なんか文体と内容がグダグダになってきました。忙しかったもので………(´ー`)
漠然とした地図では距離までは図れず、すぐに着くだろうと軽い気持ちでいたのが間違いだった。
意外とこの村は広い。下手すれば冬木よりも広いかもしれない。
それだけの人口がここに集結している。だがこれならあの賑わいようも頷ける。
『ここ、だろうか』
そして着いたのが、世辞にも大きいとは言い難い普通の家。
だが古い訳ではなく寧ろ新しく思える風にも見える。
機械では表せない匠の技術が、ここにある。
横引きの扉を数回ノックする。
………無言の答え。留守、なのだろうか。
そう思ったその時、いきなり音を立てて扉が引かれた。
だがそこに居たのは慧音ではなく、銀を思わせる程煌めいた長い白髪の少女だった。
『あんた、誰?』
眠そうな顔をしながらそう尋ねてくる。
『人にものを尋ねる時はまず自分から、だと思うのだが』
『………私は藤原妹紅。ほら、答えたよ』
めんどくさそうにしながらも律儀に答えてくれた。
悪い奴では無さそうだな。
『私はエミヤシロウ。訳あって上白沢慧音に呼ばれた者だ。ここは慧音の家だと踏んでいたのだが、間違えた様だ』
『いや、ここは紛れもなく慧音の家だよ。表札にも書いてあるでしょ?』
指差した先には、確かに慧音の名前があった。
―――それの横に、彼女の名前も。
『どうした妹紅。まだ用は済まないのか―――』
家の奥から歩いてきたのは、弁髪帽は脱いでいるが、明らかに慧音だった。
『来たのか、私は来ないものかと不安だったぞ』
明らかな喜び様に、私の選択は正しかったのだと安堵する。
こんな小さなことでも、人は笑顔になれる。それは、素晴らしいことだ。
『ここまで遠い所にあるとは思ってなかったぞ』
『す、済まない。絵心は無いものでな』
『絵心以前の問題な気はしなくもないがな』
妹紅を挟んで会話が続く。
そんな中、妹紅は常にこちらを眠そうな目で見つめている。
『ねぇ慧音』
『ん、何だ?』
『こいつ彼氏?』
『『ぶっ!?』』
開口一発何を言い出すんだこの女は!
『い、いやいや違うぞ!こいつとは今日会ったのが初めてでその時に世話になったからその礼をしたいから招待したけど強制はしてないから来ないかなとか思ってたけど来てくれたから嬉しくてとかあぁそうじゃなーい!』
顔を真っ赤にして、わたわたと空回りなジェスチャーを繰り返している。
先程までの凛とした彼女との差が激しく、それをつい可愛いと思ってしまう。
『あ〜はいはい。取り敢えず上がらせたら?お礼するんでしょ?』
そんな彼女の言葉を聞き流す様に話を進める。
からかっているだけなのか、天然なのか………。
『あ、あぁ。済まない。ささシロウ、粗雑な所だが上がってくれ』
冷静さを取り戻した慧音は私を家へと招き入れる。
粗雑、と言っていたがまるでそんな部位は無い。
汚れもなけれは、置物に関しても風水に則ったレイアウトで、几帳面な面が伺える。
『これは妹紅がやったんだ。私にはよく分からないが、法則通りに物を置くと何かしらの恩恵を貰えるらしい』
私の視線から考えてる事を読んだかの様に説明を始める。
彼女の言葉に、思わず妹紅の方へ向く。
『なにその信じられないって顔』
不機嫌そうな声と表情で批判をする。
否定はしない。
彼女への第一印象は、何事も適当にやりそうな雰囲気―――それこそ世捨て人じみた―――を纏っている感じだったから。
『まぁ別に気にしないけどね。自分でもそう思うし』
自虐めいた言葉だが、本人は本当に気にしていない様だ。
私達はちゃぶ台を中心に座り込む。
慧音と私は向かい合い、その間に妹紅が両手を後ろに着く体勢で座っている。
『改めて、子供達の遊び相手になってくれて感謝する』
深々とお辞儀をする慧音。
私はそれと交互になるように返した。
『いや、先程も言ったがこれは私が望んでやった事。だがその気持ちは受け取っておこう』
こちらもお辞儀を返す。
『………なんだか私は邪魔っぽいね』
だらけていた妹紅が、ひとり愚痴る。
その呟きは、彼女以外には届くことはない。
『さて、礼の件だが………。何かして欲しい事とかはないか?私が決めるのは難しいと思ったのでな』
それならば結構、と言おうと思ったがそれを留める。
『………ならこの世界、幻想郷の事を教えてくれないか?私は新参者でな、まだ地理に詳しくないんだ』
きょとん、とした顔をした後直ぐに納得した顔付きになった。
『成る程。お前は外来人だったのか。ならその風貌と私が知らないのも納得がいく』
私"が"知らない、と言う発言に引っ掛かりを感じたが、その思考に介入する様に話は続いていく。
『分かった。ものを教えるのは私の分野だ、どんと来てくれ』
得意気に胸をドンと叩く慧音。
因みに妹紅は欠伸をしながらそこら辺をゴロゴロしている。
私の事なんぞまるで気にしていない。
『そうだな、では早速だが地理を把握したい。ここに地図はあるが名称云々は書いていないものだから道なりに進んでいたんだ』
『そうね………覚えるものは色々あるけど、分からない部分があったら遠慮なく言ってくれ』
『感謝する』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『ではまず、今現在居るここ―――人間の里から説明しよう』
すっ、と地図の一点を指差し説明が始まる。
『名の通り、ここは幻想郷の中で最も多くの人間が住む場所。ここは妖怪も利用したりする店もあるが、大抵そう言った知慧のある妖怪はここを襲ったりはしないから割と安全なんだ』
『そんな保証は何処から来るんだ?』
『妖怪退治を生業とした人間も多く住んでいるし、何よりここは妖怪の賢者が眼を光らせているからな』
『妖怪の、賢者?』
『そう、名の通り賢者と呼ばれる程の頭脳を持ち、強大な力を持った存在だ』
『何故そいつは人間の味方をする?利益があるとは思えないが………』
『自然の摂理を大局的に見た結果だろう。人間が滅ぶと妖怪だって困るのだから』
それは、やはり食糧としてなのだろうか。
それではまるで、人間は"生きている"のではなく"生かされている"だけではないのだろうか。
だからと言って妖怪を否定する事も出来ない。
少なくとも私の出会った二人はそんな事をするとは思えない。
しかしそれも所詮数分程度の会話で浮き出た表層の一部に過ぎない。
今この瞬間だって、
もしかすると―――
『―――どうした?』
『え?あ、いや………』
『かなり険しい表情をしていたが、何か分からない事があったか?』
『いや違う、少しぼーっとしていただけだ。続けてくれ』
今考えるのは止めよう。考えた所で何も変わりはしない。
慧音の話に集中しよう。
『そうか、では次は幻想郷と外との境界に位置する博麗神社だ』
先程指した場所から一気に端まで指が動き、地図のギリギリにある小さな建物を指した。
『ここには博麗の巫女である博麗霊夢が居て、異変解決を主としている』
『異変とは?』
『妖怪等が起こした幻想郷全てに変化を起こす程の変異の事を指している。色々あるが、順に追うと、幻想郷を紅い霧で覆い尽くしたり、春を奪ったり、ずっと夜が続いたり、春夏秋冬の花が咲き乱れたり、生物の中に存在する"気質"を吸い取り大地震を起こしたり、幽霊が大量に地下から湧いて出たりと様々だな』
『………それら全て博麗の巫女が解決したのか?』
『そう、だな。協力者もいたりもしたらしいが、最低半分は彼女の実力があってこその結果だろう』
私の中で、表現出来ない程の高揚を覚える。
私の理想そのものが、そこにはある。
正義の味方としての在り方、絶対的な力。
それらは、私の中でどんどんと膨らんでいく。
まるで、正体を明かさないヒーローの姿を想像するかの様に。
『それは素晴らしい人物だ。是非あやかりたいものだな』
『……………………』
『どうした?』
『いや、何でもない』
慧音は、ぐっと堪えた。
今の彼の子供みたいな表情。
それは明らかに博麗霊夢に対しての憧れのそれだ。
彼の中では、正に正義の味方みたいな想像を孕んでいるのだろう。
だからこそ、言えなかった。
現実とは、かくも厳しいものなのだ。
『つ、次は魔法の森だ』
少し顔を引きつらせて彼女は不自然に話を続ける。
『ここは最も湿度が高い場所で、人間も妖怪も足を踏み入れない原生林なんだ。ここに生えている茸の胞子が、両者にとって好ましいものでは無い為だな。だが逆に考えればその胞子に耐えられるのならば、ここはかなり安全な場所になる。魔法の森、なんて呼ばれるのはその茸のせいなのが殆どなんだ』
『殆ど?』
『そう、殆どだ。残りの理由は、ここには魔法使いが住んでいるからなんだ』
『魔法使い、だと―――?』
『なんでも茸の幻覚作用が、魔法使いの魔力を高めるのに効果があるらしい。
まさに魔法使いにとって最高の環境と言う訳だ』
にとりが話していた魔法使い。
外とどれほど差異があるかは分からないが、興味がある。
道なり的にもここからさほど遠くはないし、暇なときにでもその魔法使いを探してみるとしよう。
『そうだった、人間の里と魔法の森の間に鎮座している、外の世界の道具を商品として扱っている店があって、お前ならそういったものの使い道が分かるんじゃないか?』
『見てみないことには分からないが・・・そこの店主はそんな用途不明なものを売っているのか?』
『いや、そこの店主の能力が、名前と用途が分かるものなんだ。
本人曰く、使用法までは分からない中途半端な能力だと嘆いていたがな』
『面白い能力じゃないか。まさに天職だな』
『まぁ使用法が分かってそれが使えるものなら、売りに出すかも怪しいがな』
―――それもどうかと思うが、思うだけに留めておく。どうせ言ったところで意味などない。
『次はここ、通称霧の湖なんだが。ここには氷の能力を操る悪戯好きな氷精がいるから近づかない方がいい。とは言っても、博麗神社に行くなら間違えて近くを通る場合もあるかもしれないが、その妖精に会った場合、適当にクイズでも出せばそれに没頭して周りが見えなくなるだろうから、そのスキにでも逃げれるぞ』
彼女は、その地図に先程言った妖精の特徴と思わしき絵を描く。
―――質に関してはノーコメントといこうか。意外と楽しそうに描いているのに邪魔をするのは、本音を口にすることよりも愚かなことだ。
『そしてここも危険区域だ。霧の湖を抜けた先にある紅で覆われた屋敷、紅魔館。ここには吸血鬼の姉妹に、強力な能力を持った人間のメイドに、妖怪の門番がいる。並みの実力者では、この布陣は崩せないだろうな』
吸血鬼、か。
最強の種族と名高い真祖の吸血鬼とまではいかないだろうが、それでも姉妹となるとサーヴァントでも倒すのは困難を極めるだろう。
いや、下手をすれば成す術もなくやられる可能性だってある。
もともとそんな相手と戦う気はさらさらないが、何かの拍子になんてこともある。
対吸血鬼用の武器の投影も試しておかないとな………。
『人間の里から見て、妖怪の山の真逆に位置するのが、迷いの竹林だ。ここに用事があるなら、妹紅に案内を頼むといい。彼女は道に詳しいからな』
横を見ると、惰眠を貪っている妹紅がいた。
それを見て慧音は優しい表情で微笑んでいる。
私からすれば、何とも危機察知能力に欠けている奴だと思う。
普通知らない奴が家に上がるとなると警戒するものじゃないか?
はぁ、と溜め息を吐くと、慧音が不思議な顔をしていた。
『そして―――そこを抜けた先にあるのが、永遠亭。ここには天才と自他共に認める薬師と、姫がいる』
『姫?』
薬師に姫、か。その姫とやらは病でも患っているのだろうか。
そうでもないと、同じ屋根の下でそんな身分不相応の二人が住む理由はないだろうし。
『本人曰く、月から降りてきた姫のようだ。まぁ私は直接見てはいないから何とも言えないが………』
そう答えると、彼女の視線はちらりと妹紅の姿を捉えていた。その刹那に感じた憂いの空気。
しかしその違和感もすぐに消え去り、慧音は再びこちらを見た。
『妹紅のことなんだが………。もし永遠亭に用があるなら、彼女ではなく私に声を掛けてくれ』
『―――それでは先程の案内の件はどうなるんだ?』
『あくまで竹林の案内だけだ。
彼女自身そこにいくのは拒むだろうし、私からも出来れば拒否したい』
『何故そこまで?』
『………それに関しては私は何も言えない。妹紅から聞くしかないだろうが、恐らく答えてはくれんよ』
ここまで頑なに拒む程の理由が、永遠亭に存在するのだろうか。
今こんなにも穏やかに眠っている少女を、大きく変化させるほどの何かが。
『そうか。なに、私からは何も聞かんよ。彼女から話すとなれば聞かない訳にもいかないがな』
『―――ありがとう』
再び深い礼をされる。
『よしてくれ、私が勝手にそう結論しただけなんだ。礼を言われたい訳ではない』
『―――先程から思っていたのだが、そうやって感謝を拒まなくても良いのではないか?
それは時として人の気持ちを踏みにじるのにも繋がるんだぞ?』
『それ、は―――』
突然の説教により、思考が上手く回転しない。
『感謝をされたなら、それを受け取る。たったそれだけだろう?子供にも出来るそんな単純な事すら出来ない程、お前は餓鬼なのか?』
『―――――――――』
何も、言えない。
私の正義の味方としての在り方の否定。
それに憤りを感じると同時に、妙に納得してしまう自分にも同じものを感じる。
餓鬼かと言われれば、正にその通りだと思う。
正義の味方で在りたい、なんて事を信じ続けている時点で餓鬼なのは理解している。
それよりも、彼女の言葉。
私が今までしてきた行為の否定の全て。
無償の救済、それは間違いだと。
『私は、餓鬼、か―――』
ひとり呟く。
今までそれが正しいと信じていた事が、容易く一蹴される。
普通ならば、それを認められないものだ。
しかし、今の私はそんな常識とは真逆の感情を覚えている。
それはすなわち、自分でも理解っている、と言うこと。
彼女に言われる以前から、どこかで理解していたのかもしれない。
しかし私は餓鬼だから。だから幾度やり直して、ここに来てまで誰かに突きつけられる。
私の人生は、無駄だらけだったのだろうか?
『そうかも、しれないな』
『―――分かっているなら、考えを改めた方がいい。これも私の勝手な好意の押し付けに過ぎないからこれ以上は何も言わない。人と言うのは疑り深い生き物だからな。本人が良かれと思っている行為にだって裏があるかと疑う。それこそ、代償を支払わない行為ならば、尚更』
私が今まで救った存在には、礼をする者もいれば何かしらの物資を提供する者もいた。
私はそれを拒んだ。
救いを求めると言うのは、切羽詰まった状況以外では起こり得ない。
だから私は受け取らなかった。それが正しい判断だと信じていたから。
しかし、彼女の言った通りそれによって私と言う存在を眼鏡で見てしまったのなら。
掛け慣れない眼鏡は視界を歪ませる。
自然と直視出来なくなると、視野も一気に狭まる。
彼等の世界も、色を変える。
私と言う存在にも、歪みが生まれる。
それによって正義を悪と認識してしまう事だってあるのかもしれない。
実際、私はそれによって命を落とした可能性がある。
救いを与えた存在による裏切り。
あらゆる感情が渦巻く中現れた一寸の光。
それは希望に見えると同時に、何か分からない存在が現れると言う考えにも至れる。
認識力が曖昧になる程他人を恐れる存在の自己防衛方法。
それは、自分以外を信じない事。
自分の色を何色にも染めないこと。
その結果、人は狂気に走る。
孤独では生きていけない存在が、創り出した世界に圧し潰される残酷な結末。
考えてしまえば、こんなにも浮かんでくる他人の痛み。
私は、ひたすらに立ち止まる事が無かった。
だから、こんなにも深く考える余裕が無かった。
いや、考えるくらいなら一人でも救う選択をしていたのだ。
それが必ずしも望んでいた救いに繋がる訳ではないのに。
今やっと理解した。
他人の本当のキモチを知らなければ、救いにはなり得ないんだと。
本当に救われたい事なぞ、全ての存在が私と一緒な訳がない。
私のしてきた事は一方的な好意の押し付けと何ら変わりはしない。
『―――――――クッ』
最早笑うしかない。
私の理想は、現実にも成り得ない虚像だったという事だ。
衛宮士朗を否定し、それすら覆えされ、最後に全ては足掻きだと気付かされる。
―――なんという、運命。
衛宮士朗として生き、アーチャーとして生き、今エミヤシロウとして生きている。
もっと、もっと早く、何かしらの形でそれに気づいていたなら、全ては狂わずに済んだのだろうか。
もっと、誰もが笑って終われる結末が用意されたのだろうか―――
気がつくと、私の頬に熱いものが流れていた。
それが涙だと気づくのに、かなりの時間を要した。
今までずっと、泣くなんて事が無かった。
涙腺が消え失せたのかと思う程に、私は冷酷だったのだろう。
ただただ救済する為だけの存在。
ただ誰かを助けたい、と言うプログラムだけ組み込まれた自動人形。
それだけしか搭載されず、それ以外は何も成せない。
そしてそのたったひとつの存在意義さえ、贋作には見い出せない。
―――今の私は、いったい何なのだろう?
ふわりと、暖かいものが私を包み込む。
首の後ろから回された腕、目の前にいない慧音の存在が、暖かさの正体を自然と教えてくれる。
背負う様な体位なのに、逆に全てを預けてしまいたい感覚。
それほどまでに、今の私は弱っているのだろうか。
『―――何故泣いたのかは分からないが、泣ける時に無理はするな。哀しいことは溜め込むべきじゃない。
泣け。そして全てぶちまけろ』
彼女の言葉ひとつひとつが、染み込んでいく。
それが、軽い引金となった。
ただひたすらに、私は涙を流した。
嗚咽も、身体の震えすら無い。
そんな機械的な動作で起こした涙だが、私にとってはこれ以上無い程の奇跡だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『では、これで失礼するよ』
あれから暫く経ち、精神的な復活を遂げると私は今の時間帯を聞き、その結果退散することにした。
内心かなり焦っているが、それを表に出す程今の私は弱ってはいない。
慧音のおかげだよ。
そして、ここまで弱い所を見せたのは、彼女が初めてかもしれない。
全く、常に冷酷だった頃が懐かしいよ。
もう、昔の私には戻れないな。戻る気もさらさら無いが。
『あぁ。こんな遅くまで申し訳なかった』
『いや、君には感謝してるよ。あらゆる面でな』
『―――そうか』
顔を綻ばせた彼女は、とても満足げだった。
それを見てこちらも自然と頬が緩む。
やはり私達は、どこか似ているのかもしれないな。
『地理に関して殆ど教える事ができなかったから、暇な時にでも尋ねるといい。いつでも―――とは言わないが、なるべく時間を割ける様に努力をする』
『あぁ、感謝するよ』
先程とは心境が異なるせいか、彼女の好意も自然に受け取ることが出来た。
確かに遅すぎたスタートではあったが、決して手遅れではないと信じよう。
この先、遅れた分以上に挽回出来るんだと、信じ続ける。
それが、彼女への最大の恩返しだ。
踵を返し、私は歩く。
新しい自分の我が家、守屋神社へと。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
今までのシリアス加減は何処へやら。彼は人気の無い場所に着いた途端全速力で走り出す。
端から見れば、その表情の焦りぶりに笑ってしまうかもしれない。
ただ闇雲に、辿ったであろう道筋を走る、走る。
ものの十分程度で境内にまで辿り着いた彼の足の速さは、流石は英霊。
まぁ彼の場合足に強化を掛けているからこそのそれなのだが。
恐る恐る戸を引き、茶の間へ向かう。
異様な静けさが、彼の不安を向上させる。
ススス、という音と共に身体を強ばらせる。
茶の間に存在するのは、早苗の正座した姿と恐らく私のものと思われるであろう食事がちゃぶ台の上に寂しそうに置かれているだけ。
シロウに気付いた早苗は、にこりと微笑んだ。
しかしそれは、彼には地獄のトラウマを呼び起こすものだった。
あかいあくま、ドS似非神父と全く一緒の笑み。
それを理解<わか>っている彼は、顔を引きつらせ、身構える様に一歩後ずさる。
早苗は、それを合図としたかの様に大きく息を吸い込み、それを振動として放出した。
『シロウさん!そこへ直りなさい!』
『は、はいっ!!』
そのあまりの剣幕に、自然と従ってしまう彼の姿は、正に過去の自分そのものだった。
最早失われていたと思っていた人格が、酷く懐かしく、虚しさを募らせた。
『………まぁ、早めに帰ってきて下さいとは言いましたが、まだ地理に詳しく無い以上多少なら仕方ないと譲歩してましたが―――流石に遅すぎます!』
彼女から感じたことの無い気迫に、彼は顔すら上げれない状態だった。
『貴方とはまだ浅い部分しか知り合っていませんが………他人の事を優先、自分を蔑ろにする傾向があることはしっか〜りと理解させてもらいました』
笑顔が、怖い。
誰もがそんな感想を抱くだろう。
言い訳も出来ないシロウは、正座で折檻を後30分以上は続けられると言う、恐ろしい体験を堪能させられる羽目になった。
夜は、まだ始まったばかりである。
その頃の蛇蛙.s
『ガクガクブルブル』
『早苗、怖すぎるわよ………』
襖の隙間から二人の事情を覗いて諏訪子は蛇に睨まれた蛙の如く脅え、神奈子は今まで見たことのない早苗の姿に怯んでいた。
おまけーね
彼を見送った後、私はその場に留まったまま思考する。
何故、私はあんな行動に出た?
説教に関しては前に感じた事をぶつけただけに過ぎない。
しかし、彼が涙を流した瞬間、私は無心で彼の背に抱きついた。
今思い出すだけでも、恥ずかしいことこの上無い。
慰めるにしても、他に手段はあったろうに。
分からない、自分の事が分からない。
一旦思考を中断し、居間へと戻る。
すると先程まで寝ていた妹紅が起きている。
『起きたのか。言ってももう夜は更けているからまた寝るのだろうが―――』
そこで、妹紅が何やらニヤニヤ顔でこちらを見ていたことに気づく。
『ど、どうした?』
その顔は、彼女が悪戯な思考を持った時に必ずする合図。
正直、嫌な予感しかしない。
『いや、慧音は彼氏じゃないって否定してたけど、そんな相手に対してあんな大胆な行動をするとは………。
やっぱりデキてるんじゃないの?』
『―――っ!
なっ、ななっ!!』
動揺を隠せない。
あの時、彼女は寝ていた筈では。
『実は慧音が歩く振動で起きちゃってね。
寝ぼけ眼で姿探したらなんか物凄いことになってるじゃん?みたいな』
き、気づかなかった。
あの姿を見られた、と言う事実に動揺が倍増する。
『で、結局どうなの?』
妹紅の質問責めのせいで、今宵は眠れそうになかった。
教訓:無計画な行動は事故のもと
+注意+
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