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さて皆さん、如何なクリスマスをお過ごしですか、または過ごしましたか?
私はこうして小説を書いてます。あと男友達と遊びました。
小説内でも、男二人というむさい内容になっております。いい思いはさせねーぜ。

いや、私にはゆうかりんがいるじゃないか。さぁゆうかりん、寒いだろう?だからこっちにおいd(ピチューン
幻想に惹かれた者達
絆 Ⅱ
只管に地を蹴り、前に進む。人間の里と魔法の森の合間に存在するという知識だけを頼りに、私は今奔走している。
紅魔館を出てから時間はそこまで経過していない。意外と強化した足で走れば距離が無いことに気付き、私が今まで行動した範囲がどれだけ狭いのかが窺い知れる。

初めてこの周辺に来た頃は、道なぞまともに憶えている余裕はなかった。それに魔法の森に居たと知ったのは、その特徴でもある胞子を認識できない程の夜中で、どこからが境目なのかすら理解していなかった。
今にして思えば、軽率だったと悔やまれる。

『――――――ふぅ』

足を止め、一息吐く。
目が利く私のであろうと、月の光の恩恵が薄い森林内ではその効力は薄まる。
強化は出来ても、超越は出来ないのだ。暗がりに目が利きにくい人間には程度が知れている。

あまり意味を為さないかもしれないが、近くの木に飛び乗り辺りを見回す。
月の光を一身に浴びる。なんとも疲労した身体に染み込む様な感覚に、高揚感を感じる。レミリアやフランの様な吸血鬼は、やはり月の味というのは好きなのだろうか。

目を閉じ、想像する。悠然と月夜を舞う姉の吸血鬼と、無邪気に月夜を泳ぐ妹の吸血鬼の姿を。
飛んでいる最中の表情は幸せそうで、お互い違った動きをしているのにも関わらず、何故だかそれらが全てシンクロしてる風に感じさせるのも、二人が月夜の一部となっているからだろう。
美しい舞と元気な舞。どちらも見惚れるには十分な動きを私の頭の中で続けていく。
人間には到底不可能であるその動きは、まさに神秘。夜の女王と呼んでも相違ない。

気がつけば息は整い、疲労も薄まっていた。どれだけここで妄想に耽っていたのだろうか。
私は意識を再び探索に向ける。
探すべきは上から覗くことで分かる程度の空間。そこだけ木の本数が少なければ、何かしらの建造物があると踏んでいい筈。

『あれ、だろうか』

ほんの少しだけ拓けた場所を確認する。それよりも更に遠くにある空間は、見覚えのある館が見える。あれは確かアリスが住んでいる所だ。つまりはあそこは魔法の森だ。
そこから目線を落としていくと、僅かにだが木々が薄くなっている境界を発見する。先程確認した拓けた場所も、その下の範囲に確認できた。どうやらあそこからが境目になっているのだろう。
私はそこへと木々を伝って向かう。距離にしてその場からそれ程遠くなかったのに気がつかなかったのも、この世界の夜の暗さ故か、森の深さ故か。

ぽっかりと空いた空間へと飛び降りる。するとそこには、なんとも形容しがたい風貌の物が存在していた。
大きさにしては一軒家にも満たない小さな家で、その周囲には人間大レベルの大きさの狸の置物や、道路標識といった見覚えのある物体で埋め尽くされている。
そして入り口の上には、でかでかと香霖堂と書かれた看板が掛けられていた。
窓からは光が差し込んでおり、家主が寝てはいないことが確認できた。

私は横引きの扉を音を立てて開く。その感覚が、なんだかとても懐かしい。

『いらっしゃい………かな?でも悪いね、今日は店仕舞なんだ』

カウンターと思わしき場所に座り込んでいたのは、純粋な銀のショートヘアに青色の着物、そして目を引くのが眼鏡、という男性だった。
青年は少し眠たそうな表情をしながら、読んでいたのであろう本を閉じる。そのまま目線は私へと向けられる。

『夜分遅く訪れたのは謝罪する。しかし私にもあまり時間が無い故に、このような時間に来る形になってしまった。僅かでいい、時間をもらえないだろうか?』

『へぇ、礼儀正しいんだね。うちに来る客は基本礼儀知らずだから少し感心したよ。
あい分かった。こんな店のものでよければ見ていくといい』

『感謝する』

了承を得たところで私は玄関口から歩き出す。
店の中も、外にあったものとあるものはそこまで変わらない。外とは違って小物を中心に並べられている程度の違いしかない。

しかし、妙に違和感を感じる。分かっている気がする、程度の違和感。
そうだ、ここに商品として陳列されているものの殆どに見覚えがあるのだ。自分にとって当たり前過ぎたものばかりで、違和感としか認識できなかった。
しかしここはその当たり前の世界ではない。逆にこういった物質は行き届かない世界であり、ここにある物質はまさに異分子といっても過言ではない。

私はそのひとつである腕時計を手に取る。しかしそこには電子表記される筈の時間は表示されておらず、用途を一切果たせていない。

『それは腕時計といってね、手首に巻いていつでも時間を確認できる様にするものだよ。しかしどうにも時間を見ることが出来ないんだ』

店主がその用途を説明する。ここに住まう者ならば新鮮に聞こえるであろう言葉も、私には当たり前すぎて聞くことすらなくなった説明。
しかし、時間が表記されないのは壊れているのか、電池が無いだけなのか。

『――――同調、開始(トレース・オン)

外部損害―――――正常。しかし多少の綻びはある。駆動の際の阻害はなし。
機能―――――正常。しかし駆動させる為のボタン電池が二個不良。

『なるほどな。店主、ドライバーはあるか。出来るだけ小さなプラスドライバー』

『え?ドライバーならたしか………これかい?』

カウンターの後ろの棚を物色して数分、ようやく見つけたようで疲れ気味に手渡してくれる。
私はその合間を縫って隠れて正常なボタン電池を投影しておいた。最近剣以外のものばかり投影してる気がする。

手馴れた動きで螺子をはずし、中のものと交換させて再び蓋を閉める。すると電子パネルには、ゼロの数字が四つ刻まれた。どうやら時間はリセットされている模様。

『ほう………凄いね。見ただけで動かない原因が分かったのかい?』

その作業を観察していた店主が、感心した様子で腕時計を眺めている。

『まぁ、ある意味見ただけだな。取り敢えずこれは返すよ』

手渡されたそれを、店主は早速手首に巻き用途を果たす。ご満悦な表情を見て、やってよかったと思えてくる。

『お礼といってはだけど、僕のコレクションを見るかい?とは言っても、有効活用できそうだから非売品にしたものなんだけど』

非売品にしたもの。つまりはこの世界でもなんら問題なく使用できるもの。
もしかするとパチュリーの眼鏡に適うものもあるかもしれない。とは言っても譲ってくれる確率は低そうだが。

『いいのか?ならばお言葉に甘えるとしよう』

『そうと決まれば上がって。今から君は客じゃなくて客人だ。もてなすよ』

カウンター奥にあった道を抜けて、居間らしき場所へと上がる。併用しているせいか、居間の方が少し狭い気がする。
しかし決して散らかってる訳ではなく、男一人にしてはきちんと整理された生活感を醸し出している。

『この部屋に飾ってあるのは基本非売品だね。このストーブとかはこれから寒くなるだろうから重宝するよ~』

楽しそうに説明をする姿はとても初期の印象からは計れない。凜に紅茶等について語った際に子供っぽいと言われた経験があったが、今の店主の状況がまさにそれなのだろう。傍から見ればなんだが変人。自分と重ねることで恥ずかしく思えてくる。

そんな一般用品の中、隠れる様に埋もれていた"それ"を発見する。

『これ、は―――』

突き立てられていたそれを引き抜く。無防備に晒されていたにも関わらず、それは一片の汚れなく凛とした姿を保っていた。

天叢雲剣(アマノムラクモノツルギ)―――だと?』

恐らく日本人ならば知らない者はいないであろう、有名な剣。
三種の神器のひとつで、素戔嗚尊(スサノオ)八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を退治した際に尾から出てきたそれを天照大神(アマテラスオオカミ)に献上されたという剣。草薙剣(くさなぎのつるぎ)都牟刈の大刀(つむがりのたち)八重垣剣(やえがきのつるぎ)とも称されることもあるが、その名はあまり浸透されていない。
この剣を持つものの上には雲が押し寄せ、頭上にはいつも雲がかかっていたのでその名がついている。
雨とは、天とも読める。この剣の持つものの周囲だけが雨振りだとすれば、ここに天が下る、つまり天下があるという意味にも取れる。
気象が世界にとっての矛盾を起こしてでも思惑通りに動かない―――それはつまり、世界を揺るがす力がこの剣には込められているということだ。そんなランクAクラスの剣が、何故こんなところに………。

『君にもその剣の凄さが分かるのかい?』

後ろから聞こえてきた店主の声に我を取り戻す。実物を拝見したのは初めてだったから、見惚れてしまっていた。

『私は武器に関してはそこそこの知識を持っている。そしてこの剣が天叢雲剣だということも一目で理解したよ』

『へぇ………僕は能力を使ってそれの正体を看破したというのに、君はどうやってそれの知識を得たんだい?』

慧音曰く、彼の能力は物の名前と用途が分かるものらしい。確かに、その様な能力がなければこの剣を非売品にしようとは思わないだろう。鑑定眼の無いものからすればこの剣は切れ味がよさそうには見えない、儀礼用の青銅剣だとしか判断しない筈。
しかし、この剣は恐らくこれ本体で切り付けるものでは無い。これ程の剣の投影にはかなりの負担がある為一度も造ったことは無かったが、この手の武器に関しては例が何個として丘に突き刺さっている。これもその類なのだろう。

『なに、大したことはしてない。この手のものが好きな奴ならば、自然と識る機会はあるものだよ』

『と、いうことはだ。君はこれ程の武器を幾つも知っていると捉えてもいいのかい?』

期待した眼差しで此方をじっと見つめてくる。私という存在に興味を持ったらしい。私としても、看破能力だけなら私と近しい彼に興味はある。

『私が知り得る知識をひけらかせ、ということかい?』

『はは………まぁ、そういうことになるかな』

照れ笑いを浮かべる彼は、子供みたいだと思った。私も久しぶりに男性との会話を楽しんでいる。
女性への会話とはまた違った無遠慮な雰囲気が、同姓同士にはある。最近ドタバタが多かったから、少し楽しませてもらうとしようか。

『了解した。では、話すとしよう』

私は天叢雲剣を元の場所に返し、彼と向かい合い言葉を切り出した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


『凄いな………そんなに武器の種類があったなんて』

あれから数時間。パチュリーの頼まれごとなんぞは記憶から消え去り、私は会話を楽しんだ。相手である彼―――森近霖之助と対話の中名乗っていた―――もまた、同様に楽しんでいる風に見えた。
最初は武器だけの話だったが、横道に逸れて彼の持つ知識も聞くことができた。大半が外に対する知識だったが、興味深い話も聞くことが出来た。
どうやら幻想郷には、斬られた者の迷いを断つことが出来る刀と一振りで幽霊十匹分の殺傷力を持つ対の刀が存在するらしい。しかもそれは白玉楼にいる剣士が持っているとか。

白玉楼といえば、バイト先のひとつだ。確か剣術指南役を募集しているらしい。そう考えればこの情報は嘘には聞こえない。
これは僥倖かもしれない。私はここに訪れる切っ掛けを与えてくれたパチュリーと、彼の知識と教えてくれた事に感謝した。

『私自身、書物から得た知識も大半だから実物を拝見した数は五分五分だな。先程の天叢雲剣のように、な』

私が投影できるのは、実物を見たか細部に渡って情報が公開されており、それを識っているという範囲だけ。
名前を知っているだけでは投影は不可能。英雄王の持つエアがそれだ。あれは謎が多すぎて投影するには至らない。あれを看破しようとしても、人間の脳ではその膨大な情報量を全て理解することは不可能。いや、例えどの様な知慧を持つ者―――人間を超越している妖怪や魔法使いであろうと、いち生命体である以上原初の記憶を脳に刻もうとすれば発狂ものだ。
それほどまでに、あの剣は恐ろしいものなのだ。そして、それを所持するあの男もまた。

『まぁ流石にそこまで上手く事は運ばないさ。この剣だって、僕の知り合いが拾ってきたジャンクに紛れていたひとつで、偶然手に入れたものに過ぎないし』

『それは不幸だな。このようなもの、そうそう手に入れる機会は無いというのに』

『まぁ、魔理沙には色々と店の物を持ってかれてたりもするし、これからもそうなると考えれば先払いで丁度いい位だよ』

最近聞いたばかりの名が、彼の口から発せられたのを私は聞き逃さなかった。
紅魔館で対峙し、その折彼女の大事にしていた炉を破壊した事実が、再び重く圧し掛かる。

『………魔理沙はここの常連なのか?』

自分でも魔理沙の名前を呟いていたのに気づいていなかったのか、霖之助は目を大きく見開かせ此方を見やる。それ程までに、彼にとって魔理沙という少女は自然な存在なのだろう。

『あぁ。彼女とは産まれる前からの知り合いみたいなものかもしれんな。とは言っても、ただ単に僕が彼女の両親が営んでいた道具店で働いていたからってだけなんだけど。
それが切っ掛けで彼女とは擬似的な兄妹みたいに世間では見られていたんじゃないかな。彼女自身、僕のことは慕ってくれていたし、僕もまんざらではなかった』

懐かしむように一語一句をゆっくり紡いでいく。
彼は指を絡めて両肘を卓袱台に乗せ、目を細めた。

『彼女はとても大人しい子でね、まともに他人と会話すら出来ない位に引っ込み思案だったんだ。そんな子だ、友達もそう簡単に出来る訳もなく、話すのはもっぱら家族か僕くらいのものだった。
でも、僕の能力を活かすには普通の道具店では駄目だ、そう思い立ってそこから出て行った。それに伴って彼女に会う回数はがらりと減った。
必然的に彼女の拠り所を奪うということも考えずに、僕は彼女を見捨てたも当然の行動を取った』

彼の絡めた両手で表情を見ることは出来ない。しかし、見ずとも理解出来る。そして語ることもおこがましい。
私は何も言わずに、次の言葉が紡がれるのを待った。

『―――僕も若かったからね。何でもやりたかったんだと思う。目先の欲の怖さを思い知るいい切っ掛けになったといえば、卑屈的かな』

顔を上げたときの彼の笑みは、涙を誘いかねんほどに憂いに満ち溢れていた。
後悔と自責の念が混ざり合ったそれは、彼の苦悩を伝えるには十分なものだった。

『生きている以上悩み、苦しむものだ。時には自虐的になることもあろう。そういう意味では、君は前向きなのではないだろうか』

『だといいがね』

憂いが晴れることはないが、ほんの少しだけ笑ってくれたことが嬉しかった。

『君は―――魔理沙をどんな子だと思っている?』

突如、話題が変わる。先程とは違った真剣さが私へと向けられる。父親が娘と交際している男に聞く質問みたいな静かな剣幕がひしひしと伝わってくる。

『最初は………活発で笑顔を絶やさない、そんな子に思えた。でも、その折垣間見えた表情が、まるで雷に脅える子供みたいに、為す術なく震えているしかない無力な自分を無理矢理奮い立たせようとしている、そんな風に見えてね。
―――何だか無理をしている風に思えてならなかった』

私は正直な感想を述べる。
壊れた炉を拾い上げる前に見せたあの表情………あれは負けたことの悔しさによる睨みなんかではなく、圧倒的な武力で蹂躙される人間が見せる最後の抵抗のひと睨みにしか見えなかった。

戦争の真ん中に常に居た私だから一瞬で見分けれるレベルの僅かな差。しかしその中に込められた想いの桁は、天秤が軽く揺らぐぐらいの差だ。
そんな目に見えない大きな痛みを、私が与えてしまったのだ。

『君の言ってることはあながち間違いでは無いと思う。
話の最中、小さな頃はとても大人しい子だったと言ったけど、僕も驚いたよ。まさか約十年近く経ったある日突然ここを訪れた彼女は、まるで別人みたいに生き生きしてたのだから。
最初は安心したさ。引っ込み事案だった少女が、色んな人にフランクな接し方を出来る子になってたんだから』

言葉とは裏腹に彼の声は低くなり、影が射していく。それだけでも、次に話す内容の重さを報せてくれる。

『―――でも、解せない事があった。彼女が魔法使いになった理由が、稚拙過ぎるんだ。
魔法使いと言うのは、適正がある人間でもなるのは困難、と言うか、高みを目指す彼女らが最後に行き着く先と言うのが、人間からの昇華―――つまり人間をやめて妖怪に至ると言うこと。それが人間の魔法使いとしての限界を超える手っ取り早い手段だからね。
でも彼女はそれを嫌っている。それでいてあれほどの魔力を秘めているんだ。彼女が培った努力が想像を絶するものだと言うのは理解出来るだろう。
彼女は魔法使いが何だかカッコいいからと言う理由でなったと話していたが、間違いなく嘘だ。そんな子供染みた理由で、あそこまで努力を続けれる訳がない。
―――彼女は私からすれば無理をしてる風にしか見えない。常に心も体も疲弊し切っている筈なのに鞭を奮って………痛々し過ぎるよ』

不謹慎かもしれないが、彼も痛々しさでは負けてはいない。本気で苦しんでいる姿をこうして傍観しているが、私には話を聞くことしか出来ない。
こんな事で晴れる様な問題では無いのは分かっている。しかしこんな無力な私に苦悩を打ち明けることで、彼の気が少しでも楽になってほしい………そう思う。

『彼女自身何も言わないが、魔法使いになった本当の理由は僕にあるんじゃないかって、最近思うんだ。
幼い記憶ながら理解してたのか、成長した後に聞いたのかは分からないが………僕がこういった物を取り扱いと言う決意の元独立したのを知って、自分が魔法使いの様な特別な道具を取り扱う人種になれば、何の弊害もなく会うことが出来る―――そう解釈して。
もしそうだとしたら、お互い莫迦だよ。そんなことしなくても彼女を拒む気なんか毛頭無いのに、そんな事をしてまで僕に会いにくるなんて。そしてそんなことの為に彼女を苦しませる行動を取ってしまった僕が、ね』

ふぅ、と溜息を吐いた彼はそれ以上は何も言わなくなった。これで終わりなのか、これ以上言うのは憚られたか。どちらにせよ、私に出来ることはもうなくなってしまった。

『後悔するなとは言わないが、縛られてはいけない。どんな結果になったにしろ、今の魔理沙がホンモノなんだ。そして後悔するぐらいならば、責任を取って支えてやればいい。
―――人は決して過去には戻れやしない。仮にその術があったとしても、そんな労力を使うぐらいならば前を向いて現実を受け入れる方がよっぽど利己的で、強いと私は思うな』

教科書通りの慰めしか言えない自分に腹が立つ。
やはり私はこういった事ですら不器用だ。誰にでも言えるこんな言葉になぞ、何の意味も無い。
これは自己満足だ。何も出来ない自分が悔しくて、せめて足掻きたかったのか、正義の味方としてなにかしてやりたかっただけか。

『強さなんかいらないけど………支えることくらいになら、僕にも出来るのかな』

『出来るさ、絶対に』

『………だといいな』

会話は再び途絶え、小さな部屋には耳を劈く静寂だけが響く。しかし間も無く、霖之助が口を開いた。

『そういえば、魔理沙とはどこで会ったんだい?』

そういえばすっかりとここに来た目的を忘れていた。私は心の中で安堵する。

『そうだな、私は現在―――というか一昨日から紅魔館で働くことになったのだが、図書館に案内された折、彼女が侵入している所に出くわしてしまってね。私は皆が彼女を数の暴力で律されることを恐れ、私との一騎打ちに持ち込むことを提案したんだ』

『それで、了承されたのかい?』

『あぁ。勝負の結果は………私の勝利ではあった。しかし、その時に私は彼女の持ち物である小さな炉を破壊してしまった。今でも悔やんでるよ、もっとましな手段があったのではないか、とね』

先程とは打って変わって、私が彼に話しをする番になった。
まったく、これでは偉そうに説いたところで説得力が皆無だな。

『その炉って、もしかしてこんな形をしてなかったかい?』

徐に立ち上がった霖之助は、先程天叢雲剣があった箇所を念入りに探し出し、ひとつの丸まった紙を取り出し、卓袱台に広げた。
私は驚いた。彼が出してきた紙は、私が破壊した炉の詳細を事細かく書いていた設計図だった。

『どうやらそうらしいね。これはミニ八卦炉といって、僕が魔理沙のために作成した万能の炉なんだ。
水を沸かす程度の火も出せれば、攻撃用にも使えるほどの超高熱だって出せる自信作さ。外の世界の道具を溶かして混ぜることによって、魔除けや開運などの機能も付加されてる。
一度緋々色金で作り直して欲しいと魔理沙から要望があった際にこうやって書いておいたんだ、何せまた無茶な要求をされたとき楽になるしね。
―――しかし、こんな形で役立つことになるとはね』

『すまない。大事にしていたであろう彼女のものであり、君の自信作を………』

『仕方ないさ、ああいった使い方をしていればそうなるのは必定だ。寧ろ今まで無事だったのが信じられないくらいさ』

彼女が使い古していた時期の程度は分からない。しかしそれまで壊れることが無かったのは、間違いなくそれを大事にしていたからだ。恐らく、どんなものよりも。
いわば、八卦炉は絆の象徴。二人の在り方を具現化させた、どんな宝にも代え難い代物。

『―――こんなことを言える立場ではないのは重々承知している。でも、言わせてくれ。
その設計図を貸してくれないか、壊した責任を取りたいんだ』

彼があの八卦炉を作ったというのならば、私も同じ手法で作りたい。
魔理沙はそれで満足しないだろうし、結果が覆る訳でもない。これは私の勝手な我が儘だ。
投影を用いずに、あれを再現するには途方も無い労力と時間が必要になるに違いない。
それでも、これだけは自分の手で造り上げたい。下らない意地かもしれないけど、もう決めたことだ。

『別に構わないけど………これを造るのは素人には無理だよ。第一材料が繊細かつ貴重なものが多いんだ。それを探すだけでも苦労するんじゃないかな。
なんだったら壊れた八卦炉を魔理沙から譲って貰えば―――』

『それでは駄目だ。それじゃあ、意味がないんだ』

これは全て私が招いた結果だ。ならば他人の助けを求めていい筈がないんだ。
それに、仮に魔理沙に八卦炉を譲ってくれと言って素直にそうしてくれる訳がない。いや、即却下させるのが目に見えて明らかだ。

『まぁ君が言うなら僕はこれ以上は言っても無駄なんだろう。
―――でも、本当に材料が見つからなかったらもう一度ここに来るといい。もしかすると魔理沙が八卦炉の修理を要請してくる可能性があるから、その部品を保管しておくよ』

『気持ちは有り難いが………もし彼女が修理を頼んできたのなら、私のことは気にせずやってくれ。
これは私の勝手な独り善がりだ。君が心配してくれる必要もなければ理由も無い』

冷たい言い方になったかもしれないが、彼の厚意はとても嬉しかった。それだけでも、私は頑張れる気がする。

『………ならせめて、前報酬として何かひとつマジックアイテムを持っていくといい。本来はその目的で来たのだろう?』

『前報酬?何を訳の分からないことを―――』

意図する意味を理解出来ない私の声を、彼の声が制する。

『君が八卦炉を作ってくれるならそれは僕にとっても有り難いことなんだ。さっきも言ったけどあれの作成及び修理ってのは難しいんだ。そんな重労働を任せるんだ、多少のマジックアイテムくらい安いものさ』

『待て、だからこれは私の勝手な―――』

『いいんだ。じゃあ君が眼鏡にしたマジックアイテムが、僕と君を繋いだ証、そう思ってくれれば』

―――あぁ、この男は気付いてるのかもしれない。私がこの出来事に躍起になっている理由を。頑なに決意を固めた視線から逃れられない。彼の魔理沙に対する思いはホンモノなんだって事がとても伝わってくる。

『………分かった。ならば遠慮なく受け取らせてもらう』

『うん。でも一個だけだからね』

私は部屋の中を再び物色してみる。そもそもマジックアイテムとは触媒のことを指しているのだろうか。それとも天叢雲剣の様な物質もまたそれに該当するのか、判断に困る。
多少の魔力が篭った程度のものではあの魔女は満足しないだろうし、だからといってあの剣を貰っていくなんて厚かましい真似は出来ない。

『………これは?』

そんな中、一冊の分厚い本が出てくる。
埃に塗れた、いかにも年代物だというそれの中身を開く。書いてあったことは、予想だにしないものだった。

『魔術教本、か』

魔術を極めるにあたって魔術師ならば誰もが目を通すような、いわば入門書の類だ。大体魔術師の家系の本棚には一冊はひっそりと置かれている、価値もそこまでのものではない。しかし魔術の情報を細部に渡って執筆されている、という点ではこれも立派なマジックアイテムなのではないだろうか。
私も読んだことはあるが、要所要所だけだ。何せ真面目に読んだところで他にも魔術を習得できるか?という分かりきった疑問には、最初から答えが出ているからな。
だが、知識を求めるのを是とするパチュリーにはいい暇潰しにはなるのではないか。これならばどちらの世界だろうと大した価値はない。

『そんな本がいいのかい?僕としては有り難いくらいだよ。何せ途切れ途切れにしか読めなかったしね、魔理沙も興味本位で読んだけど訳が分からないってぼやいてた』

魔法使いである魔理沙が匙を投げたという事は、やはり魔法と魔術では色々と異なる、ということなのだろうか。ならば尚更彼女は興味を持つはずだ。

『問題ない。なにせ頼んだ本人はこういったものが好きらしいからな』

『ならどうぞ。といっても、価値の程度が何だろうが一個は一個だから』

『分かってる。感謝するよ』

私は本を手に立ち上がる。ただでさえ真夜中だったのに、最早丑三つ時くらいにはなっているのではないだろうか。

『それでは、失礼した。夜分遅く、本当にすまなかった』

『そうだね、まぁ店を開ける時間が少し遅くなるだけだからいいさ。どうせまともな客人は来やしないしね』

皮肉めいた言動ではあるが、根底からの気持ちではないのか楽しげにも見える。

『最後に―――ひとついいか?』

『なんだい?』

『どうして私に話してくれた』

霖之助は考える姿勢を数秒取った後、こう呟いた。

『さぁ、ね』

彼の真意は分からない。しかし、その時に垣間見た暖かい笑みに秘めたる想いだけは、決して悪いものでは無いと確信できた。

『今度は、用事など関係なしにいきたいものだ』

『あぁ』

軽くそう言い合うと、私は部屋から出て行き、店を後にした。
東方内では希少種の男のひとり、森近霖之助の紹介です。微妙に気が乗りません(ぉ


森近霖之助(もりちかりんのすけ)
種族:半人半妖
能力:未知のアイテムの名称と用途がわかる程度の能力
二つ名:香霖堂店主

人間の里と魔法の森の中間に座している香霖堂(こうりんどう)を経営している。
ハーフであるため、人間よりも長寿で妖怪よりは短命と分かりやすい寿命をしている。
原作は東方香霖堂という小説で、今では現物を全て持っている人も少ない。よって価値は高いと思われる。

原作ではとても常識人で、常に冷静な雰囲気を醸し出しているいわゆるクールガイ。しかし二次創作では褌一丁になりたがる所謂変体キャラになっている。

本名よりも、店名である香霖という名で呼ばれることの方が多い。寧ろみんなこーりんって呼んでる気がする。魔理沙すらも。

外から来たさまざまな商品を扱うが本人にあまり売る気が無い。有効に扱えるものだと判断すれば非売品にする、という強かさ(セコさ?)もある。

この小説内では、性格は英霊エミヤみたいな奴だって捉え方でいいです。ファンディスク(番外編)で暴走するところも、ね………。


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