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第7話 事情
第7話 事情 P.9

そして、それからしばらく経ったある日……夏休みに入って、すでに一週間が経っていた

健斗は大きく欠伸をかきながら、縁側で寛いでいた

今日もいつもながら、マジ暑い。蝉しぐれが鳴り響き、ジリジリと焼き付ける日の光には当たりたくないほどの、キツい日差しだった

冷たいお茶をそばに、扇風機に当たりながら過ごしてないと、干からびて死んでしまう

健斗はそんな様子だったのだが、麗奈はというと……

縁側にある小さな堀り池。ずっと使ってなかったのだが、ある生き物がこの家に来たことにより、使うことになった

その生き物に、麗奈は餌を与えようとしているところだった

「タボスケー。ご飯だよー」

タボスケ……

その正体は、一匹のクサカメだ

タボスケという名前のカメは、石の上で甲羅干ししていたようだったのだが、麗奈がカメ用の餌を持ってきたのを見ると、水の中へと入った

このタボスケというカメが、何故この家にやってくることになったのか、その経緯を説明しなければならない

理由は単調でたった一つ。父さんがこの家に連れてきたのだ

あの七夕祭の日、案の定ヘロヘロに酔っ払って帰ってきた父さんが、カメ釣りでとったらしい

健斗と麗奈のために、ということで連れて帰ってきたらしいのだが、健斗にとっては当然迷惑なこと。けれど、麗奈は嬉しそうにしていた

まぁ、でもこの家には使っていない小さな堀り池があるし、たかが一匹のカメだから、別に構わないだろう

そして、カメを世話する係も決めた

健斗と麗奈は餌をやる係、父さんは定期的に池の掃除をする係

山中家家族会議の結果だ

そしてその家族会議にはもう一つ決めなければならないことがあった

それがこのカメの名前だった

最初は、カメ吉やカメ吾郎や、カメ太みたいなありきたりな名前が出だのだが、あまりにもありきたりだし、可愛くないので女性陣が却下

すると麗奈が、カメは英語でタートル。だからタトスケはどうかと言ってきた

タトスケ……なんとなく面白い名前だが、なんだか響きが曖昧のような気がして、健斗が却下した

……そういえば、カメとは陸では本当に遅いのか……そんな素朴な疑問を父さんが投げかけてきた

なるほど……確かに、ウサギとカメの話で出てくるカメは歩くのがノロマというイメージがある

果たして本当にノロマなのか、ということで、実際にこのカメを歩かせてみることにした

となるとびっくりした

なんと、意外と早いではないか

短い手足をシャカシャカと素早く動かして懸命に歩く

その姿はまるで、背中にターボをつけているみたいに……

ターボ……ターボ……タボ……

タボスケはどうだろう?

父さんが言ってきた

タボスケ……なんとなく可愛らしい名前に女性陣は賛成。健斗は反対だった

タボスケなんて……なんとなくどんくさい名前だ

しかし、世の中多数決制の原理の元になりたっている

結局、タボスケという名前になったのだ

「はい、タボ」

タボスケという名前は、いつの日か縮めてタボになっていた

タボスケはカメ用の餌を一生懸命首を伸ばして食べている

なんとなく、可愛らしい光景だ

しかし……ついにこの家にも爬虫類がやってきたか……

タボスケに餌を上げていた麗奈は、ゆっくりと振り向いて健斗を見た

グーダラしている健斗に、呆れるようにため息をついた

「もォーっ、いくら暑いからって、ちょっとグーダラし過ぎじゃない?」

麗奈にそう言われて、健斗は大きく欠伸をしながら、面倒臭そうに答えた

「こんな暑いんじゃ、何もする気が起きねーよ」

確かに、暑い

暑いということは、少しでも動きたいと想わなくなる

寒いと同じように

熱された体温を冷やすために分泌された汗が滲み、ねっとりした感じを齎す

手足の関節の窪みに汗が滴り、濡れた感触を与える

そして、その汗を利用して扇風機に当たると、体全体が冷やされるような感覚がする

ちょうど冷たい水風呂に入っているような感覚だ

そうなると、もう動きたくなくなるのだ

しかしそんな健斗を見て、麗奈が眉をひそめて言ってきた

「いくら暇だからって、ずっと家にいることなくない?」

今日健斗はバイトは休み、麗奈も部活は休みだった

だから特に何かをすることもなく、すでにお昼過ぎになっていた

「うるせーなぁ……どっか行ってこいよ。俺はここでゴロゴロしてんのが一番いいの」

そんなこと言う健斗に麗奈は深くため息をつくと、ふと思いつくように言ってきた

「ねっ」

縁側に座る健斗の横に座って言う

「海行こうよっ。海っ!」

「はっ?今から?」

麗奈の突拍子な思いつきに、健斗は呆れていた

「今から何ていけるわけねーだろ」

「だってあの山越えたらすぐ、なんでしょ?それに約束したじゃーん」

確かに約束したけど……

「車で1時間かかるんだぜ?父さんもいないのに………」

「大丈夫♪自転車で行けばいいんだよ」

麗奈の単調な考えに、いつもながらため息が出てしまう

何というか……浅はかなんだよなァ

「ダアホッ!お前はいいかもしんないけど、お前を乗せて更に自転車を漕いで行くのは俺だろうがっ」

そう言ってから、健斗は麗奈から顔を背けた

「とにかく、俺は今家でノンビリしてたいの。海なんか行きませーん」

「む〜っ…行こうよ〜。自転車私が漕ぐからァ」

漕げねーくせにいうなよな……

「私の水着姿、見たくない?」

別に興味ねーよ

「ねーってばァ〜」

「だ〜っ!もうっ!本当にやかましいなァ、お前は」

健斗がうざそうにそう言うと、麗奈が頬を膨らませたまま言ってきた

「だって……家にいるの退屈なんだもんっ」

健斗はそんな麗奈を見て、深くため息をついた

面倒臭そうに後ろ頭をかく仕草を見せた

「……じゃあー…海じゃなくって……」

健斗は面倒臭そうにため息をついた

「すぐそこの川に行こう」

健斗の提案に、麗奈は少し不思議な表情を浮かべた

「川?川って……すぐ目の前の?」

麗奈に訊かれて、健斗はゆっくりと頷いた

「そう。そこの川、水は綺麗だし、流れもそんなに早くないし……遊べるにはちょうどいいんだぜ?俺も昔はよく、ヒロたちと遊んでた」

健斗がそう言うと、麗奈は一気に嬉しそうな表情を見せた

「いいねっ!私、川遊びとかやってみたかったんだよねっ」

川遊びを……そんなに珍しがるのか?

やっぱり……都会の子なんだなァ……

「よかったな。それじゃァ、行ってらっしゃい」

健斗が笑いながら素っ気なくそう言うと、麗奈が口を尖らせて言ってきた

「健斗くんも行こうよー」

「え……だから俺はいいよ……」

健斗がそう断ると、麗奈が怪訝そうな表情を浮かべた

「えー?何で?」

「だ、だってほら。もう川遊びとかするような歳じゃねーし」

本当のところ、面倒くさいからだ

そんなんなら、家の中でゴロゴロしてる方がマシに思えた

しかし、そのことに感づいたのか、分からないが……麗奈は言ってきた

「ダメッ!健斗くんもいっしょに来るのっ」

「何で強制なんだよ。いいじゃん。一人で行ってこいって」

「嫌っ!いっしょに来てくれないなら、健斗くんが結衣ちゃんのこと好きだってこと、結衣ちゃんにバラすからねっ」

「はァっ!?」

当然納得出来ない健斗。しかし麗奈は陽気に且つ楽しそうに言ってきた

「私準備してこよーっと。健斗くんも準備しといてねー」

「え?あっ、おいっ!ちょっとっ……」

健斗の言葉など、全く聞かず、麗奈は上機嫌に家の中へと入っていった

縁側で唖然としていた健斗は、あまりにも身勝手な麗奈の言動に次第にイライラしていた

早川に俺の想いをバラす……本当にバラすわけないよな……

けど……万が一……

あいつなら……やりかねない……

「……だァ〜っ!くそっ!!」

健斗が苛立つように地団駄踏むと、そばにいたゴンタがびっくりするように跳ね起きて健斗を見た




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