その次の日の夕方頃
休みの日が終わるころ
最後の夜は、明日が来なければいいなと思う
日曜日の夕方にやっている、クイズ番組はつまらない
父さんは居間で寝そべりながら、テレビを見て、大きく欠伸をしていた
麗奈も今は部屋で安静している
そして健斗は……昼からバイトでいない
つまり相手をしてくれる人がいなく、一週の最後の休みの日、一日中こうして家で退屈なテレビを眺めているのだ
不健康極まりないのは分かっている
父さんは大きく欠伸をした
「ふわぁぁぁ……健斗がいないと暇だなぁ……」
もし健斗がバイトでなければ、健斗を連れて川にでも釣りに行っていたのに……と、父さんは心の中でそう呟いた
そんな父さんの様子を見て、夕飯の支度をしていた母さんが呆れたように笑って言ってきた
「何子供みたいなこと言ってんのよ」
父さんは母さんにそう言われて、返す言葉も無く、また欠伸をした
確かに、子供みたいと思うだろう
むしろ昔はこんな風にゴロゴロしている余裕なんてなかった
小さいころの健斗は、手の尽きようのないほどのやんちゃ坊主だった
悪戯好きで、よくただをこねて……
幼稚園や小学校が休みの日曜日
しかし父さんにとっては貴重な休みがとれる日曜日
しかしそんな気持ちも知らず、健斗は父親に遊びを求めていた
ポケモンが好きだった健斗とよくやったのは、ポケモンごっこだ
今思えば、本当に懐かしい
何度も何度も、疲れていても、そんな気持ちなどまるで知らないかのように
健斗の遊びに付き合わされた
真剣にやらなかったときは、健斗にかなり怒られたりもしたっけ
あのやんちゃ坊主が……今ではもう高校生だもんなぁ
ポケモンごっこに付き合わされなくなるのは助かるが、逆にこの年頃になると親は相手にされなくなる
物寂しい気持ちになるのは当然だろう
このように、不覚にも最近度々そう思うことがある
もうこの年になれば、みんなそうなのだろうか
そう思うことで自分を納得させるのだ
「健斗なら、もうそろそろ帰ってくると思うんだけど」
母さんが父さんに、冷蔵庫で冷やしておいた生ビールをコップに注ぎながらそう言ってきた
父さんは体を起こして、注がれた生ビールを手に持つ
おつまみ用の枝豆と共に
「しかし休みというのはあっという間だなぁ」
父さんが生ビールをちょびっとだけ飲むと、母さんが呆れるように言ってきた
「当たり前じゃない。あなた今日、お昼前まで寝てたんだから」
「そうは言うけどなぁ、お前。サラリーマンは平日の間に、疲れがどかっと溜まるんだぞ」
「あら。私だって、少しでも家計を楽にしようと、パートの仕事に出たり、今だって、あなたたちのためにこうしてご飯を作ってるのよ?」
母さんはそう言いながら、憂鬱そうに深くため息をついた
「はぁ〜……もう少しあなたのお給料が上がればね〜」
「……悪かったな……俺だって……毎日頑張ってんだよ」
父さんは愚痴をこぼしながら、ビールをまたちょびっと飲んだ
発泡酒の泡が、鼻の下に付着しているのが分かり、舌で舐めとる
「大体なぁ、この前も言ったけど、お前が使いもしないようなダイエット器具や、ダイエット食品とか……そういう通販を止めれば、家計も相当楽になるんじゃないのか?見てみろよ。一階の押し入れの中」
父さんがそういうと、母さんがむっとした表情になり、語勢を強めて言ってきた
「何言ってるのよっ!私だってね、ちゃんと考えてますっ!月に二回とか、値段とか、ポイントがつくようなとことかっ!」
月に二回って……少ないように聞こえるが、実際多いだろ
値段だって……万単位だろ
ポイントって……最初から買わなければ、貯める必要なんてないだろ
それらの返し文句を、父さんは母さんの勢いに負け、鵜呑みにした
「それに、あなただってそうでしょっ!妙な見栄を張って、部下を飲みに連れて行ったり、接待で変なお店に行ったり。パチンコで無駄なお金かけたりっ!飲みなんて今月で、もう三回も行ってるのよっ?そういうのを無くせば、家計も相当楽になると思うんですけどっ?」
「それは……なぁっ!そういうのだって……立派な仕事の一つであって……」
「へぇ〜っ?どんな仕事があるのよ?」
「それは……ほら……ね?部下の愚痴を聞いてやったり……接待だって、取引を成功させるためだったり……」
「パチンコはっ?」
「……それは……まぁ……娯楽……というか」
父さんがそう言うと、母さんが不満そうに強くため息を吐いた
「何それ。そんなんだからあなたは――」
また母さんの説教が始まる寸前のところだった
そのときに、突然電話が鳴り響いた
父さんと母さんは痴話喧嘩を止めて、揃って電話の方を見た
「あら?」
耳五月蠅く鳴り響く電話の音に母さんはゆっくりと近づいていく
父さんはその後ろでほっと胸を撫で下ろしていた
誰だか知らないが、ナイスタイミングだ
また口うるさい説教を食らうところだった
くわばら くわばら
父さんは安堵の息を零して、ビールを一気に飲み干した
それとほぼ同時に、母さんが受話器を取り、耳に当てた
「はい、もしもし。山中です。……はい……え?あ〜っ!」
突然驚きの反応を見せて来て、父さんはテレビの電源を消して、母さんを見た
一体誰なんだろうか……
「お久しぶりですぅ〜。はい。はい。いいえ?こっちは嬉しい限りなんだから。大丈夫よ」
……もしかして……
「えぇ……ただね。今ちょっと風邪を引いちゃって………えぇ。ただの夏風邪みたい。いいえ。そんなことないです」
母さんの笑っている顔、そして話の内容から、父さんもその相手が誰なのか、予測ができた
「お仕事の方は順調?え、あ……そう〜。大変ね。じゃあ今は……国際電話からかけてきてるのね」
父さんはゆっくりと欠伸をした
「えぇ。へぇ〜……あぁ、今主人がそこにいるから。えぇ。代わります」
母さんがそう言ったとき、振り返って父さんを見る
そして受話器を耳から話、にっこりと笑ったまま、受話器を指差した
どうやら推測は当たっているらしい
懐かしいな……
父さんはゆっくりと立ち上がって、照れ臭そうに受話器を受けとった
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