この小説で最も時間がかかりました。
理由はみっつ。
ひとつ、現実で少しだけ時間が取れない状況が多くなりました。もう少しすれば解消しますが。
ふたつ、前に言ってた友達のための小説作成に花が咲いた。でもまだ作り終わってない。
みっつ、戦場のヴァルキュリア2おもしれぇwwwwwww
………投稿が遅くなったのは明らかに私の責任だ。
だが私は謝らない(キリッ
うそですごめんなさいごめんなさいごめんなさいゆるしてもっとぶってゆるしてごめんなさい
幻想に惹かれた者達
亡霊少女は騎士を見つめ何を思うか
この館の主であろう女性が妖夢という少女を連れて奥へと消えてから四半刻程だろうか。私は縁側に大人しく座って二人が戻るのを待っている。
剣の鍛錬でも行おうかとも考えたが、地面が砂利である以上少し激しく動くだけで荒れてしまう。それは、まるで天然記念物のようなこの風景を崩してしまう愚行に他ならない。
それに、部外者が主の見ないところで好き勝手しているのも気が引ける。というか失礼だ。
僅かな時間ではあったものの、傷の回復には十分なものだった。
傷が浅かったのもあるが、傷跡に雑さが無かったのが大きい。下手な傷跡というのは得てして傷口が広がりやすいもの。逆に上手い傷は傷も塞がり易いし、痕も目立たないものとなる。
骨だって折り方次第では以前よりも丈夫になるのと一緒だ。何事にも上手い下手があり、反する者同士の出来栄えを比較すれば一目瞭然。
そう、それは私と妖夢の剣の腕も然りだ。
『お待たせ。傷の具合は如何かしら?』
伽藍の世界へと響く声に心臓が軽く跳ね上がる。振り向くとそこには、この屋敷の主であろう女性が相変わらずの笑顔で佇んでいた。
気配が完全に断たれていた。まるで最初から気配なんてものを持ち合わせていないかの様だった。
いや、それ以前の問題がある。と言うのも、ここに身を置いた僅かな時間の間で感じ取ったことなのだが―――ここには命が大量に内包されていると同時に、生命がほぼ存在しない。
最初にも感じたが後ろの彼女然り、ここまで隣接されてもまるで居る感覚が沸いてこない。イノチはそこに在るのに、セイメイは存在しない。
それに、彼女の頭に装着している額烏帽子………疑問には思ったが、そんな訳がないと無意識に自己否定をしていた。
その答えを、問いただそうと思う。
『傷なら問題ない。それより―――君は一体何者なんだ』
『何者、って。化け物にでも見える?』
開いた扇子で口元を隠すも、目は口程に物を言うとは言ったもので、妖しい目付きは明らかに話をはぐらかそうとする事で此方の反応を愉しもうとしているのが分かって、それがどうにも試されてるようで気にくわない。
『茶化さないで貰いたい。
―――とは言っても、これは個人の勝手な自己満足に導く質問でしかない。もし言いたくないのなら別に詮索も深追いもしない』
『別にいいわよ~。
それに………貴方も理解したうえで聞いてるみたいだし、ね』
『――――――』
やはり、彼女には全て見透かされている感がある。
そして、それを否定できない程に彼女が得体の知れない存在でもあるということ。
威圧感、にしては雄雄しくもない。殺気でも無ければ存在感でもない、表現し難い何か。それを彼女は放っている。
『私は亡霊、そしてここ白玉楼は―――冥界へと至る者への憩いの場であり、絶望の場。
死者が行き着くのは天国と地獄の二択。そこへ至るまでの執行猶予の具現された空間がここよ』
彼女は生きてはいない。本人がそう言ったのだ、間違いは無いだろう。それなのに、こんなにもカタチはしっかりとしていて、まるで生命が在る錯覚を視覚的に感じてしまう。
死者であり生者。生命の素養である、ただひとつの証、魂だけが存在しないだけの生き物。
矛盾しているようで、決してそうではない。
だからこそ、得体が知れないと思ってしまうのかもしれない。
『ここは死者の集う場所か。それならば私が居るのは場違いだな』
『あら、そうでもないわよ。貴方だって立派な死者だもの』
『………どうにも調子が狂うな。
確かに、私は君に近い存在かもしれない。だが根本は異なる』
―――彼女はどこまで私という存在を看破しているのだろう。
確かにサーヴァントだって、死者を魔力という魂で繋ぎ止めているだけに過ぎない。
私も彼女も、抜け殻だ。
生きている、という証拠が提示出来ない中途半端な存在。
魂だけの存在と、魂から造られた存在の何に違いがある。
―――何度思い耽った事だろう。何故私はここに居られるのだろうか、と言う自問自答を。
私を繋ぎ止める為の魔力の流れ、パスの対象、それらが相変わらず一切伝わってこない。ここに来てから数回、膨大なまでの魔力を消費したにも関わらず、私はこうして現界していられている。
単独行動ではそれは有り得ない。だから魔力の供給者が居るのは明白なのだが………何故感知できないのか。
悩んでも答えは導けない。それでも、無視は不可能な重要な問題。
―――何という歯痒さだろう。
いつ消滅するかもしれないと言う状況に怯え、それでも魔力を温存しないと言う矛盾に肉体は疲労を絶やす事は無い。
せめて、誰が私のマスターとして縛られているのかを理解出来ないと、いざと言う時に全力を出せない。
『そんなことは置いといて、貴方はどうしてこんな所に来たのかしら?』
『その事だが………ここでは剣術指南をバイトとして掲示してたよな?
剣術指南は出来ないが、戦い方ならば少しは指南出来ると思って訪れた。
目的がズレてしまっているがそれで構わないのなら志願したい』
『別にいいわよ~。実力なら妖夢を倒したことで証明されてるし、何よりあの子は未熟なのは剣術だけじゃないし、色々教えて貰えるなら大歓迎よ~』
『そうか。いきなりの訪問とあの少女を傷付けたことを謝罪し、貴女の広い心に感謝しよう』
私はその場を立ち上がり、一息吐く。
これで第一課題はクリアだ。後は妖夢の回復を待つだけだが………そこが心残りではある。
加減無く蹴り飛ばし石段に背中を打ち付けたのだ、身体がしばらく麻痺したっておかしくはない。
『心配しなくてもあの子なら大丈夫よ。
さっきちょっと起きた際に結構わたわたしてたし』
『………さっきから思うのだが、そんなに私はわかりやすい挙動や表情をしているか?』
この姿になってから、なるべく本心を包み隠し、挙動からもバレない様努力をしていたつもりだったが、やはり私は造ること以外は駄目駄目なのか。
『分かりやすいわ~、まるで好きな子にツンケンな態度を取る子供みたいにね』
………喩えがよく分からないが、取り敢えず駄目なのは理解した。
『まぁいい。取り敢えず今更だが自己紹介をしておこう。
私はエミヤシロウ。人間だ。
本来ならばあの少女と共にやるのが望ましかったのだが』
『西行寺幽々子です。この白玉楼の主と、冥界の管理人をやっています』
お互い礼儀正しく一礼し、微笑む。
彼女のそんな一連の動きは、予想していた以上に優雅で、美麗だった。
『今日は挨拶だけになりそうだな。
いきなり押しかけて済まなかった』
『あら~挨拶だけだなんて勿体無いわ。せめてお話とかはしないのかしら』
踵を返し、この場から立ち去ろうとするも、緩やかな声が私を制止させる。
『貴女がそう言うのならば構いはしないが………それも気が引けるというものだ』
『それはお仕事で来てるから?』
『そうだな』
簡潔に答えると、幽々子は顎に手を乗せ考える素振りを見せると、数秒後には閃いたらしく目を見開かせた。
『なら、ここの庭師を体験してみない?』
『庭師………庭の手入れをして造り上げるあの庭師か』
『それそれ』
私は軽く溜息を吐き、呆れた風に彼女を見据える。
『失礼なのは承知で言うが………自分の庭を会って間もない男に手入れさせるというのはどうかと思うぞ』
『大丈夫よ。私が教えるから』
『そうじゃない。
普通家内の物を無断で触らせるなんてことはしないぞ。それが重要なものなら尚更だ。
それはこの空間を彩るのに貢献している庭を崩すことに他ならない』
それに………この美しい風景なんかに触れるというのは普通考えられない。
衛宮邸も似た様な庭を持ってはいたから庭師紛いの事はやったことはある。だが、見様見真似、知識を模倣しただけのそれは稚拙で、この景色と比較するだけでもおこがましいと思える程の差を露呈していた。
そんな自分には到底不可能な領域にあるものを侵すなんて事は可能性ですら挙がらない。
『ん~………でもね、この庭を管理、手入れしているのは妖夢なのよ。
さっきは元気だったけど、もしそれが空元気で、私を心配させまいと張った虚勢だったっしたら………そう思うだけで私、心が痛いわ~……』
ワザとらしい身振り手振りで悲しみを表現するその姿は、まさに大根役者。
しかし動きは嘘だらけだが、彼女の言葉は否定出来ないものがある。
重症まではいかないだろうけども、生活に軽い支障が出ないとも言い切れない。
少女は恐らく、幽々子の身の周りの世話等を一任してるのではないかと予想してみる。そうでなければ、彼女達に近い気配を捉えられる筈。
考えすぎかもしれないが、ここまでの筋書きが、彼女の思惑通りの結果だとしたら―――
『………恐ろしい娘だ』
彼女に聞こえない程の小さな声で感想を呟く。
………この掌で踊らされてる感覚。あかいあくまと呼ばれた少女に近い小悪魔的な素養を彼女は持ち合わせてるのではないか。
凛は私の事を知った上での行動だったが、さて、目の前のピンクのあくまは天然か意図的か。何にせよ質が悪い事に変わりはないが。
『仕方ない、こうなったのも私の責任だしな。断る訳にもいくまい』
そう答えると、幽々子の表情に華が開いた。
『じゃあ、早速やりましょうか~。
こっちに鋏とかの置いてある物置があるからいらっしゃい』
揺れる様に浮遊しながら庭を進み、此方へ来ることを促している。
彼女が何を思ってこの様な提案をしたのかは分からないが、任された以上は出来るだけこの場景を崩さない努力をすることだけに集中しよう。
築何年と言うべき程の古さの物置小屋へ辿り着くと、幽々子は鍵を開け徐に中を弄り回し始める。
………私が弄るという結論には至らないのは分かっているが、普通こういった作業は主がするものではないのではないか。
本当に二人しか住んでいないというのなら、こんなに広い屋敷で庭師をしている妖夢に同情する。広さこそ違えど、似た形式の屋敷を構えていた身であったからこそその仕事量は何となく分かってしまう。
それに、セイバー達と出会ったことで仕事量は倍加した負担とイコールと仮定すると………言葉も出ない。
『はい、どうぞ』
手渡された枝切鋏はなかなかの年季を誇っているにも関わらず、刃だけはきっちりと砥がれており手入れを怠った様子は無い。
こういうところが徹底しているところを見れば、妖夢は結構几帳面な性格なのだろうと予想がつく。
『しかし、まさか剣術指南をしにきたのに初仕事がこれとは………』
『あら、勿論お金なら増やすわよ~』
『いや、別に構わない。これは自営業だと思えばいい。それに、金を払える技術を求められても困るしな』
『欲がないのね~』
『そうか?』
事実、仕事と言うのは相応の活躍が無い相手には同質の金額しか与えられないか、首を切られるかというシビアなものだ。
今みたいに専門家でもない相手に金を払う行為どころか、庭を弄らせるという行為自体どこかズレている。それとも、幻想郷では金の価値が外よりも薄いのだろうか。
『じゃあ取り敢えず教えるから、行きましょ』
再び雲のように浮遊し通った道を戻る姿を僅かに眺めた後、その背中に引っ張られる様に追いかけた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
闇で包まれた視界を開けば、また闇。蒲団の暖かさと、それに包まれていない顔から感じる冷えた空気。
それで理解する。今は夜で、電気も点いていない自分の部屋で誰にも邪魔されることもなく熟睡していたのだと。
身体の痛みはない。
この身は人と幽の混ざったもの。人間よりも遥かに痛みには抵抗があり、それなりに丈夫でもある。
とはいっても純粋な妖怪よりも丈夫でもないし、幽霊みたいに感覚が存在しない訳ではない。半分というのはいいことでもあり、悪いと思えたりもする。
贅沢なのは承知しているが、持たざる者の我が儘というのは結構根強いものなのだ。
それは時に嫉妬となることもあり、そんな雑念を振り払うなんてことも常だ。
蒲団を退け、整えることなく襖を開く。
月明かりが太陽みたいに世界を照らし、それを肴に背伸びをする。
私は、太陽よりも月の方が好きだ。
こうやって直視しても、拒まれず美しさを眺めることも出来れば、カタチは常に変わり続け飽きることもない。
静かになったこの瞬間、こうやって外を眺め、この月を眺めている人は一体幾らぐらいいるのだろうか。
生物の性質上、基本夜は寝るものとして定義されている故、これを当たり前のように眺め続けるということは不可能だ。
それとも、見られないからこそ美しいと感じるものなのか。
常に日の下に姿を晒して当たり前として肉体が認識してしまうより、こうやってほんの少し味わえるだけの方がいいのかもしれない。
見納めとばかりに目を閉じ、そのまま廊下へと向きを変え、少しずつ視界を開きながら歩き出す。
そういえば、今は何時なのだろうか。夜だと言うことは明らかだが、明確な時間を証明できるものは身近には存在しない。
いつもなら、幽々子様が空腹を訴えて寝ていようがなんだろうが支度させられるから、それよりも早い時間なのだろうか。
―――いや、あの人のお腹は不規則過ぎてそんなの当てにはならない。ブラックホールと比喩しても誰もが納得してしまうクラスのあれは、容量に際限があるのかどうかも怪しい。
『ん―――何だろう、あっちが騒がしいけど』
この白玉楼には、私と幽々子様以外に喋れる者は存在しない。
幽霊も住んではいるが、死人に口無しとは言ったものでただの幽霊が喋ることはなく、喧騒の糧になることはまずない。
幽々子様だって独りでに暴れるような人じゃないし、どういうことなのか。
『あぁ………これ、いいわぁ~。貴方がこんなに上手だとは思わなかったわぁ』
喧騒の方向へ歩を進めている内に、幽々子様の声が聞こえてくる。
明らかに誰かを対象とした言葉に疑問を感じ、近くの柱に寄りかかるようにして聞き耳を立てる。
自分でも何故そうしたのかは分からない。別に堂々と襖を開けてしまえば何も事無く過ぎる筈なのに。
『それはどうも。しかし、貴女は先程といい今といい、どうしてここまで大胆なんだ』
『――――――!!』
この声は、先程の男の――――――
刀を構えようと腰と背にある刀を掴もうとするが、そこにはいつもの愛刀は存在せず、ただ空を掴むだけ。
しまった。自分で置いた記憶が無かったせいか、装備しているものと脳が勘違いを起こしていたらしい。腰も背中も、寝るには邪魔なものなのに気付かなかったのは不覚。
しかしそれが功を奏し、少しずつだが冷静な思考を取り戻す。
そうだ、あの男は私の剣の指南役を任されたんだった。
そして私は床に着いていたのだからその責務を果たすことは出来ない。そう考えれば彼が居てもおかしいことではない。
でも、それならとっとと帰ってしまう可能性だってある。寧ろその方が高い。
もしかして、幽々子様の我が儘に付き合っていたのだろうか。
―――そう考えると、申し訳なさが募りあがる。あの人は誰彼構わずズバズバ言うから、結構負担になるであろうに。
『あら~、私がここまで殿方相手に大胆になったのは、貴女が初めてよ』
『取り敢えず褒め言葉として受け取ってはおこう』
『そうそう、素直でよろしい。
だから―――ね?もっと頂戴?』
なんだか今の言葉が、とても妖艶に聞こえてならない。
一体、二人はなにをしているんだ。いや、なにをしようとしているんだ。
想像できない。いや、想像することを否定している。
この襖を開けて確認すればいい。そうすればその光景を目に焼きつけ、状況を容易く理解できる。
なのに、私の身体は動こうとはせず、思いとは反比例して硬直を解かず聞き耳を立てることに集中している。
『………致し方ないな』
息をすることへの集中も途切れ、心臓が跳ね上がりそうになる。
辺りは静寂。故に二人の言葉はこんなことをせずとも鮮明。
分かっているのに、どうして―――
言葉に出来ない疑問は、ただ空回りを繰り返すのみ。
『あっ………きたきたぁ。
んっ―――これもなかなかねぇ』
『―――ここまで褒め倒されると、何でもいいのではないかと勘繰ってしまうな』
『そんなこと………んっ、ないわよ』
………この会話のノリ、もしかしてもしかして―――!
そう結論に至った瞬間私は聞き耳を離し、明らかに顔が紅くなっているであろう自分を力強く押さえ、叱咤する。
襖越しで行われているであろう行為を想像し、ブンブンと首を振る。
もしそうだとすれば、止めないといけない。何故って………駄目でしょう?色々と。
拳を強く握り締め、残心のときに行う深呼吸をする。
いつもの呼吸法で頭を空にし、カッ、と目を見開き襖に手を掛けた。
『お二人とも!何をなさってるんですかぁ!』
怒号と共に勢い良く開けられた襖の奥に広がっていた光景、それは――――――
『あら妖夢、どうしたのそんな怒鳴っちゃって』
『もう動けるのか?ならば胃に物を入れたほうがいい。丁度、彼女に作っていたところだからついでに作ってやろう。座って待っていろ』
そこにあった光景は、卓袱台に置かれた大量の料理と、それを嬉しそうに食べる幽々子様、そして―――私を打ち負かした男の割烹着姿があった。
『は、あれ………?』
予想外の光景に、思考がフリーズする。
何故あの会話でこんな光景が広がっているのか。
ということは、私はあんなはしたない勘違いを起こしたというのか。
回復した思考回路は反動で慌しく動き出す。そして、オーバーヒートした。
もはや、何も考えられない。
取り敢えず、言われたとおり大人しく座るとしよう。うん、それがいい。
正座する自身の身体が強ばっているのが分かる。
横目で主の姿を覗くと、私の動揺なぞ眼中に無いらしく、嬉しそうに目の前の料理に舌鼓を打っている。
この料理………あの男が作ったものなのだろうか。俄には信じ難い。
ただ自炊するだけのレベルなら誰だって出来る。しかし、幽々子様がこうも嬉しそうに食べると言うことはその腕前はかなりのものであることは間違いない。
偏見かもしれないが、一応女である私が男の料理の腕と同等ないしは―――だと言う事実に嫉妬を覚えてしまう。
『あの、幽々子様。先程は何を話されていたのですか?』
経験上、間違いなくこの発言は墓穴を掘るものだ。
それでも聞いておかないと、とある拍子に思い出してしまう。それだけは絶対にいけない。
『ん~、何処からのことかは分からないけど、彼が作ってくれた料理が物凄く美味しいって褒めてたのよ~』
『では、大胆と言う発言は―――』
『それについては少し愚痴らせてもらおう』
声がした先から、男が盆に乗っけた食事―――私のものであろう―――を持ち、ゆっくりと近づいてきていた。
―――これも嫉妬の要因かは定かではないが、何故彼はこんなにも割烹着が似合っているのか。
身体つきは整った筋肉質で肌は褐色、果ては背も異様に高く表情は厳格にすら見える。
そんな台所に立つに相応しく無いとすら思える風貌なのに―――
『君が寝ていたことで私は本来の責務を果たすことは出来ないという事実を呑んだのか、彼女は私に庭師の仕事をやらせようとしたんだ。
それだけならいい。私には庭師の才能はないからな、駄目っぷりを見せ付ければ何も言わなくなると思っていたのだが………次は雑草の処理、屋敷の掃除、洗濯、今の料理、と予想を遥かに超える多忙を押し付けられた。
私のことはいい。でも君からも言ってやってくれ。部外者を容易く屋敷に迎え入れるどころか、備品に触らせるということがどれだけ愚かしいのか』
溜息を吐きながら私の目の前に料理を丁重に並べていく。しかしその落胆の表現と表情とは裏腹に、語る口調はとても楽しそうに聞こえる。
鼻腔に入り込む食欲をそそる匂いが脳を刺激する。
しかもそのレパートリーは消化に良いものを中心としており、私に対する気配りの念が伺える。
『確かに、それは大胆………というより訳が分かりませんねそこまで行くと』
『―――苦労してるようだな』
『はい………』
頭にポン、と置かれた手は暖かく、同時に同調―――というか、彼からは私と同じ性質を感じ取ってしまった。
認めたくはないが、私の性質は………弄られと苦労人だと思う。
あと私なら、主がどうにも―――なところとか?
『口に合わなければ残してくれても構わない。とは言っても、食材はここのものだがな』
言われた通り私は箸を取り、料理のひとつ―――切干し大根を一撮みし、口へと運ぶ。
『――――――!』
旨い。味付けも私なんかと異なっており、悔しいが私のものよりも旨い。
同じ料理人として、ここまで負けを突きつけられると落胆や怒りを通り越して、口に運ぶことばかりに集中してしまう。
勝敗云々なんかより、この食事を純粋に楽しもうとすら思えてしまう程。
『美味しい、です』
『そうか、それは良かった』
それだけの受け答えを終えると、彼は幽々子様の平らげた食事の皿を黙々と下げ始める。そして尚もまだ主の箸は止まらない。
出来るだけ早く食べてお手伝いしないと、流石にマズイ。申し訳なさがマッハで増えていく。
『ねぇ妖夢、一体なんでそんなこと聞いてきたの?』
彼が奥へと消えた直後、見計らった様に話しかけてきた。
『なんでっ、て………』
どうにも目を合わせれない。
勘違いだったとはいえ、破廉恥な想像を自身の主を対象にやってしまったのだ。変に気まずくなるのは仕方ない―――と思う。
少なくとも、私はさっぱり忘れられるほど単純じゃない。寧ろ記憶に根強く残るタイプだ。
『ふぅん………。んふふ~』
焦点を合わせずとも気持ち悪い声の出し方で幽々子様がどんな表情、思考をしているかが分かってしまうのは、それだけ彼女が私へどんな扱いをしていたかを物語っている。
恐る恐る合わせていくと、細目で頬をニヤつかせた主が予想通り存在していた。
『な、なんでしょう………』
『あらあら~妖夢ったら、エ・ッ・チ・ね』
『ッ――――――!』
こっこの人はやっぱり確信犯だったのか………!!
でも、あの人が共犯な風には見えなかった。なのにあの受け答えが生まれたのは、幽々子様が上手いのか、あっちが天然なのか………。
なんにしろ、羞恥で全開になった思考はそんなことを考える暇もなく、混乱を落ち着かせようと必死になることしか出来ない。
『違います!そんなこと考えてません!』
『あら~、私は貴女の考えてることなんて何も言ってないわよ~』
墓穴は掘る為のもの。そうじゃないとそんな言葉は産まれないから。
だからって、掘りたい訳がないじゃないですかー!!
―――いや、墓穴掘るって理解してたから自業自得なんですけどね。
『騒がしいな、一体どうしたと言うのだ』
『聞いてよ~妖夢ったらね~』
『言わなくていいです!!』
がー、と吼えるように言葉を制すると、幽々子様はつまらなさそうにその場に落ち着いた。
『それにしても―――君の近くにいるそれは一体なんなんだ?』
視線を辿ると、その先には私の半身が悠然と漂っていた。
そして、私が意識を向けたことによってそれが私の周囲を回りだす。
『あぁ、これは―――って、その前に私達自己紹介してませんでしたね。
私は魂魄妖夢、半人半霊という人種で、これは私の一部です』
『霊………つまり、それもまた君の一部なのか』
興味深そうにジロジロと見られると、やはり恥ずかしいものがある。
それにしても変だなぁ。こんなのここじゃあ極端に珍しいものでもないと思うけど。
『しかし、君と初めて会ったときはそれは近くにいなかった気がするのだが』
『それは―――あぁ、今度実際に御見せします。謎はそこで明らかになるかと』
明らかな疑問符を浮かべる彼の姿は意外にも肉体年齢よりも若く見える幼さを醸し出していた。
あれはそう簡単に人に見せるべきではないものだ。手札を晒すことは、闘いに於いては最も不利になる行為だから。
『っ、と―――すまない。私はエミヤシロウ。この度君の戦闘指南を承ることになった、よろしく頼む』
手を差し伸べられたので、それを握り返す。
ゴツゴツとした、男の掌。お師匠様もこんな感触をしていたな、と一瞬思い耽る。
この力強さにもう一度触れることができるなんて思わなかった。些細なことだけど、少し嬉しい。
『よろしくお願いします』
嬉しさの残滓である笑顔で、私は彼という存在を受け入れる。
少なくとも、彼が悪い人間ではないことだけは分かったから、それならば拒む理由は無い。
とは言っても、警戒するに越した事はない。彼が居る時は目を光らせておこうとは思っている。
『ご馳走様~』
此方の決意なんか知らない主は、呑気な声で満足そうに食事を終える言葉を告げていた。
それに毒気を抜かれてしまった私は、一人虚しく溜息を吐いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『では、失礼するよ』
『じゃあね~』
『では、今度会うときはよろしくお願いしますね』
最早深夜になろうとする時間、私は白玉楼の門の前で二人の霊に見送りを受け、その場を後にした。
見送りの内の一人、西行寺幽々子には泊まっていかないかと誘われもしたが、これ以上長居をすれば流石に彼女の意思であれ罪悪の念が込み上げて来る。
それに―――彼女の隣に静かに佇んでいる魂魄妖夢が私を監視しているのもある。
別にそれ自体は何の問題は無い。主を守る者としては当然の思考であり行動だ。
だが、私が居るせいで彼女の心休まる時間を奪ってしまうくらいならば、誘いを断り野宿でもなんでもしていたほうがマシだ。
それに、病み上がりかつその原因である私を彼女が快く歓迎する筈が無い。
主の命とあれば心を押し殺すことも已む無し、なんてことを常々考えていそうな子だから、私から後手に回らない限り苦しみ続けるだけだ。
高望みかもしれないが―――そんなぎくしゃくした関係ではなく、普通に語り合える仲ぐらいにはなりたい、と思ってしまう。
彼女は絶対に笑っていたほうがいい。感情を押し殺して生きれる程若くはないのだから、甘えたって構わないのに。
だからせめて、私の居ないところだけでも少女らしくあることを望もうと思う。
暗く、何も見えないほどの闇が石段の下から迫り上がってくる。
最近、夜間に活動する機会がかなり増えた気がする。
サーヴァントの身体でなければとっくに寝不足と過労で倒れていそうな活動量だ。
さて、次はどうするべきか。
これ以上仕事を増やせば何処かで都合が合わせれなくなってしまう。
また天子のところへ行こうか………そんなことを考えていると、視界に明らかな違和感を感じた。
視界に含まれる闇が―――侵食するように覆い、黒を満たしていく。
背後を振り向くも、全く一緒。幸い、ほんの僅かではあるが周囲はさっきと同等の明るさが残っていたのが救いだ。
失明したわけでは無いようだし、何が起こったのか。
『お兄さん、こんな夜遅くに外を歩いてたら危ないよ』
声と羽ばたく様な音だけでその声の方向にいるであろう何者かへ視線を送る。
こんな音を出せるのは、は人ではない証。
恐らくは妖怪―――それも鳥類に部類するものであろう。
『あはは、こっちだよこっち』
今度は後ろ………どうやら、私の目が見えていないことが分かっているのだろう。
と言うことは、この闇を造り出した張本人、と認識しても相違無いだろう。
『一体、何が目的だ』
『ん~、なら簡潔に言うけど。
―――お兄さん、大人しく食べられてくれる?』
無邪気そうに残酷なことを告げる存在に、私はルーミアの姿を重ね合わせる。―――直感だが、彼女もルーミアに近い存在なのではないか。
『残念だが私はまだまだ多忙な身でな、余生を終えるにはまだまだ遣り残したことばかりなんだ』
『ふ~ん、そうなんだ』
無関心そうにそう返す。
『だから見逃してくれ―――と言っても叶わないのだろうな』
『まぁ、私も妖怪だし。獲物を逃すってのは結構不名誉なことなんだ。
―――だから、諦めてね』
冷淡にそう告げると、明らかな空気の変化と共に幾多もの風の裂ける音による旋律を奏で始めた。
さーて、何も書くことない。
今回初めて(だっけ)完全な区切りではなく、微妙に話を先走らせた感じのオチで〆ました。
皆さんは完全に区切ってしまうのと、今回みたいな手法、どちらの方が繋ぎ的には薦めますでしょうか。
文庫の小説みたいに一気書きではないから今回みたいな感じのがやはりしっくり来ますかねぇ。
次回は、原作を知っている人ならば誰が出るかは分かりますよね~。
作者はこのキャラは普通レベルです好き度。好きな人サーセン。
+注意+
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