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90分だけ貴女の味方です 作者:織田 涼一
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011:新しい日常

「アキラ君、これって魔法で作ったって訳じゃないよね」
「はい、別の世界から魔法で買ってきました」
「二つお願いがあるんだけどいいかい?」
「はい、やっぱりこういうのまずかったですか?」

 スチュアートのお願いとは、この男爵領以外では魔法を使わないでほしいと言う事がひとつ。
魔法は特別ではないこの世界だけど、やはり優秀な魔法使いは各方面から狙われるようだ。
もうひとつは子供達には魔法が使える事を内緒にしてほしいとお願いをされた。

「それにしてもこのシャンパンは凄いね。さすがに製法とかは分からないよね?」
「ええ、本でもあれば別なんですが」
「それは魔法で取り寄せる事はできるのかな?お金ならいくらでも出すよ。そうだ、ここに出ているものも私が買い取ってもいいかな?」
「いや、これは魔法を試す為に買ったのでそんなにお金がかかってないですよ」
「あら、もしお金さえあればこれらの商品が買えるなら魅力的だわ。アキラ君の負担にならないくらいでどうにかならないかしら?」
「もし良かったらでいいんだけど……どうだい?」
「ええ、お世話になるのでこのくらいなんでもないです」

 食料品や調味料関係は全て買い取ってもらい10万円も貰ってしまった。
櫛1個とクッキー1箱とトランプは戻してもらい、その他は一旦ソルト預かりとなった。
「何か手伝える出来ることありませんか?」と聞くと、ソルトから調味料やスープの素などの使い方を聞かれた。
今日の夕食の準備を一緒にする事になり、その後は徐々に手伝えることはお願いすると告げられた。
スチュアートとレイシアからは、「出来れば三人の良い友達になって欲しい」とお願いをされたけど、自然と仲良くなれそうな予感はしている。

 ソルトが出て行くと入れ替わりにミーシャとロロンがやってきた。
「アキラお兄ちゃん、今日は僕と遊びたいよね」
「ロロン、今日は私の番ですわ。いつもみんなお外に行ってしまうので私は遊ぶ機会が少ないのよ」
「まあまあ、じゃあ3人で遊ぼうか」
「えー……、お姉ちゃんと遊ぶといつもおままごとだし」
「ロロン、たまには言うことを聞きなさい」
「二人とも喧嘩は良くないよ、今日はこれを使ったゲームはどうかな?」
そう言うとカードを取り出し、テーブルの上に一部が見えるように扇状に広げた。

 4つのスートに1~10の数字と絵札を使う一般的なカードだ。
今日は遊び方を説明したら分かりやすい神経衰弱と7並べをすることになった。
「一番良く出来た人には、このクッキー1枚あげるよ」
「お兄ちゃん、それはなぁに?」
「アキラ君、それは何ですの?」
「甘くて美味しいものだよ、じゃあ特別に1枚ずつあげるね」

 二人はクッキーを食べると、あっという間になくなってしまったた。
「「もっと頂戴」」
二人して催促してきたけど、「僕に勝てたらね」と見えない位置にクッキーを隠した。

「ほらロロン、さっき開けたよね」
「アキラ君、ヒントはずるいですわ」
「あ、わかったー。これだ」
カードに慣れるには神経衰弱が楽だった、年齢が二桁に満たない子達と遊ぶにはある程度ハンデが必要だと思う。
お茶を持ってきたソルトがロロンの手伝いに入り、ミーシャの後ろにはいつの間にかレイシアがついていた。
途中から合流したウォルフはしきりに頭をかいている。クッキーを初めてゲットして口にした時、「もっと頂戴」と同じ反応をした時は「やっぱり兄弟の発言は似るなぁ」と思った。

 大分カードに慣れてきたので7並べに突入した頃、ソルトが食事の準備に抜けたので同じタイミングで抜ける。
今日はポトフを作るようで、普段作る手順に箱の説明書をみて、良いタイミングで適量のコンソメを追加するだけだった。
「あれ?結構町から遠い場所だと思うんですが家庭菜園でもしてるんですか?」
「ええ、この地方は葡萄を加工したワインが有名なのですが、レイシアさまのご友人がご尽力してくださいまして、大きな菜園を作って頂いたのです」
「美味しそうな野菜がいっぱいで驚きました、自分は魚ばかり食べてたから美味しそうな野菜には目がないんです」
「あら、アキラさんは海がある都市の出身なのかしら?」
「ええ、確かそんな記憶があります。どうしてここに居たのかはわかりませんが」
「それは追々考えるといいですね。まだ本調子ではないと思うので無理はしないように」

 カード遊びに熱中している皆を呼びに行くと、スチュアートまで参戦していたようだ。
「みなさーん、食事が出来たようですよー」
「アキラ君、後一回だけいいかしら?」
「もー、お母さま。いくらやっても私には勝てませんわ」
「あら、ミーシャ。負けるのが怖いのね」
「言いましたわね、ミーシャはいついかなる挑戦も受けて立ちますわ」

 一向に集まらないので食事が冷めるとソルトが声を強めると、レイシアがキレイに並んだ7の列をぐちゃっとした。
スチュアートは苦笑しウォルフとロロンは口を出したらまずい事を経験しているのか、そそくさとカードを片付けて食事場所へ向かった。この家庭内のヒエラルキーを感じた瞬間だった、ソルトに自分の名前を呼ばれたので急いで合流した。

「ソルト、今日のポトフはいつにも増して美味しいわね」
「はい、アキラさんに手伝ってもらったので」
「スープが美味しくなるものを使っていますからね、多分野菜が美味しいのも関係していると思います」
野菜ゴロゴロ感のおおきな具材にスープが染み込んでいる、ソーセージもぷりっぷりでジューシーな油がスープに溶け込んでいた。パンも焼きたてだしオリーブオイルまであった。アクアパッツァが得意料理というか、あいつが好きだったのでトマトやオリーブオイルには少しうるさい。ふと、あいつって誰だろうと一瞬考えたけど思い出すことができなかった。

 この家には風呂があった、当たり前だと思っていたけど後で聞いたらやっぱり貴族家って凄いという評価だったらしい。
スチュアートがロロンを入れて、レイシアとミーシャが一緒に入る。結構広い風呂のようなのでウォルフと一緒に入るように言われた。
翌日は朝から剣の訓練をしているウォルフをなんとなく眺めていた。
飛んだり走ったりしていたので見よう見まねで一緒に動いていると、ウォルフから予備の木剣が投げられた。
「アキラって剣とか使えるのか?」
「いや、持ったこともないよ」
「父さまが来るまで体を温めたり柔軟したりするんだけど、張り合いがなくてね。朝だけでもいいから付き合ってくれないか?」
「あまり多くを望まないでくれるなら大丈夫だよ。何せ初心者だから剣の相手はできないけど」
「それなら一緒に父さまに教わるといいよ。うちは代々剣に精通した家だし教えるのも上手いんだぜ」
「そういうことなら是非」

 二人で並んで素振りしているとスチュアートがやってきた。
「お、リュージ君も素振りをしているのか」
「ねえ、父さま。リュージにも剣を教えてあげて欲しいんだけど」
「ウォルフ、リュージ君に無理を言ってないかい?ウォルフは当主候補としての責務があるけど、リュージ君は必ずしもそうではないんだよ」
「なあ、リュージはどうしたい?」
「スチュアートさん、適正があるか分からないですが一緒に習っていいですか?」
「自分の意思なんだね、うちは厳しいよ」
「はい、がんばります」

 今日は一日の訓練を見学するように言われた。
柔軟やランニングなど出来る事はウォルフと一緒にやったけど、実戦形式の打ち込みやフェイント・崩し方・体捌きなどは良く見るように言われた。
スチュアートもそうだけど筋肉ががっちりついているようには見えない、細マッチョという感じであまり筋肉は大切ではないようだ。
しなやかで流れるような剣の打ち合いは剣舞のようでもあり、ウォルフが結構な期間訓練したのが伺われる。

 何時の間にかロロンが皆にアピールする位置で素振りを始めていた。
「ロロン、何時もサボってるのに今日に限ってどうしたんだ」
「僕だって貴族の家の子だよ。ちゃんと訓練してお兄ちゃんに負けない剣士になるんだ」
「本当は?」
「アキラお兄ちゃんまでこっち来ちゃったから真面目に修行しようかなって」
「ロロン、今はまだ小さいからうるさく言わないが、うちの子が剣の才能は置いておいて努力しなかったらダメだぞ」
「はーい、お父さま。今日から真面目にやります」
「よし、じゃあロロンも出来るところは一緒にやるぞ」
「はーい」

 ロロンにこっそり聞いた所、ウォルフは貴族の学園に通う為に特訓をしているらしい。
また、遠い所に住んでいる祖父と祖母に会うために、足手まといにならない程度の戦力にしたいとスチュアートが言っていた。
父方と母方の祖父と祖母にいっぺんに会うらしく、片方では剣の修行を片方では貴族としての基礎を向上させないといけないらしい。とある事情があったようで、子供達は祖父母に会うのは初めてのようだ。

 ミーシャは礼儀作法をレイシアやソルトから教わっているようだけど、蝶よ花よと育てられているらしく今一つ身になってないらしい。
「お姉ちゃんはあまり元気じゃないから、おうちの近くにいないといけないの」
「どこか悪いの?」
「うん、この辺」
ロロンが胸の周りを大きく指を回して示していた、空気がきれいな所で胸の辺りが悪い……、心臓か肺か……確か無理をさせないようにとも言われていた。ロロンは優しい子だ、さりげなくお姉ちゃんの様子を見ていた為、剣の修行を中断していたらしい。

 子供達の準備が整い次第王都へ行くらしい、自分が現れた事で三人にやる気が見えてきたようだ。



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