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更新が遅れたよ。ごめんね、たえちゃん。(おぃ

半分は相変わらずの惰性が原因だけど、仕上げ段階に入った頃に風邪引いたよ。投稿した現在も引いてるよ。喉が痛いよ。

一部熱ある状態で書いたから後半おかしくなってそう。ごめん、ただのいつも通りだね。
幻想に惹かれた者達
望んだものは此方へと彼方へと
――――――おぼろげな視界が次第にクリアになっていく。
最初に理解したのは、純白の色。それだけが私の世界の全てだった。

『あ、目が覚めたんですね』

突如耳に届いた声の方向に首を向ける。そこには、永江衣玖が笑顔で私を迎えるように椅子に座っていた。
それを切っ掛けに思考をフル回転させ、再び首だけを動かして周囲を見渡す。
純白だと思っていたのは壁紙のものだったようだ。窓やカーテンがひとつだけしかない辺り、ここは個室だろう。

今度は、自身の境遇を顧みてみる。
私はベッドに眠っているらしい。私に掛けられている掛け布団も、意識するように真っ白だ。
そんなことはどうでもいい。問題は―――私は何故こんなところにいるんだ。いや、どこにいるのか自体明確には理解していない訳だが。
確か、萃香達一緒に魔理沙の八卦炉作成に取り掛かろうとし、二度目の投影を行った後―――後?

『昨日の夜中ぐらいでしょうか。萃香さんが貴方を担いで私の下へいらしたんです。そして、貴方を寝かせて欲しいと言って、彼女も寝てしまいました。勿論、別の部屋を用意しましたよ』

………萃香が私を運んだ?
私の記憶は、彼女達三人の前で二度目の投影を行った辺りで途切れている。
大方、無茶な投影を連続したせいで気絶でもしたんだろう。何せ、神が所持している槍を二度も投影したのだ。それだけで魔力が空になっても不思議ではない。
約束された勝利の剣(エクスカリバー)は星が鍛えた剣と言われているが、担い手は人間―――完全にではないが―――である以上、力に喰われない程度には抑えられている。と言うよりも、人間でも扱えるレベルで造られている、と言った方が正しい。
轟く五星は、神が扱ったとされる槍だ。それ故に、その力の限界は人間のイメージでは到底追いつけない所にある。人間が扱えるように凝縮させたところで、それは変わらない。
それでもランクだけ見れば、約束された勝利の剣の方が上。知名度の差が如何に大きなものかが分かる。

………ふと、冷静になってみると、疑問が浮かんでくる。
私は、約束された勝利の剣は投影できない。いや、出来るといえば出来るが、それはエミヤシロウではなく衛宮士郎だったからこそ出来た所業だったのかもしれない。
それを差し引いたとして、轟く五星は約束された勝利の剣と違い、剣ではなく槍で出来ている。固有結界を展開していた訳でもないのに、連続して二度も轟く五星を投影した。それは明らかにおかしいのではないか?

『―――私がここに来たとき、身体に変化はあったか?』

『いえ―――至って正常でした。静かに寝息を立てていましたよ、余程疲れていたんでしょうね』

衣玖から返ってきた答えに、ますます頭を捻らせる。
少なくとも、五体満足でこの場にいること自体が信じられない。そんなリスクを忘れていた自分は阿呆だが、これも精神が衛宮士郎に浸食されているからなんだろうか。
―――自分の知らない間に、自分の存在が歪んでいく錯覚を覚える。
錯覚ではないのかもしれないが、自分の与り知らぬところで異常が起こっているのなら、不安になるのは当たり前だ。
私は内心で舌打ちをする。ある程度の無茶が可能になったことを喜ぶのも選択肢にはあるのだろうが、生憎とそんな楽観視出来る程純粋ではない。早苗達との問題が解決したら、本格的に原因を探りに行った方がよいかもしれない。割と本気で。

………やはり、変わったなと思う。
誰かに頼ったり深く触れ合ったりする機会が増えたからだろうか、昔に比べて危険に対して確実に鈍感になっている。
何とかなるか、と楽観視する傾向が強くなっているのは、心に余裕があるからなのか、もしくはただ腑抜けただけなのか。
―――それとも、自分を顧みず、他者の為に生きようとする衛宮士郎としての本質が浮き彫りになり始めたからなのか。
だからといって簡単に命を投げ出すなんて真似はしない。自惚れだろうが、私が死ねば早苗達は悲しむだろうから。

『―――ボーっとしていますが、やはり疲れが溜まっているんですね。私のことは気にせず、ゆっくり養生してください』

『あ、いや、私は――――――』

考え事に耽っていたら、衣玖が何やら私の状況に関して自己完結したらしく、それを否定しようとするも、いつの間にかドアの前で会釈をする彼女の姿をただただ見送るだけに終わってしまった。
密室に虚しく響く行き場の無い音が消えると、私は半身だけを起き上がらせて軽く溜め息を吐く。
衣玖の考えは的外れとはいえ、ここで出て行こうとしてもここに戻されるに違いない。
何も言わずに出ていくのは却下。余計な心配を掛けたくはない。
別に借りを作りたくないだなんて思っている訳ではないが、彼女にだって彼女の事情がある筈なのに、私の事で時間を割いてしまうことが申し訳なかった。
結論から言って、私はここで暇を持て余すことしか出来ないでいた。

ここ最近は、休む暇なく走り回っていた気がする。睡眠する必要がないから問題ないのであって、普通ならとっくの昔に倒れている。
それに、疲労に関してはきちんと蓄積されている。ただ、体力は常人のそれとは比べる価値のない程の差がある為、大抵そのことで倒れるなんてことはない。
聖杯戦争だってずっと戦い続けている訳ではないし、そういった部分でのマイナスが表に出てこなかっただけだ。

―――だが。今回倒れた理由は、それに該当しない。
先程の通り、これは過剰な投影の負荷が原因。本来動物に備わっている、本能的なリミッターが恐らく存在しないであろうサーヴァントにとって、今回の出来事は本当にギリギリの行為だったことを強く物語っている。
………これは憶測でしかないが、今回の気絶は誰かが私にリミッターをかけたか何かしたか事よって、必然的に起こったことなのではないかと思う。今回だけではなく、同じく前に起こった事も、同じ理由なんじゃないだろうか。
これも恐らくだが、私を幻想郷へ導いた存在、奴が絡んでいるのではないかと踏んでいる。
最後に告げた言葉―――貴方と私は、虫籠の中に居る虫と飼い主みたいな関係。それはつまり、立場の違いだけでなく、常に掌握されている立場にあるという解釈もできる。同時に、監視もされていると考えた方が自然だ。
非情に気に喰わないが、今こうして倒れている姿も覗かれているんだろうな………。

『私のような奴を気に掛けるなど、随分時間に余裕があるんだな。もっと他にすることがあるのではないかね?』

恐らく聞いているであろうその〝何者〟かにむけて皮肉をぶつける。私なりの、出来る範囲での反抗だ。
一日中ストーカーをしている相手に同情する気は一切ない。別に私のプライベートなどどうでもいいが、その時に周囲に誰かがいれば、その者のプライベートは知らず侵害されていることになる。そればかりは許容できることではない。

………それにしても。こうして落ち着いて思考に耽れるだけで、こんなに情報を整理することが出来るのか。
このカテゴリに入る内容に悩んでいたのはいつだったか、そう思える程前に感じる。それだけ充実していたのは言わずもがな―――しかし、本当にそれだけなのか?
私を監視している奴が、私にその思考に至るまでのパーツを隠せる―――即ち、他者の深層心理にまで干渉出来る存在だとしたら?
疑い出したらキリがないのは分かっている。だが、ソイツの言葉が正しければ、私を座から解放したのは、間違いなくソイツの能力か何かのお陰だろう。そんな奴ならば、記憶操作位出来そうに思えてしまう。
相手は此方を遙かに上回るナニかを持っているという前提で行動しないと、簡単に足元を掬われてしまうに違いない。アドバンテージが相手の方が上な以上、過剰と言える位の疑心を持って掛からないと、それこそ同じ目線にすら立てない。
………何故そこまで私に干渉するのかはともかく、最低限監視者の正体だけは確認したいところだ。

思考に一段落を与えた時、純白のドアが音を立てて開く。
そこからゆっくり姿を現したのは、天子だった。ノックもせず開ける非常識さの時点で、ある程度予想はついていたが。

『あ、起きてたんだ。つまんない』

『ご期待に添えず申し訳ないが、私はこうして起きている。悪戯でもする気だったのなら、出直してきたまえ』

口元を釣り上げ、莫迦にした態度を天子に向ける。
それを見てムッとした辺り、本当にやらかす気だったらしい。………本当に年上なのか、彼女は。

『そんなことしないわよ………アンタ、倒れたんだって?』

天子は被っていた帽子を取り、近場の棚に置く。
そして先程まで衣玖が掛けていた椅子を回転させ、背もたれに腕を乗せる体勢で座る。

『あぁ。過労、といったところだろう』

嘘は言っていないが、かすりもしていない、と言ったところか。
サーヴァントを普通の生物と同じ秤で計ることは出来ない。常識に収まりきらないこの世界だが、個人が全く別の物質で構成でされている奴など、前代未聞だろう。
特に魔理沙達みたいな魔法使いは、私が君達にとって身近な存在である魔力で構成されているなんて知れば、意地でも信用しないか、腰を抜かすかはするだろう。
アリスは魔力を通すことで疑似的に生命として確立させているが、肉体は既存の物質を使っている為、サーヴァントとかと比べたらまだまだ低次の存在だ。上海達には申し訳ないが、嘘は吐けないからな。
パチュリーは、一応低級の悪魔であるこあとリトルを召還しているが―――彼女達はどちらかといえば、吸血鬼の様な生命体を別次元から引き出した、という解釈をした方が納得が出来る。雰囲気が、と言っても分かんないだろうが、規格外の存在に立ち会った時に働くあの直感を知る者なら、理解出来るだろう。
とは言っても、幻想郷では妖怪の存在がデフォルトである為、そんな経験はしないだろうが、初めてサーヴァントという存在を視認した瞬間のあの怖気と未知の感覚は、そうそう忘れられるものじゃない。

『過労………ねぇ。そんなぶっ倒れるまで働いてたってこと?』

『そういうことだな』

『きちんと寝たりご飯食べてる?』

『食事は問題ないが、睡眠はもう最低三日はしてないな』

『みっ………!?』

天子が明らかに驚いた様子で絶句している。
確かに、三日寝ないなんて余程の事情がなければ有り得ないしな。これは失言をした。

『―――アンタ、そんなにお金ないの?』

『まぁ、無いと言えば無いな』

『そんなにお金が必要なの?』

『必要かと言われれば絶対ではないが、あるに越したことはないだろう?』

私が働いている理由は、早苗達の下へいつか戻ることが出来た時、詫びも兼ねて家に入れる為。自分の懐にいれる気は微塵もない。
早苗のことだから受け取ろうとはしないだろうが、神奈子や諏訪子なら大人の対応をしてくれるに違いない。無償の善意の先にあるのは、猜疑心などの穢れた感情の浸食・蔓延だけというのを、私は身を持って理解している。皆にそんな感情を持たせたくはない。
家族と言うほど近しい関係でもないんだし、何でもおんぶにだっこという訳にはいかない。ある程度の遠慮や謙虚さは持っておかないと、礼節に粗が生まれてしまう。
親しき仲にも礼儀あり。それを忘れてしまえば、円滑な人間関係は築けない。

『―――苦労してんのね』

物凄い同情された目で見られてる。彼女の中で私は藁の家に住む豚と同じ境遇なのだろうか。

『苦労しているとは思ってないよ。そうでなきゃ、倒れるまで仕事なんてしないさ』

『そうかしら。倒れるまで仕事してるから、苦労しているんじゃないの?』

『望まない仕事は苦でしかないが、私はこれを望んでやっている。その差だな』

『金がないとか言ってて仕方なく、じゃなかったの?』

『それはひとつの要因でしかない。仕事を選ぶ自由がある以上、興味が沸くものしかしようとは思わんな』

職業選択の自由、なんて言葉があるが、そういうのはここみたいな自由な世界にこそ相応しい。
現実問題、働く以外に生きる術がない以上、自由だなんて言葉は甘え、もしくは虚言だ。
いや、確かに選択する自由はある。だが、それが実現する保証がない。
望まぬ仕事がないからその年を諦めたとして、世間はその決断をした人間を見下す。社会も、雇用するなら出来るだけ若い層を望んでいる。
そういった意味も含め、私達は職選びという行為に暗黙の了解の脅迫観念を植え付けられている。
間が空けば空くほど不利になる。それが分かっていて先延ばしにすることを簡単に容認できるわけがない。

………電波を受信して途中から愚痴っぽくなってしまったが、続ける。
とにかく私は今の職場に何ら不平不満もない。それに、今回倒れたのは仕事外の問題だ。
魔理沙達のプライバシーに関わる以上それを彼女に伝えることはできないが、私は恵まれているということだけは理解してもらいたいな。

『仕事なんてのは意外と愉しいものだぞ。肌に合えばの話ではあるがな』

『うえー、しんじられなーい』

器用に椅子の前足を軸にして前後に揺れながら、気怠そうにそう返す。
働いたことの無い者に説いても、大人の都合の良い洗脳としか考えれないのも無理はない。
事実、これは私個人の意見であって、それが別の相手に通じるかは別の話だしな。

『だいたい、私はお金に困っている訳じゃないしね。働くことはないわよ』

『………ふむ。やはり天人ともなると、金は湯水のようにあるのか。羨ましい限りだな』

ぶらぶらさせていた椅子を突然止め、ピクリとも動かなくなる天子。
何だか話しかけづらい雰囲気を出しており、私も彼女にそれ以上干渉出来ないでいた。

『羨ましい、と思えることはある意味幸せなのかもね』

天子の一声が静かになった部屋を微かに響かせる。
短い文章から感じ取れたのは―――後悔の念と自らを嘲る感情か?

『………君は今の境遇に不満があるのか?』

『不満とか、そんなんじゃないわよ。―――ただね、その時望んでいたモノが手に入ったとしても、その時手にしていた望んでも手に入らないモノを知らず手放すことの恐ろしさを、思い出していただけ』

まるで何かに怯えるかのように、右手で自らの肩を抱く。
そこには、普段の気丈な比那名居天子の姿はない。まるで捨てられた子犬のようだ。

『―――世界の理とはそういうものだ。等価交換だなんて後ろ盾は人生には存在しない。手に入れたものがちっぽけだとして、失ったものは倍以上だなんてことは有り得ない話ではない。わらしべ長者はゼロからのスタートだから失うものはないように思えるが、都合よく藁が巨万の富へと導いてくれる前に、手元にある交換材料すら失って終わる可能性だってあるんだ』

『―――だから?』

『悲観に溺れるな、とは言わない。だが、失うことを恐れて前へ進まないようでは、その辛い経験すら無駄になる。どこかで妥協しない限り、君は苦しむだけだ』

言いたいことを全て言い終えると、天子が俯きながら無言で立ち上がり、近場の壁に額と手の平を当ててもたれ掛る。

『流石私の専属教師ね。事情も知らない癖に、私の事何も知らない癖に、分かった風な回答をべらべらと………』

突如、壁に添えていた手を強く握り、壁に叩きつける。
鈍く響き渡る音に続き、今まで見たことも無い彼女の憎悪の表情が私へと向けられる。

『――――――ッざけんな!!!アンタに何が分かるっていうのよ!失ったことに気付いた時の喪失感、戻らないと知った時の絶望感、後悔、焦燥。夢の中でまるで〝視せられている〟かのように何度も再生される、あの光景。現実でも夢の中でも苦しみ続ける私の気持ちが、分かるっていうの!?』

感情が、爆発する。どす黒い感情が、一斉に私へと向けられる。
私はそれに対して、何かを返すことが出来ないでいた。
ここで何か言ったところで、彼女の怒りを買うだけだから。

『………ごめん。今までの仕事代は衣玖に出すよう言っておくわ。だから、もう来ないで』

解雇宣言と共に乱暴に自分の帽子を掴み、そのまま部屋から去っていった。
去り際の彼女の背中は、見た目以上に小さく見えた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


あれから何分経っただろうか。
誰もいなくなった空間で、私は一人悩み続けている。
彼女から吐き出された激情を、私では受け止めることが出来なかった。それどころか、彼女のトラウマを掘り下げるだけ掘り下げ、苦しめるだけに終わった。
知らなかった、で許されることではない。
それに、私は自惚れていた。教師と言う立場も相まって、たった数回の邂逅で彼女のことを分かった気になり、偉そうな口を平然と叩いた。そしてこのザマだ。
追いかける、という選択肢はあったが、今の彼女には私の言葉なぞ火に油となるのは確実。
自分のあまりの愚かさに辟易していると、遠慮しがちにドアが開かれた。

『―――衣玖、か』

そこには、普段の余裕のある笑みを絶やさない永江衣玖ではなく、悪戯を隠してバレた子供のような顔をした女性がいた。
彼女は一礼すると、先程まで天子の使っていた椅子を元に戻し、そのまま腰かける。

『………総領娘様に、貴方の解雇を告げられました』

『そうか』

彼女の第一声は、予想通りのものだった。
普段の天子の様子だったら、気まぐれかなにかと受け流しているに違いない。
だが、あの状態のまま衣玖と会話をしたのなら―――確実に何事かとは感じるだろう。

『あの人は横暴ではありますが、無意味に他人と距離を測ろうとしたり、ましてや遠ざけたりしようとする人ではありません』

『――――――』

『―――聞いたんですか?総領娘様を苦しませる根底となることを』

今までにないくらい真剣な眼差しが、私に向けられる。
彼女は、天子を苦しめるナニかを知っている。故に、これ程までに本気になっている。

『そこまで大げさではない。ただ私は、彼女の泥の一部を受け止めただけに過ぎない』

………受け止めた?笑わせるな。貴様はそれすら出来ていないではないか。
エミヤシロウ、貴様はまだそんな希望的観測で免罪符を―――逃げ道を作ろうとしているのか。
少しでも天子の力になれたという妄想に逃避し、傷を最小限にしようとしている。
―――吐き気がする。何故こんな見栄を張るような言葉を平然と出せるのか。
交渉の場面では優秀だが、関係の無い部分で発揮されても、本位では無い為苛々するだけだ。

『何も知らずに仕事が終わればそれでいいと、そう思ってました。けど、貴方は知ってしまった。どんなに小さな事実であろうとも、彼女の闇を』

『………そう、だな』

『なら、お話します。貴方の事ですから、総領娘様を苦しませる原因を、知りたいのでしょう?』

『あぁ』

『そうですか――――――。脅迫するようですが、これを聞いたからには傍観者でいることは許しません。私なりに、総領娘様を心配しての警告です。それでも、聞きます?』

『………私は、知らなかったとはいえ天子を傷つけてしまった。同時に、自身の無知と無力さを思い知った。今回の内容を聞いて、もし彼女の為に何か出来るという手段を知れるというのなら、してやりたい』

『………本当、不思議な人ですね。明らかに余計な重荷を背負おうとしているというのに、それを進んで行うだなんて』

『確かに、そうかもしれないな』

口元を微かに緩ませ、自嘲気味に笑う。
確かに、これ以上は家庭教師としても、いち人間としても介入する必要のない領域かもしれない。
必要以上の苦労は身を滅ぼす。そんなの、私は理解している。

『だがな。君も言ったよな、私と君の関係は夫婦。そして、天子はそんな二人の娘だと。娘のことを知りたいと思わない父親など、いないだろう?』

『で、ですがあれはあくまで―――』

『黙って聞いてくれ。―――私はな、昔誰彼構わず助けてきた。善悪なんか関係なくだ、笑えるだろう?』

『――――――』

『故に良いように利用され、捨てられた。それでもよかったと思ってたし、その者たちが救われているなら、自身がどうなろうと、どうでもよかった』

『そんな………』

『だが、私は変わった。経緯は省くが、私はそれを切っ掛けに考え方を改めていき、私を信じてくれる者
達を―――私が心から救いたいと思った者達だけを、救う道を選んだ。私は、口上の契とはいえ、家族を見捨てるなんてことは、出来ない。したくないんだ―――』

『――――……』

衣玖は、顔には出さないが、ほんの少しだけ驚愕する。彼の過去にもだが、あんな飯事のような関係を認めておきながら尚、その関係を善しとし、総領娘を助けたいと思っている。
どうしてそこまでするのか。固執する理由は聞いたが、そんな簡単に決めたりできることではない。
それに、彼の目は嘘を一切吐いていない。天人という存在を間近で何度も見ている私は、彼らの上辺だけの笑みに隠されたどす黒い欲求を見ると言うことに慣れている。
だからこそ、断言できる。エミヤシロウの眼差しの先に見据えているものは、とても清いモノ。清廉過ぎて、簡単に別の色に染められてしまうモノだということを。
―――だからこそ。信用できるのかもしれない。というよりも、信用したいんだ。
総領娘様の闇を理解しているからこそ、せめて彼だけでも―――そんな願望に望みを託したくなる。

『―――分かりました。そこまで言うのなら、お話ししましょう。そして………出来れば、あの子を救ってください』

衣玖は膝に置いていた両の拳を握り、彼に望みを託すことを決意した。
一応追い込みって程でもないですが、一章も終わりが見えてきたのでシリアス度が高まっていきます。
登場したキャラ全員ではありませんが、より深く関わった人達の苦悩を、シロウは目の当たりにしていくことになります。
一部はきちんと考えてるんですが、一部決まってないんですよね。どうしよう。
やはり〆に行くんですし、きっちり構想は練りたいですよね。

だからまた更新遅くなります、と言うのもありますが―――

8/28にある東方神居祭に向けて、物語を考えていかないといけない、というのも大きな理由です。
西瓜(萃香じゃないよ。私は騙された)がテーマらしい。小説で西瓜メインの話とか結構ふざけてるよね、お題的に。厳しすぎるぜ。
シリアスしか書けない人間ですし、いっそシリアスギャグというものに手を付けてみようかなとか思ってる。至極真面目な文章でふざけたことを言ってる、というイメージでよろしく。

まぁ、書けたらなんですけどねー


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