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第7話 事情
第7話 事情 P.31

健斗はゆっくりとため息をつくと、響き渡る父さんの悲鳴を聞いた

父さんは不用心過ぎる。母さんのことを話すなら、しっかり安全確認をするべきだ

まぁ、母さんが後ろにいることも教えず、自分だけ逃げてきたなんて、かなり酷な話しである

さてと……このまま自分の部屋に戻るのもいいが、今までクーラーなどの風を当たっていた

今はそういう風よりも、自然の風に当たりたかった

なので、健斗はこの家で一番風の当たる、涼しい場所。縁側でゆっくりすることにした

欠伸をしながら、ゆっくりと縁側へと向かう

と、するとだった

縁側には先客がいた

麗奈が縁側で、戸に寄りかかりながら、外を眺めていた

その表情に、健斗は心なしに不思議な気持ちを抱いた

麗奈もふと健斗に気がついたようで、健斗を見て薄く微笑んだ

そんな麗奈に健斗は近づいて、笑いながら話しかけた

「寝てなくていいのか?」

健斗がそう言うと、麗奈は突然真剣な表情になって、人差し指を口の前に持ってきて、健斗に静かにするように促した

そんな麗奈の様子を不思議に思い、健斗は口を閉ざして、麗奈に近づく

何かを見ているようだった

それは健斗が麗奈の隣に来て、外を眺めたときに分かった

「……蛍」

外にある、タボスケが住んでいる小さな堀池の周りに、何匹かの蛍が、美しい光を発しながら飛び交っていた

蛍は、すぐそこの川で見ることは出来るのだが、健斗もこの縁側で蛍を見るのは初めてだった

「綺麗だな」

「……うん」

恐らく、堀池の水に誘われて、ここにいるのだ

まさか蛍が見れるなんて……

健斗はゆっくりと物音を立てぬよう、麗奈の隣に座った

健斗も風に当たりながら、美しい光を見ていたかった

やはりここは涼しく、気持ちがいい

風鈴の音色が心に響いてくるようだ

「私、蛍見たの久しぶりかも」

「あっちでも見れるんだ」

「うん。前住んでたとこにね、小さな小川が近くにあったの。小さい頃、よくお母さんと見に行ったの覚えてる」

「ふぅ〜ん……」

麗奈はゆっくりと笑って、健斗に言ってきた

「“光り橋”見てみたいなぁ。すっごく綺麗なんだろうなぁ」

「……やっぱお前ってロマンチストだな」

「別にぃ」

麗奈はちょっぴり恥ずかしそうに、頬を赤らめていた

そんな麗奈を見て、健斗は可笑しそうに笑った

「知ってる?蛍火って、死んだ人の魂だって言われてんだぜ?」

「え……ちょっと止めてよォ〜」

麗奈が顔をしかめて、気味悪そうに言うので、つい悪戯心が動かされた

「あんな風にゆらゆら……まるでこの世に未練を残していった人たちがさ迷っているかのように……」

健斗がそんなことを言ってくるので、麗奈は気味悪がって、首を横に振った

「もうっ!変なこと言わないでよっ!せっかく純粋な心で眺めてるのにィ」

しかめっ面でそう言ってくる麗奈。健斗は可笑しくて、笑いを堪えることが出来なかった

しばらく笑って、健斗は大きく息を吐いた

「ま、それは冗談として。蛍って、何だか哀しいよな」

「何で?」

「だってさ、蛍はあの光が消えると同時に、死ぬんだぜ。そう考えると、凄いし、何だか悲しい」

「へぇ〜……そうなんだ……」

あの蛍たちは、自分の命を削って、あのような小さな美しい光を発している

確かに、それも美しいのだが、それよりも、あの小さな体で小さな命を削りながらも、光を発している

その小さな命が確かに自分は生きている、そう誇示するように、その煌めきが美しく思えた

「……プッ……クスッ」

麗奈が小さく吹き出して笑ったので、健斗は麗奈へと視線を向けた

「健斗くんだって、ロマンチストだね」

「はっ?どこが?」

健斗がそう聞き返すが、麗奈はクスクス笑ったままで、答えてはくれなかった

ロマンチストと言われて、自分が何だか恥ずかしいことを言ったように思えてしまう

気恥ずかしい気持ちになって、健斗は何も言えず、口を噤んだ

「私たちって、ロマンチストなんだね。何か変なの」

麗奈はそう言うと、声を立てて笑い続けた

そんな麗奈を見て、健斗はゆっくりと口元を緩ませた

「相変わらず、訳分かんねーやつだな」

「そう?アハハ♪」

健斗は呆れるようなため息を吐いて、再び外の景色を眺めた

涼しい夜風が気持ちいい

そんなときだった

「健斗くん」

「ん?」

麗奈は健斗を見つめて、微笑んでいた

「何か悩んでるでしょ?」

「え……」

まるで麗奈に心の中を見透かされたような思いだった

何だかフワフワした、あまり気持ち良くない感覚だ

何で突然そんなことを聞かれたのか、健斗は驚いていた

「な、何で?」

「だって、見てたら分かるよ。何か、俺は悩んでるよー。誰か聞いてくれー。みたいな態度とってるんだもん」

麗奈にそう言われて、健斗は顔をしかめた

「べ、別にそんな態度とってねーよっ」

「じゃあやっぱり何か悩みがあるんだ」

「…………」

健斗は答えなかった。麗奈は可笑しそうにまた笑っていた

「何悩んでるの?」

「……別に……何でもない」

「嘘ばっかり。結衣ちゃんのこと?」

「…………」

「結衣ちゃんのことなんだ」

確かにそれもある

早川のことで、悩んでるようなこともある

けど、本当はそれよりも、違うものがあった

「……違うよ」

「え?」

健斗は麗奈を見た。麗奈は不思議そうな表情を浮かべていた。そんな麗奈に、健斗は訊いてみた

「お前さ、吹奏楽部に入って、今楽しいか?」

「え?」

麗奈はほとんど間髪を入れずに、小さく頷いた

それを見ると、健斗はまた憂鬱そうにため息を吐いた

「……そうだよな。好きなことをやれて、楽しくないわけないよな」

「……健斗くんだって、好きなこと――」

麗奈はそう言いかけてから、あっと声を上げてから、口を閉ざした

気づいたようだ

健斗が何を悩んでるのか……

そんな麗奈を見て、健斗はゆっくりと頷いた

「そう。俺さ……」

ため息を吐いてから、続けて言った

「また……サッカーがやりたいんだ……」

麗奈はそれを聞いて、嬉しそうに言った

「本当に?だったら今すぐにでもまた始めなよ?」

そんな風に言ってくる麗奈を見て、健斗は言い返した

「そんな簡単に言うなよ」

「どうして?やりたいことをやるのに、どうしてそんなに悩むの?」

健斗は少し考えた

麗奈の言う通りだ。ただ、やりたいことをやるだけ

それは誰にも止められることはないし、自分の思想の自由だ

なのに、どうしてこんな風に悩むのか……

「……俺って、サッカーやってもいいのかな」

麗奈に聞いたわけじゃない。自分自身にそう問いかけたのだ

麗奈は何も言ってこなかった。恐らく話を最後まで聞こうと考えたんだろう

だから健斗も、話してしまおうと考えた

「俺さ、サッカーに対する想いが強すぎて、そのせいで、人間関係をこじらせることだってあったし」

もちろんそれは翔の話でもあるが、それだけじゃない

サッカーをやってたころの健斗は、はっきり言って自分を驕っていた

他の誰よりも、実力があった

誰の目から見ても、はっきり分かるように

それが自分を鼓舞させていた

自分は特別な人間だって思い込んでいた

だから、一生懸命頑張っている人を貶したり、バカにしたり、足を引っ張るようなやつを、非難したりすることもあった

もう、そんなことはしたくない

「それに、店長や、母さんや父さん、みんなにも……大きな迷惑がかかると思うんだよな」

翔が死んだ日から、露頭に迷っていた健斗に、店長は居場所を与えてくれた

傷ついてた健斗に、

暖かい温もりをくれた

そんな店長に健斗は言い表すことの出来ない、深い感謝をしている

でも、またサッカーをやるんなら……当然バイトと両立することは出来ない

今でも充分迷惑をかけてるのに、さらに大きな迷惑をかけるなんて……

そして母さんや父さんにも、大きな迷惑をかけてしまう

一度止めたのに、またサッカーを続ける

きっと続けるんなら、生活は一変するだろう

部費だってかかるし、遠征や合宿などの費用だって必要だろう

毎日ドロドロになって帰ってきて、ご飯が遅くなったり、洗濯物だって増える

もし朝が早い日には、母さんに朝早く起きてもらって、弁当を作ってもらうことになったりもする

スパイクやレガース、ストッキングなどの、サッカー用具一式

それらを考えると、結構なお金をかけてしまうことになる

そして、ヒロにも身勝手だと思われる

健斗がサッカーを止めると知ったその日、ヒロもいっしょに止めると言い出した

訳が分からなかった

何故ヒロまで止めるのだ

キーパーとしての才質に恵まれ、続ければ間違いなく、県でも有数の名キーパーになるだろうと、健斗は密かに思っていた

もったいないと思った

ヒロが止めるなんて……



それなのに、健斗だけがまたサッカーを始めると言ったら、ヒロはどう思うのだろうか

高校ではハンド部のキーパーとして所属しているヒロ

部活をそう易々と辞められて、健斗といっしょにサッカー部に入れるならいいが……

そう易々と事が運ぶのだろうか

……そして何より問題なのが……

「そういえば、ヒロが言ってた。松本事件でさ、俺って結構噂されてるって」

麗奈はそれを聞いて、ゆっくりと頷いた

「でも、それっていい噂みたいじゃない。サッカー部の人たちも、健斗くんのこと凄いって言ってたってヒロくんが……」

すると健斗は苦笑しながら、麗奈の言葉を遮るように言った

「“みんな”ってわけじゃないだろ」

健斗は知っていた

あの日以来、まわりから見られる目が変わったこと

もちろん、そういう羨まれるような、憧れるような、尊敬のような、そういう目もあったのは分かっている

でもそれだけじゃない

あの事件は、自分たちが思っているよりも、事が大きすぎる

神乃高一有名な松本絢斗が、どこの誰かも知られてない一年生に負かされて、さらにあのパニックを起こしてしまった

それを特異的な目で見てくるのも当たり前。むしろそれが普通と、健斗は思っていた

それにサッカー部員にとって、今まで積み上げてきた努力を全否定された思いになったに違いない

ヒロは気にするなと言ってたけど、やっぱり……後悔の念は隠せない

「またサッカー部に入って、昔のように、サッカーをやれたらさ、すっげー楽しいんだろうなぁって……最近よく考えんだ。でも、色々考えて、周りの人に迷惑をかけてまで、サッカーをやる意味なんかあんのかな……」

健斗は軽く笑って見せた

「まぁ、お前にこんなこと言っても仕方ねぇんだけどな。やっぱ分かんねーわ……」

麗奈は健斗の話を聞いた後、ゆっくりと息を吐いた

健斗もそれ以上何も言おうとはしなかった

サッカーをやりたい

昔のように、またあの感覚を……味わいたいのだ

またあの匂いを

またあの風を感じたい

けど……みんなに迷惑をかけたくはない

こういうのを何て言うんだろうか

似合った表現が見つからない

麗奈はゆっくりと息を吐いた後、再び外の景色を見つめた

すると、まるで呟くように口を開いた

「……私ね、健斗くんのそういうとこ、凄いと思う」

そんなことを言われて、健斗は再びを麗奈を見て、不思議そうな表情を浮かべた

「何か、自分を客観的に見つめ直せるとこ……そこまで考えれる人なんて、そういないよ」

麗奈にそう言われて、健斗は下を俯いた。恥ずかしかったのだ。麗奈にそんなことを言われて、何だか自分が高尚な人種になった気分になる

麗奈はそのまま、ゆっくりと話してくれた

「健斗くんが、そうやって真剣にちゃんと悩むことって、すごい良いことだと思うよ。だから私も、ああすれば?とか、こうすれば?とか、簡単には言えない……けどね」

麗奈は顔を上げて、健斗に向かって微笑んだ

「やっぱり、自分次第だよ」

その麗奈の言葉を聞いて、健斗も顔を上げた

「健斗くん覚えてる?私にも同じこと言ったよね」

麗奈にそう言われて、健斗はふと思い出した

多分、あのときのことだ

「私が部活にするか、バイトにするか、すごい悩んでたとき……自分の好きなようにすればいいって言ってくれたよね」

健斗は黙ったまま、何も言おうとはしなかった

そんなことあったような気がする

あのとき、自分でも分からなかった

あのとき、ずっと麗奈はキャピキャビした、何を考えているのか訳が分からないやつだって思ってて、正直麗奈に対して良くない印象を抱いていた

けど、本当は色々とちゃんと考えてるんだと知って、麗奈の中身の垣間を見たような気がした

そのときに、自分の正直な気持ちが、麗奈に言いたかった言葉が、何故か自然と出てしまったのだ

「自分の素直な気持ちに従うのか、それを押し殺すのか、どっちが正しいなんて分からない。というより、どっちも正しいと思うよ?だから、時間をかけてでもいいから、後悔しないような選択をしなきゃね」

後悔しないような選択……か……

その言葉が健斗に重く圧し掛かる

麗奈はまた健斗ににっこりと微笑んだ

「大丈夫♪高校生活は三年もあるんだもん。健斗くんなら、ちゃんと選べるよ」

そんな麗奈の、優しい微笑みを見た

確かに、結局のところ……どっちにすべきかは分からない

麗奈も教えてはくれなかった

けど、麗奈が答えてくれた、その言葉が健斗は最もだと感じた

後悔しないような選択

サッカーをやるか、やらないかではない

それが今健斗に求められるべき、答えだったのかもしれない

不思議だ

麗奈と話をしていると、いつも……心が晴れていく

モヤモヤした曇り空に、暖かな日差しが差されたような気持ちになるのだ

心が救われた

健斗もそんな麗奈の微笑みに便乗して、ゆっくりと微笑んだ

「……そうだな」

「うん♪」

健斗の心は晴れていた

だからこそ今、麗奈に言いたい言葉があった

健斗は一度麗奈から視線を変えて、星空を見上げた

「……麗奈」

「うん?」

健斗はゆっくりと麗奈を見て、その存在に笑いかけた

その時間が……一瞬のように儚くて

けれども、輝きを放つように……









「……いつも、ありがとうな」


「……え……」


健斗の優しげな眼差しを、麗奈はしばらく見つめていた

初めてかもしれない……

健斗から、その言葉を聞いたのは……

心から言われた

いつも、ありがとう

その言葉が、麗奈にとって、ものすごく大切な言葉になった

世界で一番、大切な人が

大好きな人が

自分を見て、ありがとうって言ってくれた

それが麗奈にとって、どれだけ嬉しいことなのか

麗奈の胸の中に広がる、幸せな気持ち

嬉しかった

難しい言葉でこの感情を言い表すよりも

単純に……

嬉しかったのだ……






麗奈はしばらくその眼差しを見つめた後、ふと我に返ったようで、頬を一気に赤らめていた

「ど、どういたしましてー」

誤魔化すように笑いながら、健斗から顔を逸らす

そんな麗奈を見て、健斗は可笑しく感じて、小さく笑って見せた

照れてやんの……

そんな麗奈が、可笑しくって、健斗は小さく、小さく、笑った

さっきまで感じていたモヤモヤが嘘みたいになくなっていた






それから、しばらく沈黙が続いた

けれどそれは、暖かな時間が流れているためだった

照れて、口を閉じている麗奈

そんな麗奈をわざと見てやんない健斗

2人の間には、暖かい時間が流れていたのだ

大切な

大切な

2人の時間が……



そして、麗奈はゆっくりと顔を上げて、健斗と同じように星空を見上げた

「……ねぇ、健斗くん」

「ん?」

「……星、綺麗だね」

麗奈がそう呟くように言った

健斗も星空を見上げたまま、呟くように言い返した

「……やっぱお前って、ロマンチスト」

「うるさいー」

綺麗な星空が広がっていた

本当に綺麗な星空が……


健斗が麗奈に言った言葉……

「いつも、ありがとう」

この何気ない言葉が、実はとっても大切な一言になったりするんです


そういえば今日はエイプリルフールでした

自分、そのことに気づかなくって、今朝起きた瞬間に、見事に親に騙されてしまいました

これからは人の言動を疑わしく思おうと思いましたね


そして読者のみなさんにお知らせいたします

いつの間にか、グッラブ!2もかなりの部が掲載されています

これから読んでもらう方や、読者のみなさまのためにも

近い内に、グッラブ!3を作りたいと思います

みなさんぜひよろしくお願いします



しかし、第7話は本当に長いです

しかしこっから、ようやく本題に入って行きます

みなさん、ぜひ応援よろしくお願いします

また、評価、感想などよろしくお願いします



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