第5話 挑戦、変わる勇気
第5話 挑戦、変わる勇気 P.28
「…………」
「…………」
健斗と早川は自転車を押しながら、帰り道をゆっくりと歩いていた
内心、めちゃくちゃドキドキしていた。中学のときから早川のこと知っていたけど、こんな風に並んでいっしょに歩くことなんか、初めてだった
麗奈といつもいっしょに帰ってるから、女の子といっしょに帰ることは、めちゃくちゃ慣れている
けど、やっぱり好きな女の子といっしょに並んで帰るというのにはめちゃくちゃドキドキする
しかしながら、こんなシュチエーションも悪くない
めちゃくちゃ嬉しい
そう、嬉しいはずなんだけど……
――くそ〜っ……あんなことがあったから……気まずいなぁ〜……
あのことがあったからか、健斗は一言も話せずにいた
チラッと早川を見ると、早川は寂しそうな表情を浮かべていた
健斗はそれを見ると、ふと考えた
早川が翔の場所に来ていたことには、健斗にとって本当に驚きのことだった
まさか、翔のところに来てただなんて……
早川は、松本絢斗のこと好きになってたから、もう翔のことなんか忘れているのかと思った……
だからこんなところに来るなんて……一体……どうして?
「山中くん」
ふと早川に呼ばれて、健斗は戸惑いながら答えた
「な、何?」
早川は少し健斗に微笑みかけながら、健斗にゆっくりと言ってきた
「……ちょっと、公園寄らない?」
そんなこと言われて、ふとすぐ目の前の小さな公園で早川はそんなこと言ってきた
健斗はゆっくりと頷いた
健斗たちはその小さな公園のベンチにゆっくりと腰をかけた
しかし、二人とも口を開こうとはしなかった
気まずい雰囲気が流れる。健斗はそんな早川をチラリと見る
まずい……何か話さなきゃ……
「……そういえば今日、早川と一回も顔合わせてなかったよな」
健斗がそんなこと言うと、早川はゆっくりと微笑みながら言ってきた
「そだね。山中くん、学校遅れてきたもんね?」
「うん……ちょっと腹が痛くて」
「……もしかして、松本さんにやられたところ?」
健斗はそれを聞いた瞬間、しまったと思わず心の中で叫んでしまった。案の定、早川は沈んだ表情を浮かべて言ってきた
「ゴメン……私……」
「い……いや全然大丈夫だからこんなのっ!!本当はもう全然痛くないから安心して……っ!!」
健斗が強がりみたいなことを言うと、またしばらく気まずい雰囲気が流れた
「……にしても、早川がまさか翔のとこにいるとは思わなかったなぁ」
健斗が笑いながらそう言うと、早川は苦笑した
「うん……ちょっと。山中くんも、どうして?」
「俺は……俺もなんとなく来たかったから?」
「私と同じじゃん」
と言いながら早川はクスクスと笑った。早川の笑顔を見て、ほっと安心する健斗は、そんな早川を見て自分も笑った
「あ……今日はお疲れさま。大丈夫?」
と心配そうに訊いてくる早川に健斗はゆっくりと頷いた
「うん。ちょっと疲れたけど」
「そっか……山中くんって、本当にサッカー上手なんだね。翔くん、いつも言ってたけど……」
「あ〜……大したことないって。翔に比べれば……まだまだかな?」
「翔くんもサッカー本当に上手だったんだね」
「まぁ……俺を止められるのはあいつくらいだし……」
「へぇ〜」
すると早川は前を向いて、笑いながら言ってきた
「翔くんかぁ〜……懐かしいね」
「……そだな」
「あれから……もう2年が経つんだもんね〜」
早川はゆっくりとそんなことを言った
翔のことを思い出しているのか……
健斗はそんな早川を見て、少し切ない気持ちになった
しばらく沈黙が続き、健斗は少し戸惑っていた
「……ゴメンね」
ふと早川が謝ってきたので、健斗はふと早川を見た
早川は健斗を見れず、沈んだ表情で言ってきた
「……ヒロくんから、全部聞いたよ。山中くんに迷惑かけちゃったね……」
「え……いや……」
早川はゆっくりと健斗を見て、続けていた
「私のことで……松本さんと喧嘩したことも……昨日、私を守ろうとして私にあんなこと言ってきてくれたのも……全部聞いたよ。ゴメンね」
「そっか……ヒロから聞いてたけど……」
「昨日……山中くんのこと、大嫌いなんて言っちゃって……怒鳴っちゃって……本当にごめんなさい」
と言いながら、素直に謝ってくる早川
素直に謝ってくる早川がすごく可愛く見えて健斗は口元が緩んだ
「山中くん……私のためにあんなこと言ってくれたのにね……本当にごめんなさい」
健斗は何も言えず、ゆっくりと頷くだけだった
「……やっぱり……早川ショックだったよな?」
健斗がふとそんなこと言うと、早川は聞き返してきた
「え?」
「……早川、松本絢斗のこと、好き……だったんだよね?ショックだったよな……」
すると早川は、しばらく何も言わず、前を向いていた
ショックだったよな?
そんなこと訊くまでもないような気もする
ショックだったに決まってんじゃん。何訊いてんだよ……俺
「……うん。すごくショックだった」
それを訊いた瞬間、健斗は胸が痛んだ
「私、松本さんのこと好きだったから……ヒロくんから、本当のこと聞いたとき、すごく悲しかったよ」
健斗はゆっくりと頷いた。そんなこと当たり前だよ……
「でも……これでよかったような気がするの」
健斗はそれを聞いて、ふと不思議そうな表情を浮かべた
これでよかった……って……
すると早川は空を見上げながら、何かを見つめるように空を見上げながら言ってきた
「私……本当に松本さんのこと……好きだったのかわからなかったから」
「……?」
健斗はそれを聞いて不思議な気持ちになった
「……松本絢斗のこと……好きじゃなかったの?」
すると早川はゆっくりと首をかしげた
「う〜ん……多分好きは好きだったんだと思う。けど……」
すると早川は、寂しそうな表情を浮かべながら言ってきた
「やっぱり……まだ翔くんと重ねちゃうんだよね……」
「っ!!」
健斗はそれを聞いて、驚きと共にショックを受けた
今の言葉で健斗は胸が苦しくなった
早川は……早川はまだ翔のことを忘れてなかったんだ……
もう、とっくに忘れているのかと思った
翔のことなんて……でも……
「そっ……か……」
健斗はショックが大きくて、放心状態になりながらもゆっくりとそう言った
「山中くん……やっぱり知ってた?」
と早川が苦笑しながら訊いてくる。健斗はそれにゆっくりと頷いた
すると早川は、また空を見上げる
「私……中2のとき……初めて翔くんとクラスがいっしょになったときね、すごく嬉しかったんだ……ずっと……ずっと好きだったの」
「……中1のときから?」
すると早川は照れながら何も言わなかった。どうして何も言わないのか、健斗には分からず呆然として早川を見つめていた。早川は少し遠い先をみつめているような気がした
健斗は何て言ったらいいのか分からず、ただ早川を見ていた
「……実はね、私……翔くんが亡くなったあの日、告白したんだ」
「えっ!?」
さらに知った衝撃な事実に健斗は戸惑いを隠せずにいた
あの日……早川が翔に告白した……
「……二人は……あの日から付き合ってたんだな」
健斗は全てが分かったとき、ものすごく悲しくなって、息が詰まりそうになった
じゃああの日から、二人は……付き合ってたんだ……
だって翔も早川のこと……
すごくショックだった。
俺は……あの日から始まる二人の幸せな時間を奪ったんだ
後悔の気持ちがさらに高まった
俺……何てことしちゃったんだろう
……
そんなことを考えているとだった
突然早川が照れるように笑いながら健斗に言ってきた
「そんな……付き合ってないよ。フラレちゃったんだ」
「……え?」
またもや衝撃の事実
翔が……翔が早川をふった?
訳がわからなかった
どうして?あいつ……早川のこと好きだって言ってたのに……
「どうして……翔、何つったの?」
健斗が訊いた瞬間、何でこんなこと聞いちゃったのか……そんなことを思ってすぐに謝った
「あ……ワリィ……やっぱり何でもない」
昔のことなんか、言いたくないよな……
けど早川はそんな健斗を見てゆっくりと笑った
「ううん。私も……よく分かんないんだけど……今は付き合えないって」
健斗はそれを聞くと、静かにうつ向いて、あの日のことを思い出そうとしていた
あの日……翔は雨の中……俺に会った
多分、あれは偶然なんかじゃなかったんだ
翔は俺を追いかけてきたんだ
でも何で?
……
「ゴメン……多分、俺のせいだ」
「え?」
健斗はゆっくりとそう言うと、うつ向きながら深いため息をついた
「多分あいつ……俺が早川と翔が仲良くしてて……そのせいであいつが部活来ないことに……スゲー腹立ててることに気づいてたんだ……だから……あいつ……」
上手く言葉では伝えることが出来なかった……
けど、早川はちゃんと伝わっていたようだった
「そうだったんだ……」
「……けど……けどな!?あいつはっ!!」
言っていいのかわからなかった
けど、もし翔がまだ早川に本当の気持ちを伝えてないんなら
俺はそれを伝えるべきだと思ったから……
「あいつも……早川のこと……好きだったんだ……」
……風が吹いた
早川は目を開き、頬を赤く染めていた
「それ……本当?」
「……うん。あいつ、言ってたから」
すると早川は恥ずかしそうに下をうつ向いた。すると嬉しそうに笑う早川を見て、何だか心が切なくなるような思いになる
本当に嬉しそうだった……頬を赤く染めて、翔の顔を思い出して
「そうだったんだ……」
健斗はそんな早川を、見ることができなかった
辛かったから……見ることが出来ない、というよりも見たくなかった……
しばらく沈黙が流れる
「……早川は……」
健斗が口を開くと、早川は不思議そうに健斗を見る
健斗もゆっくりと早川を見て、寂しそうに訊ねた
「早川は……まだ翔が……好き?」
健斗の言葉に、早川は少しうつ向いて、笑っていた
それは照れるように、嬉しそうに笑う……
「……うん……多分……」
それを聞いた瞬間、嬉しかったような気もしたけど……切なさが増えた
「結局……私はまだ……翔くんを忘れられてないんだと思う……だって、今山中くんが翔くんが私のこと好きでいてくれたって聞いたとき……すごく嬉しかったから……だから……」
早川はそれ以上何も言わず、下をうつ向いた。それは嬉しさと同時に、翔のいない寂しさを噛み締めているようにも見えた
早川にこの事実を打ち明けてよかったのか……わからなかった
こんな早川を見るのは……辛い……
しばらく経つと、早川は元気そうに立ち上がった
「私っ!!決めたっ!!」
「え?」
すると早川は、くるりと健斗を見て可愛らしい笑顔を見せた
「翔くんのこと、忘れるまで……しばらく私恋しないっ!!だって、あやふやな気持ちで好きになったら、やっぱり切ないもん」
「…………」
健斗は少し驚いていた。こんなことを言う早川に、すごく惹かれた
強いんだな……この子は……ちゃんと事実を受け入れようとして……
健斗も見習うべきだと思った
そんな意外な一面を持つ早川に惹かれた
「さて、そろそろ帰ろう。話してくれてよかった♪ありがとう山中くん」
そう言って、早川はにっこりと笑う
「昨日、本当に怒鳴っちゃってゴメンね?また、お友達になってくれる?」
そう聞かれて、健斗は何も言わずうつ向きながらゆっくりと頷いた
それを見た早川は嬉しそうに笑い、ゆっくりと健斗から離れていく……
……このままでいいのかな?
早川は……俺に素直な気持ちを話してくれた。まだ、翔のことが好きだって
じゃあ俺は?
早川にこのまま、自分を助けてくれたヒーローみたいな偽りの印象を持たせたままでいいのか……
そんなの……
「……違うんだ」
健斗はゆっくりと立ち上がって早川に言った。すると早川はまた不思議そうに振り返って、健斗を見つめた
健斗はありったけの勇気を振り絞った
「違うんだ……昨日、俺……あんなこと早川に言ったのって……別に早川を守りたいとか……そんなこと思ったからじゃなくて……」
「え?」
早川は突然のことにきょとんとしている
健斗は顔を真っ赤にして続けた
「俺……早川が嬉しそうに松本絢斗のこと話してるの見て……悔しくって……そんで俺……つい……」
健斗は深く息を吸い込んだ
顔を赤くしながら、手に汗を握りしめて……自分の気持ちを……本当の気持ちを……
「だって俺っ!!は、……早川のこと…………………」
その先が言えない
たった二文字……
「好き」
という気持ちが言えない……
たった二文字で想いが通じるはずなのに……
どうしてこんなに重いんだろう
頭の中が真っ白になっていく……
何を言いたいのか分かんなくなる
なんだっけ?
どこまで言ったんだっけ?
あれ?
…………
…………
「俺……その……」
だんだん意気消沈していく健斗……早川はそんな健斗を頬を赤く染めて見つめていた
するとだった
町中に、夕焼けこやけのメロディが鳴り響いた
これは5時になるといつもなるメロディだった
健斗と早川はそのメロディにびっくりして、きょとんとしてしまった……
しばらく沈黙が続いて、健斗は何も言えず、早川も何も言わず、そのメロディを聞いていた
早川は健斗を見て、クスッと笑いながら言ってきた
「帰ろっか?」
「……うん」
タイミングを逃してしまった……
健斗はもう言う勇気がなくなって、素直に早川のあとについていった
伝えたいはずの想いなのに
いざ伝えようとすると胸が苦しくなるのは何故?
こんなにも苦しくて、切なくなるのは何故?
健斗にはまだわからなかった
健斗は早川の後ろ姿を見て、ふと思う
今は……まだ……
って
まだ翔のことが好きな早川に……このタイミングで言う方が可笑しいよな
せっかく仲直りしたばかりで……
でも……
言えなかったことに、確かに後悔している自分がいる
健斗は夕焼けに染まる空を見上げた
早川の後ろ姿を見て、空を見上げて
何故か分からないけれど
ふと笑った
……やっ〜と第5話が終わりました〜……
いや〜長かったです
本当に読んでくれた人お疲れさまです
続いては第6話ですが、その前に一休みということで
違う話を書いてみよっかな
これからもよろしく(笑)
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