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90分だけ貴女の味方です 作者:織田 涼一
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020:学院と農場

 馬車が止まると大きな建物の前にいた。
「「ふおぉぉ」」
「二人ともどうだ、凄いだろう」
「ねえ、お爺さま。お兄ちゃん達はここに通うの?」
「ロロン、ここはお爺さまが働いている場所で、ウォルフ達が行く場所は違うんだよ」
「みんな、案内するからついてきてくれ」

 広い敷地に3階建ての建物。まだ早い時間なのに、小さい子から成人一歩手前の多くの人達が素振りをしている。
建物の正面玄関をくぐると、女神像が穏やかな瞳でこちらを見つめ鎮座していた。
セルヴィスの左右にヘルツとスチュアートが並び、女神さまに礼をする。
それに倣い一歩遅れて子供達が礼をすると、シスターが現れた。

「皆様、ようこそ学院へ。セルヴィスさま、まだ休暇をとっても大丈夫ですのに」
「アンジェラ、おはよう。子供達に私の仕事を見てほしくてね」
「まあ、それは大切な事ですわね。では、ヘルツさんも案内をお願いします」
「ああ、任せてくれ。あそこだけは俺じゃないとな」

 1階には職員室があり、小さな売店も存在していた。
2階と3階はそれぞれ私塾を経営していた人々が、それぞれの得意分野を教えていて、全て職員として雇われていた。
2階は読み書き計算がメインで、3階まで行くと魔法や神学等の専門的な教室が存在していた。
ところどころに重々しい扉があり、会議室や機密性の高い話をする部屋もあった。

 一通り説明が終わると、子供達は剣術教室に参加することになった。
「ベリア、紹介しよう。スチュアートの子供達で私の孫だな」
「おやっさん、とうとう会えたんですね。おめでとうございます」
「おいおい、おやっさんは止めろと常々言っているだろう」
「ベリア、子供達を頼んだよ」
「スチュアートさん、任せてください」
「孫弟子達に本当の孫かぁ。おやっさん、楽しくて仕方がないだろう」
「ヘルツ、みなまで言うな」

 ヘルツはセルヴィスとスチュアートを伴って、先ほどの機密性の高い部屋に入っていった。
3名が入室すると、ヘルツは鍵をかける。
「ほう、こうなっていたか」
「おやっさん、申し訳ないね。いつでもおやっさんに話して良いとは言われてたんだけど……」
「ヘルツさん、ここは?」
「知りたいか? それでは教えてやろう。ようこそ盗賊ギルドへ」

 この部屋は執務室のようで、何名かの人が事務仕事を出来るようになっていた。
セルヴィスはヘルツの事を胡散臭い目で見ていて、スチュアートは「とうとう悪事に手を染めてしまったんですね」と護身用の短剣に手をかけた。慌てて止めるヘルツが両手を挙げて降参のポーズをとった。

「おやっさん・スチュアート。誤解しているかもしれないが、盗賊ギルドは犯罪者のギルドじゃないぞ」
「ほう、詳しく聞く必要があるようだな」
「二人とも殺気を撒き散らさないでくれよ。勘付かれるだろ」
二人が警戒を解くと、ヘルツが手を下ろす。
ヘルツは席を勧めると、違う扉から一組の男女を招いた。

「おお、タップにレーディスじゃないか」
「「学院長、おはようございます」」
「スチュアートです、父がお世話になっております」
「「こちらこそ」」

 多くの職員が集まると、自然にお互いの仕事には口を出さないという暗黙の了解が生まれる。
レーディスは事務職として、タップは出入りの業者としてとしかセルヴィスの記憶にはない。

「私が諜報部門を担当して」
「僕が技術部門かな?」
「そして俺が統括している。そしてギルマスはリュージな。ああ、これは知っている者は知っているが秘密でお願いしたい」

 王国がこの十年で豊かになると、王子王女の結婚出産ラッシュに伴い、最初に人口の増加に繋がった。
すると王都に人が集まるようになり、文化芸術冒険と日常生活以外の方面で産業が伸びていった。
「俺達の時代が来た」と無理をする若者や、地域の収入格差により王都は次第に人で溢れていった。
王国が豊かになって就業率があがったのに、人が増えならず者達が多くなるのは歓迎される事ではない。
それまで一部を統率していた冒険者ギルドが、その懸念を払拭しようと早いうちから王国へ相談していたのだ。

 そこに都合良く依頼形式とは言え、冒険者ギルドの職員として勤める事が決まったリュージがいた。
冒険者ギルドのギルマスからリュージへ何か案があるか聞くと、ならず者や冒険者未満の者たちへの対処は、冒険者ギルドとは方向性が違っていて、王国に雇われる方式ではない方が良いと提案があった。

 レーディスの紹介は既にあり、その頃はタップに冒険者として色々教わっていた。
タップは実家の関係で手先が器用だし、後々家業を継ぐことは決まっている。
細工物の宝箱を貰ったのもタップ達だったし、その技術はとても貴重に思った。

「まさにトレジャーハンターだよね」そう思ったのがこのギルドを作る基になったようだ。
それからは小説とかで読んだ盗賊ギルドの話を、冒険者ギルドのギルマスにしていった。
街中の人々からの情報収集や犯罪者の抑制を職務とし、宝箱や罠に関する技術の上昇や身軽な行動の取り方と戦闘訓練を行う。その他、粛清や裏の仕事についてもだった。

 それらを健全化させて、リュージをトップとして動き出したのがこの盗賊ギルドだった。
但し、表向きはこの組織は存在していない。
リュージとヘルツは分業しており、基本的に盗賊ギルドでリュージはいない者として扱っていた。

「では、ここで教えている事にやましい事はないのだな」
「おやっさん、俺を信じて。悪い事もしてないし、悪い事も教えてないって」
「主に僕が教えている技術が有用なのかな? レーディスが持っているネットワークは秘密だけどね」

 ダンジョンには罠もあれば宝箱がある。
それは誰かが設置したりする訳ではなく、ダンジョンの意思というかモンスターが生まれるのと同じように自然と発生する。
今までは武器で叩き壊す方法や魔法で破壊するという力技で対処していたが、この数年で上がった技術力により生還率や宝物の回収率が上がったようだった。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「よーし、では型の稽古をやるぞ」
「「「はい、先生」」」

 ベリアの指導の下、ウォルフと自分とロロンは教わった型をなぞっていた。
周りの生徒はこれも修行だと、見学に徹していた。
孫と孫弟子にはどれくらいの差があるか興味津々だったらしい。

 六歳のロロンにも声援が届き、十歳のウォルフの一振り一振りに歓声が起きる。
型ではあまり魅せる場所がなかったけど、ウォルフと二人で示し合わせてやる型稽古ではお互いの良さは出たと思う。
最後にウォルフと同じような体格で有志を募ると、実戦形式の稽古となった。

 セルヴィスとスチュアートの実践を見た後では、ウォルフの戦い方はやや地面にどっしり根を下ろしているように思える。
ただ、その戦い方は王国では一般的で、まだ未熟なウォルフはどうにかしてスパイを撃退しようかと試行錯誤した結果だった。
同じような体格でも、若干各上で剣の経験が長い相手を選ぶベリアに、集まってきたセルヴィス達が少し非難めいた視線を向ける。
それぞれが、教えるのは自分だという気持ちがあったようだ。

 ウォルフと相手の実践はほぼ互角だった。
お互いが技と力を駆使して戦うと、後半はこう着状態になった。
その後はお爺ちゃん先生としてセルヴィスが張り切り、今回の教室は大盛り上がりを迎えることになった。

 お昼が近くなると、学院を後にして農場へ向かうことになった。
セルヴィスが案内役になり、スチュアートと子供達を連れて行くと、一組の男女が出迎えてくれた。
「ユーシス・ナディア、出迎えありがとう」
「ガレリアさまとザクスが、今か今かと待っていましたが、先にお食事にしますか?」
「ああ、みんなもそれで良いか?」

 セルヴィスが子供達を見ると、ロロンが頷いていた。
スチュアートはそんなロロンを抱きかかえると、ナディアが食堂まで案内した。

 そこはただの社員食堂というような規模ではなかった。
まだ昼前だというのに食堂は賑わっていて、農場で働くには似つかわしくない服装の人まで食事を楽しんでいる。
思わず時間を確認する為に、タブレットをアクティブ化して【魂の時計】を表示させると、まだ11時半だった。
大人しく席に座って待っていると、ユーシスが二人の男性を連れてきた。
王都に来る時一緒だったザクスと、さっきの話で出たガレリアという人だった。

 短めの挨拶の後はすぐに食事となる。
新鮮なサラダにハンバーグにポテトフライがついており、ご飯に味噌汁が出てきた。
戸惑うスチュアートと子供達、でも自分には食べ慣れたものだった。

「ほう、アキラ君と言ったね。ザクスから話を聞いたけど、君はこの食事に驚かないんだね」
ガレリアの問いに素直に頷く、するとスチュアートがその話は食事の後でとガレリアに進言した。
みんながナイフやフォークを使う中、素直に箸を使って食事をする。

 ガレリアはその光景にリュージの面影を見ていた。
そして12時を迎えた瞬間、農場内では鐘の音が鳴り響く。
それが【魂の時計】の表示と寸分も狂うことなく鳴ったので、今度はアキラが驚くのであった。
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