友達に小説を書いてるのがバレ、なんか春を題材にした東方の短編を書かされる羽目になりました。
サークルのようなもので発行され次第このサイトにも投稿しようと考えています。
幻想に惹かれた者達
桜を守護する剣士と世界を守護した騎士
『ここが………白玉楼なのだろうか』
空の白みも消えぬ頃、天を穿つ程の石造りの階段が地平線を作り上げた神秘的な、そんな光景を石段の始まりで眺めている。
周囲はまるでこの場を隠さんとする様に霧に覆われており、元より寒かった空気がここに来るが否や更に冷え込んでくる。まるで生き物の存在を拒むかの様に。
それでもその霧を否定するように石段は自己主張をしており、まるでその意味を成している様には感じない。それとも、これにも意味があるのか。
一段、足を踏み出す。
硬く無機質な一段は、ここを表しているのでは沸々とさせる。
―――ここには、人の気配が感じられない。その代わり、私………というよりも、サーヴァントに似た気配は大量に渦巻いている。
英霊と比べるまでもない―――それこそただの魂だけが無法に漂っているだけに思えれば、逆にそれとは明らかに異なった力を二つ感じ取れる。
ひとつは、まるで虚無を思わせる程に静かな、その癖最も力を内包している―――荒れ狂う嵐を身体の中に封印しいつでも開放できる、そんな喩えが思い浮かぶ。
もうひとつは対照的に、まるで抜き身の刃を思わせる。鞘のない刃が、獲物という名の鞘を求めるかのように殺気をちらつかせている。
そしてその殺気は今、門を潜り抜けた私へと向けられている。更に言わせれば、それは物凄い速さで接近してきている。とても人間には不可能な速度でだ。
私は干将・莫耶を投影し臨戦態勢を取る。
誰であろうと、敵意を向けてくるならば相応の対応を取るだけ。
遥か上を睨みつけると、一点が星の煌めいた。私はそれを無意識に何かを感じ取り、その場から力強く後ろへ跳んだ。
刹那、足元に光刃が通過した。
何の躊躇いもない必殺の一撃。洗練されたそれは、石段を容易く破壊した。
魔力は一切感じられない、まさに気合の様な一撃。力技だけで先程の一撃を造り上げたというのか。
身体が反応した。無意識に殺気を感じた私の身体は、目の前の双刀を空中で受け止めている体勢を取っていた。
そんなものよりも私の意識が向いたのは―――目の前の刀の持ち主が、年端もいかない少女だったということだった。
肌は死人の様に白く、綺麗に切り揃えられた白髪のおかっぱに、黒のヘアバンドとリボンを装飾しているという至ってシンプルな飾りつけ、上下揃った深緑のブラウスとスカート、襟元にまた黒のリボンとこの位の年の少女が着る服としてはまるで例に入らない地味なチョイス。にも関わらず何故かそれが不恰好にはなっておらず、違和感なく着こなされている。
『貴様、何者だ!名を名乗れ!』
その幼い肢体とは正反対に、私を捉える目付きはまるで鷹。獲物を定めた鷹の眼光を放っている。
子供とは思えない力で刀を押し付け、空中で押し込もうとしてくる。しかし大人の男、ましてやサーヴァントである存在に力で敵う筈もなく、それに対抗して押し出すと、彼女も不利を察知したか鍔迫りを止め、お互い地面へと着地する。
『いきなり切り掛かって来ておいてその言い草はどうかと思うがな。しかも君の一撃―――完全に私を殺す気で放ったものだろう?そんな相手に教える程お人好しではないよ』
『何を偉そうに………。どうせ貴様も幽々子様を付け狙う下郎だろう、そんな相手に容赦などするものか』
………幽々子?付け狙う?まるで予想もつかなかった言葉に多少戸惑いを覚えるも、剣を握り直し少女の姿を見据える。
『何を勘違いしてるかは知らないが、私は幽々子などという人物も知らなければ付け狙う相手もいない。ここに無断で入ったのが気に食わないのなら謝る。だから―――』
『黙れ、私は騙されないぞ。油断させておいて隙を突く気であろう、そこまで未熟ではない!』
宥めるつもりだったが、逆に怒らせる形になってしまった。というか、最初から頭に血が昇っていて私の声など話半分なのだろう。
『その首、貰うぞ!』
瞬間、少女が爆ぜた。
サーヴァントに引けを取らない疾走で一瞬で目の前にまで来ると、右手の長刀で切り掛かる。それを私は受け流し同じように切り返すも、左手の短刀でいなされる。
お互いに双つの獲物を持つ以上、こうなることは予想していた。片方で切り掛かれば片方で防がれ、もう片方でやろうとも同じ末路を辿る。
必然的に、今の獲物は防御にしか使えない。極端な実力差があれば隙もあるだろうが、彼女の出す隙は私の隙でもある。
同じ種類の鋼を用いる以上、お互いに弱点は看破されているに等しい。
剣戟が幾度となく響き渡る。重なり合う鉄同士が擦れ合う度に火花が散り、闘いの空間が造り上げられる。
少女は的確にダメージを与えるべく、僅かな隙を狙って横薙ぎを放つ。反撃を誘う為の隙とはいえ、油断すればやられるのは此方だ。
それほどまでに彼女の動きは常人には真似できない所にまで至っているということだ。
的確に隙を見分け一瞬で判断する戦闘用に塗り替えられた思考回路、それに見合った剣術。彼女は間違いなく強くなる。
このまま膠着状態でいるのは神経を磨り減らすだけ。それではいざという時に油断を生む。
相手の出方が分からない以上、長期戦は不利。
―――ならばここ以外を使えばいい。
私は力押しで威力を相殺させ、直後容赦の無い蹴りを放つ。荒々しい、槍の様な中段蹴り。身長の差で蹴りは顔面への直撃を覚悟したが、少女はよろめいた身体でそれを刀の鍔で防ぐ。
しかし力の差に耐えられなかった身体は宙を舞い、石段に背中を直撃させる。
『がっ、は――――――!』
少女は苦悶の声を上げるも、目は決して死んではいない。こんな年頃の少女がするはずもない痛みを堪え、私という名の敵を排除しようとしている。
『―――やめたまえ。君の力じゃ私を圧倒することは出来ん。君の剣技が、じゃない。純粋な体格の違いだ』
『五月、蝿い………。それがどうしたというんだ。
力で敵わないなら、これでどうだ!』
少女は懐から一枚の符を取り出すと、それを空へと放り投げた。
すると、石段に埋もれていた少女が突然視界から消え失せる。
そして、二方向からの殺気が私の身体を貫く。ひとつは上空、ひとつは背後。
このままでは防ぎ切れない、そう勘が告げている。
咄嗟に私は干将・莫耶を背後へと投げ付け、意識を上空だけに集中させる。
空中には、先程の長刀を両手で構え、光を纏った刀を重力と共に振り下ろさんとしていた少女がいる。その姿は、まるで騎士王の宝具を連想させるものだった。
そんな一撃に右手を突き出し、一言、告げる。
『――――I am the bone of my sword.』
瞬間、手の平から巨大な花弁が盾となり現れる。赤く光るそれは、まさに幻想と言わんばかりに辺りをその色で侵食していく。
『なっ――――――』
表情は見えないが、間違いなく少女は驚きを隠せないでいるだろう。何せ彼女からすれば何もない所から巨大な何かが現れた風にしか見えないのだから。
しかし、詠唱破棄の熾天覆う七つの円環であれに堪え得るかは全く別の問題だ。
対投擲には絶対の防御力を誇る盾ではあるが、あの謎の力に対してどれだけ効力を発揮するか………。
轟音と共に光が爆発した。眩しさに目を細めるも、敵の姿だけは決して逃さない。
衝撃が花弁を通り越して骨身に響く。が、ランサーの一撃に比べれば軽い。
後ろにある殺気も霧散しているのを感じる。原理は知らないが、衝撃に体勢を保っていられなかったのだろう。
一枚二枚、と花弁が剥がれる。それに比例して、私の身体もまた傷を負っていく。
即席であるにも関わらず一撃で二枚………ということは、あれは投擲の部類に入る一撃なのか、或いは見掛け倒しでしかないのか。
三枚目が散る。簡易的なつくりのお陰か傷に関してはそれほどのものではない。
しかし………明らかにあれは剣から放った一撃であり、それ以外には到底思えない。
それに、少女の実力は本物だ。多少荒削りで直情的ではあったものの、洗練された動きは努力を怠らなかった証。
四枚目、剣からの衝撃が減退するのが分かる。外套の中はそれなりの傷が出来てしまっているに違いない。
彼女は、私と違って才能がある。自分と異なるというものは、得てして見分けやすいもの。
自分には決してない華が、彼女にはある。
五枚目、最早先程までの威力は消えうせている。
消えた花弁の先には脂汗を出し、苦しそうな表情をした少女だけがあった。
『はっ、あ―――――っ』
息も絶え絶えに私を睨みつける。先程までの鋭い眼光は、今では弱々しく光が失われつつある。
衝撃に耐えた花弁を蹴りつけ距離を取るも、着地で苦悶するようでは最早勝負にならない。
『負けられ、ない………絶対に―――!!』
しかし彼女は諦めなかった。
実力差を承知で、死ぬことを厭わず、障害である私を倒すことだけに全力を注いでいる。
―――思い出す、自身の人生を間違いと決めつけ、王の選定をやり直す、ただそれだけの為に世界に死後を捧げ、負わなくても良い傷を背負い戦った騎士王の姿を。
そんな莫迦げた目的の為に、信じてくれた家臣のことも考えずただ自己嫌悪に支配された可哀想な少女を。
目の前の少女の目付きは、そんな彼女の戦いに赴くときのものそのままだ。
そんな目を子供がしていると考えるだけで、腹が立ってきた。
『いやぁぁぁぁぁぁっ!!!』
全力の叫び声と共に疾走。長刀を両手で握り締め、袈裟切りの一閃を放った。
今までの中で一番弱々しく、型もなにもない力強い一撃。
避けるのは容易い。避ければ力任せに振った一撃の反動に負け、地に伏すだけ。
私はそんな無駄に等しい一撃を、何も言わず受け入れた。
『え――――――?』
鉄の削る耳障りな音と、肉の削げる厭な音がした。
今この状況を理解できず間抜けな声を上げる少女。やはりこの一撃は当たるとは思っていなかったのだろう。
鮮血が胸から迸り、その痕が少女の顔を彩る。
そんな少女を尻目に私は長刀の刃を掴み、手元から引き抜いた。
呆然としていた少女は、最早添えているだけの刀をするりと捧げた。
『満足―――か?』
少女は答えない。いや、答えれない。
それもそうだ、彼女は私を斬ることだけに死力を尽くしていたのだから。
そこには満足というものは存在しない。あるのは結果だけ。
彼女は目的の為に私を切りつけたのであって、それ以外にはなにもないのだ。
そんな相手に満足を問うても、沈黙しか返らないのは当然のこと。
それでも、聞いておきたかった。彼女がただの辻斬りのような道を歩まないようにする為にも、これだけは彼女自身から聞きたかった。
『そうであるならば、私の話を聞いて欲しい』
『は、え―――――』
放心状態のまま立ち尽くしている少女だったが、突如前のめりに倒れだす。
少女の刀を離し、肩を支える。胸元では寝息を立てている相応の姿が残っていた。
『―――気が抜けたのか』
血に濡れた頬を軽く拭い私は彼女を背負った後、落ちた刀を拾い上げ鞘に納める。
改めて持つことで理解する。この刀は、まるで重量感を感じない。固形化した空気を持っている感じだ。
筋肉もまるでついていない華奢な身体で人を殺める道具を振り回すという規格外さに驚いていたが、これで納得した。
一段踏み出すごとに全体の傷が広がるのが分かる。
出血では死に至ることはないが、苦痛は何も変わらない。
唇を噛み締め、出来るだけ早く到達するよう勤める。背中の存在は重荷にはならないが、この階段が何よりも強敵だ。
どんなに歩こうとも地平線は変わることなく存在している。他人の侵入を拒否している姿勢が嫌という程に伝わる。
『これは軽率な行動だったかな』
思わず自嘲するも、そう言う表情は後悔も何もない潔白そのもの。
この苦労が、私には似合っている。
誰もが通らない道だからこそ、最善の可能性だってある。私はそれを模索しながら、愚直に信じた道を進むのがお似合いだ。
それが喩え、死に至る結果だとしても。
地平線を眺めているのにも見飽きた頃、もうひとつの門が鷹の目で視認できた。
目的地が見えると逆に安堵して力が抜ける人もいるだろうが、私の場合そうも言ってられない。
気絶した少女を早く安静になれる場所へ移動させなければいけない。自ら手がけた結果であれば、尚更だ。
私は歯を食い縛り、強化した足で渾身の跳躍をした。
傷口の開くスピードが何倍にも増すがお構いなしだ。多少揺れてしまうが、我慢してもらうしかない。
出来るだけ彼女への衝撃を緩和しようとすると痛みが増す。痛みに関しては妥協したくても身体というものは正直で、身体は常に悲鳴を上げている。
ゆっくり行くとしても傷口の侵食が止まる訳もなく、抉られるような痛みが延々と続くだけ。
安全に行くか早めに行くか、どっちを取ったところで何も変わらないのなら急いだほうが何倍もいい。
急いでみれば何のこともなく辿りつけてしまった。
目の前には、まるで衛宮士郎が住んでいた家ぐらいの大きさと広さを兼ね揃えた屋敷が威風堂々と存在していた。
今まで変わらない視界ばかりだっただけあってこの光景には新鮮さを感じさせると同時に懐かしさを引き起こした。
縁側があると思わしき方向へ足を運ぶ。
砂利を踏む感覚は、まるで平安時代の土地を歩いているかを彷彿とさせる。
広い庭を進み縁側が見えた先、そこには着物を纏った女性が腰を降ろしていた。
桜色の肩ほどまである柔らかな髪が風が靡き、本人はそれを気持ちよさそうに受け入れている。たったそれだけの行動なのに、まるで生きた美術品を思わせるその姿は、まさに大和撫子。
そして、彼女がこの屋敷の中で最も力のある存在だということが放たれる気から察知できた。
『あら、お客様?』
此方を振り返った女性はとても柔らかに微笑んで迎え入れてくれた。
童顔であるにも関わらず身体全体はとても女性的に豊満なつくりをしており、そのアンバランスさが彼女の魅力でもあるのかもしれない。
何故だか額烏帽子を被っており、薄い青で彩られた着物は彼女の肌に張り付くように彼女のボディラインを強調させている。
そして一番気になったのは………彼女の周囲には形容しがたい小さな白い物体が泳いでいる事実についてだ。
生き物かと思えば、まるで生物としての命の鼓動、とでもいうべきかそういったものが一切感じられない。しかしここにいるのは間違いなく機械でもなんでもない存在。その矛盾した事実に内心頭を悩ませる。
『あらぁ、妖夢を連れて来てくれたの?有難う~』
私の傷を意に介さず、おっとりとした口調を崩さない。
普通女性は傷等を見れば悲鳴のひとつは上げると思うのだが、どうにも拍子抜けが続く。
『感謝されることはしていない。寧ろ傷つけたのは私なんだ、疎まれこそすれ感謝することはないんだ』
『いいえ、貴女はそんな傷を負わされた相手をこうやってここまで運んでくれた。それだけで疎ましく思う理由なんか無いわ』
怒気の一切ない暖かい笑みがなんだかくすぐったくてしょうがない。普通はそんな理由では許されないと思うのだが。
『それに、ね――――――』
斜めに斬りつけられた胸元の傷を人差し指でゆっくりとなぞり出す。少女を背負っているせいでその行動に抵抗が出来ない。
痛くはないが、何だか居心地が悪い。それは、彼女の挙動のひとつひとつが妖艶さを醸し出しているせいだ。
私は決して男好きな部類の人間ではない。だから女性がこういった行動をすれば反応に困ってしまうのは当たり前だ。
『この傷………わざと斬られたものでしょう?妖夢を倒せる程の殿方が、こんな堂々とした怪我をする筈ないもの』
まるで全て見られていたかのように正確な事実を口に出していた。
見透かされた感覚がとても不思議で、決して厭な感じもしないということも何だか恐ろしさを感じさせる。
『どうだかな、油断していたせいかも知れんぞ?』
『強がっちゃって。可愛いわね』
―――っ、かわっ、いい………?
大の男に向かって可愛い………こんなこと言われたのはこの姿になってから初めてだ。
『それよりも、妖夢を返してくれないかしら』
身体の内側の疼きに近いもどかしさに頬がひくつく私を尻目に、変わらないペースで話を突如変更する。
背中にいる少女は妖夢というのか、憶えやすい名前だ。
『いや、私が責任を持って運ぼう。この少女が軽いとはいえ女性には少し堪えるだろう。
なにより、ここで手渡すのは責任放棄というものではないか?』
『女の子の部屋に殿方が入るものではないわよ~』
そう言われてしまうと、此方も引き下がるしかない。
妖夢という少女を桜髪の女性にゆっくりと手渡す。辛そうには見えないが、それでも心配にはなる。
『お客様は、ここでゆっくりしていなさい』
『し、しかし―――』
『この屋敷の主の許可なんですから、お言葉に甘えるのが礼儀というものよ?』
まるで子供を優しく諭す母親みたいなことを言われ、逆に申し訳なさで萎縮してしまう。
なんだろう、この人には勝てない気がする。戦いとかそういった面ではなく、もっとこう、生活面で。
『それに、貴方の怪我も治療しないと身体に悪いし』
『怪我に関してなら自分で処置出来る。だから君は彼女を休ませてやってくれ』
『そう………。じゃあ私は行くわね』
そのまま女性は襖の奥へと消え去っていった。
私は改めて自分の傷を確認する。
単純な袈裟斬りの傷であるが、疲労と少女の腕力で繰り出されたものであった為か出血量に反比例した傷の浅さで留まっている。それでも鎧だけは貫通しているのだから見上げたものだが。
他にも、刀の刃を直に掴み出来た掌の傷。この手の傷は慣れているから対して気にはならないが、少女を抱える際その部位を血で汚してしまったのが悔やまれる。
喩え出血が夥しくとも、エーテルで構成されたサーヴァントには全く関係ない。魔力が原動力である英霊は、人間よりも遥かに生命力が強い。だから世界にとって都合がいいのだ。
………いけない。このことを考えるとどうにも後ろ向きになる傾向があるから自重しなければ。
包帯を投影し、壊れた鎧を乱暴に脱ぎ捨てる。
一応見栄えだけでも治療したことにしておかないと、後で何を言われるか分かったものではない。
普通包帯をひとりでに巻くのは技術がいるが、慣れとは恐ろしいもので今では下手な医者なんかよりも手早く正確に出来る自身がある。
やることをやってしまった後は暇を持て余す。下手に庭の散歩をするのも気が引ける。
取り敢えず私は縁側に腰を降ろし、一息吐くことにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『ん………あれ?幽々子様、どうして………』
ぼんやりとした意識のなか、目の前には私が敬愛し、従属する白玉楼の主である西行寺幽々子様が優しい笑みで覗き込んでいるのを確認できた。
『やっと起きたわね妖夢。心配したわよ~?』
まるで心配してる風には思えない声色と素振りだが、これがいつもの幽々子様であり、それが崩れることは殆どない。
『――――――っ!そうだ、あの男!』
先程剣を交えた男のことを思い出し立ち上がろうとするも、吹き飛ばされた時に頚椎と背骨を傷めたらしく、まるで自分の身体ではないみたいに動きが挙動不審になる。
千鳥足な私を幽々子様が支えてくれた。
そしてそのまま私の腕を引っ張り、蒲団の上へと戻される。
『えっとね、貴方が言ってる男ってのは白髪のオールバックの方かしら?』
『え、どうしてそれを………』
『だって、怪我した貴方をここまで運んでくれたのはその方だもの』
『―――はぁ!?』
思考が上手く回らない。
敵である筈の男が私を運んでくれたってことはつまり………白玉楼に入られたってことじゃないか?
『駄目よ動いちゃ。人の話は最後まで聞く』
『し、しかし―――!』
『だ~めったら』
力の差は無い筈だが、まるで力の入らないこの身体では子供の力にすら坑うのは難しい。
案の定私の身体は幽々子様が掴んだままの腕を振りほどく力もなければ、反動に耐える術もない。
必然的に、私の身体は幽々子様の胸元へとダイブしていった。
『ゆっ、幽々子様―――!!』
暴れもがくも、頭を押さえられてしまい身動きが取れない。
女性的に熟れた身体が私を窒息させようとする。私には無いその身体に殺されてしまえば、まさに羨ま死になってしまう。
『こうすれば妖夢も逃げないでお話できるわね~』
『きっ、聞きます!聞きますからやめてくださーい!』
抱きしめるだけに留まらず私の頭を撫で始めた頃、羞恥も一杯で最早折れるしかない状況まで追い詰められてしまった。
意図的なものではなく、天然でやってるものだから怒ったところで効果はないのが辛いところ。
パッ、と意外と簡単に放してくれたお陰で無駄に体力を使わなくて済んだ。というか、暴れたことで身体が物凄い痛い………。
『それでね、その男の人のことなんだけど~………昨日、紫が遊びにきたことは憶えてるかしら』
『え、あ、はい。珍しく玄関から入ってきたことが珍しくてよく憶えてます』
いや、昨日のことなんだから忘れていたら結構ヤバい。かなりショックを受けること間違いなし。
『その時にね、その殿方が来るかもしれないよって話をしてたの』
『―――はい?』
何故そうなったのかが思いつかない。
あの男は紫様の知り合いだったのだろうか。
でもそれで幽々子様が知らなかったというのも変な話だろう。殿方という表現を使っている以上、名前も知らない関係なのは明白だ。
『な、なんでですか………?』
『えっとね、確か妖夢の剣の指導をしてくれるって言ってたわよ』
ぴし、と自分がまるで石になった様な錯覚を覚えた。
そして直ぐに、わなわなと何かが込み上がって来る感覚で一杯になった。
『な、なんでそんなことを勝手に決めるんですか当事者抜きで!!!』
『だってそうしないと妖夢絶対断るんだもの』
『当たり前です!だいたい何故私が見ず知らずの人間に剣術を指南して貰わなくてはいけないんですか!』
そうだ、私の師は魂魄妖忌―――私の祖父ただひとり。
行方不明になったとはいえ、その事実が覆ることはない。
『妖夢、貴女は勘違いをしてるわ。彼は剣術を指南するわけではないわ』
『え、ではどういう―――』
『彼は剣を使った戦い方を指南するらしいわよ。紫曰く、彼は戦い方しか教えれないって言ってたわ』
『は、はぁ………』
冷静に考えれば、師匠に師事していなければ同じ戦い方はできないし、何より自分の目であの男の剣は見た。
確かにあいつは強かったかもしれない。でも、同じ剣を使うものとしてはあいつの戦い方は納得できなかった。
『で、ですけど私は………』
『妖夢、よく聞いて。私は妖忌が失踪してから貴女が剣の修行を怠ることなく励んでいたのを見ていたわ。
だからこそ思ったの。貴女にはまだ師事してくれる人が必要なのが分かったの。
まだ若い貴女だから、独りで妖忌の影に囚われることなく、もっと広い目で見つめて欲しいのよ。剣にしろ、世界にしろ―――ね』
突如真面目な顔をして語りだした幽々子様。
普段の温和な表情とは打って変わった凜としたそれを、私はほんの僅かにだがお目に掛かったことがある。
その時に話す内容は、私には理解できないものばかりで幽々子様に小莫迦にされるばかりであった。
今回に関しては理解は出来たが………意図が読めないのは相変わらずだ。
何故そんなことを唐突に言い出すのか。紫様が絡んでいるということも気になる。
今回もまた二人してなにか企んでいるのではと疑念を抱かずにはいられない。
『――――――はぁ。分かりました、少しだけの期間なら妥協してあげますよ』
それでも許可してしてしまうのは、私が甘いのか幽々子様の人柄故か。
でもいつもそうだったから慣れてしまった。彼女の我が儘も、最後の最後で受け入れてしまうのは、どことなく憎めないせいもあるのかもしれない。
『そうと決まれば、まずは傷を癒す為もう一度眠りなさい』
『え、でもその男は―――』
『そんなの気にしなくていいのよ。貴女はまずは英気を養うことを第一に考えなさい』
『でも………』
『それに、彼に与えた傷。忘れてるわけではないでしょう?』
『あ――――――』
すっかり忘れていた。
そういえばあの時、あの男は当たるはずも無い悪足掻きの一刀を無抵抗で受け入れていた。
あの時の意図の読めない行動。敵を前にして剣を収め、甘んじて斬られた後に発した言葉が満足かという問い。
やる事成す事の真意が全く読めない。紫様も、幽々子様も、あの男も。
だから、知りたくなった。
彼に教えを請い、時間を費やしていくことでもしかしたら何かが掴めるかもしれない。
これは、未熟な私に課せられた試練なのだ。そう解釈すれば、硬く考えることもない。
『―――分かりました』
私は幽々子様の指示通り再び蒲団へと潜る。
覗き込む表情は最初のときと同様の優しさを内包しており、なんだか安心感を引き寄せられる。
『でも勘違いしないで下さいね。あの男が信用に値するか、見極めるのも兼ねていますから』
『そりゃあ私だって完全に信用してる訳じゃないけど、紫のお墨付きなんだからもう少し柔らかく行きましょう?』
………確かに紫様は殆どが謎に包まれて掴みどころの無い人だが、決して悪い人ではない。
そりゃあ、幽々子様と合わさって悪戯なんてことは日常茶飯事的なものではありますが、今回はそんな悪戯にしては手が込みすぎている。
安心、とまではいかないが警戒を緩めるくらいならいいかもしれない。
『まぁ、今は眠りなさい。積もる話はその後に、ね』
髪を撫でられ、気持ちよさに瞼が重くなる。
主に対して無礼な感情なのだろうけれど、こうして目を閉じていると、まるで母親に見守られているような気分になる。
そんな彼女だからこそ、守りたいと思えるのかもしれない。
意識を落ち着け身体の力を完全に抜くと、あっという間に眠気が襲ってきた。
意識の堕ちる最後まで、頭部に集中した優しい感覚を忘れることはなかった。
今回は二人の紹介ですね。西行寺幽々子と魂魄妖夢の紹介です。
西行寺幽々子
種族:亡霊
能力:死を操る程度の能力
生前:死霊を操る程度の能力
死後:人を死に誘う程度の能力
二つ名:幽冥楼閣の亡霊少女
冥界に住む西行寺家のお嬢様。
生前にはとてもシリアスな出来事があって儚い末路を辿ったが、亡霊となってからは性格は陽気になり、生前の記憶は完全に失っている。
結構能力を使うことを楽しんだりするらしいが、今小説では恐らく出番なし。危ないもん。
死体の埋まっている場所と熟成具合が分かるらしい。
妖夢のことを頼りないと思っているからか、守られている側なのに手を掛けている部分が多い。
二次創作では、ルーミアのときも語ったが大食いキャラ化している。これは恐らく、原作で妖怪を食べる発言等をしたことによる弊害かと。
あと、私は東方キャラの中で一番オパーイが大きいのは彼女だと思ってる。多分そう思ってる人は少なくない筈。
魂魄妖夢
種族:半人半霊
能力:剣術を扱う程度の能力
二つ名:半人半霊の庭師
西行寺家に仕える人間と幽霊のハーフ。
特徴として周囲には自分の半身でもある人魂が漂っている。
人間よりも寿命は長く、1000年は生きれるらしい。
彼女の仕事は白玉楼の庭師と幽々子の剣術指南なのだが………どうにもそんなことをしてる描写はない(未熟な人に教えられたくないとかで逃げてる?
魂魄妖忌という叔父であり剣術の師匠がいるが、いつの間にか行方不明になっておりそのせいで妖夢は成長を足踏みしている。
二次創作では、性格が一貫しない多感キャラとして色んな妖夢が生まれています。
今小説での彼女は、セイバーみたいな性格です。セイバーみたいな~と言われても分からない人もいるかもしれないが、ぶっちゃけて言えば糞真面目で融通の利かない頑固者。起こったら剣で制裁とかするかも。
みょん、という言葉がある。
これは公式でも存在しており、妙とひょん、を合体させた言葉であるらしい。
妖夢が何度もそういった発言をしているせいで、転じて妖夢のことを指す語となった。
なんとも広い言い回しと感嘆符で用いられたりと、地味に有効活用できたりする。
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