第5話 挑戦、変わる勇気
第5話 挑戦、変わる勇気 P.22
麗奈とヒロくんは、校門をの近くで、ずっと見つめていた
健斗くんはまったく来ない……さっき松本絢斗が待ってくれると言ってから、20分は経過している
休み時間は50分間だから、もうあと30分しかない
このままだと……
「来ないな……あいつ」
ヒロくんが呟くようにそう言ってきて、麗奈はゆっくりと頷いた
「……もしかして……あいつ本当に来ないのかな」
するとヒロくんは麗奈を見つめた
「なぁ麗奈ちゃん。あいつ昨日なんかあったの?」
ヒロくんにそう訊かれて麗奈はゆっくりとヒロくんを上目使いで見つめた
ヒロくんは、焦るように言ってきた
「やっぱりおかしいよ。あいつ、あんなに松本絢斗のことむかついてたのに……逃げるわけねぇのに」
「ヒロくん」
麗奈が呼びかけると、ヒロくんは不思議そうな表情を浮かべた
「健斗くんがサッカー出来るのか?って、どういうこと?」
するとヒロくんは少し怪訝そうな表情を浮かべたあと、ため息をついた
「……麗奈ちゃん、もう健斗から翔のこと聞いた?」
麗奈はゆっくりと頷いた
「あいつ……それ以来サッカーが出来なくなってるんだよ」
麗奈はそれを聞いて、「あっ」と言いながら思い出したことがあった
そういえば、健斗くんは言っていた
キスをしたあの日……健斗くんがサッカーを辞めた理由でそんなことを言ってた
今でもサッカーをやると……足が震えるって……
「何だか……精神的な苦痛になるみたい。ボールに触ると……翔の死んだ光景を含めて色々頭の中に浮かんでくるみたい……一種のトラウマみたいなもん……」
ヒロは深くため息をつき、あの日のことをふと思い出していた
翔が死んでからの健斗は、サッカー部の練習にまったく来なくなってしまった
そんな健斗に苛立ちを覚えて、ヒロは健斗の家まで押し掛けた
健斗を無理矢理、三丁目公園に引っ張りだした
健斗にボールを渡すと健斗は動きはしなかった
「何してんだよ!?早くかかってこいよっ!!」
ヒロは叫んでそう言ったけど、健斗は躊躇っていた。ふと足を見ると、震えていた
ヒロは唇を噛み締めると、健斗に向かって走った
「おらぁぁぁ〜っっっ!!」
いつもの健斗なら、こんなプレッシャー、屁でもない
こんな単調なプレッシャーなんて、いつもの調子でかわしてくれると思った
だけど健斗は、怖がったような表情を浮かべてボールを動かした
が……
ドカッ!!
「…………」
ヒロは健斗からボールを簡単に奪えてしまった
ボールを取られた健斗は青ざめ、足が崩れた
嫌な汗を流して、息をかなり荒らしていた
かなり疲労困憊に陥っていた
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……」
「……健斗……」
「あんとき、尋常じゃない汗の量だったし……本当にトラウマになってるんだよあいつ……」
「……そうなんだ」
麗奈は静かに頷くと、沈んだ顔をした
「だから健斗くん……ずっと怖がってたんだ」
「……やっぱりあいつ、怖がってた?」
麗奈はゆっくりと頷くと、ヒロを見た
「健斗くんね……昨日結衣ちゃんに……嫌われちゃったの」
それを聞いたヒロは一瞬びっくりしたような表情を浮かべたが、すぐに納得したように頷いた
「やっぱりか。早川も今日様子が変だったもんな。昨日、健斗が本当のこと話そうとしたんだろ?」
麗奈はうつ向きながらゆっくりと頷いた
「……まったくあいつ……」
するとだった。松本絢斗が笑いながら麗奈たちにまた近づいてきた。それを見た麗奈たちは顔を強ばらせた
「……そろそろ時間だよ」
そう静かに言ってきた松本絢斗の声は、少し不敵な笑いが含まれていた
麗奈たちは悔しくて何も言えなかった
「残念だったなぁ〜?結局あいつは俺が怖くて逃げたんだよ」
麗奈たちは何も言えなかった。ここに健斗がいない以上、それを否定できない
すると、松本絢斗は何とも冷たく卑劣なことを、麗奈に向けて言ってきた
「もしかしたらあいつさ、麗奈ちゃんのこと……邪魔だと思ってるから来ないんじゃない?」
「え……」
麗奈は血の気が引いていくような思いになった
健斗くんが来ないのは……私が邪魔だから?
「だって普通そうだろ?見ず知らずのやつが急に居候してきてさ、普通邪魔だよな、あいつは結衣が好きなのにさ……誤解の原因にもなんじゃん」
麗奈は何も言えなかった……次第に健斗くんの態度を思い浮かべていた
健斗くん……私のこと邪魔だと思ってるから……
「俺に任せれば、大変な日々からも解放されるもんな〜?アハハハハ」
松本絢斗はそういうと、高い声で嘲笑うように笑ってきた
麗奈は悔しくって悔しくって……唇を噛み締めていた
次第に耐えきれなくって、涙が溢れてくる
麗奈はそれを止めようと顔を手で覆い隠した
辛かった
健斗くんにそんなこと思われてると思うと……辛かった
そうだよ……全部、私が悪いんだよ……
どんな形であれ、自分がこの勝負の引金になって、健斗くんを苦しめている
それに松本絢斗に気づかされたとき、悲しくって仕方がなかった
涙が止まらなかった……
「……てっ……めぇ……このやろーっ!!!」
突然ヒロくんが卑劣に笑っている松本絢斗の胸ぐらを掴んだ
初めて見たヒロくんの怒った顔に、麗奈は少し驚いていた
「謝れっ!!!麗奈ちゃんと健斗に謝れっ!!謝れよコノヤローッ!!」
すると松本絢斗は突然鋭く冷たい表情に変わり、ヒロくんの手をほどき、突き飛ばした
「汚ねぇ手で触んなよカス」
驚くほどに冷たい表情にヒロくんは凍りついたように松本絢斗を見つめていた
すると松本絢斗はにっこりと笑って、前みたいに優しい声で麗奈に言ってきた
「さっ、麗奈ちゃん。行こうよ」
と言って、松本絢斗は自分の腕を麗奈の肩に回そうとした
「……やっ……!!」
麗奈は嫌がって抵抗すると、松本絢斗は血管を浮かばせるほどに怒りの表情を浮かべていた
すると無理矢理麗奈の手を掴んだ
すると低くて、すごく冷たい声で麗奈に言ってきた
「てめぇはもう……俺の女なんだよ……素直に従えや」
と言って、強く握ってくる右手が痛かった……
そして怖かった……ヒロくんは立ち上がろうとしている
でも……この人には勝てないよ……
怖い……怖い……
この感じ……前も同じだった。前の光景が頭の中に浮かんだ
『てめぇは俺の女だろ……ハァ……素直に従えよ……ハァ……』
麗奈はギュッと目を瞑った
誰か……誰か助けて……
お願い……健斗くん……
自転車の音……自転車の音だけが聞こえる……麗奈はゆっくりと目を開けて校門の方を見た
すると……安心した麗奈はまた一気に涙が溢れてきた
「……健斗くん……」
松本絢斗はそれを聞いてひきつった顔をした。そしてすぐに後ろを向くと……松本絢斗はものすごく驚いたような表情を浮かべた
健斗くんが、息を切らしながら自転車で走ってくる
校門を通り抜けて、グランドを駆け抜ける
籠には何かを入れて……
「おい、あれ山中じゃん」
「本当だ。今更来たのかよ……遅刻?」
「何してたのかしら?」
教室は騒いでいた。みんな思いがけない健斗の登場に動揺している……
「……山中くんだっ!!」
マナが嬉しそうに笑いながら健斗を指した
みんなも戸惑いながらも健斗を見る
そして早川も……ゆっくりと自転車でグランドを駆け抜ける健斗を見つめていた
健斗は松本絢斗を見つけ、自転車を放り出し、荷物を持つと、ゆっくりと歩いて息を落ち着かした
不思議と心臓が落ち着かない……ふと麗奈を見ると……麗奈は泣いている
松本絢斗に酷いことでもされたのだろうか?
健斗はゆっくり松本絢斗を睨みつけながら、そいつの目の前で止まった
しばらく二人は睨みあっていた
最初に口を開いたのは、あっちだった
「……遅かったな。腹くくったのか?」
健斗は何も答えなかった
ただ麗奈の手を掴んでいる松本絢斗の手を睨みつけた
「……離せよ……麗奈の手」
すると松本絢斗は、ゆっくりと笑うと素直に手を離した
「何だ。ちゃんとやる気あんじゃん……やんの?俺と勝負」
健斗はしばらく松本絢斗を見つめてから、下をうつ向いた
「……俺は最初……あんたから逃げようとした」
すると松本絢斗は不敵な笑いを浮かべた
「嫌なことから全部……早川も麗奈も……もうどうでもよかったし……こんな嫌な思いをするのも嫌だったから……けど……」
健斗はゆっくりと顔をあげた
ゴンタに教えてもらったような気がする
本当に今自分がやんなきゃってことを……
「このまま逃げ続けたら、多分俺……一生の内に絶対後悔すると思うっ!!だから……早川や麗奈のためじゃなくって……俺のためにあんたに勝つっ!!」
健斗が見つけた、ゴンタに教えてもらった、新しい答え
ここで逃げたら、今はよくても……絶対後々後悔するかもしれない……
後悔したくないから
負けたくないから
俺はドラマや小説の主人公みたいにはなれない
だから二人を守りたいとか、そんなこと易々とは言えない
だけど……俺は自分のために戦いたい
自分のためにこいつと戦う
こいつに勝つんだ!!
松本絢斗はしばらく健斗を見つめると、深くため息をついた
「訳分かんねぇことばかり……まぁいいや」
松本絢斗はゆっくりと健斗たちから離れていった
健斗はそれを見るとほっとすると、二人にそっと近づいた
「ワリイ二人とも……遅くなっちまって……」
するとヒロはしばらく唖然としていた
「は……ハハハ……おせぇよバカ」
健斗は可笑しそうに笑うと、ゆっくりと麗奈を見た
麗奈は溢れる涙を必死に抑えようとしている
「ワリイな麗奈……」
麗奈は何も言わず、首を横に振った
「俺……やっと分かったから。……ありがとう……」
健斗がそういうと、麗奈はさっきから何も言えず、頷くばかりだった
「大丈夫?あいつに何かされた?」
麗奈はまた何も言わず、ゆっくりと首を横に振った
健斗はそんな麗奈の頭をゆっくりと撫でた
麗奈は頬を染めて、しばらく健斗を見つめた。そして、にっこりと微笑んだ
「遅いっ!!一応……心配してあげたんだよっ!?」
「ワリイって」
可笑しそうに笑う麗奈に、健斗も可笑しそうに笑った
絶対勝つから
そう自分に呟く
あいつには負けたくない……
そう思った
だから勝つ
絶対に……
俺は負けない
負けられないんだ……
次回ついに始まる
健斗VS絢斗……のサッカー対決
一体どちらが勝つのか?
長い間お待たせしました
本当にこの第5話は長いですね
予想外です……まぁ、予想外なところがこの小説のいいとこ
次回をお楽しみに……
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