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第7話 事情
第7話 事情 P.20

それから次の日となった。麗奈は案の定、熱が下がらない一方の日々を過ごしていた

そのため、今日は部活を休ませる。当然の結果だった

その日の朝、健斗と母さん、そして出勤するためのスーツ姿の父さんは揃って麗奈の近くにいて、寝込んでいる麗奈の様子を窺っていた

「どう?」

健斗が熱を計っている母さんに聞いてみる。母さんはゆっくりと麗奈の額から手を離し、憂鬱そうにため息をついた

「まだ下がらないわね……」

そのとき、体温計が鳴り響いた。母さんはすぐに鳴り響いた体温計を、麗奈の服の中から取り出し、その体温を確かめる

「あら、37℃8分……変わってないわね」

健斗はその結果にゆっくりとため息をついた。確か、夏風邪というのは結構長引くらしい

熱が変わってないというとこを見ると、治るのにしばらく時間がかかるかもしれない

そんな様子を見ていた父さんが、麗奈の顔を覗き込みながら言ってきた

「仕方ないな。お前、今日も休みなんだろ?麗奈ちゃんを病院に連れて行ってやれよ」

父さんが母さんにそう言うと、母さんは当然とばかりに頷いた

「そうね。今日連れて行くわ」

母さんがそう言うとだった。

麗奈が咳き込みながら、ゆっくりと目を開いた

熱により、頭がぼーっとするのか……少し目が虚ろだ

それでも意識はしっかりしていた。咳き込みながら、ゆっくりと言ってきた

「すみません……何だか、ケホッ、大事にしちゃって……」

麗奈がそんなこと言うと、母さんがゆっくりと微笑んで麗奈に言った

「何言ってるの。風邪なんか誰でも引くんだから……ゆっくり休んで、ちゃんと治してね」

母さんが優しげにそう言うと、麗奈はにっこりと微笑んだ

血は繋がってはないし、元は他人だったけど……日々を過ごしている間に、そこには確かに絆が生まれていた

「……なんか……俺の時とは随分態度がちげーな」

健斗が怪訝そうな表情を浮かべて母さんにそう言うと、母さんは不思議そうな表情を浮かべていた

「何言ってるの。あんたにだって、おうどん作ってあげたじゃない」

「あっそ」

健斗がそんなことを言っていると、隣にいた父さんが可笑しそうに声を上げて言ってきた

「カッカッカ。何だ、健斗はまだ母さんに甘えたい歳なのか」

「はぁっ?ち、ちげーよっ!そういう意味で言ったんじゃなくって……」

「なぁに〜?もうー、健ちゃんったら甘えん坊ね〜♪」

「……気持ちワリィからヤメロよな……」

「何?」

「い……いえ……別に……」

そんな健斗と母さんのやり取りに、父さんは可笑しそうに大笑いをした。麗奈も小さく可笑しそうに笑っていた

この山中家に来て、後悔をしたことなど何一つない

暖かくて、笑いに満ち溢れていて、しばらくの間忘れていた、家族の暖かさがある

本当に素敵な家族だ

そして、言葉では言い表せれない、大きな感謝をしている

麗奈はそんな家族の様子を見て、また小さく微笑んだ

「まぁ、麗奈ちゃんもしっかり栄養を取って、ちゃんと治すんだぞ?」

父さんにそう言われた麗奈は父さんに微笑みながら、ゆっくりと頷いた。父さんもそんな麗奈の反応を見て、納得するように頷いた

「……あら、あなた。もうこんな時間よ。会社会社」

「え……」

母さんにそう言われた父さんは、慌てて時計を見る

「あぁ〜っ!やっべっ!今日は会議だったぁっ!遅刻するっ!」

父さんが急に立ち上がって、悲鳴を上げながら急いで家を出る様子を見せた

そんな父さんを見て、健斗は嘲笑う

「ふ……父さんダメだなぁ」

健斗がそんなこと言っていると、突然母さんの必殺裏拳が健斗の脳天を直撃した

「イッテェッ!」

あまりの痛さに健斗は頭を押さえる

母さんが顔をしかめて、健斗に言ってきた

「あんたも。夏休みだからってグータラしてないの。家のことを手伝いなさい」

「はぁ?」

「返事はっ?」

「はい……」

母さんに強引に承諾させられると、満足した母さんはすぐに麗奈の部屋から出て行き、出勤する父さんを見送るため、一階へと降りていった

健斗は大きくため息をついた。せっかくの休みを、家の手伝いをさせられるなんて……健斗からしたら面倒くさい限りだった

「……大変、だね……」

麗奈が可笑しそうに笑って、健斗にそう言ってきた

そんな風に言ってくる麗奈を見て、健斗は軽くため息をついて見せる

「いつものことだし……お前はちゃんと風邪を治して、また部活頑張れよ」

「……うん♪」

麗奈の太陽のような優しい笑顔を見る。やはり心なしか、胸が高鳴るのが分かった

麗奈の笑顔を見ると、何だか最近気恥ずかしい気持ちになるのだ

健斗は鼻をポリポリと掻くと、立ち上がって麗奈の部屋から出ようとする

「ちゃんと寝ろよ」

出る際に麗奈の方を振り向いて、健斗はそう言った。麗奈は言葉では何も言わなかったが、ゆっくりと頷いた

健斗はそれをみると、ふと笑って、麗奈の部屋のドアを閉めた




麗奈は健斗たちが出て行ったそのあと、ふと天井を見つめた

みんな、相変わらずの生活を送っている。麗奈はそのことに、少し安心をしていた

自分のせいで、母さんや父さんに迷惑をかけたくないというのが本心だったから

けど健斗は……言ってくれた

家族に迷惑をかけるのは、別にいいって

そう言ってくれた

健斗は麗奈を……大切な家族の一員だと認めてくれている

それはキス事件から仲直りした、あの日の朝のことだ

今までに見たことのない、健斗の笑顔と共に……健斗の素直な気持ちが聞けた

麗奈のことを、大切な人の一人だって認めてくれた瞬間だったから

すごく……嬉しかった


けど……

今はそれが、少し複雑な想いを抱えていることを麗奈は否定することはできない

健斗は麗奈を家族として見ている


それだけだ


家族として、友達として、その関係を望んでいる

けど……麗奈は違う

健斗が好き……

いつでも健斗のことを考えてしまう

そのくらい健斗が愛おしく思える

だから、健斗とは……“家族以上”の関係になりたい……

ありふれた時間が、日々を過ごす毎日が

愛しく思えたとき

好きな人がいるから

笑って生きていける

あの人が見せる仕草

あの人が笑う声

その全てが、狂おしいくらい愛しいのだ



その強い気持ちを健斗はちゃんと分かってるのかどうかは……分からない

分からないし、例え分かっていたとしても……自我が強い健斗にとっては何ともない

もはやどうだっていい

健斗はずっと……


ずっと早川が好きだったんだから


その気持ちは多分揺らぐことはないだろう

麗奈が健斗のことを、強く想うように

健斗もまた、早川に対して強い気持ちを抱いているのだ

そんなこと分かっている

だから、たまに分からなくなるときがある

自分は、健斗に恋したままでいいのか

そうじゃなくって、健斗の恋を応援すべきなのではないのか

でも……竜平も言っていた

鷹も言っていた

自分の気持ちを溜めるよりも、素直に吐き出した方がいいって

実際、麗奈もそう思う

別にいいじゃないか
仕方ないじゃないか

だって……

麗奈は軽く咳き込むと、ゆっくりと窓の外を見た

今日もいい天気になりそうだ




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