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第7話 事情
第7話 事情 P.33

健斗はゆっくりと歩きながら、翔の墓参りからの家路についていた

今日は早川はやっぱり来てなかったな

当たり前と言えば、当たり前なのだが……

健斗は歩き続けた結果、少し時間がかかってしまったのだが家へとたどり着いた

「ただいま〜」

間延びした声でそう言うと、ちょうど玄関で靴を揃えていた母さんが目の前にいた

「あら、お帰り」

「ただいま」

「どこ行ってたの?」

「……ちょっとそこまで」

母さんには翔の墓参りのことは言っていない。何となく、言いたくなかった

あのとき、母さんや父さんにも……ものすごく心配をさせてしまった……そんな罪悪感からかもしれない

過去を思い出させるような気がして、健斗は言いたくなかったのだ

健斗は大雑把に靴を脱ぎ捨てた。当然、それを見た母さんが顔をしかめて言ってきた

「ちょっとあんたねー、ちゃんと靴を揃えなさい」

振り返って母さんを憂鬱そうに見つめる。軽くため息を吐いて母さんに言われたとおりにすると、二階へと上がっていった

そんな健斗の様子を見て、母さんは首を傾げる

「何かあったのかしら……」

健斗は自分の部屋に入ると、そのままベッドへと倒れ込む

「……あちぃ……」

気温の高さには参ってしまう……健斗は扇風機の電源を入れて、再びベッドに倒れ込んだ

仰向けの状態で、扇風機の回る音と、相も変わらず蝉時雨が降り注ぐ

健斗はため息をついた

ヒロと別れてから、健斗はため息ばかりついていた

ヒロに言われたことが頭の中に染み付いて離れない

そして、初めてかもしれない

ヒロにあのような目を向けられたのは……

轟々しく、鋭利な刃物を突きつけられているかのような目つき、異様な雰囲気を醸し出すヒロを見たのは……

しかし健斗は解せない部分があった。結局、ヒロは何を言いたかったのだろうか

もちろん、ヒロは言いたいことをわざと遠回しに言う

が、しかし遠回しに言うが、結局はその言いたいことをちゃんと健斗が理解出来るように言ってくる

しかし、さっきのような会話の中で健斗はヒロの言いたいことを理解することが出来なかった

目を閉じて、ヒロの言葉を思い出してみる




『お前が早川のことを好きっていうのって、“罪悪感”から生まれたもんなんじゃないかって』

『“罪悪感”から生まれたもんなんじゃないかって』

『“罪悪感から”……』



『そういうことなら、俺はお前を許さねー。早川を好きだなんて、絶対言わせねーからな』



あんなことを言うなんて……どうしてヒロがあんなことを言ってきたんだろうか……

俺は、お人好し……

だから、翔のためにとか……そういう気持ちで早川を好きになってしまったのだろうか

違うさ

そんなことはない

そんな気持ちで俺は……

そう否定したい。心の底から、違うと否定したい

なのに、それが出来ないことって……

やっぱり、そういう気持ちが少なからずあるからなのだろうか……



それでも、やっぱり今日のヒロはどこか様子がおかしかった

急に頭を抱え込んで唸っていた

もしかしたら、ヒロに何かあったんじゃないだろうか

そう健斗は考えるようになってきた

最近ヒロの様子が少し変だと感じる

麗奈と川遊びに行ったときも、健斗にあんなことを聞いてきたヒロは様子が変だった

かまをかけていたと言っていたのだが、何か真意を隠しているように思えてならなかった

しかし、これは健斗の直感だから……

あまり考え過ぎなのはよくない

けど、しばらくヒロのあの目を忘れることは出来ないだろう


自分はお人好しなのだろうか

ヒロは言っていた

麗奈に対してもそうだって……普通見知らぬやつがいきなり来て、すぐに受け入れたりすることなんか出来ないって……

いつもいっしょにいてやることなんか……

そんなんじゃない

そんなんじゃないんだ

そりゃ確かに、最初は麗奈を受け入れたりしなかった

むしろ本当に迷惑な存在で、大嫌いで、馴れ馴れしくするつもりはなかった

けど、あいつはあいつなりに実はちゃんと考えがあることが分かって、そこから二人の距離は縮まってきた

相変わらず訳が分からなくって、その気持ちのすれ違いとかで何度喧嘩をしただろう

けどそれが、二人の絆を深くしていたようだ

一人じゃ危なかっしくて、何をしでかすか分からない

だから自然と、健斗が近くにいてやった

部活や遊びに行くときだって、バイトと被ってるからって言う理由で送り迎えをしたり……

あいつの我が儘に振り回されて、従うだけだったり……

それから自然と近くにいることになって、麗奈を助けていた


最近までそう考えていた

けど……それは違うのかもしれない……


健斗はゆっくりと目を開けた

徐々に眠気が健斗を襲う。健斗は……また目を閉じた

そしていつの間にか意識は浅い眠りの中に落ちていった









……何かが聞こえる

何かが聞こえる

ピリリリリリ

ピリリリリリ

高音で鳴り響く電子音に、健斗はふと目を覚ました

目の前は天井

今……何時だろうか?

ピリリリリリ

ピリリリリリ

さっきから鳴り響いている、この五月蝿い音は何だ?

健斗はゆっくりと身を持ち上げて、しばらく呆然とした

頭がぼーっとする

何だか眠い

ピリリリリリ

ピリリリリリ

健斗は鳴り響いている携帯電話を見た

どうやら、電話のようである

健斗はため息混じりでケータイを取り、画面を開いて電話に出る

その電話の相手が誰だかも確認せずに……

「もしも〜し……」

伸び伸びとした声でそう言うと、電話の奥から声が返ってきた

「……もしもし?」

女の子の声だった

そしてそれが誰だか理解するのに、大して時間はいらなかった

健斗は瞬間に目を覚まし、立ち上がり、驚異と興奮で声を張り上げた

「早川っ?」

健斗が驚きながらそう聞き返すと、向こうからは小さな笑い声が聞こえた

「うん♪そうだよ」

健斗は慌てふためき、どう対応すればいいのか分からなかった

寝起きにこのパターンって何だ?

もしかしたら夢なのかもしれない

「ゴメンね。急に電話なんかしたりして」

いや、夢ではない

この感じは自分が知っている、早川結衣そのものだった

それが安心感を呼び、さらに冷静になっていく

健斗は小さく咳払いをした。早川に聞こえないように……

「いや、全然平気。どうかした?」

健斗が率直にそう訊いてみる。すると、早川は少し戸惑い気味になった

「うん……あの……ね」

早川はしばらく黙り込んだ。健斗も何を言ってくるのか、ドキドキしながら待っていた

すると、早川は思いも寄らぬことを言ってきた

「健斗くんさ……」

「うん?」

「その……明日の土曜日……暇?」

「え……?」

明日の土曜日……

明日は特にすることはない。次のバイトは明後日の日曜日の朝からだから……

特にすることもない訳だから、暇と言える

「あぁ、暇だけど……」

早川はそれを聞いて、安心感を抱きながらさらに健斗に言ってきた

「本当に?それなら……その……」

早川は少し間を置いてから言ってきた

「その……明日、いっしょに映画行かない?」

「え……」

健斗はその言葉を聞いた瞬時、全身が固まった

早川と……映画……

「えっ?マジでっ!」

健斗はまたもや驚異と興奮で、先ほどの冷静という言葉を見失ってしまった

早川から……あの早川から……まさか……

「うん。実はおばあちゃんがね、お友達から映画のペアチケットをもらったらしいの」

よくありきたりな話である

「けどほら、おばあちゃんって最近の映画にはまったく興味がないから……私に誰かと行って来いって言って、くれたんだ」

なるほど……と健斗は心の中で納得した

理由はどうであれ、チヨバァ!ナイスッ!

「え……でも、俺でいいの?」

健斗がそう訊いてみる

すると早川は少し照れながら言ってきた

「えっと……最初はマナや麗奈ちゃんも誘ったんだけど……二人とも用事があるみたいで……だから、健斗くんならって思って」

麗奈に……用事?

健斗はそれが一瞬気になったが、大して深くは考えなかった

「それに……健斗くんにお礼も言いたいし……」

「お礼?」

健斗は少し考えた。早川にお礼をされるようなことをした覚えはない

「あっ……いいのっ!こっちの話だからっ。それより……明日、平気?」

早川が改めて健斗にそう聞いてくる。健斗の答えは決まっていた

「あぁ……うん。オッケー。行こうぜ」

健斗がそう言うと、早川は嬉しそうに言ってきた

「良かったぁ。じゃあ、また後で連絡するね?」

「うん。分かった」

「突然ゴメンね?それじゃあ」

そう言って電話が切れて、しばらく電話の音が聞こえた

健斗はケータイを閉じて、ゆっくりとため息を吐き出し、しばらく呆然としていた

あっという間の出来事だった

早川から、まさかの映画のお誘い……

「ヤッベ……マジヤッベ……」

にやけながら、健斗はそう呟いていた

胸が高鳴る。興奮が収まらない

これってもしかして……


デート?


健斗は自分の顔が赤くなっていくのが分かった

さらに気持ちが高ぶる。未だ信じられない、幸せな今このとき……

そんな中……ドアがノックされた

「ちょっと健斗ー」

母さんが突然入ってきた。入ってきたと同時に要件を言ってきた

「お隣さんに回覧板持ってってくれない?」

母さんにそう言われて、健斗はすぐに立ち上がった

「オッケー。行ってくるわ」

「え……」

母さんは驚いていた。まさかすんなり了承するとは想わなかったのだ

「あんた……何かあったの?」

「ん?別になぁーんもないよ♪行ってきます」

母さんから回覧板を受け取り、鼻歌混じりで健斗は階段を降りていった

そんなご機嫌な様子を見て、母さんは戸惑っていた

さっきまでふてくされてたように、機嫌が悪そうだったのに……

「……変な子ねぇ……」

母さんはそう呟くと呆れるようにため息を吐いた



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