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第7話 事情
第7話 事情 P.7

掃除も終わり、夏休み前最後の帰りのHRも終わった。帰りのHRでは、先生が夏休みの過ごし方についての注意事項なとを話して終わった

もちろん、健斗にとって、そのどれもを気にするつもりはない

そんなことをいちいち守ろうとするやつなんか、真面目で優等生なやつでしかない

健斗はもちろん優等生ではないから……

そんなことはどうでもいい

健斗は帰りのHRを終わったとしても、机から離れようとはしなかった

ただ呆然としていた

理由は、麗奈を部活が終わるまで待たなくてはいけないから

今日、健斗はバイトも何もない。しかし、麗奈は部活がある

吹奏楽部だ

もしこのまま何も気にせずに帰れたらどんなにいいだろう

しかし後々の報復が怖いから、こうして待っていなくてはいけない

もし健斗が帰ってしまったら、麗奈は1時間以上かけて家に帰ることになる

そんなことさせたら、ガチでぶっ飛ばされる……母さんに……

健斗は深くため息をついていた

「けーんとくん」

そんな憂鬱そうにしている健斗に陽気に話しかけてきた、麗奈

いつの間にか、ケンカをしていたということはお互いに忘れているようだった

健斗に言わせれば、そんなどうでもいいことを気にしている心の余裕はない

麗奈なんかいつもみたいに笑っていた。無頓着に……

「私、これから部活なんだけど……」

「あぁ。分かってるよ……待っててやっから」

「うん。分かった♪」

結構呆気なくそう言ってくる麗奈。少しは悪いなーとか思わないのだろうか?

そんな無頓着な麗奈に健斗は呆れながら言う

「……何時まで?」

「んーっとねー……多分4時くらいまでかなー」

げげっ……健斗は心の中で憂鬱そうにため息をついた

これから何もすることなく、そんなに待たなくてはならないのか

まぁ、麗奈が仮入部期間もそうだったのだが、あれはたった1時間程度で、まだ忍ぶことは出来た

しかし今日からは毎日二、三時間は待たないとならない

そう考えると憂鬱で仕方なかった

そんな気持ちを察したのか、麗奈が健斗の顔を覗き込むように言ってきた

「待つの大変だったら、先に帰っててもいいよ?」

麗奈にそう言われると、何だか意地を張りたくなってしまうのは何故だろう

「いいよ。お前置いていったら、後で叱られるのが目に見えてるし……」

もちろん叱られるというのは、母さんにだ

もし……の場合で考えてみよう。麗奈は?と聞かれて、素直に部活だから先に帰ってきた

そう答えたらもうアウトだ

裏拳五連発を食らった後に、迎えに行って来いだなんて言われる

痛い思いをするのなら、最初からここで待ってた方がマシだ

「じゃあ、ここで待っててよー?」

「分かってるよ……いいから、さっさと行け」

「うん♪」

麗奈は上機嫌なご様子で教室から出て行こうとした。教室から出る際にもう一度振り返り、笑って手を振ってくる

健斗は軽く手を振り返すと、麗奈は嬉しそうににっこり笑って、そのまま見えなくなった

麗奈が見えなくなると、健斗は深くため息をついた

ここで麗奈とさっきまで口喧嘩をしていたことを思い出した

さっきまであんなに怒ってたくせに、今は何事もなかったかのようにケロッとしている

本当にあいつは訳が分からない……相変わらず変なやつだ……

「二人ってー、やっぱり恋人みたいだよねー?」

「本当だよな……って、うわっ!」

健斗は驚いた。ぼーっとしていたら、自分の横には佐藤と早川と、さらにオマケにヒロがいたのだ

そんな健斗の反応を見て、佐藤がからかうように言ってきた

「ねー?今聞いたー?本当だよなーだって♪」

もちろんそう言った

だが、決して佐藤が言ったことにではない

麗奈が変なやつだということに対して言ったのだ

からかってくる佐藤に健斗は頬を少し赤くしながら、うざそうに言った

「ち、ちげーよっ!誰があんなやつと……や、やめろよなそう言うの」

「んー?顔が真っ赤ですよー?本当は意識してんじゃないのー?」

佐藤がそう言うと、それに反応したのは……

「……お前麗奈ちゃんのこと好きっつった瞬間、お前には負けねーからな!」

ヒロだった。どうやら健斗に対して嫉妬の炎を燃やしているようだった

こりゃ……さらに本当のことなんか言えなくなった……

健斗は深くため息をついた

みんな何勘違いしてるんだよ……俺が好きなのは最初から……

健斗はチラッと早川を見る。そんな早川は少し変わった顔をしていることに気がついた

早川は、健斗に対して真剣な眼差しを送っていることに気がついた

その表情に、一瞬ながらドキッとした

健斗と目が合ったことに気がついた早川は、すぐに頬を赤らめてにっこりと微笑んだ

「まぁ冗談は抜きとしてさ」

あそう……冗談……だったんですか

……いや、別にいいんだよ

ショックじゃねーし……

「ね、最近さ……麗奈ちゃんおかしくない?」

佐藤が突然そう言い出したので、健斗はふと佐藤を見た

「……何が?」

健斗が聞くと、佐藤は周りに誰もいないことを確認すると、4人を近くに集めて話した

「何だか……最近麗奈ちゃん、妙にご機嫌なのよ」

「あっ、そういえばそうだよね」

それには早川が言ってきた。早川が何かを思い出すように言ってきた

「この前、先生に集めた数学のプリントを提出しに行こうとしたら……何か、麗奈ちゃん“私が行くよ”って……私の代わりに持って行ってくれたんだよね」

そう言ってから早川は少し考えるように続けて言った

「でも麗奈ちゃんって、普段から優しいとこあるから……あんまり気にしてはなかったんだけど……それにしても妙にご機嫌だなーって……」

「今日だってそうだよな」

早川がそう言うと、ヒロが言ってきた

「お前と麗奈ちゃん、朝ケンカしてたじゃん?けど、しばらく経ったらもうそのこと、すっかり忘れてるみたいだったぜ?それどころか、すげー機嫌良さそうだったよな」

まぁ……ケンカはいつもしてるし……慣れっこだからなのかもしれないが

言われて見ればそんなことも思う

「麗奈ちゃん、何か良いことでもあった?前はあんなに思い詰めてたような顔してたのに……あ、もちろん、麗奈ちゃんが元気っていうのはいいことなんだけどね」

早川にそう訊かれて、健斗は首を傾げた

「さぁ……俺は普段とあんまり変わんないような気もするけど」

麗奈がいつもご機嫌そうにしているのは、いつものことだ

ゆえに無頓着なとこがあり、何を考えているのかも分からない、呑気なネコ型女だ

「そうっ!結衣の言う通りっ!」

佐藤がそう言ってきた

「そこでね、あたし気がついたのっ」

佐藤が目を輝かしてそう言ってくるので、健斗は面倒くさそうにため息をついた

別に自分には関係ないからどうでもいい

そんなことを考えていたのだが、それは間違いだった

「麗奈ちゃんが、急に元気になったのって、七夕祭の後なのよ。七夕祭の前は結衣が言うように何だか、元気なかったじゃない?」

健斗はドキッとした。なんとなく、佐藤の言いたいことが分かったような気がする

「七夕祭の前、多分麗奈ちゃんが悩んでたのって……好きな人のこと」

健斗が感じたときめきは当たっていた

「もしかして、麗奈ちゃんが七夕祭で迷子になってた間、麗奈ちゃん、その好きな人と何かあったんじゃないかな?」

もちろん、麗奈ちゃんにとって良い方向でね、と佐藤は後から付け足した

……すげーなこいつ……若干間違っているが

健斗は佐藤の名推理に何も言えなかった

もし、それが正しいのであれば、たまらなく恥ずかしいからだ

健斗は何故か、ふとそのときのことを思い出していた


あの七夕祭の最後のイベントの打ち上げ花火のとき……

夜空に艶やかに咲く光の花をバックに麗奈が呟くように言ってきたのだ

『……好きだよ……』

『……え……?』

健斗が静かに聞き返すと、麗奈はもう一度、今度はよりはっきりと聞こえた

『……健斗くんのことが……好きだよ……』


「…………」

あんな風に面とはっきり言われたのは、健斗は初めてだった

もちろん、手紙かメールでの告白なら受けたことはある

しかも相手が……あの麗奈だから

健斗は困惑しているのだった

健斗はもう一度早川を見る。すると、また早川と目が合った――しかし早川はすぐに目をそらしてきた

「あ〜……そっか〜……」

一番そのことにショックを受けているだろうと思っていたヒロが納得そうに頷いたので、健斗は意外に思えた

が、その理由がすぐに分かった

「そういえばな〜?最近妙に麗奈ちゃんから熱い眼差しを受けてるって思ったんだよなー。そうかー、だったら早く言ってくれればよかったのになぁ〜♪ムフフ〜」

「……あんた話聞いてた?まぁ、このバカはほっといて……」

「んだと〜?」

「もう〜、ヒロうるさいっ!」

そんな二人のやり取りに健斗は深くため息をついた

こいつらは本当に悩みがなさそうだよなぁ……

「ウガガガガ〜……ギ、ギブギブッ!」

黙らすために、佐藤にヘッドロックをかけられているヒロ……

痛そうだ……

つーか、女にプロレス技かけられるとか……

まぁ……健斗の親の構図まんまだから……大して珍しい構図じゃないんだろう

「ねぇ、健斗はどう思う?」

「え?」

健斗はドキッと胸を高鳴らせた。麗奈の告白の場面を思い出していたところだったので、激しく動揺する

「さ、さぁ……別に何でもねぇんじゃね?」

健斗が苦い顔をしながら、顔をそむけてそう言った

そんな様子を見て、佐藤もヒロも不思議そうな表情を浮かべていた

「つ、つーかお前らさ、部活行かなくっていいのかよ」

健斗がそう言うと、ヒロと佐藤がヤバいっという顔をした

どうやら麗奈のことに気を取られていて、部活のことを忘れていたらしい

「あ〜!もうこんな時間じゃんっ!」

「やっべっ!先輩に叱られるっ!」

二人はそう言うと、鞄を持って立ち上がった

「じゃあ、私部活行くね」

「俺もっ!じゃあなっ!」

健斗と早川を残して、ヒロと佐藤は教室を出て行った

言いたいことだけ言って、さっさと帰っていったヒロと佐藤に健斗は呆れるようにため息をついた

しかし、早川は残っている

二人きりになったことに気がついた健斗は、実際緊張した

何を話そうか……えぇっと……

「早川……部活は?」

健斗がそう訊くと、早川は優しい微笑みを浮かべて答えた

「今日はお休みなの」

「そう……なんだ」

早川は今日休み……ってことは、帰り……もしかしたらいっしょに帰れるかもしれない

そんな思いを巡らせていた

けれどその前に、早川と何を話したらいいのか……いつもながら分からなくなる

健斗はそれを必死に考えていた

しかも誰もいない放課後の教室に二人きりでいるという、まるでドラマや最近話題のケータイ小説みたいなシュチエーションに、健斗はさらに困惑していた

誰かに見られたら、付き合ってるみたいって思われるかも

そうなったら、早川に悪い……

それらの想いがごちゃ混ぜになって、何を話したらいいのか分からなくなる

しばらく沈黙が続く

何かを話そう

何かを……そう考えているとだった

「……マナには困ったもんだよね」

「え?」

早川がそう話しかけてきた。早川から話しかけられるとは予想外で、健斗は一瞬戸惑いを見せた

早川は可笑しそうな表情を浮かべていた

「いいたいことだけ言って、さっさと部活行っちゃうんだもん」

「あ……あぁ。そうだよな。本当に」

健斗も感じていたので、思いっきし共感出来て、健斗も笑った

「ねっ、でもさ」

早川が意地悪そうな表情を浮かべる。不適な笑みを浮かべる

そんな早川の表情にドキッとする

「……マナとヒロくんだって、何だかいい雰囲気だよね?」

「えぇ?あいつらが?」

健斗は首を傾げた

あの二人は……ただ殺られるか殺られないか、肉食獣と草食動物の関係だと思うけど……もちろん、どっちが肉食獣でどっちが草食動物なのかは言うまでもない

そんなことを言うと、早川は可笑しそうに笑った

「アッハハハハ♪何それ」

すると早川は可笑しそうに笑ったまま、続けて言った

「でもさ、そういう態度と裏腹に……ってこともあるよねー」

「あぁー……なるほどー……ハハッ♪あいつらが付き合い始めたらさ、この学校の七不思議に載るんじゃね?」

「何それー?フフ♪でも、確かにそうかも」

「だろ?アッハハハハ♪」

「アハハ♪」

健斗と早川は可笑しそうに、楽しそうに話していた

そこで健斗は気がついた

何だか、さっさまで色々と考えていたのが嘘みたいに……

今日は何だか早川と自然と話せていたような気がする

何も考えないで、ただ好きな子とお喋りをする

たったそれだけのこと……なのに、こんなに幸せな気持ちになるのは何故だろう

「何だよそれー」

「そうだってー」

それはきっと……


やっぱり俺は



早川が好きたから






しばらく時間が経つと、早川が不意に時間を見て言ってきた

「あっ……もうこんな時間なんだ」

早川が言うと、健斗も時間を見て、かなり驚いた

すでに3時を回っていた。1時間以上も、こうして話をしていたのか……

あまりにも楽しくって、時間を経つのを忘れていた

早川はそういうと、健斗に微妙な笑みを浮かべて言ってきた

「ゴメン。私、そろそろ帰るね」

早川にそう言われて、健斗は早く頷いた

「あ、あぁ……ワリィ。俺と話してたから……」

「ううん。全然。私だって、健斗くんといて楽しかったし」
そう言われた瞬間、健斗は今まで感じたことのない喜びと胸のときめきを感じた

こんな俺と、いっしょにいて楽しいと言われた

その言葉が健斗にとってどんなに幸せな言葉か……

健斗は密かに喜びにうちふるえていた

「よいしょっと」

早川は鞄を持って、健斗に微笑みかける

「じゃあ。またね」

「あ……うん。じゃあな」

そう言ってにっこりと微笑んだ早川はゆっくりとした足取りで、教室を去っていく

そんな早川の後ろ姿を見ながら、健斗は忌々しさを感じていた

麗奈を待たなくていいのなら、いっしょに帰れるのに……せっかくのチャンスが……健斗は憂鬱そうに深くため息を吐いた

ところがだった

早川は一旦立ち止まったままだった

そんな早川に気づいて、健斗は少し不思議そうな表情をした

「早川?」

呼んでみると、早川はゆっくりと振り返って健斗を見た

その表情は何か戸惑っているようだった

「……どした?」

戸惑っている早川に訊ねてみる。そんな早川は恥ずかしそうに少し頬を赤らめていた

口元を手で隠して、健斗から視線をそらしている

「あ……あの……健斗くん……」

「ん?」

健斗はゆっくりと首を傾げる

そんな健斗をチラッと見ながらも視線を外してくる早川

「あ、あのね……その……」

「何?どうした?」

健斗が戸惑っている早川が何だか可愛くみえて、可笑しそうに笑った

すると、早川はゆっくりと言ってきた

「……あの……ね……こんなこと言うの……あれなんだけど……その……」

健斗はゆっくりと首を傾げた

何か、言いたいことでもあるのかな

「……その、健斗くんってさ……」

「うん?」

そして、早川は呟くように、その言いたいことを言ってきた

「……その……今……好きな人とかって……いる?」

「えっ!?」

突然早川にそんなことを訊かれた健斗は驚きを隠せずにいた

そんなこと、早川に訊かれるだなんて……思いもしてなかった

そして突然で、健斗は面を食らったように呆然とした

好きな人……

それは……


健斗の顔は一気に赤上した


そんな健斗を見て、早川が慌てて言った

「ご、ゴメンなさいっ!こんなこと急に……わ、私、帰るねっ!」

「えっ!いやっ!あのっ……」

「今の……忘れてっ!本当にゴメンなさいっ!じゃあ、またねっ!」

「ちょっ……あのっ……」

早川はたまらなく恥ずかしそうに走って教室を出て行った

ポツンと残された健斗……しばらく沈黙が流れた

早川に……早川に好きな人がいるか、訊かれた……

それって……

「……え……?えぇー……?」

健斗は困惑と驚きと……嬉しさでしばらく、唖然としていた



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