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第5話 挑戦、変わる勇気
第5話 挑戦、変わる勇気 P.24


ボールを受け取り、勝負は始まった。健斗はボールをトラップすると、前を見た

松本絢斗が健斗に思いっきり走ってくる

健斗の心臓は高鳴っていた

サッカーなんて本当に久しぶりだったから……少し感覚を忘れていた

しかし、それだけならまだ問題はない

それよみも深刻なのは……

身体が動かない

足が震えた

何だろう……どうして?



ドクンッ……



健斗の額からは汗が流れ、健斗はギュッと拳を握りしめた

大丈夫だ

そう、これはただの1対1だ。何てことはない

落ち着けば大丈夫だ。よく相手を見るんだ……

ほら……

ほら……

顔が上がらない……何故か分からないけど、頭の中が真っ白になってくる

何が起こっている?

何をやっているんだっけ

何をすればいいんだっけ

俺は今……

ふと目の前が何も見えなくなる。暗くなって、何も見えない

さらに何も考えることが出来なかった

身体を動かすことも忘れて、息をするのも忘れてしまいそうだった

だんだん息づかいが荒くなっていくのが自分でも分かった





ふと、我に返ると目の前には松本絢斗はいなかった

さらに、自分の足元にもボールがない

健斗は周りを慌てながら見た

すると、すぐ横に松本絢斗がボールを確保していた

健斗をじっと見つめて、それはがっかりするような冷たい目だった

「……お前、やる気あんのかよ?何で全然動かねぇの?」

健斗は松本絢斗を見ながら息を荒らしてショックを受けていた

全然何も見えなかった……何をしてるんだ俺は……




ヒロと麗奈は不安そうに健斗を見た

「……健斗くん……全然動かなかったよ?」

麗奈がヒロに言うと、ヒロは唇をギュッと噛み締めていた

「当たり前だよ。あいつ……また前みたいに悪い癖が出てる」



松本絢斗はおかしそうな表情を浮かべたが、すぐに笑ってきた

「まぁ、これで1本目は俺の勝ち。キーパーを加えさせてもらうから」

と言いながら、ボールを運びながら健斗から離れていく

健斗はショックから立ち直るため、深く深呼吸をした

心臓の高鳴りが収まらない……それに、足がさっきから震える

大丈夫

落ち着け

大丈夫だ

頑張れ……





また健斗はゆっくりとハーフラインに立ち、松本絢斗を見た

さっきと変わったのは、そうキーパーがゴール前にいる

「………」

ボールが健斗に渡され、また松本絢斗が健斗をみがけて走ってくる

健斗は必ず動こうと気を張った

そして、足をゆっくりと動かす。ボールに触れ……動かせた

行けるっ!!

と思った瞬間に……


ドカッ!!


健斗は何かの衝撃を感じると共に思いっきり倒された

久しぶりに感じる不思議な感触だった

松本絢斗の足元にはボールがあり、健斗を見下すように見ると嘲笑うかのように笑った

「おせぇよ。大したことないな」

健斗は悔しさを感じ、ギュッと唇を噛み締めると、すぐに立ち上がった

「2本目俺の勝ち。DF+1」

松本絢斗はそう言うと、健斗から離れていった

健斗は悔しさを噛み締めながら、苦しんでいた

息が上手く出来なかった

どうしてこんなに苦しいのか……大して動いてないのに……かなり疲労困憊になって、さらに嫌な汗が流れている

クソッ……クソッ……クソッ……

「……ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」

健斗は前を向いた




3本目……今度はDFが2人になっている

つまり、3対1の状況だ。

松本絢斗からボールを出され、一人目のやつが健斗に向かって走ってきた

健斗はトラップしたあと、また何をすればいいのか分からなくなって、頭の中が真っ白になった

クソッ……こうしてる間にもDFが迫ってきているのは分かっているのに……

足が動かない……周りが見えない……

どうすりゃいいんだっけ?

こういうときは……


「健斗っ!!顔をあげろっ!!」

ふとそんな声が聞こえて、健斗はゆっくりとヒロを見た

ヒロが大きな声で健斗にそう叫んできた

「顔をあげろっ!!ルックアップしてボールを運べっ!!」

ルックアップ……

そうだ……

健斗は顔をあげると、びっくりした

さっきまで何も見えなかったのが、今ルックアップしたおかげで状況がよく分かる

1人が健斗に向かって走って、松本絢斗がそのカバーに入っている……キーパーはやや前に出てる


行けるっ!!


健斗は向かってくるDFに向かってドリブルをした

そして……


……見えた


やつの身体の重心は右に傾いているから……左にそのままボールを運び、一人を抜いた

その瞬間、周りから歓声が湧く



「やったっ!!一人抜いたよっ!!」

麗奈が嬉しそうに笑うと、ヒロはゆっくりと笑いながら頷いた

「あいつ、前からボールを運ぶとき、ボールを見る癖があったんだ。サッカー辞める前は、解消されてたけど……今あいつテンパってたから癖が戻ってたんだ。よく落ち着けば抜けない相手じゃないしね」

ヒロがそう言うと、麗奈は感心するようにヒロを見た

「へぇ〜……何かヒロくんカッコイイ♪」

「えっ?マジで?」

ヒロはそう言われてデレデレしたが、すぐに真面目な顔をした

「けど問題は、あいつがこのままいけるかなんだよな」



健斗は一人を抜き、この感触を思い出していた

ヒロに言われるまですっかり忘れてた

ルックアップしてドリブルをする

そうすれば周りも見えて、抜けるコースが見えるから

健斗はそう思いながら、松本絢斗に向かっていく

松本絢斗は半身をとったDFをした

いい体制のDFだ

抜けるコースがみつからない

が……身体の重心が、若干右に傾いている

だから……


健斗は一気に左に抜いた

「んなっ……」

松本絢斗は少し驚き、すぐに健斗に身体をぶつけた

松本絢斗に身体をぶつけられながら、必死に健斗はボールをキープする

よし、この状況なら縦で抜ける

得意のストップ アンド スタートで行けるはずだ

健斗は仕掛けようとして、その瞬間だった



ドクンッ



……ッ……



これ……


この頭の中に浮かんでくる、この記憶……


あの日気を失いそうになりながらも見た……翔の……


無惨な……


姿……



『翔……翔っ!!』




ふと気がつくと、目の前は闇

その闇の中から出てきた青白く光る白い幾つもの手……そして、それの中から出てきたのは……

血だらけでそれは人には見えないほどに変わっていた翔の姿……

心臓が破裂しそうな想いになった


思わず叫びそうになった



翔……翔……

健斗は足を遅くし、呆然とした

何も考えることができなくてって……次第に、足が止まろうとしていた

怖い……やっぱり無理だ

サッカーなんて出来ねぇよ……来るな……来るな……

嫌だ……嫌だよ……翔……翔……

「健斗っ!!」

「健斗くんっ!!」

ふと呼ばれる声に、我に返った。ヒロと麗奈が声を上げていた

健斗は正気に戻り、また松本絢斗に負けないよう歯をくいしばった

松本絢斗はそんな健斗を見るとついていきながら不思議そうな表情を浮かべた

何を見ていたのか……前を見ても何もない

このまま取るのは簡単だけど……こいつ急に動きがよくなったのも事実

後先面倒臭くなる前にやっておくか

「あっ!!」

松本絢斗は健斗に身体を入れ、ボールを奪った

そして、その身体を入れたまま……肘で思いっきり健斗の腹を殴った


「〜〜っ!!」

健斗に突然激しい痛みが腹に走った

声にならないだろう悲痛の叫びをあげ、さらに目の前に見える恐ろしいものを見て、健斗は癇癪を起こすように叫んだ

「ガァァァァァァッッッ……!!」

腹を抑えて、そのまま崩れ落ちた

腹を抱えて、息ができなくて苦しんでいた

「ガ……ハッ……ハッハッハッハッ……グゥッ……ハッ……」

松本絢斗は他の人には見えないようにやったので、教室中は騒ぎになっていた

しかもすでにその教室だけじゃなく、さっきの歓声を聞いた人たちもその様子を見ていた

つまりほとんどの生徒が健斗たちの勝負を見て、突然健斗が悲痛の叫びをあげ崩れ落ちたことに、みんな動揺していた


「山中くんっ!!」

佐藤が崩れ落ち、苦しそうにもがいている健斗を見て叫んだ

早川も健斗を見てギュッと手を握っていた




ヒロと麗奈はみんなよりも近くで見ていたため、何が起こったのかが理解出来ていた

「あ……っんの野郎、汚ねぇぞっ!!ファールだファールッ!!」

健斗の腹を殴りやがって……


「何が汚いんだよ?勝手に叫んだのはこいつだぜ?」

ヒロはそれを訊くと、だんだん我慢ができなくなるまでになっていた

「てめぇが……健斗の腹を殴りやがったんじゃねぇかっ!!」

「は?いつ俺が殴った?俺はただ、こいつに身体をぶつけてただけだし。身体で競り合うのはサッカーでは常識だろ?」

松本絢斗にそう言われ、ヒロは悔しそうに黙り込んだ

松本絢斗は苦しんでいる健斗を見ると不敵な笑いを浮かべた

「もう終わりか?じゃあ勝負は俺の勝ちだな」

健斗は苦しみ、息を絶え絶えにしながら松本絢斗を睨みつけた

クソッ……

クソッ……

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……」

健斗は痛みを抑えながらゆっくりと立ち上がった。健斗の身体は泥だらけだった

「まだ……ハッ……ハッ……勝負は……ハッ……ついてねぇだろ……ハッハッ……」

健斗が息を絶え絶えにしながらも必死にそう言うと、松本絢斗はまた不敵な笑いを浮かべた

「じゃあ3本目、俺の勝ち。次からDFは3人」

と言いながら、松本絢斗は笑いながら健斗から離れていった


松本絢斗が位置に戻ると仲間のやつが笑いながら言ってきた

「えげつないことするよな、お前も」

そう言われて松本絢斗は鼻で笑った

「こんな勝負どうでもいいんだよ。どうせ勝つのはこっちだし……山中を痛めつければいいんだ」

「ハイハイ。お前は本当に怖いやつだよ」

「お前らも山中の腹を狙え。あいつを徹底的に痛めつければいいから」

そうして松本絢斗たちはニヤニヤしながら健斗を見ていた





4本目、4対1……健斗は息絶え絶えで身体が上手く動かない

松本絢斗からボールを受け取り、健斗は向かってくる3人のDFからボールをキープしていた

けれど……また心臓が破裂しそうななる苦しみを感じた

翔の記憶……

さらに……あのときの光景……

怖くて集中できない


と思ったら、キープしている途中にDFのやつらがさりげなく腹を狙ってきて、健斗はまた激痛により足を止めてしまった

「グァァァッッッ!!!」

健斗は3人のDFから痛めつけれると同時にボールを奪われる

またその場で倒れてしまう

もがき苦しみ、地面にはいつくばっていた

「4本目も勝ち。DFを4人に増やすから」


容赦ない松本絢斗の攻撃に、健斗は何も出来なかった


そして5本目……ぐったりとして、腹を抑えている健斗は一歩も動けなかった

その状況を見た松本絢斗はニヤッと笑い、仲間に言う

「もういい。潰せ……」


そしてその瞬間……4人のDFから一気に攻撃を受けて……腹に今までにない激痛が走って、健斗は意識を失いそうになって、悲痛の叫びを上げながら、その場で倒れてしまった

しばらく起きることかできなくて、健斗の意識は朦朧としていた

苦しみ、しばらく地に這いつくばっていた


「……グッ……アッ……イッテェッ……ガハッ……」


痛くて動けない

怖くて動けない……

怖くて……足が震える

どうしてこんなに思い出してしまうのか……自分でも分からない

でも思い出してしまう度にめちゃくちゃ怖くって、逃げたくなっちゃう……


もう嫌だ……どうしてこんなに辛いんだよ……

クソッ……クソッ……クソッ……



麗奈は口を手で覆い隠して、辛そうに見ていた

「健斗くん……ねぇ、もう止めさせようよ」

麗奈がヒロにそう言ってもヒロは何も言わなかった

「こんなの……健斗くんが可哀想だよ。もう……もう止めてあげて」


ヒロは歯をくいしばりながら何も答えない

そんなヒロに麗奈はヒロの服を掴みながら言った

「ねぇヒロくんっ!健斗くんが……」

麗奈は不安そうに健斗を見た

さっきから倒れている健斗は少しも動けない……

痛みと恐れで何も出来ない

健斗は静かに目を瞑った






「……うわっ」

健斗はボールをキープしてると、いつの間にか翔にボールを取られてしまった

その衝撃みたいなもんで足がもたつきその場で倒れてしまった

「イテテテテテ……」

翔は呆れるように健斗に言った

「ったく……持ちすぎだよお前。それにもっと顔を上げろって」

健斗はそれを言われると、むっとして立ち上がりながら言った

「んなこと言われてもさ……お前くらいのレベルになると、プレッシャーもつえぇし……それにどっちに抜こうか迷うしさ……顔上げらんねぇよ」

健斗がそう言うと、翔はまたため息をついた

「ごちゃごちゃ考え過ぎだよ。お前は昔っからそうだもんな」

「なんだよ」

「別に?」

翔は健斗にボールを渡すと、また健斗の前に立った

健斗はまた翔に向かってドリブルをする

翔は半身をとって抜くコースを限定した


健斗は抜けるコースを考えた。翔の重心は右にずれてるけど、多分これは誘いだ

だからと言って左には抜けない……こいつにはフェイントはきかないし……

じゃあトリックプレーでやってみるか?

でもどんなトリックプレーで行こうか……

「……ほら」

考えているとまた翔に簡単に取られてしまった

健斗はまた少し唖然として翔を見ていた

「ほら見ろ。ごちゃごちゃ考えてるから持ちすぎるんだって」

健斗はそう言われると何も言えなかった

すると翔はゆっくりとため息をつきながら健斗に近づいてきた

「色々考えるんじゃなくって、感覚でやってみ」

「感覚?」

健斗が不思議そうに聞くと翔はゆっくりと頷いた

「サッカーってのはもちろん頭を使うのは当たり前だけど……それはフィールド全体を見たときにすればいい。けど1対1のときは、ごちゃごちゃ考えるより、自分の直勘とかそういう感覚に頼るんだよ」

「……そんな適当なやり方でいいの?」

健斗が疑い深く聞くと、翔は笑いながら言ってきた

「いいんだよ。もっと自由に楽しくサッカーやれよ。サッカーやるときは、余計なこととかも考えるな。1対1のときは、何も考えるな」









「…………」

健斗はゆっくりと身体を持ち上げた。震える足を無理矢理立たせる

健斗が立ったことに、松本絢斗も他のみんなも驚いていた

健斗はゆっくりと立つと、空を見上げた

さっきまで曇っていた空に、一部だけ晴れたところがある

そこから光が差し込み、その光は健斗を包むようだった

暖かい光に癒される心地よい感覚……

『やってみろよ』

ふとそんな声が聞こえたような気がした

その声が誰の声なのか、健斗には分かっている

健斗はゆっくりと頷いた

そして、松本絢斗をゆっくりと見る


松本絢斗も驚きながら健斗をみていた

どうして立ち上がれたんだろう

ありえない

最後のとどめをしたのに……

それにあいつ……



顔つきが変わった?



ヒロや麗奈も驚いていた

「健斗くん……」

「……あいつ……」

佐藤や早川、教室中のみんな、いや……学校中のみんなが健斗たちを見ていた

するとだった

教室のドアが開き、そこから女の先生が入ってきた

「は〜い、みんな座って〜?授業やるわ……」

先生が教室の中のみんながら窓を見ているのに気づき、不思議に思ってみんなに声をかけた



「何やってるの?」

先生が生徒たちと同じように、窓からグランドを見た

すると健斗とあの松本絢斗を見て、少し驚いていた

全校生徒の注目の的になっている

「あなたたちっ!!何やってるのっ!!もう授業の時間よっ!!」






健斗は深く息を吸い、また松本絢斗を見ると、松本絢斗は少し戸惑いながら健斗に言ってきた

「……ま、まだ続けんのか?」

松本絢斗の問いかけに健斗はゆっくりと頷いた

「まだ……勝負はついてないでしょ」






麗奈はそんな健斗を見ながら呟くように言った

「今5本リードされてるから……1本でも負けたら終わり……大丈夫かな……」

「いや、行けるよ」

そんな麗奈の言葉にヒロは嬉しそうにそう言った。麗奈は不思議そうにヒロを見た

何だか少し興奮しているようだった



6本目……健斗はボールを受け取った

DFは4人……か

向かってくるとちゅう、健斗はそこを動かない



感覚……そうだ

もう何も考えない

翔にまた教えられた……

そうだ

分からなくなったとき、何も考えないで……感覚でぬくんだ……

相手をよく見るんだ


……ドクンッ


また胸が高鳴った

この胸の高鳴りはさっきとは違う

興奮や楽しいような高鳴り……

行ける……



『変わるために必要なのは勇気、なんじゃないかな?』



麗奈の言葉を思い出す

そうだ

勇気をだして……






一人来る……健斗に向かって……

何で動かないのか?

けどいい

これで取って終わりだ

と……思ったその瞬間だった


突然健斗の姿が見えなくなった



健斗は一人を抜いて、そのままDF陣に突っ込んだ

一人抜くと歓声が湧く

「くっ……止めろっ!!」

松本絢斗が焦りながら仲間に指示する

二人のDFを、健斗はまず股で抜き、もう一人はそのままルーレットで抜く

さらに歓声が湧いた

最後に残った松本絢斗と対決……

「やらせるかっ!!」

と言って松本絢斗は健斗に身体をぶつけてきた

健斗はそれを、受け止める

そしてにっと笑うと、健斗は足を止めた

すると松本絢斗も止まり、健斗からボールを奪おうとする

そこを狙った

松本絢斗の伸びた足をかわし、ボールを浮かした。そして、左足のヒールで松本絢斗の頭の上を越すように上げて、ボールを松本絢斗の後ろに……そして健斗もそのまま松本絢斗の後ろに回った

松本絢斗は何が起こったのか分からず、体制を崩して健斗を追いかけることが出来なかった

足を伸ばしてしまっていたから……



健斗はついに……松本絢斗を抜き……キーパーとの1対1……

ボールをちょんっと浮かばせて、そのままドライブのかかったボレーシュートでゴールの右上を狙って決めた

キーパーは動けず、しばらく唖然としていた



ゴールが決まったあと、しばらく誰も何も言えなかった

みんな唖然としていた……

「「「「……う……うおおおおおぉぉぉぉっっっ!!!!」」」」

一気に歓声が湧いた

健斗のスーパープレーにみんな驚きの声を上げた

松本絢斗こそ一番驚いていた

「見たかあれっ!?ちょースゲェよあいつっ!!」

「めちゃくちゃ上手くねぇ!?」

「すご〜いっ!!」

教室の中は感嘆した生徒により、かなりざわめいていた

「山中くん!!すごいじゃんっ!!見たっ!?」

佐藤が驚き嬉しそうに早川を見ると早川も驚いていた

「うんっ……ものすごく上手だったねっ!!」



麗奈も本当に驚いて、今まで見たことのない健斗に戸惑っていた

「……健斗くん……ものすごく上手じゃん……」

「当たり前だよ」

ヒロも興奮しながら言った
健斗はハーフラインに立ち、松本絢斗を見る……

そして手でてまねき挑発した

「くっ……あのやろう……」

あんなのただのまぐれのくせに……この俺が……あんな訳の嘗めた抜きかたで……
松本絢斗は健斗にボールを渡すと、7本目が始まった

4人で積めればいいっ

とれないことはない

松本絢斗は3人を向かわせ、自分はそのカバーに入る

必ず3人を抜いたあと、そこを狙えば取れる

まぁ、3人を抜けるわけがないけど……





健斗は向かってくる3人に向かわず、そこで立ち止まってボールを止めていた

「何やってるんだろう?」

麗奈はその様子を見て不思議に思った



向かってくる3人は一気に健斗のボールを奪おうとした

しかし……だった。向かってきたディフェンスたちはふと足を止めた。足を止めたというよりも、止められたのだ

健斗の異様な雰囲気によって

彼らもサッカー経験が長いのだろう。そのため、今の健斗にこのまま突っ込んだら、確実に抜かれる。そう悟った

迂闊に足が出せないのである

「腹を狙えっ!!ボールと腹を狙えっ!!」

松本絢斗は仲間にそう指示すると、

DFたちは健斗にぶつかろうとした


が……それを健斗はボールをディフェンスにとられぬよう、キープした。

体など入れて、どんなにプレッシャーをかけられても物とせず、ボールを遠い足で扱い、ディフェンスたちにボールを触らせることすらさせない。完璧なボールキープして、相手に腹を狙われても、それを紙のように交わした

3人でかかっているのに、健斗は何人もいるかのようにボールが奪えなかった


松本絢斗はそれを見ると、イライラしていた

「何やってんだよお前らっ!!クソッ!!」

と言って、松本絢斗も健斗からボールを奪うため、健斗に向かって走っていった


それが健斗の狙いだった


その瞬間、健斗はまるで固い縄をほどいていくように細かく緩やかなドリブルで、4人を抜いていく

1人はダブルタッチで抜き、2人目は足裏で転がして抜き、3人目はエラシコから松本絢斗にはルーレットで抜いた

それは早くてボールがまるで見えたのだろう……

しばらく何が起こったのか、4人は分かっていなかった

松本絢斗だけがいち早くそれに気が付いた


「しまっ……」

健斗はそのままゴールに向かい、右端のゴールにインサイドでカーブをかけてまた決めた


その瞬間また歓声が起こった




7本目も健斗の勝利だった

健斗は息を切らしながら嬉しそうに笑った



麗奈は驚きながら健斗を見ていた

妙な胸の高鳴りに戸惑っていた

「すごい……健斗くん……プロのサッカー選手みたい」

麗奈も少し興奮気味だった。健斗の神がかったプレーに魅了されていた

「松本さん……全然大したことないねっ!?」

とヒロに嬉しそうに言うと、ヒロはゆっくりと笑った

「そんなことないよ。あの野郎、口だけじゃなくって……本当に上手いよ……仲間への指示出しやタイミングはバッチシだし……コースの切り方やカバーリングも上手い。身体の入れかたも……だからさっきまで健斗もやられてたんだ。さすが県の3本指ってとこだな」

「そ……そうかな?今は全然大したことなさそうだけど……手加減してるの?」

ヒロは笑いながらゆっくりと言った

「あいつの表情を見てみろよ?手加減してるように見える?」

麗奈はゆっくりと松本絢斗を見た

健斗にトリックプレーに翻弄されてて、必死そうだった

「あんなやつよりも、健斗の方が全然実力が上なんだよ」

「……でもさっき勝てないって……」

「俺が勝てないっつったのは、健斗じゃないよ。あいつが勝てないってこと」

麗奈は少し驚いた……そんなに上手なんだ

あの健斗が……

……

ヒロは健斗を見ながら、驚くことを言ってきた



「健斗は中学のころ、当時弱体化してた神乃中を県大会まで連れてくほどの実力があったんだ。中学のころ白いユニフォームを着た選手が、まるでボールを魔法のように操る超天才サッカー少年。その大会で着いた名前が……“白魔導士ホワイトマジシャン”」

「ホワイト……マジシャン……」

健斗はそんな衝撃な事実が信じられなくって健斗を見た

確かに、まるで魔法のように健斗はボールを扱っている

そして白いユニフォーム……確かにそれは“白魔導士ホワイトマジシャン”のように見える


「あいつ、中学2年で止めちゃったから……全国にはあまり知られてないけど……あいつは本来なら、U-15の日本代表からスカウトが来たことがあるくらいの実力の持ち主、超天才FWだったんだ」


「日本代表!?」


信じられなかった

健斗が……そんなすごい人だったなんて……びっくりして何も言えなかった……


「そんな健斗と唯一対等に互角に張り合えたのが……翔なんだよ」麗奈にとってすごすぎる話で理解しにくかった

「だから分かるよな……ずっと戦ってたライバルが……自分のせいで死んだんだから……辞めちゃう気持ちも分かるよな?」

ヒロの言葉に……麗奈は素直に頷いた

そういうことだったんだ……自分にはよく分からない話だったけど……

でも健斗の辛かった気持ちが、今初めてよくわかったような気がした



健斗は8本目、9本目も松本絢斗に勝ち、ついに10本目……これに勝てば、サドンデスだった

松本絢斗からは笑いは消え、悔しそうに健斗を見ていた

健斗も松本絢斗もその他のDFも息を切らしていた

松本絢斗たちは円になっていた

「おい……ハァ……絢斗……ハァ……聞いてねぇよ」

「お前、ただのザコだって言ってたじゃん……ハァ……」

「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」

松本絢斗はしばらく黙り込んでいた

「ハァ……あいつ……マジうめぇよ……高校サッカーでもあんなやついない……」

と一人のやつがそう言ったその瞬間だった

松本絢斗がそいつの胸ぐらをつかんで怒鳴るように言った

「ひびってんじゃねぇっっ!!!嘗めてんのかぁっ!!!あぁっ!!」

グランドに響き渡る松本絢斗の怒声に見ているみんなが息を呑んだ



健斗はその様子を見て、黙り込んでいた

すると鼻の上に何やら冷たい感触が……健斗が空を見上げると……突然強い雨が降り始めた



「雨だ……」

麗奈が静かにそう言った


松本絢斗が話し合いをしている間、雨により健斗の身体もびしょびしょになった上に……グランドもびしょびしょになる



「いいか……」

松本絢斗は雨が降るなか、静かに言った

「どんなにあいつが上手かろうが、あいつは腹を痛めてんだ……そこを狙えば終わりだ……遠慮するな……思いっきり潰せっ!!」

松本絢斗の指示にみんなはゆっくりと頷いた


そろそろ来るだろう……健斗にとっては一本一本が次への道へ切り開くための勝負……

そして、次勝てば……やつど同等になる

心臓が高鳴った……

あいつの考えは分かっている

翔……

雨が降っているから、翔の声が聞こえない





「お願い……」

「………」

「頑張れ……」

「勝てよ……」

事情も何も知らないやつらの中に、次第に健斗を応援しているやつもいた

佐藤や早川も……ヒロも麗奈も……みんな俺を応援してくれている……

勝つんだ……





松本絢斗はボールを健斗に渡してきて……


10本目が始まった


その瞬間、歓声が湧いた

健斗を応援する人……そして松本絢斗を応援するもの……

それは全校に渡って注目されていた

「うおおおぉぉっっ!!」

松本絢斗たちが健斗に突っ込んでくる

さっきとは違うことがあった

ずっと松本絢斗は自分は1歩引いていたが、今度は松本絢斗一人で向かってきて、その他の3人はカバーに入っていた

これは健斗にとって中々手応えがある

懸命な策だった

松本絢斗は半身をとってしばらく健斗の様子を見た

健斗はボールを止めた

………


健斗はボールを前に出して、松本絢斗を誘った。松本絢斗がこのまま素直に足を出してくれれば、その瞬間に抜ける

松本絢斗は素直に足を出してきた。その瞬間に抜こうとする……が、雨の影響でボールが一瞬、本当に一瞬だけ動くのが遅れた

そのため反応の速い松本絢斗は健斗に思いっきり体を当ててきた。さすがにこれはやばい

がたいのいい松本絢斗と、がたいのあまりよくない健斗では力の差は明らか。健斗はぐらついてしまう。腹にも痛みが走る


身体を当ててくる松本絢斗の前には3人の選手が……

このままではキープが出来ない……

健斗は一旦ボールを止めて、松本絢斗に背を向けた

すると松本絢斗はボールを伺うと……ニヤリッと笑った

すると松本絢斗は、健斗の横に身体を入れるようにした

健斗は少し体制を崩して、松本絢斗を脇の辺りまで行かせる

するとだった

そのままボールを奪おうとはせず……松本絢斗はまた腹を肘で殴った

「っっっ!!!!」

声にならない痛みが腹に走る

「あの野郎……!!またやりやがったっ!!」

ヒロと麗奈は悔しそうにそれを見ていた



健斗は腹の激痛に耐えながら、ボールをキープしていた

するとその中にあの3人が入ってきて、健斗は必死になってボールをキープした

もちろん他のやつらも健斗の腹を狙っていた

雨の中のボールキープ……ボールが滑る

でも取られた瞬間……負ける……



くそっ……ボールをキープしているが、腹を狙われては……

どうしようもない

どうする……



健斗はすぐにボールを後ろに引いた

すると、さっきと同じように松本絢斗だけが健斗に迫ってくる

しかも簡単に抜かせないように、半身をとる

「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」

上手い……すぐに抜けはいけない

「……先輩……」

健斗が言うと、松本絢斗は健斗を見た

健斗は残念そうに……ゆっくりといった

「先輩……楽しいすか?」

「……は?」

健斗はゆっくりと息をしながら続けた

「こんな風に……こんなことして、サッカーは楽しいですか?」

松本絢斗はしばらく黙り込んでいた

「先輩上手いっすよっ!!先輩のDF……スゲェ厄介なのに……なのに、どうして汚いことばかり考えるんすか?もっと純粋にサッカーを楽しもうと思わないんすかっ!?」

健斗が言うと、松本絢斗はしばらく黙り込んだあと、ニヤリッと笑った

「別に楽しかねぇよ……サッカーなんて」

健斗はそれを聞いて、ショックだった

「別にやりたくてやってんじゃねぇよ。面倒臭いし……サッカー部やってんのも、サッカー部に入ってれば、女からはモテるし、成績もよくなるし、そこのヒーローになれっからだよ」

「……本気で言ってすんか」

許せなかった……

こいつは早川の気持ちまでバカにして……サッカーまで愚弄するのか……

腹が煮えくり返った

「そうやって生意気な態度とるなら……俺に勝てよっ!!山中ぁぁ!!」

と言って、松本絢斗は健斗に身体をぶつけてきた

健斗は背中越しに、松本絢斗を背負った

「……俺、ずっとサッカー辞めてて……」

キープしながら松本絢斗に言う

「やっぱりサッカーが好きなんだ。……サッカーを楽しみたい……けどっ!!」

松本絢斗のDFに健斗は苦戦していた

「けど……あんたとの勝負は……全然面白くないっ!!」

「……ほざけぇっっ!!」

松本絢斗が健斗の腹に向かって、エルボを食らわせようとした

それを健斗は歯ぎしりして、体重のかかっているのを利用して、そのまま左足でボールとともに松本絢斗をかわす

松本絢斗はかわされたあと、すぐに健斗を追いかける

「止めろっ!!!」


松本絢斗に命令されて、3人のDFは健斗の前に立ちはだかる

健斗はその3人を見た

健斗のボールを奪おうとするのを、健斗は抜きにかかる

1人目と2人目は横に並んで健斗のボールを一斉に取ろうとした

そこで1人目、2人目をストップアンドルーレットを使った

それは、1人目と2人目が健斗に向かって突っ込んでくる。当然健斗もゴールに向かって走る。

ディフェンスと相対峙する瞬時、健斗はボールを止める。すると1人目が対応できず突っ込んでくる。そのスピードを利用して、健斗は1人目にルーレットをかます

ルーレットで抜いた瞬間、2人目が容赦なく襲いかかってきた。しかし健斗はまったく動揺せず、ルーレットをして抜いた瞬間、1人目と2人目が健斗を挟んでいるような状態になっている。そこを、すぐに右に抜く

あまりの速さにディフェンスはついていけず、
しかし3人目が当然やってくる

健斗はスピードに乗ったまま、フェイントを入れて相手の体重を左にずらす。すると股が開くのだ。その開いた股に、健斗はアウトサイドでボールを出し、相手の左足に当て、股ぬき

スピードに乗ったまま、3人目をぬいた

「クソッ!」

松本絢斗が健斗と並んだ

「やられるかっ!!」

健斗は松本絢斗を見た

悲しかった……今の健斗に追い付ける程の根気よさ、実力があるのに……

こんなにもいい選手のはずなのに……

こいつは何も考えず……俺からボールを奪おうとしている


健斗はピタッとボールを止めると、また松本絢斗はそのまま止まりながらボールを奪おうとした

健斗はさっきと同じようにちょんっとボールを上げると、左足のヒールでボールを扱おうとする

それを見た瞬間、松本絢斗はにっと笑った

「頭上だろっ!!」

さっきので学習した松本絢斗は足を止めて、一歩引いた

やはり、即座に状況を判断し、それに対応する冷静さは、並みの選手じゃなかった……



健斗はそのままヒールで頭上に……ではなくヒールは使わない

間がある。ワンフェイントを入れられる間が。しかし、松本絢斗はそれに当然気づいているので、間をつめようとした

健斗は、ダブルシザースで右に抜こうとする。ここで引っかかって欲しいのだが、やはり松本絢斗は甘くない。ついてきた

健斗が右に抜こうとしたので、松本絢斗も上体を右にずらして、健斗からボールを奪おうとする

しかし……健斗の狙いはそこだった。右に抜くふりをして、インサイドで逆に持ち帰る

逆エラシコだ

松本絢斗の上体はすでに右にずれているため、ついていけない

健斗はそのまま左に抜き、そのまま走り抜けた

松本絢斗を完全に抜き去ったあと、歓声がさらに湧いた

「いっ……」健斗はそのまま、ちょんっと右足でボールを浮かすと、思いっきりシュートを放った

「けぇぇぇっっ!!!」

ボールは回転しながら、左端のゴールに綺麗に向かっていく

今度は左端かと、キーパーは読み、そのままボールをキャッチしようとした瞬間だった

ボールは弧を描くように、逆サイドへと走っていく

完全にキーパーの意表をつき、右端のゴールに勢いよく突き刺さった

実は、最後のシュートはドライブではなく、アウトフォロントで右回転をかけていたのだった



「「「「……よっしししゃゃゃゃぁぁぁぁぁっっっっ!!!」」」」

健斗のゴールが決まると同時にまた一気に歓声が湧いた



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