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第7話 事情
第7話 事情 P.12

健斗は竿を橋の上に置いといて、自分も川の中へと入る。川は思ったよりも冷たく。水に触れた瞬時、痺れるような感覚が背筋まで突き抜ける気がした

麗奈は何の躊躇いもなく川に入ってくれたけど……

「何やるの?」

麗奈にそう訊かれて、健斗は周りを見渡しながら答えた

「そうだなァ……この辺りでやるか」

そう言うと、健斗は膝を折って、川の中にある石を拾って麗奈に見せ付けた

「これを……積む」

「石を?何で?」

麗奈が聞き返すので、健斗は円を描くような手振りを入れながらで説明した

「この河原の石を川に積んで、こんな風な楕円になるように囲いをつくるんだ」

「囲い……何で?」

「あとで教えてやっから。いいから作るぞ」

と言って、早速健斗は作業に取りかかる。麗奈も健斗に載せられて、石を積み始めた


しばらくすると、川に綺麗な楕円形を描いた石の囲いが出来た。川の流れをせき止めぬよう、端と端に間隔を少し開けておく

「これで何するの?」

麗奈がさっきからそう聞いてくるので、そろそろちゃんと説明をしてやることにした

「この石の囲いの中に魚を追いやるんだ」

「何で?」

「囲いの中に追いやって、魚の逃げ道を無くすんだ。そんで、囲いの中に閉じ込めた魚を手掴みでとる。川魚を捕まえるときのとっておきの方法」

健斗がそう言うと、麗奈は納得するように頷いた。嬉しそうな表情へと変わる

「そっかァっ!健斗くん天才っ!」

「そんな……大袈裟なもんじゃねぇよ」

「よーしっ!いっぱい捕まえるぞー」

そんな風に張り切る麗奈を見て、健斗は安心しながら可笑しそうに笑った

「あんまり張り切り過ぎて、バランス崩して転ぶなよ」

「大丈夫大丈夫♪」

麗奈は魚を探しながら、囲いの中に魚を追いやろうとした

目をよく凝らして、川の中で優雅に泳いでいる二、三匹の魚を見つけた

「いたっ!」

麗奈はその魚たちを石の囲いに追いやろうと懸命になって追い始めた

しかしだった。その魚たちはまるで麗奈を嘲笑うかのように、軽やかに麗奈を避けて、囲いとは反対方向に泳いで行ってしまった

「……健斗くーん」

「あー?」

呼ばれた健斗は顔を上げて麗奈を見た。麗奈は不満そうな顔をしていた

「お魚さんっ!全然逃げちゃうっ!」

そんな風に言う麗奈を見て、健斗は軽くため息をついた。多分……追い方に問題があるのだろうと健斗は悟った

「だから、例えばこいつを……」

健斗は自分の足元にいる一匹の魚を見て言った

「こうやって逃げられないように、ゆっくりと追って……」

健斗は逃げられないように魚が逆方向を泳ぐ際の間隔を潰しながら、ゆっくりと、しかし確かに囲いへと追いやった

するとその魚は不思議にも、何の抵抗もなく石の囲いの中へと吸い込まれるように入っていった

「ほらな?」

「へェー……すごーい……」

麗奈は冗談ではなく真面目に感心していた。そう言われると、何だかちょっぴり嬉しい気になった

「よーしっ」

麗奈も健斗がやったとおり、真似をするように魚を追いやる

ゆっくりと……慌てず……丁寧に……

すると魚は見事に石の囲いの中へと吸い込まれた。成功の喜びを感じた麗奈は嬉しそうに笑った

「やったァ」

健斗はその様子を見て、何だか可笑しい気がして薄く微笑んだ

「よーしっ!」

調子づいた麗奈は見つけた魚を片っ端から石の囲いへと追いやっていた


麗奈の頑張りにより、石の囲いの中には10匹近くの魚が入ってくれた。健斗はそれを見計らって、石の囲いの入り口を完全に封鎖した

「ほら、あとは手掴みで取ってみ」

健斗がそう言うと、麗奈は大きく頷くと、石の囲いの中にいる魚をさらに追いかける。魚は麗奈に捕まらないように懸命に逃げていた

「追いかけて追いかけて……そんで、逃げられないところで手を伸ばす。そしたら絶対とれるはずだから」

健斗が麗奈を見ながらそうアドバイスすると、麗奈は言われた通りにやろうとする

囲いの中で逃げ回る魚を麗奈は懸命に追いかけて追いかけて追いかけて……

するとだった

麗奈が手を伸ばすと、魚をしっかりと掴んだ感覚が……麗奈はついに、魚を捕まえることに成功したらしい

しっかりと掴み離さない

持ち上げて嬉しそうに笑った

「やったァッ!健斗くんっ!捕まえたよっ!」

麗奈が嬉しそうに笑って健斗に見せてきた。魚は麗奈の手の中で収まっていた

「へェ……やるじゃん。こんなに早く……よく捕まえられたなァ」

正直、しばらくは苦戦すると思っていた

囲いの中に閉じこめたとは言え、魚はやはり水の中では素早いものだ

魚の動きに馴れるまではしばらく苦戦するかと思ったのだが、案外簡単にいったみたいで、そのことに本心からすごいと感じた

健斗にそう言われると、麗奈は嬉しそうに頬を少し赤らめ、にっこりと笑いながら言った

「エヘヘ……♪やったァ。健斗くんに誉められたァ♪」

麗奈の言葉、そしてその嬉しそうな表情……それらに健斗は
「ドキッ」という気持ちを抱いた

照れるように顔を背ける。麗奈に網を差し出した

「ほ……ほら、こん中に入れとけよ」

ドキドキしている健斗の気持ちに全く気づいていない麗奈は素直に網の中へと捕まえた魚を入れた

健斗は網を川の中に沈め、流されぬよう河原に縛り付けておく

「これ、何て魚?」

麗奈に訊ねられて、健斗は笑いながら答えた

虹鱒にじます。ほら、ここら辺が虹色に光ってるだろ?」

と言って健斗がその虹色に光る部分を指してそう言った

太陽光が跳ね返って綺麗に光っている

「ほら、頑張ってもっと捕まえろよ」

健斗が麗奈にそう促すと、麗奈は大きく頷いた

麗奈は石の囲いの方に戻って、再び魚を追いかける

「わっ!待て待てェッ!」

笑いながら魚を懸命になって追いかける

楽しそうだ

健斗はそんな麗奈の様子を石の囲いの中で眺めていた

楽しそうに笑っていやがる

川遊びなんて……もう随分長いことやっていなかった

そんな暇は中2くらいからはなくなっていったし、精神的にも川で遊びたいだなんて思わなかった

けど……まぁ……

たまにはこんなのも悪くない……

健斗は白い雲が流れる、快い青い空を見上げてふと微笑んだ

「健斗くんっ!ほらー」

どうやら麗奈はまた捕まえることが出来たみたいで、魚を健斗に見せてきた

「おー。また捕まえたかァ」

間延びした声でそう言うと、麗奈は嬉しそうに笑った

「すごいでしょ?」

「まぁまぁだな」

麗奈は嬉しそうに笑って、捕まえた魚を網の中に入れようとした

と、するとだった

捕まえた魚が麗奈の手の中で必死に逃げようとばたつき始めたのだ

あまりにも急で、思ったよりも力強かったので、麗奈は慌ててしまった

「わっ!わァっ!わっ!」

魚を離してしまい、さらに麗奈の足元がぐらつく

「わっわっ!キャアッ!」

「うわっ!」

麗奈はバランスを崩して、倒れそうになったところで、急に健斗にしがみついてきた

当然健斗も支えきれなく、麗奈にしがみつかれたまま、川の中にドッボーンッ!

二人は一緒になって倒れた。川の上は大きな水しぶきが舞い、さらにせっかく作った石の囲いは崩れ、閉じ込めた魚たちはみんな逃げてしまった

びしょびしょになった健斗と麗奈。麗奈のシャツが透け、水色水着が見える。健斗は後ろに手をつき、膝を折って川の中に座っていて、麗奈はそんな健斗に抱きつくというか……しがみついている状態だった

「冷たァーい……」

そんな風に言う麗奈……ふと健斗を見る……その表情は苦く面はゆいものになった

健斗は完全に怖い顔をしていた。当然だ

麗奈は水着だからまだいいが……健斗は水着ではない

服の全てがびっしょりに濡れていて、健斗はまさに最悪の気分になっていた

「け……健斗くん……」

麗奈もその雰囲気を感じ取っていた

「……お前……俺言ったよなァ?」

健斗はゆっくりとそう呟き始めた

「はしゃぎ過ぎてバランス崩すなって……言ったよなァ?」

「ご……ごめんなさい……」

「しかも……何で俺にしがみついてくんだよっ!倒れんなら一人で倒れればいいだろっ!」

健斗がそう怒鳴り始めたので、麗奈は苦笑しながら言ってきた

「だ、だって……とっさに体が動いちゃって……」

「このやろーっ……おかげで俺までびしょびしょだよっ!」

健斗がそう言って濡れた前髪を掻き上げた。すると、麗奈が不意に吹き出してきた

「……クスッ……アッハハハハハ♪アッハハハハハ♪」

「……何笑ってんだよ」

健斗が訊ねると、麗奈は笑いながら健斗を見た

「アッハハハハハ♪何だか私たち、バカみたいだね?」

「ハァッ?」

麗奈は可笑しそうに笑いながらそう言ってきた

「だって……何か二人揃って、子供みたいにびしょびしょになって……そう考えたら何だか可笑しくって……アッハハハハハ♪」

麗奈は健斗の目の前で、健斗にしがみついたまま笑っていた

健斗は何が可笑しいのか、よく理解することはできない

けど、今の麗奈の笑顔、鼻にかかる笑い声を聞いていると……何だか可笑しい気分になってきた

「何言ってんだよ……バァカ」

健斗も次第に可笑しさが増して笑ってしまった

何だかどうでもいいと思えるのだ

健斗と麗奈は川の中でしばらくその体勢のまま声を上げて笑っていた

何だか可笑しいのだ

何が可笑しいのか分からない……けれど、やっぱり可笑しい

「おーいっ!」

ふと、川辺の道からヒロが戻ってきた。健斗と麗奈は揃ってヒロを見た

「――ってうわっ!何やってんの?お前ら……」

川の中でびしょびしょになって座っている健斗たち、さらに周りには石が散乱している。その様子を見て、ヒロは驚いていた

健斗と麗奈は、そんなヒロを見て、何だかまた可笑しくなり、声を上げて笑った



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