ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第7話 事情
第7話 事情 P.6

健斗は手に箒を持ちながら、教室の窓の前でぼーっとしていた

今の時間は中清掃と呼ばれるもの。どうやら、夏休みに入る前に、学校の中を清掃するらしい

今日は夏休み前日ということで、学校も午前授業で終わりだ

出席番号順の班別になっており、健斗は比較的一番後ろの方で第4班。教室の掃除ということになっていた

麗奈や早川や佐藤は別の掃除をしている

何故健斗がこんなにもぼーっとしているのかというと……退屈だからとしか言い変えようがない

健斗は自分の部屋を掃除するのは嫌いじゃないし、むしろ自分から進んでちゃんと掃除はする

しかし場所が違う。ここは学校。しかも教室

教室なんて別に汚くても綺麗でも、健斗にとってはどちらでもいいことだった

正直面倒くさいというのが本音である。どうせ掃除してみたところで大して綺麗になるわけじゃない

埃やゴミなどを掃いて終わる。それだけだ

もうその行為自体が煩わしさを感じる

健斗に言わせれば、今はそれどころじゃないのである

「山中く〜ん」

とある1人の女の子が健斗に話しかけてきた。健斗はその女の子にふと目をやった

彼女は学級委員長だった

「山中くん暇してるみたいだから、これお願いね」

と言って渡してきたのは、ずっと溜めに溜めてきた教室のゴミや塵などが入ったごみ袋だった

それを見た瞬時、健斗はたまらなく嫌そうな表情を浮かべていた

「はぁ〜……俺が?」

健斗がそう言うと、その女の子は怪訝そうな表情を浮かべて言ってきた

「だってずっとぼーっとしてるんだもん。ゴミ捨てよろしく」

そう言って無造作に置かれたゴミ袋を健斗は煩わしそうに持とうとした

と、するとだった

「あ、俺もいっしょに行ってやるよ」

第3班のヒロがそう言ってきた。ちなみにヒロも同じ教室の掃除だったのだ

「あ、ワリィ……」

「俺燃えないゴミ持ってやるから、お前そっち持てよ」

「出来ればこっちの方が重いからこっち持って欲しいんだけど」

「ワガママ言ってんじゃねーよ。ほら、さっさと行くぞ」

ヒロにそう言われながら、健斗は渋々ゴミ袋を持って、焼却炉へと向かった



この学校の焼却炉は校舎の裏側にある。教室を出たすぐの階段を下りて、一階まで行くと外に通じる通路のようなものがある

そこから焼却炉へと通じる道がある

健斗たちはそれを今まさに通っていた。階段を下りて、外に通じる通路を通っているときだった

「今日、お前何か変だな」

「は?」

突然ヒロにそう言われた。本当に突然だったため、健斗はしばらく唖然としていた

「何が?」

健斗が聞き返すと、ヒロが不思議そうな表情を浮かべていた

「……何か、変にぼーっとしてるよな」
ヒロにそう言われて健斗はまた不思議そうな表情を浮かべた

「そう?」

「うん。こんな顔してんぞお前」

と言いながら、ヒロが可笑しな顔を見せてきた。そんなヒロに健斗は可笑しさを感じて、声を立てて笑った

「何だよそれ。そこまで酷くねーだろ」

「いや、マジこんな感じだぞ」

ヒロが健斗にそんなことを言うのは、決しておかしいことではなかった

確かにヒロの言うとおり、何かに心が奪われているというのは確かなことだった

それが何かというのは、もちろん言うまでもないだろう

麗奈のことに決まっていた

麗奈とケンカしたことではない。それはいつものことだし、大したことじゃない

あいつ……本気で俺のこと、好きなのかな……

とてもそうとは思えなかった

だって、本当に何も変わっていないのだ

麗奈の態度も、まったくよそよそしいものではない

むしろ、より図々しくなっている

それが悪いこととは決して言えないのだが、少なからずそれが健斗を困惑させているのは間違いない

考えてみれば分かることだ

普通の人なら、こういう状態になったら、とにかく気にするような仕草を見せてくるはずだ


恥ずかしがったり、気まずい雰囲気を醸し出したり……

健斗だって、別に麗奈に告白されたことが初めてではない

小学生や中学生の時に、何度か告白されたことは、そりゃある。もちろん、その全てを断ってきたのだが

告白された次の日からは、そう……なんとなくだが、その相手とは気まずい感じがある

しかし、今の麗奈はどうだろう?まったくそんな感じではない

それがやはり、あの告白は冗談だったのではないかという考えを健斗にもたらすのだ

そして、さらに健斗はある思いを胸に秘めていた

「……なぁ、あのさ」

健斗とヒロはすでに焼却炉へと着いていた。焼却炉の前には各教室から出たゴミが置いてある

すごい量だ

そこで健斗はふとヒロに訊いてみた

「何?」

「あのな、例えばの話。あるAくんはBさんのことが好きで、そのことを知っているCさんはある日Aくんに告ってきました」

「は?何?Aくんが何?」

話が伝わらないヒロに健斗は多少苛立ちを感じた

「だから、他に好きな女の子がいるって分かっている男に告ってくる女ってどう思う?」

健斗が改めてそう言い直すと、ヒロは不思議そうに首を傾げた

「さぁ……好きなら仕方ねーんじゃね?」

求めていた答えと違ったので、健斗はがっかりした

ヒロに訊けば、麗奈がどういうつもりなのか何か分かるかもしれないと思ったんだけどな

するとヒロは突然健斗ににやついて言ってきた

「もしかして、最近ぼーっとしてる理由ってそれ?」

「は?」

突然ヒロにそう言われて、健斗はドキッと胸を高鳴らせた

「誰かに告られたんか?」

健斗はそう言われて、少々戸惑いを隠しきれない様子で言い返した

「ば……バカッ。んなことあるわけねーだろ。そういう設定のワイドショーをこの前見ただけ。何か、婚約者のいる男に告ってきた女がいてさァー」

「何だよ……それドラマの話だろ?それに、結婚じゃ事情が違うじゃん」

「だ、だから結婚を恋愛に見立てたときの場合だって。別に……ちょっと気にかかっただけだから、そんな突っかかってくんなよ」

「ふぅ〜ん……」

これ以上余計なことを言うと、こういうときに妙に鋭いヒロに気づかれる恐れがある

もし、ヒロに真実を話してしまったらどうなるだろうか

……学校を休むだけじゃすまないような気がする

「まぁな〜?もし俺が、他の女から告られたとしても、はっきり断るもんね。俺には麗奈ちゃんっていう運命の人がいるし〜♪」

「……あっそ」

その運命の人に俺は突然告られて、今非常に困ってるんだよ

しかも、そこまで聞いてないし

こりゃ……ヒロには本当のことなんて、とても言うことなんか出来ない

健斗は深くため息をついた

それにしても……麗奈はどうして健斗なんかを好きになったりしたのだろう

だって可笑しいだろ

この学校には健斗なんかよりもいい男なんかいっぱいいるはずだ

なのに……何故健斗なのだ

家族である……はずなのに

「……なぁ、俺に感じる魅力って何?」

「魅力?」

ヒロが不思議そうにそう聞き返した

というよりも、若干引き気味で……

突然そんなこと聞く健斗もどうかと思うが、健斗にとっては真剣だった

「いや……別に魅力なんて……あ、サッカーが上手いってだけで、あとは全然――」

「うっせぇよっ!」

ヒロにそういわれると、何だかイラッて来てしまい、ヒロの頭をぶった

「イッテェッ!何すんだよっ!」

ヒロが怒りながら追いかけてくる。だが、健斗はすでに走っていた

「お前みたいなエロメガネオタクに言われたくねーよっ!」

「だから……オタクは余計じゃっ!」

健斗は笑ってヒロから走って逃げていく。そんな健斗をヒロは追いかける

二人はそのまま教室へと帰っていった



+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。