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明けましておめでとうございます。こんな小説ですが、今年もご愛読の程をお願いします。
幻想に惹かれた者達
異端な者達の騒がしくも暖かい朝
『これが魔術というものを記した本なの?』

紅魔館へと戻った私は、真っ先に図書館へと向かいパチュリーに魔術教本を手渡した。
予想通り彼女は大いに興味を持っているらしく、喋りながらも視線は片時も離れることはない。レミリアの喩えた本の虫という言葉に納得してしまう。

『基本的なことが書いてあるに過ぎないがな。だが君にとっては嗜好の一部ではないのかね?』

『まぁ、本は好きよ。幾らあっても困らないわ』

彼女を満足させた事で、一応ここで働く身としての役割は果たせた。雇主を差し置くのはどうなのだと言われればどう返せばいいか分からないが。

『ねぇ、魔術って私にも使えるのかしら』

ようやくといった所か、彼女は私の方を向き質問を投げかける。

『………難しい質問だな。魔術師にとって必要不可欠な魔術回路は君には存在しないだろうし、だからといってなら魔法を使えているのはどう説明するかと聞かれれば私には答えは導けない。何せ魔法を見たのはほんの数回だけだからな。よって、まず魔術とこの世界の魔法がどれほどの差異があるのかが分からない限り、断言は無理だろうな』

『そう………』

残念かつつまらなさそうに目を細める。説明書だけあって、玩具を持っていない時の心境もこんな風に見えるのだろうか。

『まぁ君は魔力の使い方を理解している様だし、やってみればいいのではないか?幸い魔力に関しては共通してるらしいからな。環境は整ってる』

『………そうね。やるだけやってみましょう』

椅子から重い腰をあげると、つかつかと図書館の開けた場所へと歩を進める。

『魔術っていうのは、貴方の世界の文明の劣化版って考えで問題ない?』

『そうだな。だが君達の―――と言うよりは、にとりという河童の少女の技術力も外に劣るものはなかったぞ。………いや、もしかすると越えていると言っても過剰ではないかもしれん』

何せ恐竜の等身大ロボットを恐らく一人で作ったのであろうからな。効率云々を考えなければ外の技術力以上なのは間違いない。

『ふぅん………。それはいいとして、魔術はそういった技術の前では遥かにコスト、キャパシティが劣るんでしょ?なんでそんなものを使おうとするの?』

『そうだな。魔術師が魔術を以てして目指すもの、それは根源に至ることだ。根源とは、世界の大元の様なものだ。余談になるが、全ての物質、生命はこの根源が一定の方向性を持つことによって発生するらしく、その最初の方向性を起源と呼ぶ。例えば単純に"愛"という起源を持ったものがいたとしよう。その者は、どんな形で生まれても愛という事柄に惹かれてしまうのだ。―――そうだな、君の起源は"知識"という捉えでいいのかな』

『―――貴方の言葉が本当ならば、そうなのかもしれないわね。じゃあ貴方自身の起源は理解してるの?』

見透かされた感覚が厭だったのか、多少むくれ面になり口調も棘棘しくなる。だが、もし起源とパチュリーの事を両方知っている者がいれば確実にその考えに行き着くのではないだろうか。

『私の起源は恐らく―――剣だ』

『剣―――?なんだか私と違って妙に具現性が強いわね。じゃあ貴方は剣に惹かれる傾向にあるってことよね』

『そうだな、私の生きてきた時間の中、剣という存在に触れ合う機会はかなりあったな。―――そしてそれらは私の世界の色を常に塗り替えていった。善い方向にも、悪い方向にもな』

私の言葉にパチュリーはハッとした後、私から目を逸らす。
そう、剣という人を殺める為の物に惹かれるということは、この身は常に戦いの中にあったという事。誰もが簡単に行き着く答えであり、だからこそ想像するのも容易だ。

切っ掛けは些細なことでも、一度それに気付いてしまえば二度と元には戻れない。
産まれたもの全てが起源に覚醒する訳ではない。私みたいに常識とはかけ離れた世界に身を投じていない限りは、余程身近な起源でない限りは覚醒には至らない。せいぜいそれに関わる学者や仕事に就いたりするぐらいだ。そう言った意味では、私がここにいるのは偶然であり、必然なのだろう。

―――そう、私が今こうしていられるのは偶然が重なりあった結果に過ぎない。そしてエミヤシロウが世界喪失者となったのは、偶然の始まりに触れてしまった瞬間、必然になってしまったからに過ぎない。
だがそれは決して運命などではない。偶然も必然も運命という枠からはかけ離れた、ただの確率性だ。

力の持たなかった私は、人為的に変化させることの出来る可能性に振り回されるしかなかった。
―――いや、力があったところで何が変わった?
所詮私の取った行動も、生きる死ぬの確率性のひとつに過ぎない。だから宗教などというものに救いを求める者が出てくる。確率性の枠の外にいると勘違いした絶対の存在に、希望を見出そうとする。
宗教自体は良いものだ。しかし、それを悪用しようとする輩が現れるのはどこの世も変わらない。そしてそこから対立や紛争が起こり、行き着く先は弱者の死。
そら、これでも運命などというものを信じたいと思うか?

『とは言っても確認した訳でもなし、結論から言ってしまえばこれに関しては不確定要素が殆どだからな。もしかすると全く異なる起源の可能性だってある』

結局はそこに回帰する。絶対にこれだという要素が僅かにしか無いのだから、全ては私の妄想であり願望なんだろう。

『貴方は………起源に覚醒したことを後悔してる?』

『後悔はしていない、と言えば嘘になってしまうな。だが後悔したところで意味は無いだろうさ。何せ戦いに身を置く頃には、自身でも知らない内に起源が覚醒していたのだろうから。確かに悪いことだってあったが、決してそればかりではなかったんだ。それを否定してしまえば、私の人生に関わったもの全てを否定することに他ならない。―――私がこうやっていられるのも、皆のお陰だからな』

俺が魔術を使えなければ間違いなく聖杯戦争には勝ち抜けなかっただろうし、ましてや参加することすら無かっただろう。
こんな形で誰かを救うことも出来なかった。たとえ救えた存在が世界にとっては手の平に収まる程度のものだったとしても、決して悔やみはしないし、後悔だってするのはやめた。
―――否、元より後悔すること事態が間違いなんだ。それを間違いだと思えないのは、やはり狂っているからに他ならない。
でも、それでいいじゃないか。少なくとも俺は良かったと思ってる。今なら、自分の生き様に少しは誇りを持てるかもしれない。

『―――いい顔してるじゃない。普段の堅苦しい表情より、ずっと素敵よ』

魔女が微笑む。ほんの少しの頬の動きしかしない、よく観察しないと判断できないレベルのもの。
私は何も言わず微笑み返す。周囲の堅苦しい雰囲気は削ぎ落とされ、僅かながら温かみのある雰囲気が訪れる。それは私の心に吹いた風と呼応してるせいか、よく染み渡る。

『そうか?いつも通りだと思うが』

『貴方の見せる表情の殆どは仏頂面よ。或いは嘲る様なものとかね』

呆れた様に呟く魔女。折角見せた柔い微笑みはどこ吹く風だ。

『まぁいいわ。それより、基礎的な魔術を行うにあたって魔術回路なるものが必要らしいけど、それって先天的なものに近いんでしょ?それでも私は魔法を使えるのだから、魔術回路はあるって捉えていいのかしら』

『さてな。定義が不明瞭な以上明確なことは言えないが、魔力の使い方を知っているのならば、仮に魔術回路が無くてもそれに準ずる魔術なら使えるかもしれないな。例えば、宝石に魔力を籠める、とかな』

『なんで宝石なの?』

『………私も殆ど憶えてはいないが、恐らくは魔力を通しやすいとかそこらへんだった気が。とにかく、宝石に魔力を籠め触媒とする事で短い詠唱で魔術を行使することが可能となる』

そんなことを凛の前で言えば間違いなく怒られる。何せ擬似的な師の得意分野の魔術形式を忘れたと言うのだから。

『だが魔術にも得意不得意が存在してだな、もしかすると君は宝石魔術と相性が悪い可能性だってある。そこは属性が関わって来るんだ。先程起源の話の際に私が起源が剣だと曖昧に言ったのは、私の属性が剣だという事から連想した結果なんだ』

『属性が、剣?そんなの聞いたことが無いわ』

『そうだろうさ。属性には稀に特殊なものを持つものがいてな、そういった奴等は他の魔術師では到達出来ない場所へと足を踏み入れるらしい。私自身、普通の魔術師では何の役にも立たない投影魔術を、我が物としてしまったのがいい証拠だ』

だがそれ故に普通の魔術師に出来ることが出来なくなっている辺りが、普通に恵まれない人生を沸々と語っている。

『属性を除いてならば、流動・変換の魔術が得意ならば宝石魔術はお誂え向きだな。それは君が魔術師でなかろうと一度は経験したことのある初歩の初歩だろうから語るべくも無いだろう』

パチュリーは何も言わず頷き、それを合図に話を続ける。

『属性を知るなら私の魔術を使って君の身体を調べれば容易に調べることは可能ではあるが、それは不愉快だろう?』

『………まぁ否定はしないわ。でも大丈夫、なんとなくだけど予想はついてる』

『ほう、流石は魔法使い、とでも言えばいいかな』

『茶化さないで頂戴。恐らく―――私は五大元素ね』

内心驚いた。確証がないとは言え、それなりに希少な五大元素使いをこの目で三人目を拝むことになろうとは。

『貴方みたいな言い回しだけれど、私の能力は火水木金土日月を操る程度の能力―――つまり、自然の魔力を最大級に活用出来る能力。私はこれを魔法に応用してるのだけれど、それならこの五大元素ってのが私には一番近いんじゃないかしらって思ったのよ』

パチュリーは本を捲りながら説明をしている。意識はどうやら再び本へと向けられたらしい。
………彼女が本当に五大元素使いの素質があるのだとすれば、これはもしかすると第二魔法に到達するのではないかと思ってしまう。しかも助力無しで。
或いはこの世界の魔法と魔術を組み合わせた、全く新しい何かを構成する可能性だって無きにしも非ずだ。
改めて、この世界の規格外っぷりを目の当たりにした。

『宝石魔術、か。この本によると自身の血液を以ってして魔力変換を行ってるけれど、流動・変換を用いるのなら他のものからの移し替えでも問題ないんでしょ?』

『そうだな。魔術師の血液が最も身近にあり一番馴染むものであるから例として喩えられているのであって、魔力のある物質からの変換も可能ではあるだろうさ。ただし、それに比例して難易度も跳ね上がるがな』

凜曰く自分の血で行う流動・変換ならば、身体の一部を使っている故に扱いが楽らしい。それに対して、自身とは全く異なるものからの変換―――ましてや取り出すような形となると難しくなる。初めてつけた義手義足が思い通りに動かないように。だから血を触媒にする、という手法が記載される。

『ただ、それだけではない。自身のキャパシティ以上の魔力を取り出したりすることは身体に大きな負担を掛ける。しかし、自身の成長と共に肥える魔力が流れる血液ならば、そんなことを考えず実行に移せるというのもあるんだ。これによって自身の熟練度を測ることも可能だし、損は絶対にしないという面でも重宝される』

『……………』

『ん、どうした?』

ふと気がつくと、パチュリーが訝しげな視線を送っていた。彼女のことだから、説明が理解できないという訳ではないとは思うが。

『いえ、ただ―――ずいぶん饒舌になったものね。魔術の話になってから』

『そうか?』

『まぁそれより、貴方がそれほどまでに深い知識を有してるのが驚きだった』

『………莫迦にしてるのか?』

『そうじゃないわ。ただ、少し悔しかっただけ』

私に向けられた視線は地面へと落ちる。哀愁が漂うその姿の出現に内心戸惑う。

『産まれてから殆どの月日を知識の習得に費やしていた私が知らなくて、違う誰かは知っているって事実がね。それは僅かな片鱗でしかないかもしれないけど、私にとって知識は数ではなく、全てが同じ価値のあるものだって考えてるから』

―――やはり彼女の起源は知識で確定かもしれないな。
取るに足らない知識のひとつですら強く渇望するこの姿勢。書物だけでは完全に理解は出来ないであろう概念―――死という知識を得る為には、死ぬことも躊躇わない死狂いともなるのではないかと不安になる。
大袈裟な喩えかもしれないが、起源覚醒者というのは言葉だけの生温いものではない。実際に完全に覚醒した者を知れば、そのタガの外れ具合が理解できるだろう。

『でも、逆に嬉しくもあるのよ。知らないことを識るという楽しさと、まだ私の生きる楽しみは存在しているんだってことが分かって』

『………それは何よりだ』

でもどうやら、彼女は起源覚醒には至ってない。しかしこのまま知識を追い求めれば確実にそこに行き着く。
それを止めることは私には出来ない。生きる楽しみが識ることだというのなら、それを奪い取れば抑圧した心が暴走して覚醒してしまう。

―――目の前にいても、救えない。そんなもどかしさを何度も味わってきた。そして今もまた。
一生逃げることの出来ない現実を背負い歩くと決めたとはいえ、そんなものに慣れる筈もなく。
拳を握り締め、ただ行く末を見守るしかできない、それが嫌で嫌で。どうしようもないんだと割り切ることも出来なくて。
不治の病を宣告された人間と同じだ。医者の癖に治せないのかと八つ当たりするしかできなくて。どうしようもないって分かってるのに、そうやって足掻くことしか出来なくて。
結局のところ、神ではないのだから何をするにも当たり前は存在しないのだ。私には、誰かを救えるだけの力が他の人よりもほんのちょっと多かった、ただそれだけなんだ。それも物理的なものだけ。

『―――もしかして、私が起源覚醒者になったら、みたいな事考えてるんじゃないでしょうね』

『――――――!』

パチュリーの的を射た疑問をぶつけられ、驚きを隠せない自分がいた。

『その様子じゃ、そうみたいね。侮らないで頂戴。私は貴方みたいな人間とは違う。人間なんかよりも遥かに丈夫に出来ている妖怪の精神を舐めないで』

静かに彼女はそう切り捨てるように答える。
言葉通りならば怒りを露にしてる風があるかもしれないが、彼女は平静そのもの。いや、いつもより大人しくすら感じる。
いや、視線は私から逸れているし、よく見れば平静な表情には僅かに赤みが掛かってる。そしてその状態から動こうともしない。

『まさかとは思うが―――慰めてくれたのか?』

『ッ―――――――!!』

そうではないかと思い言葉にした刹那、強烈な衝撃がジャストで脛に響き渡り、その痛みに私は無様に転がり回る。
痛い、物凄く痛い。強化も掛けていない私の身体は通常の人間のそれと大差無い。弱点ともなれば尚更だ。

意識が痛みで霧散する中、衝撃を与えた正体を苦悶の表情で睨みつける。そいつもまた、逆上せ上がったみたいに赤くなっており、息が乱れていないのに肩は上下を繰り返していた。

『何をするんだ君は!』

『五月蝿い!莫迦!』

『莫迦とはなんだ!こっちは訳も分からないまま蹴られてるんだぞ!』

『察しろ莫迦!』

『まだ言うか!』

ギャーギャーという喧騒がだだ広い図書館を埋め尽くす。喩えどんなに離れていようとこの声だけは聞こえているんじゃないかって程に。
そんな言い争いをしてるにも関わらず誰も来る気配がない。ここには正真正銘私達二人しか居ないのだろう。

暫くこんな不毛な言い争いを繰り返し、いつしかお互いに息を乱していた。
地下故の遥か高くに位置する窓からは、知らず朝日が差し込んでいた。

『うっ―――ゲホッ、ゲホッ!』

『ど、どうした!』

突如咳き込むパチュリーへとすぐさま近づき、背中を摩る。
長い咳き込を終え、押さえていた手からは数滴の鮮血が付着していた。

『平気………いつもの喘息だから。ただ、ちょっと大声を出しすぎたせいで喉を痛めたようだけど』

そして再び咳き込む。先程までの気の強さは最早どこにもなく、あるのはただ病弱な少女の姿だけ。

『すまない………。大声を出させるような真似をしてしまって………』

『謝る必要はないわ。寧ろ御免なさい、悪いのは全面的に私なのに謝らせちゃって』

『そんなことはない。君の体調事情さえ知っていればこんな結果にはならなかったかもしれないのに』

『そんな過ぎたことを言っても仕方ないじゃない。それに私自身、最近体調が良かったのもあったから油断してたせいよ』

延々と謝罪と否定の言葉が繰り替えされ、先程と同じ轍を踏むと思った矢先、彼女の番で言葉は止み、代わりに軽く吹き出すような笑いが漏れて拍子抜けを起こす。

『ど、どうした?』

『いえ、ただ………さっきまであんなに喧嘩腰だったのに、今ではお互いに謝り合ってるって状況が何だか可笑しくて』

確かに。冷静に大局を見るとこれほど莫迦げた茶番は無い。
些細で子供じみた口論は、お互いの知らない内に正当性の譲り合いという真逆のものとなっているのだから。
そんな姿を客観的に想像して、私も思わず笑ってしまう。

『くっ―――。確かにこれは滑稽だな』

『これじゃどっちが莫迦なんだか』

『両方、だろ』

お互いの笑いが細やかに木霊する。
ひっきりなしに変わる図書館の雰囲気の忙しさにも、ようやく終わりが訪れた。ただ残ったのは、優しい笑顔だけだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


『それじゃあ、いつでも来なさい。とは言っても、擬似借金抱えたまま逃げたりでもすれば、お嬢様が冥府の先まで追いかけてくるでしょうけれど』

朝日が完全に立ち昇った快晴の空の下、私は咲夜と美鈴の見送りを受けている。

あの後、私はパチュリーを休ませるべく彼女の部屋へと抱えて移動しようとしたが全力で拒否され、逆に私に次の仕事を探すべく後押しされた。少し負い目はあるものの、彼女のことを思えば素直に従っておくのが良いと判断した。彼女自身、詠唱の為に喉を傷つけるような真似は、魔法を使うことを主としているのならしないだろうし。
そして咲夜に一言掛けると、見送りにまで来てくれた。その際に外にいた美鈴も含めこうしている。

『………なんだか喋り方が違う気がするのだが』

『あれはお客様用の。今の貴方は客人ではなくて一緒に働く者同士なんだから、あんな喋り方じゃ肩が凝るでしょ』

『まぁ、そうだろうが』

仕事とプライベートをきっちりと分けているという点では、彼女はいいメイドだと思う。失礼かもしれないが、仕事ぶりを見ていた訳ではないからそれ以外は答えるには早いだろうけど。

『シロウさん、体調には気を付けてくださいね。そろそろ秋の兆しが見えてきましたからね~。だから外に居るのは辛いです………』

『それが貴方の仕事なんだから我慢しなさい』

弱気な美鈴を叱咤する咲夜。この二人は仲が良いのか悪いのか良く分からない。

『やはりレミリア達は寝ているのか?』

『えぇ、お嬢様は昨日珍しく朝起きていたから暫くは起きないでしょうね。妹様は、寝不足な姿を見られるのは嫌なのか自分から会うのを躊躇ってたわ』

気まぐれに朝活動する吸血鬼か。そんな常識外れな奴はいくらでもいるものだな。
フランのことだから引き摺ってでも付いて来ると思っていたが、そこまでではなかったようだ。

『まぁでも、そんな気まぐれは暫く続くんじゃないかしら。何せいつ貴方が来るか楽しみにしてらっしゃったから』

『は―――どうやら玩具として見られてるようだな私は』

『理解してるならいいわ。精々お嬢様を楽しませてくれると助かるわ』

『これはこれは、随分と難題を押し付けられてしまったかな』

彼女達と会うのも暫く先か。人数が多い分ドタバタが多かった分、何だか寂しさもそれ相応だ。とは言っても、いずれまた訪れるのだ。不都合もなければ後ろ襟を掴まれることもない。

『それじゃあ、また会いましょう』

『お元気で~!』

二人の挨拶に見送られ、その場を後にする。
真紅の館から真紅の青年が立ち去るその姿は、単純な構成にも関わらず、どこか神秘的な要素を含んでいた。
次に目指すのは白玉楼。新たな友となった青年の言葉を信じて、まだ見ぬ剣を拝むべく遥か遠くを見据えた。
久しぶりのおまけターイム






遥か遠巻きでは、我が紅魔館に随分と昔から住み着いているパチュリー・ノーレッジと、新たにここで働くことになり、戦闘も出来るという執事エミヤシロウがなにやら熱心に会話をしている。内容までは聞こえないが、近づきすぎると下手をすればバレる。
私一人ではそんなことはないのだが、何せ――――――、

『お嬢様………こんな品性の疑われるような事をしてていいんですか?』

『む~、私もお父様と遊びたいのに~………』

『パチュリー様、何だか楽しそう』

『いつの間にあんなに仲良くなったんだろう………』

上から咲夜、フラン、こあ、リトルと、まるでトーテムポールみたいに頭を段々と乗せた状態で覗き込んでいる。腹立たしいことに私は一番下だ。お陰で見辛いったらありゃしない。

『うっさいわねぇ………。五月蝿くするだけなら帰りなさいよ。
私はこんな面白そうな状況を見逃すって方が品性を問うわね』

『流石お姉さま、外道の道まっしぐらだね』

『しばくわよ』

普段なら喧嘩上等だが、今騒ぐのはよろしくない。ここは大人の対応で口上だけに留めておく。

『あ、なんか騒ぎ出した』

『ほんとですわね。この角度じゃあよくわかりませんけれど………取り敢えず彼がのた打ち回っているのは面白いですわね』

意識をフランに向けていた為決定的瞬間は見逃したが、どうせパチュリーがシロウに不意打ちでも仕掛けたのだろう。魔理沙を倒す程の実力はあるのだから、余程油断が無い限りそんなヘマはしないとは思うが。
それ程に、シロウはパチュリーに対して心を許しているのか。或いはパチュリーがシロウに敵意無く接しているからか。
何にせよ、家主としては関係に障害は無いのは上等だ。

『それにしても、フランの次はパチュリーか』

あの男は、無意識的にせよ意識的にせよ物凄い速さでここに住む者達を懐柔している。これは、私の能力を以ってしても読めなかった運命だ。
運命の輪から外れた行動を取る男、エミヤシロウ―――ますます面白みが出てきたわね。

『今度は大人しくなった………。パチュリーが咳き込んでからかな』

『パチュリー様の喉をを早く休ませないとせっかくの美しい声が台無しになってしまいますよ~!』

あぁ、五月蝿い。
言葉にしてやりたいが墓穴を掘る真似だけはしたくない。それこそ恥晒しだ。
唇を噛み締めて怒りを抑制する。うん、私は大人だ。

『二人とも、凄く楽しそう………いいなぁ』

『私もあんな風に男性と喋れればいいんだけどなぁ』

『大丈夫、貴女なら出来るわ』

『お嬢様、そろそろご就寝なさらないとお身体に障りますわ』

―――あ、やばいもうだめだ。
私の怒りが天界まで昇らんとした瞬間、私は目にした。

『やばっ―――逃げるわよ』

沸騰した頭が一瞬で冷静になるのが理解る。遠巻きにいた筈の二人が遅めに、だが着実に此方へと詰め寄ってくる。
会話が聞こえた訳ではなさそうだから、これもまた偶然だ。冷静だと思っていた自身だが、そういえば運命を探るのを忘れていた。面白さを優先した結果がこれだよ!
運命操作をするにも、これでは予定調和にまで持っていけない可能性がある。自分の力の限界を知っている以上、悪足掻きにしかならない。

私達はあたふたとしながらも、迅速に図書館から脱出した。


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