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90分だけ貴女の味方です 作者:織田 涼一
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017:父方祖父母の歓待

 前アーノルド男爵家当主の別邸では、子供と孫の出迎えを前に最終確認が行われていた。
「あなた、間もなく来るのよね」
「ああ、そうだ。さっきザクスが来て、無事王都まで到着した事を教えてくれたからな」
「料理は準備出来ているし、部屋も念入りに片付けたし……」
「少しは落ち着かないか。あの件は覚えているな」
「はい、レイシアには『さん』や『さま』を使わない。孫には近づいて来るまで駆け寄らない」
「そうだ、嫌われたくはないだろう」
「あら、あなたこそ剣の稽古をつけて嫌われないようにね」
「分かっておる。ただ、アーノルド家としてはだな……」
「はいはい、まずは子供達を迎えましょう。これだけ待ったのですから……」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「ヴァイス、ありがとうな」
「いえいえ、近衛の先輩としても、男爵家の当主としても見習う点は多いですから」
「お前の頑張りはちゃんと見てるさ。王子も評価してくれているだろう」
「ええ、悲しいくらいに。己の力の無さに痛感する時も……」
「それは俺もあるよ。ただ、その肩に何が乗っているか、それだけ分かってればいいんだ」

 別邸前でスチュアートとヴァイスが立ち話をしていると、レイシアが服を引っ張って合図してくる。
家の中から、こちらを覗く二人の姿に気がついてしまったのだ。
子供達は初めての場所なので、キョロキョロしながらも大人しくしていた。

「すまない、ヴァイス。父達に到着したことを伝えてくれないか。一応感動の再開の予定だからね」
ヴァイスは苦笑すると、「気がつきませんでした」と言い、玄関まで行くとノックする。
すぐそこにいた筈なのに、たっぷり間を取って玄関から女性が出てくると、ヴァイスに丁寧にお礼を言い、セルヴィスを呼んで外で対面をした。

「ただいま戻りました」
「お父さま・お母さま、長い間不自由な生活を強いてしまって申し訳ありません」
「レイシア、私はあなた達が戻ってきてくれただけで満足なのですよ。王都での暮らしも楽しいものでした」
「そうだぞ。私も貴族ではなくなったが、本当の意味で王国民として色々経験させて貰っている」

 レイシアの隣にはミーシャが、スチュアートの隣にはウォルフが立っていて、その隣には自分がいる。
大人達が再開の喜びを噛み締めていると、レイシアの真後ろにいたロロンが母親の影からお婆ちゃんに向けて上半身だけ身を乗り出し、すぐに母親の影に隠れた。
「まあまあ、小さい子には面白くないわよね。スチュアート、部屋はどこでも使って良いから、荷物を置いて食事にしましょう」
「母さん、まだ食事には時間が早くないかい? 少し散策でもと考えていたんだけど」
「そう言うな、今か今かと……」
「あなた、それは言わない約束でしょ……」
「お母さま、お手伝い致しますわ」
「そう? じゃあ、お願い出来るかしら?」

 ヴァイスと女性が荷運びを手伝い、作業が終わると帰っていった。
夫婦・年長組・年少組の3部屋に分かれると、荷物を部屋に置き早速食事の時間になった。
テーブルには所狭しと料理が並び、この十年どれだけの思いで待っていたのか伺わせていた。

 食事が始まると、まずはそれぞれ食べながら自己紹介を始める。
祖父母側はどれだけその情報を冒険者から聞いたとしても、何遍でも同じ内容でも本人から聞きたいのだ。
ウォルフ・ミーシャ・ロロン・自分の順番で紹介していく。

「ほう、アキラ君を養子に迎えるとな」
「ええ、形的には養子ですが、後見人というかその先もし心変わりがあれば」
スチュアートとレイシアの視線がミーシャに向かうと、祖父母は暖かい目でこちらを見てきた。

「お世話になります。ウォルフ達とは良い仲でいたいと思います」
「もう、アキラは家族じゃないか。そんな水臭いことを……」
あれからたった数日なのに、無二の親友のような接し方をしてくれているウォルフ。
妹の恩人だけではなく、突然強くなった剣の腕にも感心しているらしい。

「みんな、私達の孫なんだから困ったことがあったら頼りなさい」
「ええ、ええ。まずはいっぱい食べて、大きくなりなさいね」
「母さん、程ほどにしてくれよ」
「スチュアート、あなたもしっかり食べるのよ」
「子供達の前で子供扱いしないで欲しいな」
「いつまで経ってもお前は私達の子供だよ」

 いつもキリッとしている旦那さまのこういう姿を見られて、レイシアはほっとしていた。
スチュアートは放っておくと何時も無理をするのだ。
いきなり男爵家の当主になったスチュアートの苦労は相当だっただろう。
それでも家族の前では辛い顔ひとつ見せず、春風のような穏やかな表情で接してくれていた。

「早速だけど相談があるんだ」
「領内での困り事か?」
「いや、ウォルフ達の学園の話なんだ」

 男爵領にも当然学ぶ環境はある。
主に協会や私塾で、そこを出たからと言って箔がつく訳でも人脈が広がる訳でもない。
優秀な人材は領主や職員が直接獲得に行けば良い話しだった。

 通常の貴族は、王都にある貴族の学園に入る事になる。
ウォルフも後2年もすれば学園に入れる年になる。
その際にここから通う事は出来ないかと祖父母にお願いをしたのだ。

 すると、「お兄さまどこかに行っちゃうの?」とロロンが寂しがった。
折角家族が揃ったのだ、もう離れ離れは絶対絶対に嫌だったらしい。

「ロロン、これはまだ先の話だし貴族家として大事な事なんだよ」
ウォルフの説得に、少し俯いていたミーシャが小さな声で、「私も行きたい」と言い出した。
「ミーシャ……」
「そうね、ミーシャも行く必要があるわね」

 一旦この話を中断して、両親祖父母は後で相談する事にした。
これから街を散策しようとスチュアートが声を掛けたが、レイシアが気楽に街を出歩く訳にはいかない。
積もる話があるだろうと、レイシアとミーシャとロロンが祖父母と一緒に残り、スチュアートはウォルフと自分を連れて出掛ける事になった。

「アキラ君、どこか行きたい所あるかな?」
「いえ、まだ王都に着いたばかりなので……」
「アキラは冒険者になりたいんだろ? 冒険者カード作りに行こうぜ」
「ああ、いいね。スチュアートさん、お願い出来ますか?」
「じゃあ、案内するね。二人とも大丈夫だと思うけど迷わないようにね」

 スチュアート先導のもと、冒険者ギルドまで歩いて行くと、途中振り返ってこちらを見る人が何人かいた。
「二人とも子供達だけでは出歩かないようにね。10年は人によっては長いけど、まだまだ私達を忘れていない人もいるから」
「10年前の件って、そんなに大きな事件だったんですか?」
「まあ、大人の都合だよ。みんな納得しての事だけど、必要な事だったんだよ」
「そんなことより、アキラ。受付に行こうぜ」

 冒険者ギルドへの登録は、特に年齢制限など設けられていない。
ただ、自分の意思で行わなければならないので、物心ついてからになるのが一般的だった。
周りがちょっかい出さないようにスチュアートが睨みを利かすと、ウォルフと一緒にカウンターに申し込みに行った。

「初めまして、小さな冒険者さん」
「俺とアキラで冒険者として登録したいんだ。手続きをお願い出来ますか?」
「お願いします」
「あそこにいる方がお父さんかな? 一緒に来たなら話を聞きたいんだけど」
「父ですが、冒険者になるのには関係ありません。アキラは俺の弟です」

 カウンターの女性がどうしようか少し思案すると、近くの男性に一言二言話をした。
その男性はスチュアートの顔を見ると、どこかに行ってしまった。

「じゃあ、登録だけはしちゃうわね。カードが出来る間に冒険者としての説明をします」
女性がランクと依頼の受け方や特典・罰則について説明をしてくれた。
すると、奥の方から偉そうな男性が出てきて、真っ直ぐスチュアートの方へ歩いていった。

「突然戻って来たと思ったら、子供達のギルド登録か。月日を感じるよな」
「お久しぶりです。今度は子供達がお世話になろうかと思って」
「おいおい、まだ小さすぎるだろう。薬草採取くらいにしておけよ」
「ええ、モンスターより怖い者が多いですからね。最近のこちらは……、前と比べて大人しくなりました?」
「ああ、支店のような物が出来てな。お前にとって良い場所かもしれないな」
「でも、こちらでお世話になることにします。もし依頼を受けに来たら、安全なものをまわしてくださいね」
「ああ、職員によく言っておこう」

 ウォルフと一緒にギルドへの登録は無事完了した。
カードを貰うと、犯罪歴なし・年齢・ギルドランクFと書いてあった。
「二人とも十分気をつけてね。まずは初心者講習会にでも参加して欲しいけど」
受付嬢はそう言うと、スチュアートと隣の男性を見た。

「今日は登録だけで良いです。なあ、アキラ」
「そうだね。また講習は時間を見て受けに来ます」
「そう、じゃあ気をつけて。困った事があったら私を訪ねるのよ、アイって名前だから宜しくね」
「「はい、ありがとうございます」」

 カードを貰うと、二人してスチュアートの元へ行く。
隣の男性に会釈すると、その男性はゆっくりしゃがみこんだ。

「登録は終わったか? じゃあ、二人は俺の部下だな」
「二人とも、彼は冒険者ギルドのギルマスでフォルテッシモさんだよ。確かに所属したなら従わなくてはいけないけど、Fランクならそんなに気にする事もないからね」
「「宜しくお願いします」」
「素直な子供達だな。もう情報は届いていると思うが、あちらにも顔を出しとけよ」
「ええ、まだしばらく王都にいますのでそのうちに。では、親父が今か今かと待っていますので」
「ああ、セルヴィス殿に宜しくな」

 ゆっくり別邸まで戻ると、セルヴィスが滝のような汗を流しながら木剣を振っていた。
50歳を超えるというのに見事な素振りだった。
円形の長い籠に木剣が刺さっていて、こちらを見つけたのか豪快に笑った。
これがアーノルド家特有の歓迎の仕方だった。
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