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新章開幕となります。テンションあげてくぜー。
後書きに二章から変えていくことを記載しますので、暇なら読んでおいてください。読まなくても支障はないと思うけどね。
人と妖に掛けられた天秤
捨てられる神あれば拾う者あり

―――なんだこれ、変な色してるな。

五月蠅い。

―――こんなの、誰が使うんだろうな。

だったら無視すればいいのに、何でいちいち口に出す。

―――気持ち悪い。

そんな言葉を口にするアンタの方が、よっぽど醜い。

―――これを作った奴の感性を疑うよ。

五月蠅い、五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い黙れ黙れ黙れ黙れ―――!!

口々に語られる、侮蔑の籠った中傷の言葉。
どんなに想っても、決して届かない。故に奴らは平気でそんな言葉を口にする。
一つの物質として生を得て、何年経っただろうか。
そして、こうやって他人の侮蔑を認識出来るようになったのは、何時だっただろうか。
少なくとも百年、私は動かぬ身体であらゆる恥辱に耐えてきた。
時には先のように身勝手な感情をぶつけられたり、時にはこの身を振り回して玩具にしたり。
私の本来の用途―――傘として使われたのは、最早過去の記憶。いや、記憶にすら残っていない。
ただそんなことがあった程度の、漠然とした記録に近い過去。

雨風に晒され、見向きもされず、たまに興味を持たれたかと想えば先の様な扱い。
創造主でもないのに―――創造主でも許されないことではあるが―――、さも当たり前のようにぞんざいに扱う。
人間がそんなに偉いのか。何度でも類似品を創造出来るからって、何をしても許されると思っているのか。
こうして物にも意思が存在する可能性だってあるのに、そんなことを知らず、知ろうともせず、替えが利くという理由で大事にしようとしない。
貴様らが同等の扱いをされれば怒るであろう扱いなのに、他者にはそんな愚行を強いることを躊躇わない。
私にあいつ等と同じように、肉体があれば。そうすれば、生まれてきたことを後悔するような苦痛を与えてやるのに。

悪意が収束する。
憎悪が紫色の傘に纏わりつき、呪いとなる。
幾年という歳月と、肉体を欲するという強い意思。それは無機物を妖へと変化されるには、うってつけの条件。
最早妖怪へと変貌する一歩前となった時―――後に彼女と表現されるようになる傘は、一つしかなかった未来の分岐点と出会う。

『ん―――、これは一体………』

黒のカッターシャツに青いジーンズを履いた白髪の青年が、今にも壊れそうな傘を見下ろす。
青年―――エミヤシロウと紫色の傘は、こうして出会いを果たした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


『ふむ、こんなものか』

私、エミヤシロウは今人里で買い物を終え、帰路につくところだ。
買い物内容は、全部私的なもの。バイトで得た給金を、守矢家に寄付しようと思ったのだが、あっさりと断られたからだ。
曰く、気持ちだけ受け取っておく、だとか。当然抵抗はしたが、自分の為に使って欲しいと頑なに拒否されたのだ。
彼女達の善意を受け入れ、今こうして私的な理由で買い物をしていた、という訳だ。
因みに内容は、刀鍛冶で用いる道具一式。趣味で刀剣を()つことも少なからずあった私だが、こうして暇と資金があるということで、購入に至った次第だ。
投影で道具を作ればいいと思う者もいるだろうが、やはり職人が自分の手で作ったもので鍛つからこそ、価値が生まれるというもの。
実際、道具も全て投影で作るなら、作り手の実力に左右されるとはいえ、結局投影の延長でしかない。

あの奇跡の生還から一ヶ月。私は至って平穏な毎日を過ごしてきた。
帰宅した時、諏訪子と神奈子は何も言わずに迎え入れてくれた。
それが彼女達なりの気の遣い方なんだろうと納得し、私も何も言わずに懐かしき第二の我が家へと帰宅した。
それからは守矢神社で家事手伝い及び、早苗達と他愛のない雑談をして過ごす、至って平穏な時間。
変化があったことと言えば、意外とあった。例えばにとりが訪問してきて、一緒に(作業を)やらないかと言ったり、フランがちょくちょくここまで遊びに来たり。
流石にフランは、日が陰りを見せたり曇りの日じゃないと来なかったが、そうでなければ毎日来そうな勢いだった。
どうやらフランと早苗は仲が良いらしく、私がいなかったり作業をしていた時も、話し相手になってくれていたようだ。
そのやり取りはレミリアも嫉妬しそうな程姉妹っぽく、見るものを笑顔にした。
他にも、天界への道があった場所を何気なしに見上げていたら、突然流星の如く衣玖が此方に突っ込んできて、容赦なしにライ○ーキックをぶちかましてきたり、そこから何故か説教に発展―――内容を聞いている限りだと、天子が地上で巻き込まれた事件の時に、何も言わず去ってしまったことが原因らしい―――して、大変な目にあった。正座は当然、口答えをすれば説教一時間追加などとのたまっていたので、無言で苦痛に耐えることしかできなかった。
余談ではあるが、とある日に一度私に取材をしてきた文という天狗が、早苗に向かってジャンピング土下座している光景を見た。
当事者は困惑していたが、あの鬼気迫る様子は、何も無かったとは言い切れないものだった。
とはいえ第三者である私は関与することなく、いつの間にか解決していたという次第だ。
とまぁ、軽い波乱はあったものの、概ね平和だった。

里を出て妖怪の山までもう少しのところでふと、頬に触れる冷たい感触が訪れる。
空を見上げると、しとしとと雨が降り出していた。
私が今日買い物をした内容には、鉄製品のようなものが中心だ。そして、外と比較しても梱包の質に優れていないのは想像通りだ。
雨の中長時間晒せば、それだけ質が落ちることになる。
投影品で更に包めるのも考えたが、包むものが濡れたら意味がない。
まずは雨に当たらない場所を探すのが先決だ。
荷物が崩れない程度の速さで、木々の深く生い茂る場所へと向かう。

―――そこで、私は運命に出会うことになる。

丁度良い大きさの木の下に辿り着き、一息吐く。

『ん―――、これは一体………』

その時、ふと下に視線を向けると、一本の傘が野ざらしに地面に落ちているのを発見する。
―――それはあまりにも無惨な姿をしていた。
深い紫色をしたそれは、大凡自然に出来たとは思えない傷痕を残していた。
外観だけでも、傘布は露骨なまでに穴が空いており、そこから見え隠れする親骨は折れ、はじきも拉げている。
傘がこんな風に壊れるには、閉じた状態でバットのように振り回してどこかにぶつけでもしない限り起こりえない。
こういうのを見るのは、正直良い気分ではない。一般人にとって何気ない光景でも、私のように物を造ることが好きな者にとっては、無視できるものではない。
作り手の苦労が理解できるからこそ、物の痛みも理解できる。偉そうに言ってはいるが、所詮一方通行の感情であるのは承知している。
言葉を発せない無機物の痛みを、本当の意味で理解はできない。ただ、そうなんだろうと勝手に思っているだけ。

『可愛そうにな。よし、ちょっと待っててくれ』

答えが返ってくるわけでもないのに、あたかも相手に意思があるかのように語りかける。
私は簡易式テントを投影し、手際よく組み立てる。
折れた傘を拾い中に入るが否や、修理するべき箇所の材料を投影する。
自力で直せる範囲は出来る限りそうしようとしたが、いかんせん損傷が酷い。
殆ど一から作り直す羽目になってしまったが、だからといって苦労がある訳でもない。
ストーブを修理するよりも明らかに簡単な作業では、私を止めることは不可能。
十分にも満たない時間の中で、新品同様にまで傘を蘇生することに成功する。
素材も解析し、一切質を変化させることもなく全く同一のもので作り上げた為、端から見れば新しく作ったのものと思うだろう。
完璧な出来映えに、一人ほくそ笑む。
やはりこういった作業は心躍るものがある。投影で作るのとはまた違った充実感、達成感がある。
満足し終えたので、テントから傘と荷物を取り出し、外に出る。
依然として外は雨が降っている。せっかくなので、作り直したこの傘を使おうか。
心地よい音と共に、傘は紫色の円を描く。
深い紫色が、景色と交わることなく独立した存在を確立している。
科学の発展していない時代で、これだけ安定した強度の素材を用いているのは、これを造った職人の愛か。

『全く、こんな良い傘をあんな扱いをした奴の気が知れないな』

顔も知らぬ相手に、侮蔑の感情を以て言い放つ。
それだけ済ませると、テントを投影破棄して神社への帰路を再び目指す。
―――気のせいか、手に持った傘が、不思議と暖かく感じた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


三十分程度かけて、神社に辿り着く。
その頃にはすっかり雨も止んでおり、傘は閉じられ先端から雫を落としている。
家に入り、適当な布で傘を拭いてそのまま居間へと進む。

『あ、おかえりー』

そこには、煎餅をボリボリと音を立てて食べる諏訪子だけがおり、他には影も見あたらない。

『二人はどうしたんだ?』

『神奈子は神社の中で参拝客の観察かなー。こんな雨の中来る人はいないと思うけど、暇なんだろうね。早苗は部屋じゃないか?』

『そうか。では私も部屋に戻るとしよう』

『ほーい………って、その傘どしたの?』

『これか?さっきボロボロの状態で野ざらしになっているのを見つけてな、直してここまで差してきたんだ』

普通ならはいそうですか、で終わりそうな対話だが、諏訪子は妙に真剣な目つきで傘を見つめている。
普段は自堕落な姿ばかり見る彼女から垣間見られる、神としての威厳。
この切り替えの良さは、ランサーを連想させる。
凜から聞いた記録では、明日には敵として戦う相手とすら酒を飲み交わすような考えの持ち主だったらしいからな。
普段の軟派な姿と、戦士としての姿の二面性。それが今の彼女の在り方と重なって見えた。

『何か気になることでもあったのか?』

『………いいや、なんでもないよ。ほら、行った行った』

瞬時にいつもの飄々とした態度に戻ったかと思えば、手をひらひらさせて退出を促す。
引き留めたのは君のようなものだろう、と思ったが口には出さない。
気を取り直して自分の部屋に向かう。
中は昔の自分の部屋と殆ど一緒で、物が無い。
あの頃は高校生らしくない部屋、と藤ねえに言われてた気がするが、今なら別に気にされることもない。
部屋の隅に折りたたまれた布団はあるが、サーヴァントは寝る必要がないので、別段必要なものではない。
とはいえ、今は聖杯戦争みたいな殺伐とした日々を送っている訳でもないので、無理に起きている必要もない。
たまに深夜に紅魔館に遊びに行くことを除けば、基本人間の頃と同じ生活リズムを保っている。
そんな部屋に、新たに鍛冶道具と傘が追加される。
鍛冶道具は、いずれにとりに作ってもらう予定の小規模な火事場に置いておくことになるだろうが、傘はどうしたものか。
傘立てに立てるのが普通なんだろうが、今までぞんざいに扱われてきたのだから、少しでも愛でてあげても許されるのではないか。
久しぶりに自分の手で作った―――語弊はあるが概ね合っている―――という要因もあって、愛着が生まれたのかもしれない。
暫くは部屋に置いておき、定期的にメンテナンスしてあげるのが、拾い主としての使命と言えよう。

私は傘を部屋の壁に立てかけ、それに背を見せるようにして座禅を組む。
精神鍛錬を行う時、この姿勢はなかなかしっくり来る。伊達に日本伝統のひとつとして認識されてはいない。
意識を集中し、呼吸を整える。
サーヴァントは成長することはない。あらゆるステータスは契約者の実力如何で変化するので、魔術鍛錬は無意味。
だが、戦闘による勘の形成や、私のように魔術が自身のイメージ力次第で変化するタイプにとっては、この行動は無意味とはならない。
勘もイメージ力も、成長しても聖杯戦争が終われば座に帰るので、結局は元に戻ってしまうのだが、今の私にはそんな考えは杞憂に過ぎない。
その事実が、堪らなく嬉しい。
更に強くなることができれば、それだけ自分の器が広がるということに繋がる。
矮小な自分の器では、救いたい者すら救えないなんて結果になる可能性だってある。フランの時のような結果に、常に帰結するとは限らないのだから。
その為に、私は鍛錬をここ毎日欠かさないことにしている。いずれ訪れるかもしれない誰かの危機を前に、十全の力で立ち向かえるようにする為にも。

ゆっくりと目を開け、真っ直ぐに外を見つめる。
時計という便利な代物は、ここでは早苗の部屋か居間にしかない為、どれだけこうしていたのか分からない。
少し早いかもしれないが、夕食の下ごしらえでも始めるか。そう考え後ろ手に立ち上がろうとすると、右手に柔らかい感触を感じる。
後ろには傘以外なにもなかった筈なのに、一体これは。
私は柔らかいものの正体を確かめるべく、後ろを振り返ると――――――

そこには、エメラルドグリーンの髪を肩の先まで伸ばし、先程拾った傘を抱いて丸くなっている少女の姿があった。
それも、全裸で。

『………なんでさ』

それは過去の口癖を無意識に出してしまうほど、予想外な光景だった。

はーい、二章初の後書きになるよぅ。
前書きにも書いた通り、これから二章に入ってからの変更点(指針)を書いていくよ。

1 一話の長さを状況に応じて変える幅の広さの変更。

私は一章で、短くても7000文字は書かなきゃーって意識で挑んでいましたが、今回からは区切りが良ければ短くても一話終わらせます。見栄えの問題もありますが、無駄に構想を練って間隔をあけるのはよろしくないなーと考えた為の措置です。ていうかそれが普通なんだろうが。

2 1キャラの固有ルート数の削減。

一章では1キャラ三話分の枠を取っていましたが、二話ぐらいに抑えます。それに応じて、個別ルートの内容時の文章量が増加すると思われますが、ご了承下さい。

3 これからは開始当初の予定通り、時系列星蓮船に突入。

変更点って訳ではありませんが、星蓮船ルートに突入することに当たって、当然公式ストーリーに沿う動きがありますが、ぶっちゃけるとストーリー崩壊させます。もう今回読んだ話の時点でその片鱗は見えていると思われますが。
公式のストーリーを元にした、オリジナルストーリーを展開するに当たって、同時にオリジナルの設定を取り入れていくことになります。
そういうのを不快に感じる人がいるかもしれませんが、これに関しては変更することはありません。

とまぁ、こんな感じです。
つーことで、次回も楽しみにしていてくださいー


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