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第7話 事情
第7話 事情 P.2

しばらく歩くと、ようやく目的の銭湯に着いた。この田舎町には珍しい、大きな銭湯だった。

「海洋深層水天然温泉 みゅうらゆ」

そういうキャッチフレーズで書いてあるこのスーパー銭湯。5年くらい前だろうか、この銭湯が出来たのは

スーパー銭湯と銭湯の違いを説明しよう。銭湯とというのは、ただお湯を大浴場の浴槽に溜めたものを言うのと違い、スーパー銭湯とは、温泉を別の場所から汲んできて、それをここで沸かし、浴槽に溜めると言ったものだ

父さんが昔、そう説明してくれたことを健斗はよく覚えていた

健斗たちは中に入ると、その中は結構な人がいた

中は広く、和食店なども整備されている。この田舎町で名所となる理由もうなずける

麗奈は嬉しそうにはしゃいでいた。

「わぁ〜♪広〜いっ!」

母さんはそんな麗奈の後ろ姿を微笑ましく眺めていた。そんな母さんを見ていると、ふと思う

母さん、いや父さんもか……麗奈のことを本当の親子のように扱うよな……麗奈もまるで母さんや父さんが本当に母さんや父さんのような接し方をする

そんなことを考えると、やっぱり家族なんだなーって感じる

母さんマジで嬉しいんだ

健斗はサンダルを脱いで、履き物専用のロッカーに入れた



ここのシステムを説明しよう

みゅうらゆは、まず券を買ってそれをフロントに渡す。その際に、このバーコードのついたリストバンドが渡される

このリストバンドをフロントに返し、精算されるまで幾らでもここにいていい

何度もお風呂に入ってもいいし、マッサージを受けるのもよし

休憩所で寛ぐのもあれば、和食店でご飯を食べるのもできる

何でもありだ。ここは

卓球だって、お金を払えばフロントで貸し出しされる。休憩所の奥にある卓球台を使って、卓球も出来る

リストバンドのバーコードは何のためにあるのかと言うと、和食店を利用したときに、このバーコードに金額を累計させる。卓球も同じ。マッサージもだ

つまり後払いということ。このリストバンドをフロントで精算してもらい、そこで利用した金額分を支払うのだ

が、自動販売機やマッサージ機等は違う。それは現金で支払う

マッサージしてもらえるところがあるなら、マッサージ機なんていらないと思うかもしれないが、断然にマッサージ機の方が安いためだ

「どうぞ、ごゆっくり下さいませ」

麗奈のために、フロントの人に説明をしてもらい、健斗たちは浴場へと向かう

「おじいちゃん、おばあちゃん多いね」

麗奈にそう言われた健斗は、怪訝そうな表情を浮かべた

「んなことねーよ。家族連れも多いぜ?ほら」

と健斗はすれ違う家族を見て言う

でも確かに神乃崎はお年寄りの人口の方が高いから、多くは見えるだろう

「あ、そういやスロットやんなきゃ」

と言うと、健斗はフロントを通り抜けたすぐ近くの機械で止まった

麗奈がその機械を見て、不思議そうな表情を浮かべる

「何?スロットって」

麗奈にそう訊かれて、健斗は笑いながら答えた。財布から何かのカードを取り出した

「俺さ、ここの会員なんだ。この会員カードでこのスロットをやると、何か商品が出るわけ」

「本当だ」

麗奈はスロットの説明を見ながらそう言った。確かに、どの絵を揃えれば何がもらえるのかが書いてある

健斗がスロットにカードを差し込もうとしたそのときだった

「ねーねー、私にやらせて〜」

麗奈にそうお願いされて、健斗は困ったような表情を作った

「えー、これ1日、一回しかやれないんだぜ?」

「いいじゃ〜ん。また来ればいいんだしぃ。ねっ、お願い」

健斗はそんな麗奈の表情に、少しときめきを感じた。

「わ、分かったよ。ほりゃ」

と言って麗奈にカードを渡す。麗奈はカードを受け取ると、気合いを入れていた

「よーし……絶対なスリーセブン揃えるぞ〜」

ちなみにスリーセブンは1等で、ここの無料券が手に入る

いいのかな……赤字になったりしないのだろうか……

まっ、無料券なんだからそう易々とは手に入んないんだろう

おそらく、スリーセブンなんて相当運が良くなきゃ揃えることが出来ない。それに、健斗だってまだ揃えたことなんてないのだ

スロットの機械は3つあった。これは多分勘だけど、機械を選ぶにも慎重にならないといけないと思う

パチンコだって、いい台と悪い台があるだろう

「俺絶対これが当たると思う」

と健斗は一番左の機械を指差した。もちろん、これと言った理由はない。勘だ

しかし麗奈は怪訝そうな表情を浮かべた

「えー?こういうときって真ん中の方がよくな〜い?」

「いや絶対左のこれだって。お前知らないんだろーけど、俺ラッキーボーイなんだぜ?」

「何……ラッキーボーイって」

麗奈にそう聞かれて、健斗は自慢気に答えた

「福引きとかこういうの、俺がやると必ず3等が当たる」

健斗の下らない自慢に、麗奈は冷めていた。呆れるようにため息をついた

「もう……貧弱なラッキーボーイさん」

「何だよっ!すげーだろっ?必ず3等当たるんだぜっ?」

「別にすごくないよ。とにかく、私は真ん中がいいの」

健斗をバカにしながら、カードを真ん中のスロットに差し込んだ

「あ〜あ……」

健斗のことを聞かず、真ん中のスロットに入れてしまった

真ん中のスロットの絵が周り始める。麗奈は慎重になって、スリーセブンを狙う

「……たぁっ、たぁっ、たぁっ!」

無駄に気合いの入れてスロットの絵を止めた。3つ連続でスロットの絵を揃えようとした

しかし、スリーセブンは揃わずに、違う絵が3つ揃った。その瞬間、BGMが鳴る

「……これ何等?」

「3等だな」

健斗がそう言うと、スロットから何かの券が出てきた。麗奈はそれを手に取ってみた

「お食事券500円引き……しょぼ……」

「いいじゃん。あの和食店で500円も引かれんだぜ?儲け儲け♪」

健斗がそう楽観的に言うと、後ろでその様を見ていた父さんが苦笑しながら言ってきた

「バカだなー。そう思わせるのが、ここの思惑だろ」

父さんにそう言われて健斗は首をかしげた

「何が?」

「この500円券をこのスロットで取らせて、お得だと思わせる。それで、ここの和食店で食べさせるのが目的なんだよ」

「なんだ……じゃあほとんどの人が当たるんだ」

「まぁ必ず当たるってわけじゃないと思うけど……高確率で当たるんじゃないか?」

健斗と麗奈はそれを聞いて、興醒めした。健斗なんかもうこのスロットをやる意味を無くしたようなものだ

「そんなことよりも、早く風呂に行くぞ」

父さんにそう言われて、健斗たちは進み出した

「ほら、だから左の台がよかったんだよ」

「そんなの分かんないじゃん。3等取れたんだからすごくない?」

「……別に」

健斗がそう呟いたその瞬間だった。突然さっきのスロットからとてつもない音が鳴って、健斗と麗奈はすぐに後ろを振り向いた

すると健斗がいいと言った左のスロットの前に、一組の家族がいる

喜んでいた

「やったぁっ!1等が当たった!1等だっ!」

「パパすごーいっ!」

健斗と麗奈は信じられない光景が目の前にあって唖然としていた

そして、健斗はすぐに麗奈を睨んだ。麗奈はその視線に気がついて、苦笑した

「……誰が貧弱なラッキーボーイだよ……」

「あは……アハハハ……まぁ、こういうこともあるって言うか……ゴメン」

素直に謝ってきた麗奈に健斗は深くため息をついた。

麗奈もため息をついた

何だかやりきれない思いを二人は抱えていた




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