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90分だけ貴女の味方です 作者:織田 涼一
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008:パーティーの盛り上がり

 アーノルド男爵家を中心として集まっているこの場所を、多くの者達が関心をもって見ていた。
中でも『ミーシャを見守る会』に参加している者には衝撃的な光景だった。

「おい、あの大人しくて可憐な『守ってあげたいランキング上位』のミーシャ嬢が、こんなに無防備な姿をさらしているなんて今まで見たことあるか?」
「ああ、お前は新参者だから知らないのか。一応兄貴ならいいんじゃないか?」
「バカ言え、あれはどう見ても恋し……いや、これ以上は認める訳にはいかないな」
「あのアキラって養子って噂だけど、普通婚約者に止めておかないか?」
「よっぽど家にとって大切なんだろうな。そう考えるとミーシャ嬢と結びつける可能性も少ないな」
多くの予想と噂が飛び交っていた。

「ロロン、なんで教わった挨拶が出来ないんだ」ウォルフは今日、頭を抱えっぱなしだ。
「「いいえ、ロロンさまはまだ……そう、小さいので」」キャリーとミリアはすかさずフォローをする。

 少しするとセルジェンがやって来る。
レイシアに主賓の挨拶のお礼を言い、ウォルフと握手をした後、家族の紹介を求めた。
順番に紹介をして「最後にロロンです」とウォルフが言うとロロンが追随する。
「初めてお目にかかります、アーノルド家三男のロロンと申します。先ほどのダンスは感動しました、この学園に入った暁には貴方のような光り輝ける存在を目指したいと思います」見事な礼で返す。
「立派な挨拶が出来る弟がいるようだね、暖かい家庭・・・是非僕も参加したいな」
「過分な評価ありがとうございます」ウォルフは丁寧に礼を返す。

 キャリーとミリアは数歩下がっているし、この場にはステイシアも控えていた。
まだ話したそうにするセルジェンを、後ろからルシャン侯爵家当主が割り込んでくる。
「レイシアさま、お久しぶりでございます。まだ仕事が残っていますのでこれにて失礼致します」
セルジェンを連れて退席していった。

「昔は王都の生活も楽しかったのにね。いつの間にかギスギスしてしまってるわ」レイシアはため息をついた。
「お母さまはとても人気だったと聞いていますが……、お友達とかいなかったのですか?」
「ミーシャ、私は友達がいなかったわけではないわ。自分で言うのも何だけど学園時代では人気だったし、別の貴族家のお嬢さんや冒険者で活躍している人達もいましたよ。でもね、表立って動けない時期があったのです」
年を越えると、まるで逃げるように男爵領に嫁いだレイシアは、領内では絶大な人気を誇っていた。

 体を動かし領民と触れ合い、時には畑仕事もした。
いくらソルトが手伝ってくれたとはいえ、並大抵の努力では語れない年数を重ねたのだ。
それは愛する旦那さまを始め子供やソルト、途中からアキラのいる生活が暮らしに潤いを与えたのだった。

「そろそろミーシャとアキラ君の出番じゃないかしら? キャリーさんとミリアさんも一緒かしら?」
少し離れた場所にいた二人のダンスパートナーが迎えに来て、ミーシャと一緒にダンスの準備に入った。
「123・223、思い出しますわねアキラお兄さま」
「そうだね、ミーシャ。さすがにあれだけの特訓をしたらウォルフ程ではないけど踊れるようになったよ」
「では、参りましょうか」
「お嬢様、お手を」
「もう、アキラお兄さまったら」

 上位の家のダンスが一通り終わると、家格の低い家のダンスが始まる。
爵位で考えるなら下位の家は多くなる、そしてよっぽどじゃない限りそんな家のダンスを見学する物は少ない。
ところがこのダンスには、多くの見学者が人垣のように連なっていた。

 ワルツとは、優雅に大胆に女性を美しく魅せる踊りである。
男性はいかに影に徹し、観客にパートナーをアピールするかにかかっている。
基本的に全員同じ踊りをする、それは主役の踊りというより群舞に近い。

「まあまあね。私達のレベルの及第点ってところだけどね」レイシアが嬉しそうに感想を漏らす。
「アキラの前だと伸び伸びするんだよなぁ、あいつ」
「それは言わなくてもわかってるでしょ」
「はぁ、あいつ自分の立場を分かってるんだろうか」
「それはあなたも一緒でしょ。きちんとパートナーを探さないと」

 同席しているステイシアは会話に入れずオロオロしてた。
さすがにフィアンセにして欲しいと言ったら、『ウォルフ親衛隊』や学園のみんなからターゲットにされてしまう。
社交界で愛を貫いたアーノルド家の夫婦には見習いたい点が多かったけど、そこまで勇気を出して婚約を願い出る事は正直難しい。そもそも貴族にとっての婚約や結婚は家同士の結びつきであり、本人同士がいかに愛し合おうとも家からNOが出てしまえば結ばれる事はない。

「でも、ミーシャもウォルフも、この中から一人選ぶと大変な事になりそうね」
「家系的に女性に不誠実な真似は出来ませんよ」
「あれ?ロロンさんがいませんね」ステイシアは気がついたようだ。
「「え?」」

 ロロンは絶好の位置でアキラとミーシャを見たくて、キョロキョロしながら移動をしていた。
そして辿り着いたのが『ウォルフ親衛隊』で、親衛隊の皆は主にダンスではなくアーノルド家の皆を見ていたのだ。
「あら、ぼくちゃん。迷子かな?お名前言える?」ふと、近くにいた女生徒が声を掛ける。
「ぼく? ロロンだよ! 今お姉ちゃんが踊ってるの、ここで観ててもいいかな?」
「おうちの人が心配しないかしら? この踊りが終わったら一緒に探してあげるね。ちなみにお姉さまはどちらの方かしら?」
「アキラ兄さまとミーシャ姉さまだよ。ほら、あそこ」
「「「「「「「「「「え……」」」」」」」」」」
周囲の視線を一身に受け、それを華麗にスルーして二人のダンスを観ていた。

「わ、私が声を掛けたので、ダンスが終わったら一緒に連れて行きますわ」
「いえ、それは私の仕事です。ウォルフさまに心配かける訳には参りません」
「いいえ、心を痛めているウォルフさまへご案内するのは私の役目です」
小声で誰がロロンを連れて行くか揉めていたが結論は出ないようで、平等に全員で案内する事が決まった。

 基礎が出来ていて、審判員がいなくても観客へのアピールも文句なしに上手い。
何よりミーシャの幸せそうな顔に『ミーシャを見守る会』だけでなく、多くの女性も魅了されていた。
密かにパートナーのフォローが良いという評価も頂いていたようだった。
ダンスが終わると礼をして第二陣の生徒がフロアに立つ、すると波が引くように観客がまばらになっていった。

 アーノルド家の集まりに合流すると、ロロンが行方不明だとレイシアから聞かされた。
さすがにここで武器を構える訳にもいかないので周囲を見回してみる。
するとある一角の女生徒が集団でこちらを目指してやってきた。

「アキラ兄さま・ミーシャ姉さま、素晴らしい踊りでした」ロロンが女生徒を引き連れてやってきた。
「ロロン、その前に言うことがあるんじゃないか? 俺ら心配したんだぞ」ウォルフがロロンの目を見つめる。
すると女生徒の中で高位の家の者が前に出て、「お二人のダンスを良い場所で見たくて、移動してしまったようです。引き止めてしまい申し訳ございませんでした」と礼をする。

「皆様、ありがとうございます。このお礼は改めて」ウォルフが告げると、「ハイ」と多くの女生徒が返事をする。
「私からもお礼を言わせて欲しいわ。そうだアキラ君、今度うちでこちらの皆様をお茶にお誘いしたらどうかしら? 勿論、色々あるでしょうからご家族の承諾を得た方でですけど」
「いいですね、良いものを準備しますね」
「あ……あの絶対参加させて頂きます」一人が言うと全員「私も、私も」と言うのであった。
「ロロン、きちんとお礼を言いなさい」とウォルフが促すと「キレイなお姉さま方、兄とロロンを宜しくね」と言い、レイシアを始めアーノルド家全員が再び頭を抱えた。
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