キャラごとの内容を執筆してると、どうにも愛が止まらなくなる。執筆前は普通だったキャラとかもいつの間にかグッとくるキャラになってたり。でも一番は決して譲らないが。
得意気に仁王立ちしている天子、彼女の発言に呆然としている衣玖、それを達観している自分。
この空間は、今や天子が支配していた。
『総領娘様、まさか弾幕勝負を―――』
『違うわよ。何の力も無さそうな外来人に勝負を挑む程愚かじゃないわ。ちゃんと同じフィールドでの戦いになる様に考えてるわ』
なるほど、彼女から見れば私はただの人間と変わらないのか。
まぁ、進んでこの力を露呈しようとは思わないが、この様な少女に舐められているのは流石に流石に戴けない。
この勝負とやらでどうにか勝たなくては、色んな意味で私に未来は無さそうだ。
『勝負の内容は、―――』
再びしん、と静まり返る。
緊張しているわけではないが、こういった状況はこうなるのが普通だろう。自然と身体が強張る。
『地震についてよ』
地震、つまりは物理学に関する内容か。
『私は大地を操る程度の能力を持っているわ。自身の能力の事だもの、それらに対しての教養が自然と身に付くわ。そんな私に、地震という理解がある内容で打ち勝つことが出来たのなら、貴方のことは認めてあげる』
………つまりは、絶対の自信があるからこそこの様な勝負を出した訳か。
どうやら、私は彼女には歓迎されてないらしい。
本気で勝ちに来ているその行動から、容赦の無さを伺える。
『………大丈夫なんですか?』
小声で私に問いかける衣玖。
『大丈夫かは知らないが、やるだけのことはやるさ』
逃げる行為を行うのは簡単だ。でも、退路を探し出せるかどうかは別の話。
ここまで入念に造られた土俵から降りるなんて選択肢、誰が考えよう?
見た目逃げ道はいくらでもあるように見えても、所詮それはそうあってほしいと考えている自身が産んだ幻覚に過ぎない。
この土俵から抜け出す道はただひとつ。目の前で勝利を確信している少女を打ち負かす他無い。
『わかった。その勝負受けよう』
『その心意気や良し。でも結果は見えてると思うけど』
『さて、どうだろうな。油断していると足元をすくわれるぞ?』
お互いに不適な笑みで睨み合うその光景は、不可解であり不気味であろう。
かくして、戦いの火蓋は切って落とされた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『さて、始めようではないか』
『その前に………。あんた、こんなものどこから出したのよ』
天子が指差す先には、新品のホワイトボードと、ベンと専用のクリーナー。
勿論私が投影したものだ。準備があると言って物陰に隠れたときにこっそりと。
『気にするな』
えー、という彼女の言葉を無視し、私は新品のホワイトボードに手をつける。
『地震というのは、普段は固く密着している地下の地盤や岩盤が、一定の部分を境目にして、急にずれ動くこと。また、それによって引き起こされる地面の振動のことを指す。
では、先ほど述べた内容の前者と後者の名称を何という?』
記憶の引き出しを総動員で開けていく。
地震などの自然現象は、戦いに身を置いた者としては、突如起こる厄災に他ならない。
圧倒的戦力を誇示していても、自然現象には生物である限り敵わない。
知識を得ることで地形や地盤から地震が起こりやすい土地か、などを見分けられる様にもなり、逆に地震を逆手に取った戦術を組むことも出来た。
戦いは、何も腕っぷしだけで勝敗が決する訳ではない。
弱者は弱者なりに動くことで、勝算の低い戦いにも勝利してきた。
利用できるものは常に利用した。
そうでないと待っているのは目に見えた敗北だけ。
『前者が地震、後者が地震動。普段地震と呼ばれるものの大抵は地震動を指す』
つまらなさ気に答える天子。
勝負を挑む気概があるのだから、基礎が分からない訳がない。
………それにしても、戦いの為に憶えた知識が、まさか教える立場となり説明することに使うとは思いもしなかった。
それだけ、今の自分が戦いから身を引いているのだろう。意識はしていないが。
『正解。地震が発生する仕組みとして、地球の表層にあるプレートが移動し、押し合いが連続するものがあり、これを?』
『プレートテクトニクス。誰が提唱したかは知らないけどね』
彼女が述べた、提唱した人物を知らないと言う発言に引っ掛かりを感じる。
知らない、と言うことはつまり自己の中にある存在への完全なる否定。聞いたことがある、ならば一度は何かしらの形で触れている可能性を感じられるも、彼女は言葉を濁すこと無く答えた。
と言うことは、この世界と外とでは知識―――共通する文学であったとしても、何処かしらで差違が発生しているのだろうか。
この世界では私が、いや外の住人には知ることもない様な特別な情報や生活様式などがあると同時に、その分だけ外の世界の一部の知識が渡っていないと仮定すると、彼女の知り得てない情報を当てることが出来れば、多少なりとも活路を見い出せる。
『その通り。地震が発生するのは、プレート間の境界に力が加わる事で歪みが蓄積され、それが限界を超えた時岩盤の一点から破壊が生じ、急激にずれる岩盤によって歪みが開放されるからである。ではその一点のことを何と言うか』
『震源でしょ。このくらいなら常識の範囲内でしょ』
『非常識が常識の世界の住人が言っても説得力ないぞ』
『ですよねー』
それにしても、侮っていたわけではないが、こうもスラスラと答えられると逆に教えていて楽しくなってくる。
教え子に恵まれたと考えるか、教え子に対して劣等感ないしは屈辱を覚えるかは人次第だろう。
『地震によって地下の構造に変化が起こり重力値―――重力加速度に変化が生じることもある』
その説明をした瞬間、天子の余裕の表情が僅かに崩れたのを見逃さなかった。
『どうした?』
『な、なんでもないわよ。ほら、次に行きなさいよ!』
彼女の動揺から見るに、疑問に感じた部分、あるいは分からない箇所があったのではないだろうか。
しかしこれだけでは確固たる証拠にはなり得ない。もう少し探りを入れる必要がある。
『先ほどプレートが移動し、押し合いが連続するものと言ったが、それはプレート間地震と呼ばれ、海溝型地震もこの部類に入る。まぁ余談みたいなものだがな』
苦悩に歪んだ表情が目に見て取れる程に浮き出てきた。
それを悟られないように頬を叩き矯正しているのを気づかないフリをして観察している。
叩いたせいか羞恥のせいか、彼女の頬は多少赤くなっている。
無視していなかったら間違いなく指摘したくなる位の赤面っぷりだな。
………そういえば、と。
今まで二人だけで会話していたので気づかなかったが、衣玖の姿が見当たらない。
ホワイトボードの裏へ回り、辺りを見回すもその姿は見えない。
仕事に行ったのだろうか。そう結論づけて後ろを振り返ると、ホワイトボードの裏に一枚の張り紙が丁寧に張られている。
その内容を見ると、
空気読んで私はどこかで時間を潰します。
暫くしたら戻りますので二人でゆっくりしていって下さい。
と簡単に書かれていた。
………お見合いを若いものに任せた家族みたいなことをするな。
確かに彼女が介入するのもよろしくないのかもしれないが、逆にこんな手紙を置かれては私達が邪魔者だと思っていたみたいで心が締め付けられる。
『どうしたの?』
『いや、衣玖が見当たらないなと思ってな』
『ん、確かにいないわね。まぁどうせ空気読むだのなんかこじつけていなくなったんでしょ?』
………鋭いな。的を射た答えも、付き合いの長さ故なのか。
天子にそんなことより、と急かされ再び講義を始める。
『ふむ、では続きを。断層のずれによって発生した振動は、地震波という形で周囲に伝わる。地震波には大きく分けて実体波と表面波の2つがあり、実体波はP波とS波、表面波はレイリー波とラブ波にさらに分類される。一般的に地震計で計測されるのは実体波のみであり、震度やマグニチュード、震源位置の推定などは実体波の計測結果から計算される。地震が発生したとき、基本的には、初めに小さなゆれを起こすP波が来て、少し経ってから大きな揺れを起こすS波が来る。しかし、揺れの大きいP波によって被害が出ることもあるほか、震源が近くにある場合はP波とS波がほぼ同時に到達することもある。地震波を振動として捉えた場合は地震動と呼び、両者は使い分けられる。何か質問は?』
一気に捲し立てて説明する。ここまで来ると自分自身の記憶に自信が持てなくなるレベルだ。
この部分の知識は、必要であり必要でないので言葉として理解していても詳しく説明出来るかと言われたら無理かもしれない。
『―――――――――』
天子が俯いたまま黙り込む。そして心なしか身体が震えている気がする。
『おい、どうした?』
肩に軽く前方から触れる。
その瞬間、彼女の身体がそのまま倒れていく。
慌てて空に投げられた腕を掴み、そのまま腰を抱える。
何事かと思い表情を伺うと、まるで焼け石の様に顔から蒸気を出しながら、目を回していた。
『重力値………海溝型地震………P波………レイリー波………実体波………』
うわ言の様に説明した単語を繰り返し呟く少女。
その姿を見て苦笑する。
『全く、分からないなら素直に聞けばいいものの』
でもそんな少女が、なんだかいじらしく感じ、可愛げを感じた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『ん………んぅ』
倒れた天子を私が膝枕をする形で寝かせて、自身の外套を彼女に掛ける。
夢の中で先程の再現でも行なっているのか、うなされる声が止むことが無い。
起こすべきか放置するべきかを悩みつつ、私はある作業に取り掛かる。
暫く黙々と続けていると、人の気配を察知したのでうつ向き加減だった顔を上げると、衣玖がゆっくりとこちらへと歩いて来ていた。
『あら、総領娘様はどうなされたのですか?』
少し驚いた様子で伏している天子の様子を観察している。
『頭の使いすぎで知恵熱でも起こしたのだろう』
知恵熱なんか出す奴なぞ初めて見たが。
『それで貴方が膝枕を?』
『まぁな。勝負に拘らず異変を感じた時にすぐ然るべき対処をしてればこんなことにはならなかったから、これくらいはな』
『いや、それは総領娘様の自業自得なのでは………』
もっともな言い分だが、まぁそこは私だからな。
改めて考えると、最早脳と身体に刻みつけられた行動が、何とも莫迦らしく感じて来る。
自覚症状で治そうと思わない奴程質の悪い生き物はいないだろう。
この身に刻まれた呪いは矯正しようと考えることすら許さないと無意識下で吼えている。
言い訳にしか聞こえないだろうが、生活習慣病を治す以上には難しいことではあるのは確か。
例えの規模が小さいのは仕様だ。
『それにしても貴方は何を………』
身を乗り出す様にして覗き込むと、何か妙に納得した表情になる。
『なるほど。そしてこれも総領娘様が倒れた原因でもあった、と』
『まぁそうだな。―――それよりも、彼女はどれだけ頭が良いのだ?』
途中から感じていた疑問を、衣玖が来たことで着手する。
『私には分かりかねますが………。一応前まで教えていた私の独断としては、やる気はいつも見られませんでしたが、それでもそれなりの知識は身についていたのではないかと。テストを不定期に行なっても、赤点だけは取りませんでしたし』
つまりは、才能はあるのに発揮されないタイプなのか、この子は。まぁ確かに彼女の唯我独尊っぷりから判断すると、真面目に教えを請おうと考えそうには無いだろうな。
『何故、そのような事を?』
『いや何、単純なことだが、立地条件的に最悪である筈の天界からの仕事要請が、何故下にも行き届いてるのかな、と。―――そんな所に範囲を広げてまで教えを請わせる程彼女自身頭は悪くない筈なのに、何故かと思ってね?』
『それは………』
目に見えて動揺する衣玖。何か不都合な問いだったのは明白だが………。
『ま、別に私の気にする所では無いがね。聞ける身分でもないしな』
軽く鼻で笑いながら肩を竦める。
今のところは何も起きていないのだから、無理矢理答えさせる理由も無いし、意味も無い。
ただ単に、引っ掛かりを解消したかっただけなのだから、これ以上踏み入るのは不粋と言うものだ。
『あの、これからどうなさるのですか?』
先程までの動揺は消えたものの、多少警戒する様にこちらを見据えて来る。
『そうだな。勝負には勝ったから約束通り家庭教師はやらせてもらうが、彼女自身私が毎日来たら精神衛生上よろしくないだろうし、悪いが不定期なシフトになりそうなのだが構わんかね?』
あの嫌われように更に拍車をかけかねんしな。
『はぁ………構いませんが、連絡を取れないのは痛いですね。致しかたないのでしょうが』
『すまない、助かる』
会話しながらも休めなかった右手から、ようやく筆が離れる。数枚で構成されたA4サイズの用紙を地面で整頓し、予め投影しておいたホッチキスで纏める。
『そろそろ私は行かなくてはならないが、この子にこれを渡しておいてはくれないか?』
用紙の束を衣玖に向けて差し出すと、それを受け取る。
『これは貴方が渡した方がいいのではないですか?』
『時間に余裕があればそうしたいが………仕事のシフトが こうなった以上、空いた時間で出来るだけ他にも仕事をやっておきたい。だから直ぐにでも違う仕事のアテを探したいんだ』
それに、と付け加える。
『こんな幸せな顔をしながら寝てるこの子を起こすと言うのは、不粋ではないかね?』
時間が経ったことで容態が安定したのか、苦しみに喘いでた天子の表情は今や最初に見た柔らかな寝顔を晒している。優しく髪を撫でると、気持ち良さそうに僅かに身体を震わせる。
その姿はまるで猫みたいだ、と思ってしまう。
『わかりました。その様に計らいます』
その答えに頷き、私は天子を起こさない様にその場を離れる。
相変わらずの寝息の整い様で胸を撫で下ろす。
『では、これで失礼するよ』
『また、いつか』
お互いに挨拶を交わし、シロウは階段へ、衣玖は天子の前へ腰を降ろした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
目を閉じている筈なのに、視界には白が大部分を占めている。僅かに開くだけでその白が広がり、不快感を覚えさせる。
だから本当はずっとこうしていたかったのだが―――
『気がつかれましたか?』
聞き慣れた声に、その甘えは捨てなければいけない事を知る。
目を閉じたまま身体を起こし、少しずつ瞼を開いていく。
見慣れたそのディテールは、僅かながらのそれでも目の前の正体を理解させる。
『衣、玖………』
『はい、衣玖です』
柔和な笑みを浮かべる女性が、こちらを真っ直ぐに見つめている。
『私、なにしてたんだっけ』
記憶がぼやけて先程までの白と黒の世界以外の情景以外が不鮮明になっている。
『総領娘様はシロウ様との勝負に負けた様です』
あまりにも端的な答えに、一瞬混乱したが、すぐに思い出す。
『………あぁ』
自身の情けない姿を想像する。
あの時に問答していた私の姿はアイツにどんな風に映っていたのだろうか。
アイツはさぞいい気味だったろう。
『ってあれ?アイツは?』
周囲を見回してもあの特徴的な赤を捉えることは出来ない。
『シロウ様なら、先程他の用事で出ていかれましたよ』
嘘………それアイツ勝ち逃げしたってことじゃない!
その事実に、悔しさに下唇を噛み締める。
『それと、シロウ様が総領娘様にと』
そう言って差し出された紙の束。
『何よこれ』
『私は中身を見ていないので知りませんが、貴女の為に書いた文章の様ですよ』
紙の一枚目から、所狭しと字が敷き詰められている。
ここで使われている筆が、自身の知らない技術だという点に気付く前に、内容に没頭していた。
最初に書かれていた文章は、アイツの語りだった。
内容は単純なもので、私が倒れたことに対する謝罪と、家庭教師は不定期に行う事実と、最後にこの紙は捨てるも破くも自由だと、あっさりとした言葉が書いてあった。
紙の枚数を数えると、十枚は最低でもあった。
アイツ自身、これを私に読ませたいが為に執筆した筈なのに、破いても構わないと書くのはおかしいのではないだろうか。
『これは私が勝手に書いたものだから、読むも読まないも自由だ、か』
語りに書かれていた一文を独唱する。
莫迦みたい。そんなんじゃアイツがやった行動全てが無意味になる可能性だってあるのに。
本当にそれが莫迦らしくて。
だからだろうか、同情のつもりで読んでやろうと思ってしまった。
語り以外の内容占めていたのは、地震の事だった。それもアイツが題したもの全てがとてもわかりやすく、妥協など無い文章だった。
これを見るだけで膨大な労力だと理解る。
私が理解していなかった部分なんかは特にわかりやすい。
もしかして、アイツは全部分かっていたのだろうか。
私が理解に及んでいない部分を全て見抜き、こういった書物として形にした。
『………お節介』
単純に、そう思ってしまう。
もしかすると職にあぶれる可能性だってあったあの状況で、他人の心配なんかして。
アイツに感じていた苛々がすっと収まっていく。
莫迦もここまで来ると呆れるしか無い。
全て読み終え顔を起こすと、先程と変わらないままの衣玖が佇んでいた。
『どうでしたか?』
感想を聞いてくる衣玖に、私は今の気持ちを答える。
『アイツ、莫迦の塊よ。とんでもない大莫迦』
ここまで莫迦な奴は、初めて見たかもしれない。
でも、だからこそ―――
『だからかな。アイツに興味が湧いてきたよ』
あんな面白い奴、興味が湧かない訳が無い。
アイツが家庭教師をやるってのなら、とことん楽しませてもらおうじゃない。
『そうですか。それは何よりです』
一人は太陽の様な、一人は花の様な笑みを交わし合う。
無邪気さと母性が、彼女達を一杯にしていた。
はい、書くことなし!
取り敢えず天子のストーリーは一時中断という形になります。
次にまたバイトを行い、その次もバイト。そしてそれらを終えたらまた天子にループする方式です。
バイトの内容は次のお楽しみですよフフフ。
普通に執筆してたら滅多にあわなさそうなキャラとかいそうで、そういったキャラはもしかすると無理矢理感が出てくる場合もございますが、ご了承下さい。
あと今回天子の話で地震の内容を執筆しましたが、これは作者の趣味です。
ぶっちゃけ天子ルートはお勉強なので、作者の趣味が入ったお勉強内容になってしまいますが仕様です。気にしたら負け。
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