「ケホッケホッケホッ」
健斗の後ろでは麗奈がさっきよりも少し酷く咳込んでいる。そんな麗奈を見ていると、少し不安になってくる
本当に大丈夫なのだろうか?
「なぁ、大丈夫かよ?」
健斗がそう訊くと、麗奈は苦しそうにふぅっと息を整えてから、にっこりと健斗に微笑んだ
「だがら平気だっでば〜。ちょっど、んんっ……喉が痛いだげ」
「……声……すげーことになってるけど」
確かに喉が痛いだけの風邪と言うのは、健斗も知っている
だからそんなに心配するようなことじゃないかもしれないけど、どうやら麗奈は少し熱もあるみたいだった
無理をさせると、さらに熱が上がるかもしれない
「本当に平気?」
健斗が念を押して訊ねてみると、麗奈はにっこりと微笑むだけ
「大丈夫♪」
麗奈の体のことは、他でもない麗奈自身がよく知っているはず
本人が大丈夫というのなら、大丈夫なのかもしれない
「……えへへ♪」
突然嬉しそうに、そっと声を立てて笑う麗奈を見て、健斗は不思議に思った
「何だよ」
健斗が不思議そうに訊くと、麗奈は頬を赤らめて、嬉しそうににっこりと微笑んでいた
「ちょっぴり嬉しい♪」
「え……」
すると麗奈は、トンっと健斗に寄りかかるようにして、寄り添ってきた
頬を赤らめたまま、嬉しそうに笑ったまま、健斗に甘えるかのように……
「健斗くんが、こんなに心配してくれるんだもん♪ちょっぴり嬉しい」
「なっ……!」
麗奈にそんなこと言われて、健斗は一気に顔を赤上させた。麗奈を見ることが出来なくなって、ぷいっと顔を逸らす
そして無愛想な顔を作って、その言葉を否定するように言い捨てた
「べ、別に……そういうわけじゃあ……」
実際のところ、麗奈の言うとおりだった
健斗は麗奈を心配している。ただ咳込んでいるだけの麗奈を心配している
自分でもわからない……ただ、何となく不安になるのだ
そんな自分を麗奈に気づかされたということを知ると、恥ずかしくって麗奈を直視することが出来なかった
麗奈は相変わらず、頬を赤らめてニヤニヤしていた
「もぉ♪健斗くんったら、照れ屋さんなんだからァ♪」
「う……るっせぇなぁっ!別に……俺に移されたら困るから……ほら、学校着いたぞ」
健斗は恥ずかしげに麗奈にそう言うと、麗奈はクスクス笑いながら自転車から降りた
「ありがとうね♪」
「別にいいよ。んで、どうする?俺が迎えに行こうか?」
健斗がそう言うと、麗奈はゆっくりと首を横に振った
「ううん。多分こっちの方が早く終わると思うから。部活終わったら私がそっちに行くね」
その方が助かる。健斗は素直に了解した
「分かった。それじゃあ、部活頑張れよ」
「健斗くんもね」
麗奈と健斗はそれだけ言葉を交わすと、互いに別れを告げた。健斗は少し急ぎめで自転車を漕いで行こうとするが、その際に麗奈の方をもう一度振り向いた
麗奈は手で抑えながら咳き込んで校舎の方へと歩いていった
そんな様子を見て、健斗は自転車を漕ぐのを止めて麗奈を見つめていた
そして軽くため息を吐いてみる
「あいつ……本当に大丈夫かよ……」
何度心配すれば気が済むのだろうか……健斗はもう一度軽くため息を吐くと、再び自転車を漕ぎ始めた
心配性なのは昔からだ
健斗は見慣れた商店街の中を通っていき、そして見慣れたこの店の前で自転車を止める
「ちわっす」
決まりの挨拶をして、店へと入ると、出迎えてくれたのは店長だった。健斗が来るのを見ると、チャームポイントというか、特徴でもあるか……鼻の下に生えているちょび髭を揺らした
「おう。来たか」
「こんにちわっす。遅くなりました」
「大丈夫。ギリギリセーフだ」
健斗は心の中でガッツポーズをすると共に、一瞬冷や汗を掻いた
実は間に合わないのではないかという不安が少しあったため、ドキドキしていたのだ
しかし安心した……今度からこういうときになりそうだったら、もう少し早めに出るようにしよう
「じゃあ俺、着替えてきます」
「おう」
カウンター席でコーヒーを入れている店長にそう言って、健斗は商店街のおばさんやおじさんたちに挨拶を交わし、店の奥へと入っていった
早く店の手伝いをしなければならないため、健斗は急いで着替えた
ちなみに健斗はこの昨日以外、ずっとバイトに出ていた
家にいても特に何もすることはないから……というのも1つの理由でもあったのだが、それだけではない
健斗は松本事件のとき、松本絢斗に腹部を蹴り上げられ、怪我をしてしまった
そのため、しばらくバイトの休養を貰ったのだ。実はあのあと、松本絢斗との勝負で無理をし過ぎたため、痛みが続いた
そのせいで、予定した休養期間をさらに引き延ばすようなことになってしまったのだ
店長にはいい迷惑のはずだ。だから、それを補うために今こうしてバイトに出ているのだ
店長は、笑って……
「女の子を守るためだったんだろ?だったら仕方ないさぁ」
なんてことを言ってくれた
あれは麗奈や早川を守るというよりも、自分自身のために松本絢斗と勝負をしたのだ。だが、結果的には2人を守ったということになっている
どっちみち、店長の寛大さには感謝している
健斗は着替えると、さっそく仕事に取りかかった
「健斗、これ。あそこのおばさんたちに持っていってくれ」
と言って、この店の誇るアイスコーヒーを三杯注がれたコップを渡された
そういえば、この店のメニューは夏メニューへと形を変えた
夏メニューとはその名前の通り、夏に則したメニューを提供するものだ
アイスクリームや、かき氷など種類は豊富
季節によってメニューが変わっていくのも、この喫茶店の人気の1つなんだろう
「お待たせしました。アイスコーヒーです」
健斗はそう言いながら、顔見知りのおばさんたちにアイスコーヒーを提供する
するとおばさんたちは嬉しそうににっこりと笑ってた
「あら。いつもご苦労様」
「いえ。おばさんたちもいつもありがとうございます」
「いいのよー♪健ちゃんのこの……制服姿を見るのを楽しみに来てる人だっていっぱいいるんだから」
「はは……」
この健斗の制服姿は、どういうわけか……おばさんたちには好評らしい
しかしあのとき、麗奈に爆笑されてから……本当にこの制服を着ている自分はカッコいいのか……怖くなっていた
あのやろうのせいで……
「麗奈ちゃんは元気?」
「あ、はい。多分……」
ちょっと咳き込んでいる麗奈を思い浮かべると、はっきりとは言えなかったのだが、おばさんたちはそれで満足だったみたいだ
「あらそう♪よかった。今度麗奈ちゃんをここに連れてきなさいよ」
「今度ね。今度連れてきます」
健斗がそう言うと、おばさんは満足気な表情をしたので、健斗は軽くお辞儀をすると、その場から立ち去った
「健斗、3番テーブルを拭いといてくれ」
「はい」
健斗は店長から湿った台布巾を受け取ると、今は誰も座っていないテーブルを吹き始めた
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