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感想で色々注意をもらったので、今度こそ大丈夫かなーとか思いながら投稿。
幻想に惹かれた者達
異常変化
昨夜の出来事など、世界にとってはそこ等の小石よりも価値がないものかもしれない。
だが、そんな瑣末事で精神的グロッキーに陥っている青年が、馬車馬の如く働かされている。

理由は単純。埋め合わせだ。
早苗なりに彼のことがかなり心配だったようで、彼が誠心誠意謝った姿を見、誠意の証拠として今に至っている。

早苗にとっては罰のようなものだったが、それは考えが甘い。
彼にとっては御褒美当然の行動に過ぎない。
その証拠として、彼の働く姿はとても生気が宿っており、仕事に雑なところなど一切無い。
寧ろ彼女の知らない家事の方法を一部見せ付けられ、逆に悔しい思いをしていたりする。

彼を縛る、と言う点ではかなり有効な策ではあるが、何とも釈然としない早苗は縁側で彼が物干し竿に洗濯物を干す姿をつまらなさそうに眺めていた。

『うっは〜………なにアイツの楽しそうな顔。初めて会ったときの整然とした顔が嘘みたいに緩みきってるわよ』

そんな彼女の横に腰掛ける神奈子。
彼女は神ではあるが、ひとりの生物でもある。
参拝客がいないと、一介の女性となんら変わらない。
そんな時間は、他の生き物と同等に自由な生活をしている。

『………そうですね』

不機嫌そうに顎を手の平に乗せ身体を預けている早苗の姿に、神奈子は軽く溜め息を吐く。

『―――そうやって不貞腐れている位なら、シロウの隣に行って手伝ってやったらどうだい?』

『それじゃ罰になりません』

『全く………あれのどこが罰に見えるってんだい』

洗濯物一杯の籠を抱え陽気な鼻歌を歌う姿は、どこからどう見ても見た目以外は家事大好きな家政婦にしか見えない。

『そこ!家政婦ではない、執事バトラーと呼べ!』

『誰に向かって言ってるんですか………』

明後日の方向に叫んだシロウに突っ込みを入れる早苗。
それに苦笑する神奈子。

とても平和な一日の一幕だった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


『さて、次はお買い物です。とは言ってもまた一人にしたら同じ結果になりかねないので、私も付いていきます』

神社内で出来る仕事は滞りなく終了し、次は買い物と言うことになった。
シロウの手際の良さは、主婦をノックアウトさせるのなぞ容易い、とその背中が語っている風にさえ見えた。
その甲斐あって、まだ日もそこまで昇らない時間帯に行けるようだ。

『おいおい、流石に二度目は―――』

『信用出来ません』

ぴしゃり、と一蹴される。
その時の早苗の笑みは、昨夜の出来事(トラウマ)の再来だった。

『ぐっ』

もう二度と味わいたくない、と切に願った一線を踏み超えかけた事にひやりとする。
幾多の死線を超えた彼でも、彼女の冷やかな視線にはかなわない様だ。

これも、彼の変化の一部でもある。
どんどん人間だった頃に性質が戻りつつあるのだ。
破綻者である頃の彼に。

『―――諦めるしかない、か』

聞こえない程度の愚痴を溢す。
それに、自業自得と言われればそれまでなのだから。

『分かった。付き添いよろしく頼むよ』

承諾の言葉を聞いた早苗は花開く様に微笑む。
何とも、感情の起伏が激しいなと彼は思った。

『では、お金はもうありますし、行きましょうか』

『そうだな』

二人はその場から立ち去る。
そんな二人を見つめる二つの影が、笑う。

『諏訪子、行くわよ』

『了解』

悪戯な表情の神が、その後に続いた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


人間の里は、相変わらずの賑わいを見せ、衰える事を知らない。
そんな中、二人は歩いている。
しかし、少しだけ何かが違う。

『なぁ早苗』

『なんでしょうか』

『何故私達は腕を組んでいるんだ?』

その違いとは、前までこんな行動を起こさなかった彼女が、大胆にも彼の腕に抱きつく様に歩いていることだ。
シロウ自身、顔には出ていないがかなり動揺している。

『気にしないで下さい』

『気にするな、と言う方に無理がありすぎるぞ………』

『いずれ慣れますよ』

『慣れる程される予定なのか………』

先程から感じる周囲からの視線。
彼等が何を思っているかは知らないが、正直放っておいて欲しい。

だが、そうは問屋が卸さない。

『お、シロウじゃん』

前方からポケットに片手を入れ、もう片方の手を振りながら歩いてくる妹紅の姿を確認する。
シロウは、確信した。
間違いなく、何かが起こる、と。
それも(私が)不幸な結果の。

『あ、あぁ、妹紅か』

平静を装うとするが、多少表情が引きつる。

『お知り合いですか?』

早苗がそのままの体勢で質問する。

『うん。昨日うちに押しかけてきてね。その時に知った』

その質問は、シロウより先に妹紅が答えてしまった。

『押し……かけ………?』

早苗の腕を掴む力が強くなる。
俯いて表情は分からない。

『待て、それではまるで泥棒に入ったような言い分じゃないか』

『んじゃ訂正。私と一緒に住んでる慧音って奴に家に来るように言われて来た』

『なにかしたんですか?アーチャーさん』

『いや………単に子供と遊んだだけなのだがな』

こちらには何も非はないのだが、下手になにか言えば勘違いを増幅させる可能性がある。
だからと言って不自然にこの場を立ち去るのも難しい。
言葉を選んで、時間を稼ぐしか彼には良い逃げ道は浮かばなかった。
心眼(真)のスキルはこんな状況にまで対応するほど万能ではないことを、何度彼は悔やんだことか。

『らしいけどね。その時に慧音とも知り合ったらしいけど、どうにもそんな雰囲気を感じなかったんだよね〜』

その時、シロウと妹紅の視線が交差する。
シロウは、彼女の瞳の奥からとても邪悪なものを感じた。
妹紅は、彼の僅かに変化した表情から愉快な気分になった。

『へぇ〜………。そのところの話、もう少し詳しく聞かせてくれませんか?』

先程よりも強力な締め付けが全身の感覚を一点に集中させる。
前を見据えたときの早苗は、瞳に光が無かった。

シロウは鮮明な既視感を覚える。桜が、こんな表情をしていたのを幾度と無く見ていた。
桜と早苗が似ている、という感覚は間違っていなかったらしい。
もしかしたら、早苗も―――

『逃げないでくださいよ?』

恐ろしい程に冷たい声。
蜘蛛の糸に絡め取られたみたいに、もがけばもがく程支配力が強まる。そう直感が告げた。

『―――はい』

素直に言う事を聞く以外、彼に道はなかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


『成る程。そんなことが………』

『うんうん。吃驚(びっくり)したよ。起きたら慧音がシロウに抱きついてるんだもん』

あれから数分。
妹紅の尾鰭のついた事実を早苗に一寸の見落としなく説明していた。
まるで最初から見ていたかのように。

面白可笑しく捏造された部分だけでも修正しようと奮闘したが、昨日の件もあってか信用した風には感じなかった。
文字通り、万事休すである。

『シロウさん』

いつものアーチャーさんと言う呼び方に感じる穏やかな雰囲気は、一切削ぎ落とされている。
逆に感じたのは、絶対的強迫観念を想像させる程の恐怖。
それはもしかすると、未来視かと思わせるほど鮮明にこの後の結果が浮かび上がる。

『私があんなに心配していたのに、当の本人は女性の家に上がりこみ、更には二人も女性をはべらせてたんですね』

ここまで予想通りだと、逆に清々しい位の勘違い。
こうなる事は分かっていたが、止められない事も分かっていた。

もどかしい。
まるで身体の内側に蛆が這いずり回ってそれを駆除出来ない位に。

『誤解だ。確かに上がりこんだのは事実だが、はべらせるだなんてそんな真似なんか出来るものか』

『少し、頭冷やそうか………』

彼女には最早、誰の言葉も届かない。
ただエミヤシロウと言う存在だけを、虚ろに捉えているだけ。

言葉と共に取り出された御幣(ごへい)。相も変わらず彼の腕は拘束されている。
そうこうしている内に、星型に羅列されていく無数の光の弾。
辺りの人達は、ざわざわと動揺の音が聞こえる。対して妹紅は、楽しそうにその様子を傍観している。

『ま、待て!こんなところでそれを撃ったら村に被害が―――』

『そんなの、知りません』

先程まで掴んでいた腕がいきなり突き飛ばす様に離され、反動でシロウの身体はよろめいてしまう。
その刹那、光の雨が彼を飲み込んだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


私と諏訪子は、二人にバレない程度の距離を保ちつつ様子を観察している。
端から見ればカップルに見えなくもないが、どちらかと言えば兄妹の方がしっくりきそうな雰囲気だ。

最近の早苗の行動は、アイツに依存してきている気がする。
最初の時の初々しさも抜けて、遠慮なく接せる様になった。
それだけなら、こんな行動に出ようとは思わなかった。

昨日の、シロウに対する早苗の豹変ぶり。
私は一度もあんな早苗を見る機会は無かった。
私が何かしらの理由で神社を空けたり酒を呑み散らかしたりしても、多少のお小言程度で済んでいた。

しかしあの時の早苗の張り上げた声。
感情の籠ったそれ。
私が、彼女と接して一度も感じたことのなかった気迫。

―――私の知らない早苗が、そこにはいた。

今まで早苗が素顔を隠していたのかなんてのは、さしたる問題ではない。
何故、あいつなのか。
ぽっと出の彼が何故、素顔を晒すきっかけになったのか。
何故、早苗が産まれてからずっと近くに私達じゃないのか。
―――それとも、ただの偶然なのか。
とてもそうは思えないが、そう考えるしかない。
そう、勝手に自己完結してしまいたい。
そうでもしないと、悪い方向ばかりに考えてしまう。
私達は、まだ理解し合えてなかったのか。
早苗は私達の事を良く思っていないのか。
―――私達の中にあった笑顔は、全て虚像だったのか。

ぶんぶんと顔を振り雑念を払う。
そんなことを考えても仕方がない。
それを確認する為に、今こうやって尾行をしているんだから。

『うっわ〜見てよ神奈子。あんな嬉しそうな顔して腕組んでるよ』

―――対してコイツは私の気持ちを知らないで楽しそうにしている。
まぁ、そのお陰で落ち着きは取り戻した。
釈然としないけど、心の中で感謝しておこう。

『うん、あんな早苗、久しぶりに見たよ』

嘘。
初めてなのに、どうしても言えなかった。
言いたくなかった。

『お、村に入って行くよ』

あの二人ばかりに集中していて周囲の状況なんて全く目に入っていなかった。
いつの間にかそんな所まで移動していて、無駄な集中力に自分の事ながら呆れた。

『どうする?まだ尾行する?』

『う〜ん………、一応私達の顔を知っている人も居るだろうし、このまま行くのは得策じゃないね』

こんな滑稽な事をしているが、一応神である。
早苗の頑張りで私達の名はそれなりに知られている筈。
もしそうなら私達は最も尾行に不向きな条件しか揃っていない。

『んじゃ神力使う?』

諏訪子の予想外の提案に、呆れて物が言えない。

『神力使って他人から認識されない様にすれば気兼ね無く尾行出来るしょ?』

はぁ、と溜め息を吐く。

『あんたねぇ、そんな事に神力使うとか………』

『こう言ったのはケチケチせずに使わないと、結局溜めに溜まって持ち腐れるだけっしょ?』

諏訪子の言い分は分からなくは無い。

神力は文字通り、神の力。
その範疇は、信仰心が集まっている程広がる。
それ如何によっては、地殻変動や天候変化すらも可能とする。
実際、山の神である私は天候を操り人間や妖怪に住み良い環境を提供しているつもりだ。

別に信仰心の許容量に限界がある訳では無いが、そんな一気に使う様な奇跡を起こす事など無いだろうし、持て余す可能性はかなり高い。

『―――仕方ないねぇ。どうしてもって言うなら使いましょ』

まぁ、ここまで来てサヨナラなんてのもつまらないし。
神にだって娯楽は必要だ。
―――でも結果如何によっては私からすれば少し遠慮したい気分にはなるが。
そんな先のことを悩んでても意味がない。
なら、最後まで見届けるのが、首を突っ込んだ者の義務だろう。

『おっけー。んじゃ、ほいっと』

諏訪子の人差し指が私達をなぞる様に空を舞い、その後には僅かに光の線が確認できる。

『よし完了。じゃあ行こっか』

一秒程度でしか無いその動作を終え、諏訪子は何事も無かった様に早苗達が向かった方向へと歩き出す。

『因みに、どんな効果のを使ったの?』

自分自身に効果が付与されていると、意外と分からないもので、不安になって聞いてみる。

『私達を認識した相手に、強制的に"私達は神社に居る"と言う嘘の認識を与え、そこから発生する矛盾によってここに居る私達の存在を曖昧にさせて、五感全てで私達を知ることが出来なくなる仕組み』

『何ともまぁ、難しい方法でやってるわね。別にもっと楽な方法があるでしょうに。霊体化するとかさ』

そう言って、ハッとする。

『ほら、やっぱりケチくさい。別に悪い事ではないけど、見切りをつけれる様にしないと無駄に苦労するだけだよ?』

『うぅっ』

何で説教されてるんだろう、私。

『因みに早苗なんだけど』

早苗、と言う言葉に私は過剰反応する。

『見失っちゃったよ』

『―――へ?』

先程まであの二人がいた方向に目を向けると、影も形も無かった。

『い、急ぐよ!』

慌てて後を追おうとする。

『この近くだと………里が一番近いから、そこを当たろう』

諏訪子もそう思っていた様で、間も無く頷いた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


里まで文字通り飛んで辿り着いた瞬間、爆音が響き渡った。

『ッ―――!!』

余程の威力なのか、爆心地は見えないのに余波が伝わってくる。

『あの二人は大丈夫かな』

至って冷静に諏訪子が呟く。

『全く、里に何かあったら白沢と博麗が黙ってないってのに、何処のどいつがそんな無謀なことを………』

爆心地に向かって移動する。
その辺りには野次馬らしき喧騒と輪が出来ていた。

『上から覗いた方が速そうだな』

浮いた身体を二人はそのまま上昇させる。
土煙が煙幕となり確認が取れない。

『あれって………!』

徐々に煙が晴れていくに連れて表わになっていく何者かの輪郭。
そのカタチに見覚えがあった。

『早苗!』

その中心に居た早苗の眼前にある幾つもの孔。
先程まで一緒に居た筈のシロウの姿はない。

『どうしたのさこれ。それにシロウは―――!』

私の声に反応し、こちらを振り向いた早苗の表情にゾクリとする。
目が笑っていないのに、口元は吊りあがる様に歪んでいる。
まただ。
また私の知らない早苗がいる。

『あぁ、シロウさんですか?少しお仕置きをしたんですよ。でもおかしいなぁ。さっきまで目の前にいたのに。もしかしたら、消滅しちゃったかな?』

クスクスと楽しそうに笑うその姿に、冷や汗がでる。
シロウのことだから、早苗の弾幕で死ぬなんて事は有り得ないだろう。
でも早苗は、そんなことにすら気づかない程、おかしくなっている。

異常。
前みたいな変化なら、まだ喜ばしかったのかもしれない。
でも、温和な彼女が親しい相手に危害を加えるなんて、余程のことが無い限り―――。

『―――待てよ?』

温和な早苗自体が仮初の姿だったら?
何かがきっかけとなってその皮が剥がれたのだとしたら?

『早苗』

諏訪子が早苗に語りかける。
それに振り返ろうとした瞬間、諏訪子が早苗の顔を覆うように片手を突き出す。
眩しい位の光がそこから放たれ、それが消え行くと早苗が力が抜けたみたいに身体を崩す。
それを私は慌てて受け止める。

『取り敢えず意識を失わせた。今の早苗には何を言っても恐らくまともな答えは返ってこないだろうし、落ち着かせた方がいい』

『う、うん』

至って冷静な諏訪子に少し違和感を感じるも、早苗のことが心配ですぐにその事を忘れる。

『因みに今の力が働いたことによってさっきの力の効力が失われるから、急いでここを離れたほうがいい』

『シロウはどうするのさ!』

『神奈子だって、アイツが死ぬなんて思っちゃいないんだろ?
ならほとぼりが冷めた所を見計らって戻ってくるさ』

『そう、だよね』

諏訪子の冷静さが、今は有り難い。
直接見てはいないから安心は出来ないが、アイツの実力が本物なら無事である筈。
私は不安を拭い切れないまま早苗を担いでそのまま守矢神社へと戻った。

おまけ〜




『あ〜、少しやりすぎたかなぁ………?』

先程の騒ぎによって出来た野次馬に押しのけられ、その光景を遠めに見守っている。
少しからかうだけのつもりが、隣の少女の過剰な反応と行動により予想外の結果を迎える。

『さ〜て、私は悪くない悪くない、っと』

そそくさとその場から去ろうと踵を返す。

『妹紅』

その動きを阻むように対峙しているひとつの影。
その見知った影、私は一歩後ずさる。

『け、慧音………』

『あの騒ぎはなんだ?』

『あ、あれはシロウとその付き添いがいたんだけど、その付き添いが暴走して弾幕を撃ったんだよ』

『何故だ?』

『そ、そんなの知るわけ無いじゃん』

『ふむ、変だな。あの輪の中から妹紅が出てくるのを見たのに、その騒ぎの理由を知らないのは不自然だな』

―――もしかしてとは思うが、全て見ていたのにこんな不毛な質問をしているのではないか?
さっきから発言や仕草が演技っぽいし。

『―――慧音?』

『お仕置きだな、妹紅』

やっぱりいいいいいいいいいい!!

『騒ぎを起こしたのが彼女だとしても、焚きつけたのはお前だからな。
あぁもちろん守矢の巫女も叱るから安心しろ』

鼻息が荒く、顔が高潮している慧音に、ひとしきりの恐怖を感じた。

『そういう問題じゃないいぃいいぃぃ!!』

あぁ、父さん、母さん、妹紅はお嫁にいけない身体になりそうです。
ずるずると首根っこを掴まれ抵抗虚しく暗がり(昼だけど)に消えていった。



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