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90分だけ貴女の味方です 作者:織田 涼一
9/10

009:幸せな団欒

 自分とミーシャが踊り終わって3ローテーションする迄が、次の有志によるダンスへのお誘い時間となる。
続けてワルツばかりだと、よっぽど踊りが上手い者ではない限り飽きられてしまう。
一曲はウォルフと踊る予定のミーシャは、お互い誘いが多いので雰囲気的に許されないかもしれない。
また、礼儀としてミーシャは断られること前提で、主催者のセルジェンへ申し込みに行く必要があった。

 普通に考えれば2人までダンスを受けられる、護衛としてミーシャの後ろを歩き様子を見守った。
セルジェンに群がる女性の所に行くと、ミーシャは順番待ちの列に並び1曲ダンスの依頼をすることになる。
「ごめんね、約束している人達がいるんだ」と直前までの女性が断られていた。
そしてミーシャの番になり、前の人と同じように申し込みをして、一瞬早く振り返ろうとするミーシャの手を取ったセルジェンは「喜んでお願いします」と思わず声に出していた。

 エスコートをセルジェンにお願いするとレイシアがいる場所へ戻る。
今度はウォルフに列が出来ていて、隣で暖かく見守っていると何時の間にか自分の前にも列が出来ていた。
「あの、私もアーノルド家ですが学園関係者ではないですよ」と言うと、レイシアに「相手がこの学園の人なら一緒に踊れるわよ」と言われてしまった。

 ミーシャが戻ると、とてもプンプンと怒っていた。
セルジェンと踊るにはまだ少し時間があり、今度はミーシャの列の対応をしなくてはならない。
多くの男性が列をなしていたので限定1名だけと話をして、早々にレイシアにより3人の相手が決まることになった。
レディア伯爵家のゴヴァスも並んでいたようだけど、申し込む前に決まってしまったので良い所なしだ。
何故かこちらを睨むゴヴァスが印象的だったけど、どうなるものでもないとスルーした。

 有志による踊りは基本的に家格上位者とダンスがうまい者が多い。
ワルツから始まり、スローフォックストロット・タンゴ・ルンバ・パソドブレへと続く。
後半に行くにしたがって楽曲の演奏のみになることが多い。
ワルツが終わった頃、ようやく3組の準備が整ったので同じ回にフロアに立つことになった。

 これから踊るのはスローフォックストロットの予定だった。
ウォルフも自分もミーシャ達カップルや他のフロアに立つ人達もその予定で準備をしていた。
そして始まった曲は何故かパソドブレだった。
戸惑いから棒立ちになる生徒達、演奏の指揮者を見ると近くにゴヴァスの影が見えた。

 セルジェンとミーシャはかろうじて踊り始める事が出来た。
ところが大多数はまだ動き始める事が出来ないでいた。
ウォルフと自分は目配せをしてパートナーのお嬢さんに断りをいれる。
「ウォルフ」「ああぁ、『鏡の騎士』をやろうぜ」阿吽の呼吸でウォルフと向き合い、片手に剣を持つ格好をして相対する。

 この世界のパソドブレは闘牛士ではなく『勇者と女性魔王の恋と戦い』を模していた。
難しい踊りだが更に進化を遂げたのが、同じ楽曲で踊る事が出来る『鏡の騎士』だった。
勇者と魔王側近がお互いの姿になり、まるで鏡の中の相手(自分)と戦うように踊る。
そして途中から魔女がお互いに味方し、お互いの敵にまわり最後には一人が倒れて男女のペアに戻るという、男性2名女性1名の変則的な踊りだった。

 剣を振りかぶり盾で防ぐ、華麗に身を翻すかと思えば剣を突きつけ牽制する。
会場の異常さに気がついたレイシアはステイシアからリボンを借りて、どこからか取り出した真っ赤な口紅をひく。
「あの、レイシアさま・・・」
「ちょっと会場を暖めてくるわ。ロロンを少しお願いね」そう言うとスタスタとフロアに入っていった。

 レイシアがフロアの端に立つと棒立ちだった女性に声を掛ける「次のダンス期待しているわ」と言うと、歩き始めるレイシア。人垣が十戒のように割れると、ウォルフと自分の間に入ってきた。
棒立ちの生徒は徐々に気がつき、フロアギリギリまで移動して二組のダンスを見守った。

 最初ウォルフの側についたレイシアは、剣で牽制するウォルフの横から魔力を放つ仕草をする。
対抗するように盾を使って身を翻し、大振りで水平に剣を振るうと二人は飛びのく。
幻惑をかけられて苦しげに頭を抱えると、レイシアは意識を取り戻したかのようにこちらの味方についてくる。
音楽が佳境に差し掛かると魔女の動きが止まる、そして同じ動きでウォルフと自分の剣が交錯する。

 この踊りは打ち合わせをしている場合と、踊りが劣った方が倒れる場合があった。
今回は優劣をつけずにこっそり「ウォルフ頑張れ」と一言を言うと理解したようで、自分が倒れウォルフとレイシアが最後まで踊り続けた。音楽が止まると「ワァァァァァァ」というような歓声があがった。

 軽く息をきらしているセルジェンはミーシャに微笑むとまっすぐ指揮者のもとへと向かう。
レイシアが大きな声で「指揮者さん、今度は楽曲間違えないでね」と言うと、笑いが起きフロアの緊張は取れていった。セルジェンが一言指揮者に声を掛けると、緊張した指揮者はタクトを力強く振るった。

「みなさん、素敵でした」ステイシアの賞賛は戻ってきた全員にかけられる。
「全員止まったままだったら、あの指揮者さんは大変なお叱りを受けたでしょうね」
「多分、あのゴヴァスってやつの差し金だね。話しかけていたのをみました」
「やることが小さいなぁ、あそこまでミーシャに確執するなら主催すればよかったのに」
「ウォルフ、今回はセルジェン君が頑張ってるんだからそういう事言わないの」
「でも、『鏡の騎士』が恥ずかしいのは倒れた後からフロアを出るまでだよね」
「「「「確かに」」」」

 順番は前後してしまったけど、その後のダンスは順調に進行した。
先程のパートナーと踊る事も出来たし、壁の華を飾っていた女性を率先して誘って踊ることにした。
「では、ラストダンスはこの方に踊って頂きましょう。ウォルフとステイシアいいかな?」
セルジェンが指名すると堂々とフロアに立つ二人、会場は夢心地な雰囲気のままダンスパーティーは閉幕した。
帰り際に「招待状は来週ウォルフに持たせるわ」と言ったレイシアの笑みは魔女のようだった。

 ウォルフはステイシアを送るまでが今日の仕事だった。
今日はアーノルド家別邸で宿泊する約束になっていて、ウォルフは後で合流することになっている。
別邸に戻るとスチュアートを迎えに【ゲート】を開く、家族が揃うと楽しい夕食の始まりとなった。
子供達の活躍を聞くと返ってくるのはレイシアの武勇伝だった。
スチュアートは苦笑しながら「子供達のお祭りなんだから自重しなさい」と言うと子供っぽく「はーい」と拗ねるステイシア。年々精神年齢が逆行しているように感じるのは気のせいだろうか少し不安になる。

 子供達で部屋に集まるとロロンが「久しぶりにカード遊びをしたい」と言い出した。
収納からカードを出してババ抜きをする、もうみんな慣れたものでロロンも簡単に負けないようになっていた。
お菓子を食べながらカードゲームをする、とても幸せな一日だった。
途中ダンスのパートナーの相手について話があがったけど、自分が担当した女性達はレイシアが選んだので詳しい情報はわからない。ダンスがとても上手かった事は印象的だったくらいだ。
動揺を誘う作戦だったのか、チップ代わりのクッキーは最後にはミーシャの総取りになった。
この後、パーティーの招待状を書き、多くの女性が集まったティーパーティーを行った。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「へぇぇ、そんな事があったんですか?」
「貴女もいたら楽しかったでしょうね、私は準備に追われて大変でしたが」
「あらアキラさま、そんな事を言うとウォルフさまに叱られません?」
「この事は二人の秘密でお願いします、まあ言っても大丈夫ですよ。うちの家族は私には甘いので」
「まぁ、では言っちゃおうかなぁ」
「やっぱり秘密でお願いします、共通の秘密ってワクワクしませんか?」
「その相手は私でいいんですの?」
「もちろん」

 この家にあるこのドアは自分専用の場所であり、ウォルフやロロンにも直接の出入りを禁止していた。
ウォルフは学園を卒業してから2年が経ち現在20歳である、貴族子弟が多くいる軍部で騎士の仕事をしていた。
たまにふらりと遊びにくるけど基本的には宿舎暮らしをしていて、前にいた部屋はロロンが使っている。
ロロンは16歳になり着実にたらしの才能を高めていた。
誰に似てしまったのだろうか?潜在的才能だったらアーノルド家なので自分の責任ではないと信じたい。

 とにかく女性を幸せにする責務がある自分はやるべき事をやるだけだった。
冒険者として実績を重ね、ロロンのサポートをする。
ウォルフとミーシャが学生時代にコネをいっぱい作ったので、この部屋への依頼はひっきりなしに来ている。
何がどうなってこうなったか正直不明だ、そして気がつくと自分はホストになっていた。

 今日も一人の女性がお客として来ていた、完全予約制で店のオープン時間も予約をした人でなくては分からない。
そもそも、ここでお酒やお茶や食事が取れると知っている人は限られた人のみだった。
通常商業ギルドを通さないといけないところだが、王家へ自己申告の決算書を出し規定の金額を支払ってるので、この商売は不問になっている。窓口はガレリアさんが担当してくれていた。

 ある人にはお茶を出して永遠とお話を聞く、ある人にはお酒を出して毎日の鬱積した思いを発散して貰う。
ある人には髪を梳かして、ある人にはがっつり食事を楽しんでもらった。
共通する事は【魂の時計】が刻む90分のサービスが提供されることだった。
ホストと聞けば女性を騙して・・・というイメージが先行するが、自分がやっている客をもてなす事を重視したホストだ。
名刺には魔法が込められている、明日も大切なお客さまの予約が入ったので時間を書き込んで指をパチリと鳴らす。
名刺が消えると今日は休むことにした、今日のお客さまに一つでも幸せが訪れるように祈りながら。
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