第2回
荒れ野で叫ぶものの声がする。
「主の道を整え、その道筋をまっすぐにせよ」
「兄さん行ってらっしゃい」
「ああ」
普段着姿で外に出る。弟のスィルが玄関まで来て俺の見送りをしてくれた。
「気をつけて、頑張ってね!」
今日は就職試験の日だ。
場所は国家議事団第一部世界連盟会。通称「団」。本国最大規模の企業である。能力さえあれば誰でも入れるところだ。噂によると最年少で3歳児がいるらしい。
「ああ、心配するな」
…児 だぞ!?どんな能力を…すごいな。
と とにかく俺はここに入りたい。
ここは1度入れば特別何かがない限り永久にやめさせられることはない。
しかも報酬は********!!
答えられないほどの額らしい。
俺だって知らない。
待遇も特別らしいし。
すごい。とにかくすごい。
皆1度は憧れる。
それが団なんだ。
「はあ…いい天気だ」
歩きながら空を仰ぐ。めいいっぱい空気を吸い込んで肺に溜め込んだ。
「…ふう」
そしてその息をゆっくりと吐き出す。深呼吸により、体の機能が蘇ってくる。そう感じた。
「団…は、と」
俺はショルダーバッグから一枚のパンフレットを取り出して眺めた。
「どう行けばいいんだったっけ?」
団までの道のりを必死で確認する俺。地図は苦手だ。
「…あ」
ふと、団の建物の全体図が目に飛び込んできた。
「…大きいな」
団は大きい。本当に大きい。どこまで離れればその姿が見えなくなるのか実験してみたいくらいだ。
「…う」
俺は生ツバを飲み込んだ。団が大きいということは、それだけすごいってことで…何がすごいかっていうのはきちんと説明できないのだけれども…
「…きっと、倍率が高いのだろうな…」
そこに俺は挑もうとしている。だから…さっきから心臓が飛び出しそうだ。
落ち着けー。自分。
団までは徒歩で20分。
「へえ…」
通勤にはもってこいだ。
そこを曲がればすぐ…見える…
見え…
「…っ」
門を曲がり、目の前に団が見えた。
何だここは。でかいってものじゃないぞ!いや…でかすぎるだろ!?
「んな…」
そう。例えるならば幼稚園と小学校と中学校と高校と大学と大学院と職場と老人ホームを全て…足した感じ。わっちゃダメだぞ。
「でか…い」
感無量で言葉にならない。
そ そうだよな。あれだけ大企業だもんな。この位なんだよな…。
分かってはいても、手ぶらでその姿を直視したことが無かったので衝撃的だ。
いつもは、家の窓からとか、写真とかからで。
「…ふう」
先ほどの深呼吸が効いたのか、逆に心臓が落ち着きを取り戻していた。
俺は門から玄関までの長い距離をたどたどしい足取りで歩いていった。
「入団試験に受験する皆さまは、こちらからご入場お願いします!」
警備員に似ているような人物が、たくさんの人を誘導していた。連れられた先はどうやら受付らし。大勢の人が「受付」で用をしていた。
「…ああ、なるほど」
私服の人は、俺と同じ受験生ってことか…
「名前と、受験票を提示してください」
ショルダーバッグから大きい茶封筒を取り出して、受験票を差し出す。
「ウィリアムス・ヴィヴァーチェです」
「…はい。受験番号は…」
俺も受付を済ました。制服姿の人に受験番号のついたバッチと体操服、書類が手渡しされる。
これに、着替えるのか。何でだろう。…筆記試験だけじゃないのか?
疑問に思いながらも着替え室は満員だったのでトイレで着替えた。
「うわあ…」
トイレも立派だな。
ウォシュレットって初めて見た…。
「…よし」
トイレと着替えを済ませて出る。体操服は白いTシャツと同じで、紺色の短パン。いたってシンプル。
さて…
試験開始まであと…1時間もあるな。散歩してみようか。
受付会場から離れて廊下へ向かった。
「…ん」
空気が少し綺麗になったかな。
「…あ、団員の人たちがいっぱいいる…」
もし俺がこの試験に合格したら、この人たちは俺の先輩になるってことか。自分より年下の人にも敬語を使わなければいけないのかな…なんかそれは複雑かな。
「…」
俺はただボーっと団員の様子を眺めていた。…が。
…おい。ちょっと待ってくれないか??
ここにいる人達って…
「あ…れ?」
人…間…だ よな…?
じゃあさ…どうして…
空飛ぶダンボールで遊覧してるんだよッ!壁歩いてるんだよッ!!
透明人間なんだよッ!!!
何で空気中に魚が泳いでるんだよーッ!!!!
「え?えええ?」
なんだここ…!?
わ…
わわわっわわ訳が分からない!
皆…普通に…そんな事をしてる…。
「な、に…?ここ…」
これが、ここでの普通なのかッ!
能力ってこういう事だったのか?
「うわあ…」
わーすごいよ、お母さん。お兄ちゃんの体が伸びたり縮んだりしてるー。
「なんて…なるかッ!」
素晴らしいものを見た時の感動はなかった。ただ恐怖が自分の中を渦巻いていた。
に…逃げたい。
心臓が、今度こそやばい!
「…おい。何で部外者がここにいるんだよ」
「…え?」
ふいに頭上で声がした。
あ、そうですか。
空飛んでるんですね。
「うわあああ」
俺は全速力で逃げた。
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