今回シロウは出ません。その代わりシリアスっぽいです。あと長いです。
そこは、地獄だった。
鼻につく肉の焦げた臭い。パチパチとかすかに聞こえる万物の燃える音。
私の周りから聞こえる阿鼻叫喚、死者の声。
誰が見ても、ここにいる全ての人は助からないと理解できる。
それ程にこの世界は死に満たされていた。
『お、え――――――』
今の今まで我慢をしていたが、耐えられなくなり込み上げてきたものを吐き出そうとするが、特別そんなものは無いのか胃液だけが吐き出され喉に痺れを与えるだけに留まる。
でも、ここで吐き出していたなら心が折れていたかもしれない。
だって、この生きた亡者の群れの中で平然と生き延びているという罪悪感に押し潰されそうになるから。
勿論ただ立ち尽くしてた訳ではない。
その惨劇を目撃した瞬間、私は自然と身体を動かしていた。
しかし私が手を差し出しても誰もそれに気付かない。触れようとしても何かに阻まれた様に当たるギリギリで腕が進まない。
それで実感する。
これは、夢なんだと。
夢というのは、無定型でどんな理不尽でも叶えてくれる、まさに夢の様な空間だと思っていた。
しかし今の状況は、まるでアドリブの許されない劇で踊らされているに等しい。
僅かな事実すら変えることは決して許されず、それになぞっていくだけ。
これは、本当に夢なの?
こんなにも救われない世界を、何で私が見なければいけないの?
何の、為に――――――
出来るだけこの光景を焼き付け様と辺りを余すこと無く直視する。
それが今の私が出来る役目だと、そう言い聞かせて。
そんな中、生存者を見た。
中年男性だろうか。髪、服装とも不精で、あまりにも生活観の無いその姿はホームレスを連想させる。
彼もまた先程の私みたいに瀕死の人達へと手を差し出述べてる。
ただ違うのは、彼はこの夢の住人だと言うことだけ。
彼は私と違い、抱き抱える行為や手当てをする事が出来た。
でも、そんな事が出来るからって救える訳では無い。
地獄にいる死者を現世へ引っ張り戻すことは不可能なのだから。
それでも彼は生存者を探した。
砂漠の中に落とした指輪を探すみたいに、とても低い確率にすがって。絶対に助けれると信じて。
その姿が、とても痛々しかった。
罪の意識に駆られたその表情。まるで彼がこの地獄を創り上げた張本人だと言わんばかり。
その表情には、救いが無かった。
もし生存者がいなければここで一緒に死に兼ねない位に逼迫している。
私は、自然とその姿を追いかけていた。
誰かが見ていないと、簡単に死んでしまいそうな気がして。
―――それと、彼を見つけた時から何故か頭の中で声がしたから。
目を背けてはならない、貴方は知るべきだ、と。
その声に操られるかの様に、私は男を追いかける。
駆け抜ける先には数多の死。
それでも、立ち止まる訳にはいかない。
今の私には、知らない人間なんかの死よりも彼に追いつくことの方が大事だった。
普段の私ならそんな選択はしない。
でも、これは夢だから。
客観的に見せられているだけの存在には、どうしようもないんだ。
どう、しようも。
突如、男が足を止めたかと思うとおもむろに地面に膝を着く。
目線の先には、年端もいかない子供がいる。
茶色の短めの髪の少年、どうやらその子はまだ助かるらしい。男が安堵の息を漏らしているその姿からそれを伺える。
よかった、こんな世界にも小粒のような救いはあったんだと嬉しく感じる。
突如、黄金が視界全てを支配する。
男の身体から―――いや、その黄金の光がどんどん身体から剥離していくと、ひとつの形を成した。
それは、鞘。
煌びやかに彩色されたその鞘からは、惜しみなく黄金の光を発現している。
見るだけでこれは凡人が持つべき物ではないと理解できる。
これは恐らく、有名な過去の偉人か誰かが持っていた由緒ある代物なんだ。
では、この男が過去の偉人だとでもいうのだろうか。
………とてもそうには見えない。
男の手元にある鞘が、形を崩していく。
それが、先程の男に起こったものと寸分違わず少年へと移行した。
身体に染みこんでいく光の粒子。それに比例して少年の身体の火傷傷は癒えていった。
一体どういうことなのか。まるでその思考を遮るかの様に、私の意識が朦朧としていく。
ここまで見せておいて、これ以上踏み入るなとでも言いたいのだろうか。
どんどん薄れてく意識のなか、再び頭の中に声が走る。
―――まだ終わりじゃない。けれど今踏み入れば貴女は心がこの世界に囚われる。
強くなりなさい。身体ではなく、心を強くしなさい。それが貴女に出来るただひとつの事柄であり、貴女にとって一番の幸せに繋がる事柄よ。
その意味を理解する前に、私は死の世界から引き剥がされた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
幻想郷で一番の大きさを誇るであろう巨大な建物。
その概観は、真紅に包まれた城のような館、その一言に尽きた。
その巨大さとそこに住む住人達のせいか、その周囲には人気がまるで無い。
太陽が真紅の壁に反射し、明るさに拍車をかけている。必要以上に眩しく見えるのは、まるで動物が行う威嚇の様だとも思える。
そんな館の所有者である吸血鬼の少女が、玉座の肘掛に身体を持たれかけて傍に整然と佇んでいるメイド長へと声をかける。
『ねぇ、咲夜』
咲夜と呼ばれたメイド長の少女が、静かに主の方へ向かい合う。
『なんでしょうかお嬢様』
『楽しいこと、無いかしら』
咲夜は、少し呆然としながらも、主の質問に答える。
『その質問、何度目ですか?』
『そんな無駄なことは考えない』
はぁ、と呆れた様に溜息を吐く。
主に対して遠慮を感じさせないのも、側近であり、信頼されているからこそ。
『昼間は太陽出てるから行動が制限されちゃうし、夜になるのを待ってたら意味ないし。何より夜は皆大抵寝てるしそろそろ飽きた』
夜の支配者である吸血鬼とは思えない言動。同族が聞いたら何と思うだろうか。
吸血鬼は、太陽に弱く、故に夜を泳ぐ。人間が昼に寝るのとは対極的に、吸血鬼は普段昼に寝ているもの。
しかし今日に限って彼女は起きていた。彼女自身が気まぐれな性格である故か、行動に一貫性が無い。
突拍子的に何かを思いついたかと思えばすぐに行動に移す。自身がつまらないと思うことは許せない。常に自分中心がいいと常に考えている。
要するに、我が儘なのだ。
『お嬢様が楽しいと思うことなんて私には簡単に思いつきませんよ』
『役に立たないわねぇ~』
ぶくーと顔を膨らませるその姿は、愛嬌のあるものだろう。
しかし彼女は吸血鬼。見た目以上に齢を重ねている。戦闘力もかなりある。
だからといって、中身が成長してるかは別だが。
『じゃあ、楽しいことを提供してあげましょうか?』
その声が部屋の中心から木霊すると同時に、そこから縦の亀裂が入ると、そのまま面妖にそこから左右へと開いていく。
人が通れる大きさにまで広がると、その中から女性が姿を現す。
幻想郷に住むものならば、恐らく知らない者はいない程有名な女性。
『………何しにきたのよ』
怪訝そうな表情で突如現れた女性に投げかける。
彼女を知る者ならば、似た答えを出すだろう。
目の前の女性は、それほどに訳の分からない奴だということが理解できるだろう。
『何って、言葉通りの意味よ』
そう告げると、取り出した紙を眼前に突き出す。
そこには、幻想郷のありとあらゆる有名どころから募られたバイトの広告だった。
その中には、この館宛も書かれていた。
『執事………?』
『そそ。ここにいるメイドなんて咲夜以外にまともなのいないでしょ?だから役に立つんじゃないかってね』
楽しいことを提供すると言った割に蓋を開ければお役立ち情報。
確かにこの館に雇われているメイドの9割以上は妖精で、仕事の質はよろしくない。事実上全部咲夜がやってるようなもの。
質より量とはよく言うが、それでは挽回できそうにない。
『ここにいる妖精メイドを全員解雇させてでも雇う価値がある奴でも来てくれるなら僥倖だけど』
9割の妖精と一人の人間または妖怪。腐っても量だけは一人前だから、そんじょそこらの人間とかでは首を縦には振れない。
『さぁ、でももしかすると………面白いことが起こるかもしれないわね』
含みのある言い方をするその姿は、怪しさを際立たせるものに他ならない。
こいつが他人の為にどうこうしようと考える性格ではないのは承知している。恐らく自分に利がある行動に直結するのだろう。
こいつが何を考えているかは理解したくもないが、ここで断れば負けた気分になる。確実に。
『確かに面白そうではあるわね。ノッてみようかしら』
『でしょ?でも、ここ以外にも雇い先はたくさんあるからもしかしたら誰も来ないかもしれないわね~』
にやけた表情が癇に障る。負けず嫌いな彼女にとっては、それが引き下がれない最終ラインを簡単に超える要因になったのは言うまでもない。
『んじゃ、伝えたからね。後は貴女次第よ』
そう伝えると、颯爽と同じ境界から立ち去っていった。
『―――――――――』
静かになった空間のお陰か、相応に頭が冷えていく。
だが、冷静になっても先程の発現を撤回する気はなかった。
胡散臭い奴ではあるが、あの女が起こす―――それに起因する出来事は常に面白そうなことばかり。そのせいか、アイツが持ってくる厄介ごとは今の私には丁度いい暇つぶしにはなる。
『咲夜、いいわね』
『はぁ、私は構いませんが………』
今まで黙っていた咲夜が、少し要領を得ない風に答えるが聞いた本人は気にしない様子。
先程誰も来ないかもしれないという発言があったが、あれは明らかに挑発していた。
私の能力を知っているからこそ、あんな言い方をしたのだろう。
運命を操る能力、それが私の能力。
現象、カタチの見えない能力で、私自身未知数だと理解している最強の能力。
アカシックレコードを手中に収めているようなものだ。違うのは、その操れる範囲もその一部でしかないということだけ。
能力を持っている自分自身でさえ全てを把握しきれていない。そんな能力が最強じゃない訳がない。
………だからこそ、活かし切れない自分に呆れる日々もしばしば。
でも、バイトの人間をここに来させる位の運命操作ならば容易い。
生物の動きというのは、意外と網目だらけなのだ。
どこで何をするか、なんてのは絶対に決められたものはない。今日は何をする、ときちんとしたスケジュールを組んでも必ずしもそう動くとは限らない。
私が誰かと出会う計画をしていて、かつ相手との了承があったとしても、ほんの僅かな時間のズレというのは99%以上の確率で有り得る。
運命という事象は、それ程までに曖昧なのだ。
―――これでよし、と
この能力を今の一瞬で起こしているなんて、誰も気づかないだろう。
能力なんてそんなものだ。どうやって操ってるのかと言われても、尻尾の無い生物に尻尾の使い方を教えても無意味なのと一緒。
身体の一部であるものを、どうやって説明しろというのか。
『夜にそのバイトが来るように仕向けたから、それまで私は寝ることにするわ』
『はい、お休みなさいませ』
咲夜が一礼する姿を背中に受けながら、私はその場を後にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『はっ――――――!』
意識が戻ると、そこはさっきまでの地獄ではなく、見慣れた景色だった。
見慣れた襖、見慣れた畳、見慣れた布団、その上に見慣れた人物。
『神奈子様………諏訪子様………』
私の寝ていた布団を枕にして二人画熟睡している。
神奈子の隣にある洗面器と濡れタオル。それが私へのものだというのは言わずとも明らかだった。
ずっと、私を看病してくれていたの―――?
目頭が熱くなっていく。それと同時に自責の念が込みあがる。
私の間で、二人とは線引きがある。そうやって距離を取っていたことを、改めて後悔する。
やっぱり二人はこんなにも私を想ってくれていた。そして私はその想いに答えられず―――いや、答えようとしなかった。
『うっ……うぇぇ………ひぐっ……』
堪えられず、とうとう涙と嗚咽が漏れ出す。
彼女達の前で我慢していたツケが、今清算されている。
止めたくても、止まらない。壊れた蛇口みたいに、際限なく溢れ出る。
もぞ、と布団が動く。
それは私が動いたからではなく、二人のどちらかが動いたからだ。
泣き止まないと見られちゃう。こんなはしたない姿を見せたくない。
二人に釣り合うには、強くなきゃいけないんだから―――
『さ、なえ………?』
眠気眼の二人の御身が、涙で歪められて確認できない。否、そんな余裕すら無い。
この一瞬の間にも、二人の意識は覚醒しつつある。しかも目の前でこんな状況が作られていたのなら尚更だ。
『みないで、下さい』
それを本人も理解しているのか、必死に虚勢を張り、拒む。
それが二人を心配させる要因になると分かっていても、それしか今の彼女に抗う術は無かった。
意識が完全に覚醒した二人は、早苗の状態に愕然とする。
早苗が泣いている。
それだけを理解すると、二人は彼女のことを抱きしめた。
『えっ――――――』
早苗の思考がフリーズする。
泣き顔を見られたことによる恥ずかしさと、突然の抱擁による驚きが交差して混ざり合う。
やめて。
乱さないで。
このままじゃ、何もかもが崩壊してしまう気がする。
私は、二人の事が大好き。
でも、二人は神であり、崇め祀るべき対象なのだ。
現人神とはいっても、所詮私は人間。二人の横に並ぶ資格は持ち合わせていない。
それでも二人は私を家族―――娘みたいに優しく、厳しく接してくれて。まるで私が横に並べる存在と勘違いを起こしてしまいそうで、怖かった。
甘えたい、なんて何度思ったことか。
年頃の娘なのだから、悩みだって沢山抱えてきた。
それでも、頼ることは出来ない。
甘えてしまったら、そこからはなし崩しだ。それを切っ掛けにして何度も甘えを見せてしまう。
でも、それじゃ駄目。
二人が私を自身と等価値の存在として認めているのなら、それに応えなくてはいけない。
全能である神に等しくなるには、誰かを頼ってはいけないと、そう想い続けた。
二人の横に立つにふさわしい人間になるには、この暖かさに浸かっていてはいけないのだ。
『離して、下さい』
弱々しく抵抗するも、一向に離す気配を見せない。
そんな中、口を開いたのは諏訪子だった。
『離すもんか。だって、早苗が泣いてるんだよ?
―――嬉しいんだよ』
嬉しい?
その言葉の意味を理解出来ないまま、諏訪子は続ける。
『早苗が物心ついた頃から、私は早苗が泣いた姿を見たことが無かった。
最初は、強い子なんだと思ってた。
けど違った。早苗は泣いた姿も見せなければ、苦しそうな姿も見せなかった。でもそれが逆に無理をしていると気付く切っ掛けになったんだ』
『早苗が無理をしてまで私達を拒んでる、そんな認識すら憶えたこともあった。
それはとても悲しくて、辛いこと。
でも私達が問いただしても答えるとは到底思わなかった。自分の無力さを呪ったのは久しぶりだったよ』
諏訪子に続けて神奈子も語り出す。
錆び付いた歯車に油が挿された様に、本来在るべきカタチに戻ろうとしている。
三つの歯車が噛み合う中、遊び歯車は早苗。その左右に隣り合う様に噛み合う諏訪子と神奈子。
早苗がいなければ、二人は同じ力で回ることが無い。
神奈子と諏訪子がいなければ、早苗は回ることすらない。
誰もが欠けてはいけない中、皆がズレた回転をしてたせいで今まで歯車が静止していた。
それのズレを直す切っ掛けを与えてくれたのは―――
『そんな中、アイツが―――シロウが現れた。アイツは私達みたいに英霊という人間離れした存在だと知って、悔しかった。
私と似た存在であるアイツは早苗の鎖を解いていった。出会って間もない、たった数日の出来事なのに、何年と共に過ごしてきた私達には成すことが出来なかった』
抱きしめる腕に力が籠る。
二度と離す気を感じない程の抱擁は、痛みを憶えても不快感は感じなかった。
この痛みこそ、私へと伝わってくる彼女達の想いなのだ。
『それでもシロウには感謝してる。こうやって早苗が私達の前で弱さを見せてくれた、それだけで私は満足だよ』
早苗の服に顔を埋めていた諏訪子が笑顔を見せた。
涙の痕と思わしき少しの目の腫れが、彼女を愛していることへの何よりの証でもあった。
『早苗、今でなくてもいい。いつか早苗の全てを聞かせておくれ。
早苗からすれば頼りない存在かもしれないけど、お願いだ』
『そんな、頼りないだなんて』
そんな事思ったこと無い。思える要因が見当たらない。思う必要が無い。
頼れる相手だからこそ、頼るのを拒んだのだから。
それ切り会話が途絶え、三人は抱き合いながら時を過ごす。
この時、三人は初めて"家族"となれたのかもしれない。
名目でも建前でもなく、血の繋がりがなくてもこれはまごうことなき"家族"。
何にも替えがたい、見えない絆で結ばれた繋がりが、何年という遠回りと蛇行を繰り返し、やっと生まれたのだ。
遠回りは決して無駄なことでは無い。すれ違いを重ねる度、強くなる。
すれ違いは認識を生み、認識は成長へと到る。
本物になりたいと距離を詰めた者達。
本物になりたいが為に距離を離した者。
平行線を辿った行動は、結果として最良のものとなった。
『ごめんなさい、諏訪子様、神奈子様』
今はまだ言えないけれど、いつかきっと、貴女達と同じ道を歩ける程に強くなれた時に話します。
それまでは―――待っていて下さい。
言葉にしなかった想いが、まるで理解っているかの様に抱きしめる力が強まる。
心が呼応している。
身体が感応している。
まるで一心同体と勘違いする位に、彼女達は全てが見えない糸で繋がっていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
遥か上空で日傘を差し山の頂上で触れ合いを傍観する八雲紫。
お互いを抱きしめあうその姿を見ていると、昔の自分を思い出す。
式神と使役する者。その式神が使役する式神。
今目の前で起こっている光景は、一度肌で体験したことのあるもの。
主従関係である私達と身分が違う彼女達。状況は違えど本質は何ら変わらない。
私達はそれを乗り越えた。でもそれは、あくまで膨大な時間を費やした結果。
人間と神、肉体的に異なる存在からすれば私達が培った絆は一瞬にも満たない出来事に過ぎない。
でも、だからこそ、人間であるからこそ深めれる絆は私達のそれと勝るとも決して劣りはしない。
妖怪としての生き様よりも、儚い一瞬の時間を生きる人間の生き様の方が私は好きだ。
生きる時間が短いせいで、愚行を繰り返す人間を嫌悪する妖怪は多い。いや、殆どがそうだ。
でもそんな妖怪は基本若い奴らばかり。五〇〇年生きた程度じゃ餓鬼もいいところ。
本当に経験のある妖怪というものは、達観しているものだ。
全てを傍観し、歴史そのものに介入することなく、事実だけを捉える。
そうすることで先入観を捨て、大局を見誤ることも無くなる。
本当に悪い人間というのは、大抵が権力がある者ばかり。
幻想郷が出来る前―――まだ妖怪としての齢が浅かった私は色んな戦を目にしてきた。
戦に加担する者というのは、強制的か殺しが好きか位しかいない。
指揮を執る大将は、高みでふんぞり返り罪の意識も無く簡単に人間を犠牲にする。
大将だけではない。そんな奴に従っている武士らだって自身より地位の低いもの―――弱者には容赦が無い。
歴史の中、思想の自由すら奪われた時代があった。
それを実際に目にした私は、胸糞悪い程の怒りを覚えた。
強者の脈絡の無い出鱈目な発言で殺される農民。無意味に増える死体の山。そんな理不尽が罷り通る、そんな時代が本当にあったのだ。
私は、そんな奴らを殺してきた。
一瞬では死なせない。激痛を伴い、かつ肉体的には死なない方法で甚振る。
目玉を潰し、指を一本一本削ぎ落とし、四肢を切り裂き、心臓以外の胴体を貫き、骨を砕き、脳を中身から弄り回し、潰す。
舌は噛み切らせない。ショック死させないように境界能力を使う。理不尽に死に絶えていった人間の何百倍の苦痛を、生きている事を後悔させた。
死にたくない、助けてくれと懇願する言葉なぞ聞く耳持たない。
お決まりと言わんばかりのその台詞を聞くと、吐き気がした。
自身がやってきた罪は背負わず、都合のいい結果が押し通ると少しでも思っていると考えるだけで、苛々する。
私は、人間にとって恐れられる存在となった。
当然、私を討伐しようと集まった輩も多々いた。私の首の値段に釣られた蛮族共。下劣で低俗なそいつらも、武力の下に縛られている哀れな存在であることには変わらない。
だからって何をしても許される訳ではない。結局のところそいつらも弱者を虐げている屑の一介に過ぎないのだから。
そんな奴らを返り討ちにして生きていたある時代―――全てが空虚に見えていた時期、ある少女と出逢った。
それは、死の操ることの出来る人間の少女だった。
その力故に恐れられていると同時に、その力を利用されていた。
屋敷の中で一生を過ごし、自由の無いまま一生を終える。自身の能力と周りの人間のせいで。
どの時代でも変わらない。この頃の私は、人間をひと括りで判断していた。
根底にあるのは低俗な感情のみ。人間という存在に絶望していた。
最初は興味本位だった。
何も知らないまま言いなりになっている少女を、莫迦にした目で傍観していた。
彼女の死の能力は不安定だと、少し経って気付いた。
彼女の身体からは、常に死の呪いが放出されている。自身で抑制する術は無いらしかった。
近づくだけで死に至る程に強力なそれは、少女を孤独にさせた。
彼女の能力を使う時だけ何人もの結界士を用いて能力を抑え、指定の場所へ置き去りにする。
生きる即効性の死の鱗粉を撒き散らす彼女は、存在するだけで絶対的な無差別な死をもたらす兵器として扱われていた。
化け物。妖怪でも無い、同じ人間である彼女を、そいつらは呼んだ。
哀れに思ったのだろう。ほんの気まぐれで、私は少女に近づく試みをした。
普段監禁されている屋敷の外には、結界が敷かれていた。並大抵の妖怪では軽く消滅できる威力のものだ。
でもそれは私には意味を成さないものだった。所詮は人間、限界があった。
少女は驚いた顔をしていた。当然だろう、結界を潜り抜けて目の前から現れたのだから。
そう思っていたのだが、少女にとって驚きは別の方向へ向いていた。
―――貴女、私と一緒に居て平気なの?
そうだった、と思った。
彼女の死の能力の威力の幅をきちんと知らず、乗り込んでいたのだから。
幸い身体に変化はなかった。それを知ったとなったら少女は勢いよく抱きついてきた。
今でも覚えている。死人の様だった少女の瞳に、初めて生気が宿った姿を。人形のように在った肉体に、生命が吹き込まれた瞬間を。
それから私達は友達になった。
人間の、初めての友達。妖怪の、初めての友達。
少女は私が妖怪だと知っても驚かなかった。寧ろ喜んでいた。そのお陰で貴女と一緒に居られるんだもの、と屈託の無い笑みで言われた。
自然と頬が緩んでいた。
それは、何百年と失われていた感情。
殺戮と破壊をもたらした妖怪の、善の感情なぞ等に捨てたと思っていたそれを、少女は引き出していた。
人々を遠ざける能力を持つ少女は、皮肉にも人々を惹きつける力も持ち合わせていた。
それは、私以外知らないであろうもの。それがなんだか嬉しく思い、優越感に浸れた。
それから暫くして、色々あって少女は死んだ。彼女の最期は、やはり運命に翻弄されたものだった。
若い肉体のまま、今もその死体は朽ちることなく土の中にいる。
でも、少女はこの世界に縛られている。
幸か不幸か、そのお陰で少女の魂は肉体から離れた後もこの世に留まっている。
今は亡霊となって冥界の管理を任されている。
『会いに行こうかしら………』
少女は記憶をなくしていた。過去何があったかの一切を、綺麗さっぱり。
なぜ亡霊として留まっているかも知らない。知っている者は、この世にはもう二人しかいない。
それは、絶対の秘密。少女に教えることは絶対に出来ない。
それが、友達としての私の精一杯の贖罪だった。
恐らく今も少女は能天気に毎日を過ごしている筈。
亡霊になってから、少女は過去の記憶ほど活発な様はなくなり、とてもおっとりとした性格になっていた。
マイペースな彼女の行動に、側近の少女も手を焼いているであろう。
眼下で広がっている絆もかなり深いかもしれないが、妖怪には妖怪で培った絆だって負ける気はしない。
張り合う訳ではないけれど、やはり自慢の友達や式神なんだから当然の思考だ。
ふと、ビラのことを思い出す。
中身には、彼女の居る場所も対象になっている。
にやり、と楽しそうに笑う。
『ついでに厄介事でも持っていきますか』
半ば無計画に構成したビラを取り出し、私は敬愛する友人の下へと飛んだ。
書くことないZE~
今回地味に色んなキャラ出しましたね。名前出してなかったりするけど。
シリアスっぽいの久しぶりですね。なんかラストが無理矢理な終わり方~な場合が多々あってショボンとなってたり。
キリのいい纏め方が思いつかなひ。
さて、どうでもいいでしょうけど、作者の東方内での好きなキャラでも暴露しますかね。(一部登場していないキャラもいますが知らない人はググれ)
風見幽香ことゆうかりん。これはもうナンバーワンだね。踏まれたい。そして弄りたい。
早苗さん可愛いね。健気だったり腹黒だったり、一貫性がないのもいい(笑)
鍵山雛~。俺の厄を吸ってくれー!(オイ
小野塚小町ことこまっちゃん。江戸っ子気質だけど時折見せる女の子な感じがグハァ
霊烏路空ことお空。アホの子なのにラスボスだぜ!俺とフュージョンしようぜ!
星熊勇儀。すっごい豪快なお姉さん。額の一本角を握りたい。お酒に酔ってるときに絡まれたい。体操服。
水橋パルスィ~。嫉妬してくれるとかまじ可愛すぎなんですけど。抱きしめたい。フヒヒ。
他にもいるけどキリがないです。そんな中上位を書いてみました。
でもゆうかりんが一番。異論は認めない。
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