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90分だけ貴女の味方です 作者:織田 涼一
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19/24

019:あれから

 夕食が終わると、子供達は年少組の部屋でカードゲームを始めた。
男爵領の事件から王都まで、張り詰めた空気がどこかにあったようで、ようやく安全な場所にたどり着いたと安堵の意味も含めて楽しむ事にしたのだ。
その間に大人達は、酒を飲みながらこの十年の情報交換をすることにした。

 スチュアートからは自領の運営状況を報告し、話を抑え気味に各領からのスパイや事件があった事を伝えた。
目的はやはり王家の血筋で、主にミーシャが狙われたのではないかと二人は考えている。
ミーシャの病について両親には、体が弱いとしか報告していなかったが、直近の襲撃事件についてはアキラの存在もあるので、包み隠すことなく報告するべきだと、来る前に二人は話し合っていた。
全てを話すと、セルヴィスが言葉もなく重苦しい空気を纏い妻は涙を流していた。

「それで、ミーシャは……」
「この数日様子を見たけれど、多分大丈夫だと思う」
「多分で無理をさせるではない」
「父さん、そう言わないでくれよ。この機会はこれ以上ないくらいのタイミングなんだ。あのままミーシャを男爵領で育てる事は勿論考えたけど、今回のタイミングで出なければミーシャの未来は狭まったはずだよ」
「ふむ、あの子が長く生きられないとは知らなかったからな。今までの分も協力するつもりだ」

「過保護に思えるかもしれないですが、ミーシャが学園に行く時期をウォルフと同じにしたらどうかと思うのです」
「レイシア、それは良いね。ウォルフが一緒に通ってくれるなら安心だよ」
「私達は、二人さえ良ければ一緒に住む事は大歓迎だよ」
「今から楽しみだわ」

 話題はアキラの事になった。
ミーシャの恩人だけでなく、色々変わった魔法を使えると、少し濁しながらセルヴィスに説明をする。
神聖魔法のヒールは、協会を代表する聖者の魔法として知れ渡っているし、実際使える者も少なくない。
問題はこの世界のどこにも存在しない品物を出せる事だった。

「この世界のどこにもない物とは抽象的だな」
「そう言うと思って、アキラ君に頼んでいたんだ。これを試してみてよ」

 スチュアートがセルヴィスにシャンパンボトルを渡すと、まずはそのボトルの形の素晴らしさを褒めた。
そして、これがワインに関するものだと言い当てると、一旦スチュアートにボトルを返却する。
新しいグラスを4つ用意してもらうと、高らかな音を出してシャンパンを開栓した。

 グラスを傾け、黄金色の液体が音もなくグラスに流れ込む。
星の輝きを宿すその液体に、セルヴィスが待ちきれないように口に含んだ。
「これは……、凄いな」
「慣れると口当たりの素晴らしさに感心するよ。若いとか熟成されているとか、甘い辛いという次元ではないね」
「葡萄の種類も違うだろうが、製法とかは聞けたのか?」
「アキラ君は製法を知らないようだよ。ただ、知る手段はなくはないそうだ」
「そうか……、ベリアにも飲ませたいな」
「父さん、あまり他所に肩入れすると、うちが苦労するんだけど」
「ライバルがいるのは良い事だぞ。お互いに伸びれば、時代を制する事が出来るからな」

 セルヴィスからは、この十年の王国の話があった。
王子の婚礼の儀が終わり、王家には順当に嫡子が産まれた。
それに伴い、周りからの進言は多かったが、王子は現王を見習って、側妃を儲ける事はしなかった。
ローラは学園に3年間通い、公約通り伯爵家の当主に見初められ、婚約の後結婚出産した。
王子が公爵家から嫁を貰ったので、ローラの嫁ぐ先は侯爵家と伯爵家からの選択となった。

 この数年の間に、王国では異例の結婚・出産ラッシュとなった。
あの時特待生だった5人については、直接話を聞いたら良いとセルヴィスはレイシアに優しい顔で話しかける。
「ああ、やっぱりこの人はスチュアートの父親だな」とレイシアはこっそり笑った。

 続いて、お世話になったガレリアとリュージが経営する農場の話になった。
農場は初年度から大変な利益を計上し、その分を王国の依頼と慈善活動に還元していった。
多くの雇用を生み出し、ワインバー・学院・ダンスホール等関連施設の運営もどれもこれも当たった。
従業員の魔法使いが王国に引き抜かれ仕事に就くと、農場では野菜・果物・薬草で評価をされた。

 これを面白く思わなかった一部貴族が結託した。
王国から補助の名目で出された資金について指摘し、「ただの一企業など、王国の利益の為に接収してしまえ」と暴論を吐いたのだ。
それに対してガレリアがきちんと会計処理をしており、情報を開示して問題ないことを証明した。
王国としても多大な利益を得ているし、依頼への報酬としても問題ない額だった。
その利益にありつけないグループが文句を言っただけだった。

 ところが、「いくら正当性があろうとも、一企業が寡占している状況は良くない」と、王子を含め政務に関わる責任者から相談があったのだ。
協会からは神学と神聖魔法の教育者を招聘し、学院の教師としてお願いをした。
協会には寄付金という名目で援助を行い、見返りとして学院の運営に協力して貰っている。
農場からはレンの研究の成果を無償で開示し、改良したジャガイモが王国内に広まった。
ザクスの薬草の栽培と研究成果も、王国の専門機関との共同開発として良好な関係を築いた。

 すると、ある一定層が満足したが、直接の利益を望んでいた一部の貴族がまた文句を言ったのだ。
ガレリア基金を中心とする関連企業の、全部を解体してそれぞれ手の空いている貴族達に事業として配分しろと。
それは政務に関わる事のない、特出した能力も技術もない男爵家を優遇しろと言っているに等しかった。

 これには全員呆れるしかなかった。
能力のない者に維持出来る事業は一つたりともない、王国の仕事が含まれている事業もあるのだ。
ガレリアに協賛してくれている貴族に相談して、バカな考えを止めようと動こうとした時、リュージがある案を出したのだ。

「農場は自分が少しくらい留守にしても大丈夫だと思います。各領を巡って農業支援とか手伝いをしましょうか」
「確かに仕事に慣れて、従業員からも多くの案が出たりしているな」
「ええ、領主からの依頼という事で問題点を先に出してもらい、その優先度や改善具合で報酬を出して貰いましょう。反発する男爵家には何が出来るか分かりませんが、労働者として働いて貰いましょう」
「ふむ、足手まといじゃないのかい?」
「勿論、すぐに無力さに気がつくでしょう。そもそも他領の者をその領主が受け入れるとも思えません」
「リュージ君。仕事を増やして悪いけど、ポライト男爵からも近隣の国への支援について相談があったんだ。併せて考えてくれるかな」
「どうせだから一緒に対処しちゃいますね。先に王国へ提案してから人選を決めましょう」

 リュージが使節団を結成し、多くのジャンルの職種と声の大きな男爵家が集まった。
利害関係をなるべく出さないように、集まった男爵家に関わる依頼は後回しにする事を宣言した。
ここで大部分の男爵家が同行を取り下げる事になった。

 使節団が最初に行った場所では、農業支援と井戸掘りや水脈探しを行った。
王国からも数名今後の改善に役立てると書記官を派遣してもらい、誰が先頭に立ってどの位の人数でどんな職種の人が働いたかチェックをしていった。
声の大きい男爵さま方は、何をしているか理解していないのに指示をする。
それが的外れでも最初は一応聞く振りをしていた。

 慰労の目的で視察に来た領主が、その状況を一目見て判断した。
邪魔をさせない名目だけのパーティーを開くと、男爵達は増長し滞在期間が長くなり、酒を飲むという悪循環が発生する。
行く先々で苦情が出て、貴族だけ領地に入るのを止められるケースもあった。
すると、まともな感性がかろうじてある者が、一人減り二人減りその分農場からの手伝いの者が増えていった。

 ベリアの兄が管理する男爵領も早いうちに使節団が入り、新しい品種の葡萄と育て方について指導が入った。
ガレリアとセルヴィスからの連盟で、スチュアートにワインの指導の人員をお願いしたのだ。
それは1からの指導ではなく、今あるワインの良さを伸ばす事と、新しい品種をワインにした場合の方向性やブレンドについてのアドバイスだった。
後は年月だけが解決するまでになると、ベリアは兄との仲介を辞め、正式に学院の講師の依頼を受けることになった。

「じゃあ、農場へ行ってもリュージ君に会えないのかな?」
「ああ、単身赴任のような生活をしているな。たまに伝言を残し、冒険に出ることもあると聞いてるよ」
「成功者なのに珍しい。そう思うのは年をとった証拠かな?」
「子供達には気をつけろよ。アキラ君は冒険者志望だろ」
「そうだね。ウォルフと二人で、今にも冒険に行きそうだったよ」
「大人が止めると行きたくなるものさ。誰かに引率を頼むのが良いだろう」
「うん、考えておくよ」
親子の語らいは遅くまで続き、女性二人は明日の準備の為、少しだけ早く床についた。

 翌朝は早朝から剣の稽古で一日が始まる。
スチュアートを中心にロロンまで参加すると、揃ってランニングから始まる。
ご近所さんに挨拶しながら、ぐるっと程よい距離を走ると、今度は素振りとなる。
すると一台の馬車が早朝にも関わらずやってきた。

「おやっさーん、スチュアートが帰ってきたんだってー?」
「これ、ヘルツ、静かにせんか。近所迷惑だろう」
「ヘルツさん、お久しぶりです」
「おう、スチュアートおかえり。今日は学院に来るんだろ?」
「ええ、妻はあまり出歩かない方がいいから、このメンバーでですね」
「そうかそうか。じゃあ、おやっさんは通常勤務になりますか?」
「ああ、孫達に良い所を見せないとな」

 ヘルツも学院関係者のようで、スチュアート帰還の知らせに独自の連絡網が回ったようだ。
この王国では一部の識者や実力者が枠組みを超えて仕事に就いていた。
ヘルツは騎士と冒険者ギルド関係から都合よく使われているようだ。
それが学園から学院関係という事は、戦闘関係の講師が順当だろう。

 ヘルツも一緒に朝食をとると、男性陣だけで学院に行くことになった。
出掛ける直前にレンがやってきて、二日後に登城するように王国から通達され、連絡役として引き受けたようだ。
スチュアートはレンに、「レイシアが喜ぶから顔を出してあげてくれないか?」と頼むと、「もちろん」と笑顔で答えるのであった。
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