ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第5話 挑戦、変わる勇気
第5話 挑戦、変わる勇気 P.26

それからしばらく経ち、健斗は保健室で眠っていた。

理由はもちろん、腹に激痛が走って、動くことができなかったからであった

まだちゃんと怪我が治ってないのに……無茶しちゃったから、また逆戻りしたのだ

健斗は天井を見上げながら、ただ呆然としていた



あのあと、松本絢斗は健斗に何も言わず、サッカー部員を率いて、健斗から離れていった

どこにいったのかは分からない……多分部室とかで着替えにいったんだろうか

健斗から離れていく際に、松本絢斗は静かに健斗に言ってきた

「この勝負……俺の負けだから……もう大森麗奈には近づかないよ」

そう言って、ドロドロになりながらもどこかへ言ってしまった

そんな松本絢斗に声をかけたかったけど……
上手く言葉がみつからなくって何も言うことが出来なかった


勝負が終わってからも、全校は騒然としているらしい

いつの間にか噂とかにもなるだろう……

まさかこのことがこんなに大勢に見られるとは想定してなかった

こんなに大きな騒ぎになるなんてなぁ……

でもよく考えると、俺はすごいことをしたのかもしれない

あの学校一有名な松本絢斗にサッカー勝負をしちゃったんだから……しかも昼休みを通り越してまで

他人から見ればそれは驚きのことで、みんな興味本意で見入っちゃうと思う

ただ、あいつと自分の中で決着をつけたかっただけなのになぁ……



何かことを大きくしてしまったことに、少し後悔していた



健斗は深くため息をついて、ゆっくりと目を瞑った

最初に思い浮かべたのは……早川の顔だった

それを頭の中に思い浮かべた瞬間に、健斗はまた目を開いてため息をついた

早川は……今どうしてるんだろう……

きっと……あのときの松本絢斗の本性を見てしまったとは思う

きっと失望したと思う……

そう考えると胸が痛んだ

好きになった人を失う気持ちを二度も味わさせてしまった……しかも自分が……

今早川がいたら、すぐに謝りたいと思う……

でも、自分には早川に対して何かをしてやる義理はない

逆に迷惑だろう

大嫌いな相手なんだから……顔も見たくないよな

そう自分に言い聞かせても、やっぱり早川のことがすごく気になっていた





そんなことを考えているとだった

カーテン越しに、ドアの開く音がした

誰かの会話が聞こえる。いつも聞きなれてる声だった

カーテンが開いて、外からヒロの顔が覗いた

「おっす。一躍スーパーヒーロー、ホワイトマジシャンくん」

健斗はそんなことを言われて、不機嫌そうに寝返りを打った

すると後から佐藤と麗奈がカーテンの間から入ってきた

「山中くん、お疲れっ!調子どう?」

佐藤が微笑みながら健斗にそう言ってきたので、健斗はまた佐藤に向かって寝返りを打って苦笑しながら答えた

「まぁまぁ……もう授業終わった?」

「うん」

佐藤がそう答えたので、健斗はゆっくりと身体を持ち上げた

「結構無茶したもんな〜?」

「……まさか本当に最後に11人で来るなんて思ってなかった」

「でも、すごかったよね〜?本当にびっくりしたよ。山中くんめちゃくちゃ上手いんだもんっ!!」

健斗はそれを聞いて、可笑しそうに笑った

本人にとってはそんな大したことをしたとは思っていなかったからだった

「何だかすごくカッコよかったよ?ねぇ麗奈ちゃん」

と佐藤が言うと、麗奈は苦笑した

「……にしても、お前相当騒がれてんぞ?」

とヒロが笑いながら言うのを聞いて、健斗はそれに耳を傾けた

「あの松本さんに圧倒的に勝った〜っとか、山中くんはすごい人だったんだ〜とか、教室中でもすごく噂になってるよ」

「そうなんだ……」

別に嬉しい気持ちはしなかった。逆に、やはりおおごとになっているんだってことを知って、何だか複雑な気分だった

「そりゃそうでしょ」
と佐藤が当たり前だと言うように言ってきた

「あんなスーパープレーで、あの松本さんを含むサッカー部のレギュラーを一人で抜いたんだよ?そりゃみんな騒ぐよ〜」

佐藤はそういうと誇らしげに続けた

「結衣ちゃんと麗奈ちゃんも守ったし、山中くんはスーパーヒーローだね」

スーパーヒーロー……かぁ……

健斗はそれを聞いて、苦笑しながら言った

「そんなことねぇよヒーローなんかじゃないって」

ヒーローなんかじゃない

だって……俺は別に早川を守りたいとか、麗奈を守りたいとか思って勝負したわけじゃなかったから

ただ自分のために戦っただけだ。松本絢斗に敗けっぱなしは嫌だっただけだから……

それに気がついたとき、何だか心が軽くなった

翔の声が聞こえたとき、何かを考えるのを止めたとき

急に不安や恐れがなくなったから……

だから……別にヒーローなんかじゃないよ


ふと、結衣ちゃんという言葉を聞いて、健斗はさっきから気になっていたことを訊いた

「あれ……早川は?」

健斗がそう訊いた瞬間、みんなは顔を見合わせながらすこし沈んだ表情を浮かべた

それを見た瞬間、すこしだけ何も言わなくても、一体何があったのか分かったような気がした

「……それがさ」

ヒロが苦笑しながら言ってきた

「早川、松本絢斗のことで気を落としてたからさ……だから」

「このバカが結衣に本当のこと全部言っちゃったの」

佐藤がそういうのを聞いて、ヒロはふてくされるように言った

「だって、黙ってるよりかは言っちゃった方が言いって思ってさ……」

健斗はそれを聞くと深くため息をついた

やっぱりこうなったんだ……

あんな松本絢斗を見たら、そりゃショックだよな……

早川が傷つけられたことが分かった健斗は、覚悟してたけど、すごく悲しかった

「それで……早川、何て?」

ヒロはため息をつきながら答えた

「“そっか”って言って、何も言わずに帰っちゃった」

しばらく沈黙が続いた。健斗は早川を思い浮かべていた

早川が今悲しんでいると思ったとき、胸が切なくなって、唇を噛み締めた

すると佐藤がため息をつくように言ってきた

「まぁ、仕方ないよね……どうせ分かっちゃうことだしぃ」

そう言いながら、佐藤はゆっくりと笑った

「それに、結衣ならすぐに立ち直れるよ。ね、麗奈ちゃん」

麗奈は佐藤にそう訊かれて「うん」と言いながら頷いた

「そうだな。失恋なんて誰もが通る道だもんなぁ?フラレる度に女は強くなる……そして早川はいずれ鉄の女になり……そして……」

「……何言ってんのあんた」

佐藤の突っ込みに健斗は声を上げて笑った

何だか心が軽くなったような気がして、すごく気が楽になった

「……じゃあ帰るか」

と健斗は言いながら、立ち上がろうとしたが、また腹に激痛が走ってしまった

「アイテテテ……」

「大丈夫?まだもうちょっといたら?」

佐藤が心配そうにそう言ってきたが、健斗はふと笑って答えた

「大丈夫。どうせここにいても同じだし」

「……じゃああたし、保健室の先生に言ってくるから、少しでも休んでて」

と言って佐藤が立ち上がると、ヒロも立ち上がった

「別にあんたまで来なくてもいいわよ」

するとヒロは照れるように笑って言った

「いや……ちょっとトイレに」

それを聞いて、佐藤は呆れ返りながら、二人そろって保健室を後にした


健斗は二人が出ていったのを見ると、深くため息をついて、ゆっくりと身体の力を抜いた

残ったのは麗奈だけで、麗奈はこの保健室に入ってきてから一言も話していなかった

「……………」

「……………」

「……………」

「……………」

「……何だよ。何か喋れよ」

健斗が沈黙に耐えかね、麗奈を見ながらそう言った

すると麗奈は健斗をじと目で見て、不満そうに言ってきた

「何よ……健斗くんが何か喋ってよ」

「何か喋れって言われたって……」
何だか可笑しな雰囲気が流れる

健斗はさっきから変な麗奈に戸惑っていた

麗奈もまた戸惑っていた

「……びっくりしてるんだよ?」

「え?」

麗奈をもう一回見ると、麗奈は少し顔を赤らめていた

「健斗くんがあんなにサッカー上手だとは思ってなかったぁ……」

「あぁ〜……別にそんな大したことねぇって」

「嘘。本当は自分すごいって思ってるでしょ?」

健斗はそれを言われて、顔をしかめた

「んだよその言い方。別にそんなこと思ってねぇよ」

「ふぅ〜ん……U-15の日本代表にスカウトされたホワイトマジシャンくん。随分謙虚なんだね?」

健斗はそれにカチンと来て、麗奈を睨みつけると、ベッドに寝た

寝返りを打って、麗奈に背を向けた

「……ったく……口を開いたら憎い口ばかり叩きやがって」

健斗は深くため息をつきながら文句を言った

「大体さ〜、健斗くん遅すぎだよ。もし健斗くんがあれ以上遅刻してたら、今頃私大変なことになってたんだからね?」

「……悪かったな……」

「もうっ……来るならちゃんと電話くらいしてくれればいいのにさっ……」

「うるせぇなぁ」

健斗はいい加減うざったくなって、麗奈を見た

「お前ちょっとは感謝しないわけ?“健斗くんお疲れさま”とか、“健斗くんありがとう”とかさ……可愛くないやつ」

健斗がそう言うと、麗奈はふんっとふてくされたような態度を見せたので、健斗は呆れて何も言わず、また寝返りを打った

またしばらく……沈黙が続いた


「……でも……すごかったよ……」

麗奈にそう言われても健斗は何も反応しなかった

「……健斗くんにも、あんなすごいところがあんだな〜って……ちょっと、カッコよかった……」

「……別に……」

内心ドキドキしながら健斗は意地を張るようにそう言った

麗奈は静かに続ける

「最後も……私松本さんに手を掴まれて、身体触られたとき……すごく怖かった……けど、健斗くんが助けてくれたから……」

健斗はそれを聞きながら、そのときのことを思い出していた

身体が痛くて動かなかったとき、麗奈が確かに言った……

助けてって……

そしたら、痛かった身体が勝手に動いて……麗奈を守らなきゃって……

よく分かんねぇけど、そんな気持ちになったから……俺は……

「……だから……ありがとうね……健斗くん」

麗奈の素直な気持ち……健斗は戸惑っていた

麗奈の顔を見ることが出来なかった

すごくドキドキしていたから……

「……べ、別にお前を助けたわけじゃねぇし……前あいつに殴られたから……それのお返しっつーか」

と誤魔化すかのように素直になれない気持ちを吐き出す

けど麗奈は、それでも静かに言った

「それでも……ありがとう」



ドキンッ……



健斗は自分の顔が赤くなっていくのが分かった

やばい……胸がすごく高鳴っていた

何とか理性を保とうとする。健斗は恥ずかしくて、布団にもぐりこんだ

そんな健斗を見て、麗奈は……

頬を赤らめながら笑っていた






+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。