「……ケホッ……ケホッ……ケホッ……」
咳込む様子を見せて、麗奈は苦しそうな表情を見せる
結構元気そうに見えたのだが、やっぱり相当気分が悪いらしい
「大丈夫か?」
咳き込む麗奈の背中をさする
息を荒げて、苦しそうにする。顔も赤らめて、熱もあるようだ
やはり早く家に帰らせた方がいいかもしれない
「ほら、帰るぞ」
「う……ん……」
麗奈は立ち上がろうとしない。体が怠いのだろうか、動く気力すらなさそうに見える
「怠いのか?」
健斗が聞くと、麗奈はゆっくりと頷く
「……気持ち……悪い……」
「立てない?」
麗奈は答えなかった。相当気分が悪いんだろうというのが分かった。健斗は軽くため息をつく
仕方がない……
「ほら」
「え……」
健斗はしゃがみこんで、麗奈の横で麗奈を促せた
仕方がないから、健斗が自転車まで運んでやるしかない
「早く。負ぶされよ」
「……でも……」
「いいから」
健斗が半ば強引に麗奈を促すと、麗奈は少し躊躇ってから健斗の言うことを素直に聞くように、健斗の背中に負ぶさった
それを見計らって、健斗は「よっ」とかけ声を上げると同時に、ゆっくりと立ち上がった
「重くない?」
麗奈が恥ずかしそうに聞いてくる。健斗はそんな風に言う麗奈が可笑しく、小さく笑った
「めっちゃ重い」
「……イジワル……」
麗奈は恥ずかしそうに顔を赤らめていた。健斗から目をそらす
健斗はゆっくりと歩き出して、保健室を後にしようとする際に、先生にちゃんとお礼を言った
先生はゆっくりと微笑んで麗奈に「お大事に」と言うだけで、それ以上は何も言って来なかった
健斗と麗奈は揃ってお辞儀をすると、保健室を後にした
校舎を出て、止めてある自転車に麗奈を後ろの椅子に座らせて、健斗は麗奈の鞄を籠の中に入れる
そして健斗も自転車に跨ると、漕ぎ始める際に振り向いた
「大丈夫か?」
麗奈は咳き込みながら軽く頷いた。それを見ると、健斗は再び前を向き、少し急ぎめで家へと急いだ
急ぎめで自転車を走らせたため、いつもより早く家に帰りつくことが出来た
健斗はとりあえず自転車をそのままにし、先に麗奈を家の中へ入れることを優先することにした
未だ立ち上がることが出来なさそうな麗奈を負ぶさりながら、家の戸の前に立ち、開けようとする――が、開かなかった
どうやら鍵が掛かっているようだ
即ちそれは、母さんはまだ帰ってきていないということになる
健斗は軽くため息をついた
あのおばさんは一体どこまで行ったのだろうか……
こんなときに……呑気なものである
健斗はこんなときに備えていた家の鍵を何とか取り出し、戸を開けることに成功した
そして家の中に、まず自分の靴。それから器用に麗奈の靴を脱がせて、直行に二階へと上がった
「吐き気は平気か?」
健斗が訊くと麗奈は何も言わずに頷いた
二階へと上がると、健斗は麗奈の部屋へと入る
すっかり、この家に馴染んでいる麗奈の部屋
机に椅子に、クローゼットにタンスに、ベッド……そしてぬいぐるみの数々
早川や佐藤といっしょに買ったらしい
そんなふわふわしたベッドに麗奈を座らせると、健斗はゆっくりとため息を吐いた
ここまで麗奈を連れてくることに、大層な労力を使った
疲れてはいない
ただ、自然とため息が出てしまう
「う……ん……」
麗奈はくたっとベッドで横になる。息を荒げて、気分が悪そうに見せる麗奈
こんな麗奈を見るのは初めてのことだった
健斗は少し新鮮な気持ちでいた
それから少ししてから、健斗は一階から元々家に置いてあった咳止めの錠剤と、コップに入れた水、そして冷やした濡れタオルと氷水を入れた洗面器を麗奈のために持ってきた
麗奈はというと、これから寝るのに制服のままではさすがにいられないので、ちゃんと着替えてからベッドで横になっていた
「ほら、これをちゃんと飲め」
咳き込む麗奈に錠剤と水を渡すと、麗奈はゆっくりと起き上がってそれらを一気に飲み込むと、息を吐いた
それからすぐに横になる
健斗はそんな麗奈の額にまた手を当てる。まだ熱い
熱はやはりあるようだ
洗面器に入れた濡れタオルをちゃんと絞って、麗奈の額に乗せてやると、麗奈は気持ち良さそうに呼吸を変えた
健斗は一通りやり終えてほっと安心するように息を吐いた
あとは麗奈が寝てれば……平気だろう
時刻は4時を回っている。外はまだ明るく、烏の鳴き声と扇風機の回る音が無常に聞こえる
母さんはまだ帰ってきてはいない
「……ごめんね」
「ん?」
麗奈にそう言われて、健斗は聞き返した。麗奈は健斗を見つめて、少し悲しそうな目をしていた
「……健斗くんに迷惑ばかりかけちゃって……ごめん」
「……いいよ。別に」
健斗がそう言うも、麗奈は悲しそうな目をしたままだった。憂鬱そうにため息を強く吐いた
「……ダメだなぁ……私……」
「え?」
健斗が聞き返すと、麗奈はまた強くため息を吐いた。嗄れた声で、咳き込みながら言ってきた
「……健斗くんに……認めてもらいたいって。好きになってもらいたいから……頑張ろうって思ってたのに……健斗くんには迷惑ばかりかけちゃってるね」
「…………」
麗奈は頬を赤らめていた
「もっと頑張らなきゃダメなのに……ダメだなぁ……私……」
そんなこと言う麗奈に、健斗は呆れるようにため息をついた
「……バァカ。何言ってんだよ」
呆れていた。麗奈の言っていることに……健斗はそんな風に言う麗奈を見つめながら言った
「俺には迷惑かけていいんだよ。前も言っただろ?俺とお前は……家族なんだから……家族に迷惑がかかるのはいいの」
麗奈は黙り込んだ。健斗はそれから少し顔をしかめた
「俺が怒ったのはそこじゃねぇよ」
「え……」
健斗はふんっと鼻で息を強く吐いた
「お前が、部活をもっと頑張りたいって気持ち、すげー分かるよ。けど、だからってそれで無理して……結果こうなったわけだろ?」
麗奈は小さく頷いた
「その結果……俺だけじゃないだろ?北村や見空、先生や他のみんなにも迷惑がかかった。それだけじゃない。店長にも……大きな迷惑がかかった。そうだろ?」
麗奈はしばらく黙り込むと、申し訳なさそうにゆっくりと頷いた
健斗はそれから、またゆっくりとため息を吐いた
「俺にはどんなに迷惑がかかってもいいよ。家族だから……けど、その他のみんなには今日のような迷惑はかけるなってこと。分かった?」
健斗が念を押すように訊いた。麗奈はしばらく健斗のことを見つめていた
しばらくの間……健斗の目を見て、何かを思っているようだった
それから麗奈はゆっくりと笑った
「……うん……分かった。……ありがとう……♪」
そう言われると、健斗は照れくさそうに後ろ頭を掻いた
何だか……麗奈にお礼を言われると……いつも気恥ずかしい気持ちになる
そんなことを考えていると、麗奈はゆっくりと呟いた
「……私と……健斗くんは……家族かぁ」
「……そう」
「……ねぇ、健斗くん」
麗奈に呼びかけられて、健斗は反応した
「何?」
そんな麗奈は健斗を見つめたまま、物寂しそうな笑みを浮かべていた
そして、嗄れた声で呟くように言ってきた
「私たちって……家族以上の関係には、なれないのかなぁ……?」
「は?」
麗奈の真っ直ぐな瞳を見つめる。いや、見つめられていると言った方が正しい
目をそらすことがしばらくの間出来なかった
麗奈に言われた言葉が、それほど健斗には重く、心を揺さぶるものだった
胸が高鳴る
手が汗ばむ
多分……顔も赤くなっている
麗奈と……家族以上の関係になる
……そんなの……
健斗は漸く麗奈から目をそらすことが出来た
「あ……アホッ!急に……訳分かんねーこと……いいから、早く寝ろよ」
健斗がそんな反応を見せると、麗奈はしばらくの間健斗を見つめていた
健斗の慌てた表情、耳まで赤くなっている顔……汗……
麗奈はそんな健斗が愛おしく思えて、クスリと笑うと、再び眠りにつくため、ゆっくりと目を閉じた
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。