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90分だけ貴女の味方です 作者:織田 涼一
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006:キラキラ無双

 学園のダンスパーティーは、基本的に生徒が主導となって行うのが慣わしとなっていた。
生徒会に爵位が上位の家からそれとなく申請を行い、その家の威光を示すのだ。
また、派閥を誇示する為にいくつかの家が協力して事前の準備をすることもあった。
今回のダンスパーティーはルシャン侯爵家の次男セルジェンが主催を務めている。

「準備の時間は限られている。華やかな学生生活の最後を締めくくる、大切な行事となるので皆協力して欲しい」
授業の合間を縫って指示を出しに来るセルジェンに、家人・使用人他多くの者が忙しなく動き回っていた。
すると執事らしき現場責任者の男がセルジェンに近づいてくる。
「セルジェンさま、カップル申請が多く届いています。早めに回答してあげないとあぶれる生徒さんが多数出ることになります」
「うむ、もう他の家からの申請はないのだな」
「はい、残念ながら。ただ、これだけ来たのもセルジェンさまだけかと思われます」

 ゴマすりと思いつつも、侯爵という立場により多くの申請が来ている事は理解している。
ただ、学園の人気で言えばベスト5には入るくらいの物件だけど上には上がいる事は確実だった。
『爵位の低さ』『触れてはいけないと家のものに言い含められている』という事を加味しなければウォルフがトップになった事だろう。
そのウォルフも早々にカップルを決めたので、周りの生徒は安心して果敢にアタックすることが出来た。

「ミーシャ嬢は……」
「昨年と同様、家の者同伴と伺っております」
「こちらから……」
「なりません、穏やかな政財界から不興を買う訳には参りません」
「では、家格に相応しい相手を適当に見繕って返事を出しておいてくれ」
「かしこまりました」

 時折、ミーシャの所にカップル申請目的で教室の前に男性が列を作る。
【ミーシャを見守る会】は、普段なら確実な布陣で彼女に気づかせずに阻んでいた。
ところが今回は多くの子女にも告白が流行っていた。
大きな声で名前を呼ばれたら、せめて惨敗することを祈るしか出来ないのだった。

「直接話すのは初めてだな、私はレディア伯爵家の三男ゴヴァスだ。今回はダンスパーティーのカップル申請に来た。勿論、受けて貰えるよな」
「アーノルド家のミーシャと申します、この度は申請ありがとうございます。申し訳御座いませんが両親より二年間のダンスパーティーのカップルを禁止されていますの。これは皆様に同じ回答をさせて頂いています。既にお兄様にエスコートされる事が決まっているので、お受けすることは出来ません」
「ふむ、その話は知っておる。ただダンスパーティーは小さな社交場なのだ、何時までも家に隠れている訳にもいくまい。今年卒業する者も多いだろう、多くの申請があるようだが、そのような回答は不誠実ではないか?」
「そうは言われても、この学園に通う条件の一つとして両親と約束したのです」

 少し怯えているミーシャに、周りの空気が段々下がっているように感じる。
小さい声で「空気読みなさいよ」とか、「ふられたの解らないのかしら」とか、「潔くないわね」と声が上がってくる。
たじろぎつつ後にも引けないゴヴァスは、「私では役不足と言うのか?」と小さく呻くような声で答えを待つ。
「いえ……でも……」

 騒ぎになっている教室にウォルフと自分はたどりついた。
「ミーシャ、今大丈夫かー?」ウォルフが呼びかけると一斉に視線がこちらに集まる。
「困ったものだよ、お祭り好きというか母さんが来るようだよ。今日は早めに戻るように言われてるんだ……が」
「今まずかったかな?」念の為周りに聞いてみる。

「レディア伯爵家の三男ゴヴァスだ。今ミーシャ嬢へ申請を行っている。後にして貰えないだろうか?」
「アーノルド家のウォルフです、ミーシャ説明してなかったのか? お前は二年間カップル申請を受けられないのは分かっていて学園に入ったのだろう? 申し訳御座いません、そういう理由でどなた様にもお断りをさせて頂いているのです。」
「そんな理由では納得できん」
「いや、既にこちらのアキラがエスコートをする事が決まっていますので」
「お前の家はどんな教育をしているんだ? 仮にもうちは伯爵家だぞ……」

 続けようとした所、周りがゴヴァスの確保に入る。まず口を押さえ振りほどこうとした腕を押さえられていた。
家格としては伯爵家と男爵家だが、家を貶されるということはミーシャの母親、ひいては王家を侮辱することに繋がる。
関連する家の者が急遽割り込み、【ミーシャを見守る会】がどさくさに紛れて連れ去っていった。
あまりの手際の良さに三人はあっけに取られていた。

「えーっと、皆様お騒がせしました」ウォルフが謝罪すると、一斉に手を「いいえ、いいえ」と振る女性陣。
「担任の先生には許可を貰ってあるよ。ミーシャはこの後予定あるかな?」
「アキラ兄さま、大丈夫ですわ」
「では、本日はこの辺で失礼します」
三人でお辞儀をすると教室がポワワワワーンとしていた。

「ウォルフとミーシャの人気は凄いね。教室の空気が一気に暖かくなってたよ」
「あらアキラ兄さま、気がついてませんの?」
「え?何がかな?」
「あの中で何人の……いいえ、気がついてないならいいですわ」
「あははは、アキラの人気も学園で凄いんだぞ」
「えー……、なるべく近づかないようにしてたのになぁ」
気づかせないように濁したのに、ストレートに言ったウォルフをミーシャが睨んだ。

「そうだ、ミーシャはステイシア嬢へのカップル申請の話聞いた?」
「ええ、勿論ですわ」
「今それを聞くか?」
三人でアーノルド家別邸へ歩きながら話している。

「興味があるじゃん。直接依頼を受けたのは自分だしね」
「それはもう、御伽噺の王子様のような噂話が流れてきましたわ」
「へぇぇ、どんなの?」

「まず、ステイシア様が登校した瞬間、雰囲気が変わったというか化粧が変わった事に驚きクラスメイトが集まったのです。色々聞き出そうとワイワイ話していて、誰かが『もしかして、カップルが決まったの?』と問いかけた瞬間廊下が騒がしくなったのです。
お兄様がステイシアさまを呼び出そうと出入り口の女性に声を掛けて、女性がステイシア様を呼び出し、『ありがとう』とお礼の声を掛けられるとその女性は失神されたそうです」
「おい……」
「お兄様は背中に花束を隠し、全体に花柄の背景を纏いキラキラを撒き散らしながらステイシアさまの前にたどり着きました」
「……なんだ、そのシチュエーションは」

「周りの話では、ウォルフさまがステイシア嬢を一日で素敵なレディーに変えた。家格さえも軽く乗り越えるのか、恐るべしアーノルド家の金狼と話があがったそうです」
「金狼かぁ……、家ではパスタに餌付けされてるけどね」
「私もアキラ兄さまのパスタ大好きですわ」
「ありがとう」

「これは噂の出所をきちんと突き詰めないとな」
「こういう噂は、知らず知らずのうちに広がるからね。難しいと思うよ」
「難しいと思いますわ」
「それでどうなったの?」

「ステイシアさまは跪くお兄様を慈愛溢れる女神のように手を添え、花束を抱きしめると一本の花を抜き取りお兄さまへ差し出したのです。まるで演劇のクライマックスのように、周りから歓声があがり何名かの女性達が気絶したそうです」
「またか……」
「その後、ステイシアさまがお兄様の頬に口付けをしてクラスの半数の女生徒が失神し、教室を出たお兄様を視線で追った残りの女生徒は、次の授業が始まるまで呆然と立ち尽くすしかなかったそうですわ」
「恐ろしいくらいの殺傷力だね」
「噂話とは恐ろしいですね」
どのくらいミーシャの創作が入っているかは分からないけど、評価としてはあながち間違っていないと思った。

 アーノルド家別邸にたどり着くと、お爺さまとお婆さまへ挨拶をする。
昔レイシアが使っていた私室に三人で入ると二人が少し下がった。
「では、魔法が安定するまで動かないでね。【ゲート】オープン」

 床に白い魔法陣が浮かび上がる、そこから天井まで円周からの光が伸びるとレイシアがやってきた。
「おまたせー、アキラ君ありがとう」
「いえいえー」
「お兄ちゃん、僕もいるよー」、ロロンもやってきた。
しばらくは別邸でお世話になって、週末にはダンスパーティーへ参加するようだ。

「お父さまへ無理言って、ダンスパーティーを見学できることになったの」
「お母さま、あまり特権を使うとお父さまが心配しますわ」
「大丈夫よ、ちゃんと筋を通しているから」

 その後、お爺さま・お婆さまへの挨拶を終えると小規模なパーティーとなった。
久しぶりに、料理の一品二品腕を揮おうかなと思った。
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