといっては何だが、俺のことも話しておいた。一時的とはいえ仲間になるわけだし。信頼関係は築いておかないとな。…もっとも、ちょっと半信半疑な目をしてたけど。
「あっ!」
「ん…おお?」
アリスさんの上げた声に反応して、フィールドのほうに視線を戻す。と、そこにはいつのまにか大小さまざまの丸い球体がいくつか浮かんでいた。見たことのある光を放っている。魔力光だ。見た目はまるで大雷光虫のようなそれに少し感傷を抱いたその時――
ビシュゥゥッ!!
「うおおっ!?」
その球体はいきなり現れた光の帯に貫かれ、消失した。と、思いきやすぐさま別の場所に現れる。が、それもまた光に消し飛ばされた。…ああ、そうか、これはマトなのか。
そう理解してから改めてフィールド内のシルヴィアとバーナードを見ると、やはりあの竜騎槍の先端を光球に向けていた。そして、それから発射される光の槍。
「これにもっと威力があれば申し分ないんだろうけどな」
そこが一番のネックだろう。攻撃対象に届くまでの時間はボウガンや弓より圧倒的に早いんだが…。
しばらくそうやって観察を続けていると、
「ハンターさん」
「…んあ?」
ふいにアリスさんが話しかけてきた。
「ウィリア少尉、すごいですね。はじまってからまだ一度も外してませんよ」
「え、本当?」
言われて改めてバーナード君を中心に訓練の様子を見てみると、シルヴィアが10ある目標のうちの2,3を外しているのに対し、彼はすべての攻撃を確実に命中させている。おまけに球体のほぼ中心を正確に射抜いていた。世が世…あ、いや、世界が世界ならいいガンナーになれるだろうな。
それと一応言っておくが、シルヴィアの腕も悪いわけではない。彼女は目標の中でも特に小さいものを逃しているだけだ。…決してひいきしてる訳じゃないよ?
と、そうこうしているうちに残っていたマトがいっせいに消えた。
「ハンター殿、第一プログラムが終了しました。続いて第二…飛竜に騎乗しての攻撃訓練に移行します」
「おう、任せた」
シルヴィアの声にそう返してやる。彼女はうなずくと、口に指を当て、ひゅっとひと吹き。ちょっと遅れてバーナードも指笛を響かせた。すると…
ゴオオォッ!!
大気を切り裂くような轟音を響かせて、空から2頭の飛竜が舞い降りた。どちらにも見覚えがある。確か、シルヴィアのアドルとバーナードのフリッツだったかな? 今、それぞれの愛竜の頭をなでている竜騎士2人と以前交わした会話を思い浮かべて、記憶から名前を引っ張り出した。
「私、こんなに近くで飛竜を見たの初めてです!」
アリスさんはちょっとはしゃいでいる。俺も初めて飛竜と相対したときは興奮したっけな。…無論、自分の命がかかっているからだったけど。
――しかし、まさかハンターである俺が“飛竜と一緒に”狩りに行くなんてことがあるとはね。
「仲間となれば、頼もしいことこの上ない、な」
今までは敵でしかなかった新しい“仲間”を見つめながら、そうつぶやいてみる俺だった。
………………
………
…
「二人ともお疲れさん」
「お疲れ様でした! とっても格好良かったです!」
「いえ、普段の訓練ではこの内容を何度も反復するので、このくらいなら」
「最初の頃はそりゃあ大変だったけどね。もう慣れたよ」
飛竜とともに空から降りてきた二人にねぎらいの言葉をかける。
一息入れよう、と訓練場内の休憩室に移動した。おのおの適当な場所に腰掛けたところで、作戦会議その2を開催する。
…いま彼らも言っていたことだが、竜騎士たちの練度は実際のところ十分なのだ。例の急降下しての攻撃も見せてもらったが、完全に飛竜と一体化した動きで、ブレることもない。特にバーナードは凄い。飛竜に乗った状態でも、地上となんら変わらずに標的を定めて正確に射抜いていた。となると、足りないのは――
「やっぱり武器の性能がいまひとつなんだよなぁ」
「我々は今まで特に文句はありませんでしたが…」
シルヴィアが言う。…実際、問題はなかったんだろう。『人間』相手ならな。俺はあまり考えたくないけど。
「モンスターと戦うには絶対的に火力が足りない。…逆に、ここさえ補うことができればどうにでもなると思うんだが」
「それは魔法での攻撃では駄目なんですか?」
と、魔法エキスパートのアリスさん。
「うーん、俺はこの世界の魔法の威力ってのをまだ知らないからなんとも言えないけど、駄目だったからトライホーンはどこかに飛ばす、っていう対処をしてたんじゃないのか?」
そう指摘してやると、あう、と黙り込んでしまった。…やばいかわいい。
――なんとなく皆黙り込んでしまったのだが、そこで
「…ところで、僕が借りてきた手帳は?」
バーナード君が場の空気をかえてくれた。…正直、すっかり忘れてた。懐からその手帳――手のひらよりちょっと大きいぐらいのサイズ、割と厚くてボロボロ――を取り出した。
さっそくそれを開いてみることに。
「これは…ええと? 『大陸における魔獣の生態』…研究書みたいだな…おっと、著者『M・ボーマン』?」
俺がそこに書かれた名前を口に出した瞬間、まわりの温度がスッと下がったような気がした。まあ、この著者の苗字からして、何かあるとは思ったんだがな。
「知ってるのか? このM・ボーマンって人」
3人に問いかける。…十中八九、いい話が出てくることはないだろうけど。
しばらく沈黙が続いたが、やがて観念したかのようにシルヴィアが口を開いた。
「M・ボーマン…マリア・ボーマン女史は、帝国きっての生態学者でした。…その、15年前ほど前に亡くなられています」
「…で、ボルトのオッサン――ボーマン大尉との関係は?」
「…奥様です」
「そうか。――なら、この本はマリアさんの遺品の一つって事なんだな」
ふう、と一息ついてから、俺は本をめくりはじめた。そこには、数多くの種類のモンスターたちの所在地やその習性が、美しい写生絵とともに記されていた。ゆっくりとページをたどる。
『向こう』でもたくさんの生態書に触れてきた俺だが、これほど詳細に書かれているものはそうそうお目にかかったことがない。モンスターごとの危険度や、万が一出会った場合の対処法なんかも載っている。マリアさんがどれだけこの本に精魂込めていたのかがよくわかるというものだ。
…ふと、俺の手が止まる。そこに描かれていたものは、3本の角を持つ獣。トライホーンだ。危険度は最高クラス、5段階中の5に設定されている。そして、その生態も詳しく書かれていた。…確かにこれは役立ちそうだ、と次のページをめくり――
俺は、本を閉じた。
「あの、ハンターさん?」
アリスさんが心配そうな顔をしている。他の二人も同じような顔だった。
「…いや、なんでもない。大丈夫だ。
――よし、とりあえず今日はここで解散。作戦は出発までに俺が考えておく。なにか聞きたいことができたら呼ぶけど、行動は自由にしてくれ。だけど、疲れを残したり、怪我なんてするのはもってのほかだ。わかってるな?」
おのおのを見回すと、力強くうなずいてくれていた。…まあ、皆優秀だから大丈夫だろう。もっとも、アリスさんはまだ測りかねてるけどな。
…そんな中で俺は、目をそっと手の中の研究書に向けた。あのボルト大尉がどんな思いでこれを俺に託したのかを考えながら。
………………
………
…
翌日の俺はというと、文字通り一日中ずっと資料室に缶詰になっていた。当然、対トライホーンでの作戦を考えるためだ。他のメンバーにもいろいろと訊ねたのだが、その中でも有用なものだと思うことをいくつかあげてみる。
まず、シルヴィアの愛竜、アドル君のことだ。こいつは『フォレスター』という割と珍しい飛竜だそうで、その最大の特徴が、多数の木が密集しているジャングルに生息するというものだ。
故に、彼は木々の間を縫って飛ぶことができるという。今回のフィールドであるベルクトの森の地図を見せてみると、この程度の森ならば余裕で飛べるということだ。…正直、敵じゃなくてホッとした。密林の中で機動力維持できる飛竜なんてありかよ…。
「私自身の力ではないのが不甲斐ない」とシルヴィアは悔しそうにしていたが、それを乗りこなせるのはシルヴィアさんの力だろ、とフォローしておいた。どうにか笑ってもらうことができた。まぶしい。
次にバーナード君だが、竜騎槍の性能試験で見せてくれた狙撃能力について質問してみた。恥ずかしそうにしながらも、竜騎槍の射程内なら、たとえ自分か相手、もしくはその両方が動いている状態でもある程度正確に撃てる、と言ってくれた。…今回の作戦の鍵を握るのは彼かもしれない。
ちなみに、彼の飛竜フリッツ君は、他と比べておとなしい種類だそうで、その分攻撃力機動力ともにそこそこ。「気性の荒いやつには乗れなかったんだ」と苦笑していた。
で、最後にアリスさん。魔法についてはまったく分からなかったので、とりあえず使える魔法をすべて教えてもらった。
生活にしか使えなさそうなものや、なんのためにあるのか分からないものなどもあったが、とりわけ俺の関心を引いたのが、『消音』と『隠蔽』の魔法の二つだ。
『消音』はその名の通り、魔法をかけられた対象が出す音を一定時間抑えるというもの。それはせいぜい数分だが、使う価値は大いにあるといえる。そして『隠蔽』は、対象の姿を一定時間見えなくする。…はじめは何の冗談かと思ったが、専門的な説明をされてもさっぱりだったので、魔法なんだから仕方がない、と割り切った。これは強すぎるのではないか、と思ったのだが、その効果時間はわずか1分ほど。これがネックになってメジャーにはならなかったそうな。
「『隠蔽』は制御が大変なので、本当は習得するのが難しいんですよ」と胸をはって説明してくれたアリスさんだったが、何故か途中で焦った顔になり、黙ってしまった。…なんだったのだろうか。
* * *
そんなこんなでなんとかまとまった作戦を、何度も何度も見直してから資料室を出ると、すっかりと日は沈み、空には多数の星が瞬いていた。この時間になってしまってはもう食堂は開いていないだろう。凝り固まった肩をたたきつつ部屋に戻る。
と、自室の机の上には小さなお皿が。上にはサンドイッチがいくつか乗っていた。一体誰が?
ふと、傍らにメモが置かれているのに気づいた。
『夕食に間に合われなかったようなので、簡単ですが用意しておきました。貴方のほうもお体に気をつけて。 シルヴィア』
そういえば今日一日、なにも食ってなかったっけな。思わず苦笑いしてしまう。疲れを残すな、なんて言っておきながら、自分がこれじゃあ、世話ないよな。
「…女神様のくれたサンドイッチ、ってか。“激運”がつきそうだな」
俺はサンドイッチと、部屋においてある“飛竜刀―椿―”、そして例の研究書を携え、再び部屋を出た。向かうのは基地の屋上だ。この世界に来てから、俺はそこで毎日愛刀の手入れを行なっている。
この基地は砂漠の近くにあるので、夜は寒いのかと思っていたが、聞いた話によれば魔法である程度の保温を行なっているんだとか。どれだけ万能なんだ魔法。…ともかく、それを聞いてから俺は星空の下で日課をこなすようになった。おあつらえ向きに、屋上にはテーブルと椅子が備え付けられている。
「…うん、美味い」
椅子に腰掛けて、女神サンドをほおばる。空腹も手伝っているのだろうが、とても美味い。貴族はメシが作れない、なんて話があったが、あれは迷信なんじゃないか。『狩りに生きる』にも、どこかのマダムが料理について語っていたコラムが載っていた気がするし。
“椿”を鞘から抜く。刀身が月明かりに照らされて、とても美しい。それを眺めながら、ゆっくりと砥石で研いでいく。武器には愛情をもって接しろ、といったのは、師匠だったか。
「――綺麗な剣だな」
「まあな。手に入れるのにも苦労した。…椅子、空いてるぞ」
振り向いて、背後の人間――ボルトのオッサンに着席を促す。悪いが、こちとらハンターだ。気配を消しても“匂い”で分かる。もっとも、向こうも気づかれていたことは分かっていたんだろう、表情を変えずに俺のすすめに従った。
「…作戦は、出来上がったのか」
「ああ。おそらく、あれで何とかなる。無論、情報だけで作られてるから、その通りに行くとは限らないが」
「そうか…。ハンターってのは、凄いんだな。おそらく、軍の中でも“駆ける雷”に勝てるなんて豪語できる奴はいないだろう」
「おいおい、褒めるのは勝ってからにしてくれないか。当日になったら、尻尾巻いて逃げる大法螺吹きかもしれないぞ…っと」
俺は“椿”を鞘に戻した。…本題に入るのに、手入れをしながらでは失礼だろうし、な。
「――あんたから借りたこの本、作戦立てるのに一番役立った。ありがとよ」
机の上に、あの本を置く。彼は、何も言わずにその表紙を見つめたままだ。
「…これを書いたの、奥さんなんだってな。亡くなったそうだが、帝国一の生態学者だったってのも頷けるくらい、いい内容の本だった。トライホーンの生態についても詳しくて、大いに助かった。
――だが、一つ気になったところがある」
いまだ表情を崩さず、無言のままのボルトを前に、研究書のページをぱらぱらとすすめ、件のトライホーンのページへ。そして、そこからさらに一枚めくった。そこには――
「何もかかれていない。ここから先は、全部白紙だった」
一枚一枚、白紙のページをめくっていく。彼は、いまだ無表情を装っている。…だが俺は、ボルトの手が震えているのに気がついていた。――ここまでしなくてもいいんだろうが、それでも俺は聞いておきたかったのだ。彼の“想い”を。
「今日、資料室でついでに調べた。トライホーンが前回現れたのは15年前。あんたの奥さんが亡くなったのも15年前。…そして、例の転移事故。あれが起きたのは前回の出現時だったらしいな。
―― 一応訊いておく。奥さん、なんで亡くなった?」
そのとき、ふっと彼の顔から力が抜けたような気がした。手の震えも止まっている。
「…マリアは、幼なじみでな。小さいころから一緒だった。お互い、両親を魔獣に殺されたクチだったから、馬も合った。だが、俺とは決定的に違うところがあった」
俺は黙って先を促す。
「俺は、魔獣に対して復讐心をずっと抱いていた。だから軍にも入った。だが、あいつは…復讐より、自分のような人間を増やしたくないと、そう、思っていた。
――軍に入ってから初めて故郷に帰ったとき、あいつは、その本を作り始めたんだ、と笑った」
ボルトは、慈しむような目で本を見ている。
「皆が魔獣のことをよく知れば、被害もきっと減るからと。結婚してからも変わらなかった。時には大怪我して帰ってきたときもあった。その度にな、言うんだよ。魔獣をよく観察してたから死なずにすんだ、ってよ。俺は何も言えなくなったよ。それからは諦めがついて、あいつを信頼して全て任せた。…こいつのときも、そうだった」
ボルトが、トライホーンのページを晒す。
「軍の転移作戦が始まる直前に、マリアはこいつの調査に向かった。あらかた調べ上げて、作戦の前日にはキャンプに引き上げたそうだ。――そして、軍はそのキャンプに“雷”を落としてしまった――!」
彼の手が再び震えだすのを見た。顔を見ると、それは苦しげに歪んでいた。…以前にも何度かこういう顔を見たことがある。大事なものをモンスターに奪われた依頼人は、すべて同じ顔をしていた。
「マリアは、この本を胸に抱えたまま死んでいたそうだ。その一冊の本を護って、命を落とした。…俺が行くのを無理にでも止めていたら? あるいは、あいつがその本を書くのをやめていたら?考え出したらキリがねぇ!」
「…あんたは、トライホーンに復讐したいのか?」
そう訊くと、ボルトはなにやら複雑な顔になった。俺は、そこでちょっと意外に思った。怒りを露にするものだとばかり思っていたからだ。
「…復讐を考えていないわけじゃねぇ。だが、復讐にも形があると、俺は思う。だから、俺はお前にこの話をするよう、中佐に言った」
「アンタが?」
「ああ。俺はな、場数だけなら中佐の倍は踏んでいる。だから、そいつがどんな強さを持っているのかは見れば分かる。お前があの芋虫どもを一人でやったと聞いたときにも、疑わなかったんだぜ?
…ハンター、お前がトライホーンを倒すことができたのなら、その死骸を解剖して弱点でも何でも探ることができる。次に奴が現れたときには、迅速に対処できるようになるかも知れねぇんだ」
「――それが、大尉殿の復讐か」
「おうよ。そのために、お前を利用する。降って湧いた切り札だ。有効に使わねぇとなぁ?」
ボルトがニヤリと笑った。…俺はというと、なんともまあ暖かい気分になっていた。憂鬱な気分になるのは覚悟していたが、どうやら目の前の男は想像してたより大きい人間だったらしい。
「もうひとつ訊いておきたい。あんたは何でまだ軍に居るんだ?…軍は恨んでいないのか?」
「まあ、当時は恨んだ。それはもう盛大にな。中佐や他の上官に殴りかかったこともあったぜ。八つ当たりしても仕方ないのにな」
「訂正…よくまだ軍に居られたもんだ」
「はははは! もうムショにぶち込まれても構わないと思ってたんだ。それを、アーネスト中佐はかばってくれた。いろいろ話も聞いてもらったしよぉ…。だから、中佐に協力するために残ることにした。受けた恩は返せって、マリアも言ってたからな」
話は終わりだ、と立ち上がるボルトのオッサン。
「悪かったな、こんな話をさせて」
「いいってことよ。…頼んだぞ、ハンター。それと、絶対にあいつらを死なせるんじゃねぇぞ」
俺は“椿”を引き抜き、空へと掲げる。
「この剣に賭けて」
それを見たボルトは満足そうにうなずくと、自分の居室へと帰っていった。
――見送った俺は太刀を戻すと、しばらく目を閉じて、今の会話を反芻する。
「よくもまあ、こんな得体の知れない男を信用してくれるよな、どいつもこいつも…」
俺は机の上でくすぶっていたサンドイッチに手を伸ばし、改めてゆっくりと味わった…。
………………
………
…
翌日の夕刻、俺たちはアーネストの執務室に集まっていた。出発式ってやつらしい。
アーネストが俺に一枚の紙を手渡す。
「この任務の間、君を“少尉”扱いとするという書類だ。作戦の総指揮官は中尉となるが、無論、現場では君が采配をとってくれて構わない」
まあ、俺みたいな“ぽっと出”をいきなりリーダーにするわけにはいかないんだろう。と、ここでさらにアーネストが小声で俺に言った。
「…娘を頼む」
俺は口では答えず、代わりにポン、とこぶしを彼の胸に当ててやった。アーネストも小さく頷く。
そして、俺の前から離れた。
「――これより諸君らにはベルクトの街近郊の森に出現した“駆ける雷”トライホーンの討伐に向かってもらう。困難な任務ではあるが、諸君らならやり遂げると、私は信じる」
アーネストが俺たち4人の間を通りながらそう述べて、やがて、前に立った。
「抜剣!」
皆が腰の剣を引き抜き、身体の前でまっすぐ立てる。…なお、俺の剣も当然太刀ではなく、事前に渡された儀礼用のものだ。
――しかし、こういうこと初めてやったけど…悪くないじゃないか。
『帝国の誇りに賭けて!』
だれか俺にもサンドイッチ作ってくだしあ;;
さすがに今回長すぎだろ…と自分でも思った。けど止められなかった。反省はしているが後悔はしていない。
次回はついに奴との戦いです。…“次回”にするためにこんなに長くなったとも言える。
あ、それとおかげさまで総合ポイント200越え、お気に入りにいたっては80越え(9/7現在)となりまして、本当にありがとうございます。ペースは遅いですが完結はさせるようがんばりますので、これからもよろしくお願いします!
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