爆音に引き寄せられる野次馬。
その中心に位置する原因。
その原因の発端となった私が、鷹の目を用いて遠くからその光景を眺めている。
『しかし………参ったな』
先程のは、本当に危なかった。
咄嗟に脚に強化をかけ、全力で地面を蹴った瞬間その場が粉々に破壊されている光景が広がっている様は、まるでひとつの自分の可能性を思わせた。
早苗はどうやら神奈子に回収された様で、ひとまず安心する。
だが、全てが終わった訳では無い。
今私が戻れば先程の再来なんて事も有り得る。
そんな修羅の道を通りたいとは、少なくとも私は思わない。
私自身がどうなるから、と言うより早苗が不安定になるのは見てられない。
『やれやれ、いきなり宿無しになるとはな』
暫くは彼女から離れた方がいいかもしれない。
決して彼女を嫌いになった訳では無く、それが最善だと判断したからだ。
女性関係の揉め事に関しては、嫌と言う程理解がある。
神奈子や諏訪子がどうにかしてくれる事を祈るしかない。
決して逃げてる訳では無いぞ?
『さて、どうしたものかな』
食事を摂らなくても良い身体とはいえ、久しぶりにその感覚を覚えてしまうと忘れられなくなるものだ。
自然と小腹が空く。
何とも中途半端な身体よ。
更には宿無しになった事にも問題がある。
まだ幻想郷と言う世界を全く理解していない自分にとって、野宿なんて行動は身を滅ぼすだけ。食事はどうとでもなるが、こっちに関しては厳しいものがある。
『考えていても始まらないか………』
未だ知らない道を歩き出す。
咄嗟に飛び出した為ここがどの方位を向いているかも分からない。
木に昇って確認するのもいいだろうが、今は下手に目立ちたくない。
手遅れな気がしなくもないが。
出来るだけ里から離れる様に歩き出す。
喧騒が薄れていくに連れて身が引き締まる。
ここからは未知の世界。
何が起こっても自身の力で解決するしかない、孤独な空間。
『誰かを頼る、なんて思考が出る時点で私も変わったものだな』
孤独で戦場を駆け、それを是とした私が、心細さを感じている。
これは、弱さなのか―――?
ガサリ、と草を掻き分ける音に咄嗟に身構える。
その先から現れたのは、黄色の髪に少し綻びのある赤いリボン、模様が一切無い黒地のベストとスカートに相反する無地のTシャツの少女が腹部を押さえてふらふらとこちらへと近づいて来る姿。
どうやら私には気がついていない様だ。
『おい、大丈夫か?』
怪我でもしているのか、不安定な動きを支えるべく少女の身体に触れる。
それに反応してか、うつ向いていた顔を、こちらへと向ける。
虚ろな瞳は、真紅に染まっており、幼いながらも誰かを虜に出来る妖艶さを出している。この子は間違いなく将来美人になるだろう。
『………お、―――』
搾り出した様な声が耳に届く。
その精一杯の言葉に集中する様に彼女の顔前に近づく。
『おなか、すいた………』
その言葉を最後に、少女の身体は体重を預ける形で崩れ落ちた。
『…………空腹なだけか』
怪我ではない事に安心しつつ、自身の持ち物を確認。
ポケットは、その用途を果たしていなかった。
『―――これでは駄目人間ではないか』
今思えば、私の置かれている状況はかなりヒモに近い。
働いていないし女の家で暮らしているその様は、典型的なそれだ。
『働き手でも探しておかないと、流石に不味いか』
とは言ったもののアテは無い。
里は早苗と出会う可能性があるので選択肢には入らない。
暫くは、職探しの旅になりそうだ。
『さて、と』
支えていた少女を近くの樹にもたれかけると、私は弓を出し、魔力も一切無い矢を投影する。獲物を捕らえて、この子に何か食べさせないといけない。
ぐるりと辺りを見回す。
お誂え向きに、猪が無防備に歩いているのを発見。
―――猪なぞまともに見たのはこれが初めてかもしれない。
流石幻想郷、と適当に完結する。
標的に向かって弓を引く。
狙うは当然、急所。
出来るだけ苦しみを与えない為に、その一点に集中が深まる。
『許してくれ、とは言わない。恨むなら恨め』
風を切る音と共に音速が走る。
人間には見えない程の距離にいた標的は、一秒を以てその命を絶った。
少女をおぶってその場へと向かう。
こめかみを貫かれた猪は、もの言わぬ肉となっている。
私はその皮を剥ぎ取り、適当に集めた木の枝と火打ち石を用意する。
こんなアウトドアみたいな事をするのは久しぶりだ。
空腹に飢えた難民を救う手段として自然と覚えていったからな。
やはり、こう言った知識は無駄にはならない。
肉を等分して投影した鉄の串に刺し、火で炙る。
食欲をそそる匂いが立ち込めると、自分も空腹な事を思い出す。
―――食事は心の贅肉だと言っていた自分が懐かしく感じる。
クッ、と一人笑いを漏らす。
『ん、んぅ―――』
『起きたか』
『………いい、においがする』
微睡んだ目で辺りを見回していた少女だが、ひとつの物に視界を奪われる。
『お肉だー!』
先程までの力のなさからは想像もつかない機敏な動きで焚火に近づく。
『ほら、こっちは熱いからこれを食べるといい』
少女の為に多少冷ました方の串を渡す。
『食べていいのかー?』
いきなり食べたりしない所に躾の良さが伺える。
でも、それ以前にこの子に尻尾があったら間違いなく振り続けてるだろうと思える程に催促をしているその瞳に敵う者など恐らくいないだろう。
『勿論。これは君の為に焼いてる様なものだからな』
『ありがとー!』
とても元気な声で返事をした少女を見て、嬉しくなった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
正直、驚きを隠せないでいる。
猪一匹丸々焼いたのは少し量が多かったかもしれないと多少後悔していたが、それは杞憂に過ぎなかった。
『ごちそーさまー』
丁寧に両手を合わせて礼をする少女の前にあった肉は、影も形もない。
肉の八割を完食してしまった少女を見て、どうすればこんな小さな身体にそんなに入るのかと疑問に感じる。
セイバーや藤ねえで見馴れている光景とはいえ、それはあくまで成長が安定している身体だからまだ妥協出来なくはないが、こんな小さな頃からこんな暴食とは………将来はどうなるのやら。
常識を覆す事ばかり起こっているな、私の身の回りでは。
『君は何故そんな倒れるまで何も食べなかったんだ?』
こんな小さな子供が、こんな森の中で空腹になるまで何も食べていないとなると、迷子なのだろうか。
里の子ならば騒ぎになっていてもおかしくは無いが、その気配は感じなかった。
『んとね、夜にならないと食べちゃ駄目って言われてるの』
『食事は三食バランス良く摂らないと免疫力や成長の阻害になるんだぞ。誰に言われたのかは知らないが、きちんと食べた方がいい』
『そーなのかー』
本当に分かっているのか、楽しそうに両手を横水平にし歩き回っている。
『どれ、私が親御さんの所へ連れてってあげよう。
君の名前は?』
『ルーミアだよー』
ルーミアと名乗った少女がこちらへ向かって来る。
『あと、ルーミアには親はいないよー』
『――――、え?』
屈託の無い笑みでそんな事を言うものだから、間抜けな声が漏れてしまう。
『そ、それは済まない。軽率だった』
『気にしてないのだー』
気にしてない、とは言うがこちらがどうしても気にしてしまう。
『で、では何処に住んでいるか漠然とでもいいから分かるかい?』
『ここー』
ぐるりとその場で回転するルーミア。
『それは、どういう意味だ?』
『この森に住んでるのだー』
『―――嘘だろ?』
こんな子供が、いつ襲われるかも分からない様な深い森の中で暮らしていると言う事実が、私の胸を貫く。
『家とかは、あるのか?』
『無いよー』
更なる言葉が私を苦しませる。
何故?
何故こんなにも笑顔でいられる?
他の生活を知らないから?
しかし里からの距離は決して遠くはない。
あの活気に惹かれることだって一回はあっただろうに。
さも当たり前の様に楽しそうな笑顔を浮かべる少女は、何を思っているのだろう。
『………里に行こう。私が慧音に聞いてどうにか暮らせる場所を提供してもらうから、一緒に行こう』
少女の小さな手を握り、問答無用で引き返す。
自分の置かれている状況など、すっかり記憶になかった。
ただ、目の前の少女に救いを与えれるなら、と必死だった。
『駄目』
しかし少女はその手を剥がす。
そこまで強く握っていなかったとはいえ、この位の少女が出せる腕力とは思えない力だった。
『そんなことしたら、霊夢に怒られる』
霊夢、とは巫女の博麗霊夢のことだろうか。
『私はあそこにいちゃ駄目なんだよ』
『何故だ?そんな事はない。誰にだって最低限度の衣食住を有する権利は持っているんだ。
君だけがその対象外なんて事は有り得ないんだ』
『それは、法律って言うんだよね?人間を律する為に制定された力のある文章。
―――でも、そんなの私には関係ない』
だって、と私が介入する隙間も与えず続ける。
『ルーミアは、妖怪だもん』
空気が変化する錯覚を覚えた。
先程の笑みは今は失せ、感情の読めない表情が支配している。
『妖、怪?』
『そう、妖怪。
私が夜しか食べちゃいけないって言われていたのは、人間の事。
夜に出会う人間は、自業自得として私の糧となるの。
それが、摂理』
少女と対峙している筈なのに、もっと大きな何かと対峙しているものと錯覚してしまう。
それほどまでに、彼女の雰囲気は初見の頃とかけ離れていた。
『そんな私が人間が沢山いる場所なんかで生きていけると思う?
貴方にだって判る筈よ』
『それ、は―――』
このプレッシャーはなんだ。
そこにいるだけで相手を圧し潰しかねない程の何かが、私に向けられている。
『―――済まない。一度ならず二度までも』
『………貴方は優しいね。
私が妖怪だって分かっても逃げようともせず、私の話を真摯に聞いてくれて、悩んでくれてる』
そんなことはない。
また私は傷つけている。
良かれと思った結果がこのザマだ。
『それに免じて貴方は食べないであげる』
そう言ってルーミアは踵を返す。
『待っ、―――!!』
静止の言葉を放つ前に、彼女の身体は不自然な闇に消えていった。
私は、その光景を見守るしか出来なかった。
一体、彼女は何者なのか。
見た目相応の性格であるかと思えば、人格が入れ替わったみたいに存在感が強まった。
どっちが本当のルーミアなのだろうか。
それを確かめるには、圧倒的に彼女との時間が足りない。
優しいね、と言われた時に見えたあの憂いの表情。
あれは、何を意味しているのか。
私に突き付けられた理想を想像し、叶わぬと理解しているから?
それとも、必死になっていた熱弁していた私に対して、自身は叶わぬ理想だと理解しているから憐れんでいるのか。
『どちらにせよ、今の私には彼女は救えない』
他人の心を理解出来ていない私には、誰も救えやしない。
ならば、救える様になるまで努力するだけ。
初心に帰って視点をクリアにする事で世界が変わるかもしれない。
元より私には才能なんてものは存在しない。
ただ救う、というだけの最短ルートを走り続けても凡人には所詮茨の道でしかない。
ならば、ひとつずつ確実にこなしていけばいい。
一歩一歩が辛くとも、それが最も最短ルートになるのだ。
その為にまずは、自身の身の回りの事をどうにかしなくてはいけない。
『―――働き口を探さねば』
そうして話はループする。
そーなのかーとわはーで有名なルーミアの紹介death!
ルーミア
種族:妖怪
能力:闇を操る程度の能力
二つ名:宵闇の妖怪
見た目:殆どは作中で表現したが、彼女のリボンに関しての説明はまだ。
リボンは御札で、リボンは取りたくてもルーミア本人では触れることすら出来ない。
これを取る事で彼女自身の封印が解除される(封印解除後の説明は機会があれば)。
性格:何を考えてるか良くわからないキャラの一人。
明るい性格で、いつも笑っている。
そーなのかー、が口癖らしい(二次創作的な意味で)。わはーは作中では言ってないが、某ギャルゲのキャラと被るせいかそのキャラの口癖が彼女に憑いてしまった。
可愛いからいいけど(二人とも)。
Rumiaという地名があり、スペイン語で反芻、転じて沈思、黙考、繰り返しの考えを指す。
よく食べるキャラ。双璧を成す一人として、西行寺幽々子と言うキャラもいる。
ルーミア自身説明することは少ないのだが、彼女のリボンのお陰か二次創作的な思考だと恐らく一番ネタが尽きないのではないかと。
色んな妄想によって顕現したルーミアは数知れず。
これも愛ゆえにか。
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