第5話 挑戦、変わる勇気
第5話 挑戦、変わる勇気 P.21
「は〜……」
そんな想いと裏腹に、健斗は家でのんびりくつろいでいた
庭の縁側に座り、冷たいお茶をゆっくりと飲んでいた
側には近所のばぁちゃんからもらった、甘い団子を置いて……
鳥のさえずりが聞こえる
チッチッチッチッ……
庭に植えている松や梅の木の枝に止まっている小鳥を見て、健斗は和んでいた
こうしてると、何だか嫌なことなんか全部忘れられそうだ
嫌なことなんか全部……
早川のことや、今日の勝負のこと……その他色々……
今まで悩んできたことが全て忘れられそう
早川を好きになってから、苦しかったり、楽しかったり、嬉しかったり、辛かったり……色んな想いをした
それがいいことだったのかどうかは分からない……もしかしたら悪いことかもしれない
だから、今は気分がよかった
そう……気分がよかったんだ
もう早川のこと何か忘れてしまいたいから……
健斗はもうそういうことを考えるのを止めた
頭の中を真っ白にして、冷たいお茶を飲む
……すると、ふと健斗はお茶を飲みながらゴンタを見ていた
ゴンタが、丸々した表情で健斗をじっと見つめていたから……
「……何だよ」
ゴンタは何も言わなかった
いや、ゴンタは犬だからしゃべれはしないのは分かってるけど……
「……団子、食いたいか?」
健斗が団子を手に持って、団子をゴンタに見せると、ゴンタは尻尾を振りながら健斗にゆっくりと近づいてきて、健斗に甘えた鳴き声で健斗に寄りかかるようにきた
ゴンタはゆっくりと家に上がる……前にゴンタの足を首にかけてたタオルで拭いてあげて、健斗の隣に座らせた
ゴンタに団子を一つあげると、ゴンタは団子を食べた
健斗はそんなゴンタを撫でてやった
するとゴンタは団子を飲み込むと健斗からお茶をもらう
するとまたゴンタは黙って健斗を見つめた
「まだ食いたいの?」
しかしゴンタは首をふらなかった
するとゴンタはようやく吠えた
「わんっ」
「……学校?行かね〜よ今日は」
するとゴンタは高い鳴き声で鳴いた
「別に……ただ面倒くさいから」
ゴンタは黙った
「ゴンタはいいよなぁ〜……悩みとかなさそうだもんな」
と言って健斗は微笑んだ。ゴンタの背中を撫でながら、さらに続けた
「お前、犬に生まれてよかったなぁ?」
するとゴンタは健斗を見ながら不思議そうな表情を浮かべた
「何でって……言われたらなぁ〜……人間なんかに生まれても何の得もないからさ」
健斗は深くため息をつきながら、団子を一口……
ゴンタはずっと健斗を見つめている
「人間なんて、辛いことばっかり……やってらんねぇよ本当に……」
次第に溢れてくる全てに対する愚痴……
ゴンタにだからこそ言えた
「なんで早川のご機嫌なんか伺わなきゃなんねぇんだよ……なんで俺が、松本綾斗とサッカーで勝負すんだよ……麗奈があいつと付き合おうが付き合わないが、俺には関係ねぇよ」
健斗は深くため息をついて、ゆっくりとお茶を置いた
「何でこんなに……嫌なことばかりなんだよ……前の俺には、こんな風に悩んだりすることはなかったのにさ……」
何でこんなな色んなことに不安を抱えて悩み苦しんで生きなきゃいけないんだろう?
前の俺にはそんなことなかった
悩みや苦しむことはなく、ただサッカーを楽しみ……翔がいてくれた毎日がすごく楽しかった
「……あのころに戻りたいなぁ……翔がいたあのころに……」
するとゴンタはそれをきいて、健斗に頭をぶつけてきた
健斗を見て、何回も吠えてくる
「あ……ワリイワリイ。あのころに戻っちゃったら、ゴンタとは出会えないもんな」
と言って、健斗は笑いながらゴンタの背中を撫でた
健斗はゆっくりと背中を伸ばした
「今はくだらねぇことばかりだなぁ〜……嫌なことばかりで……バカみてぇ」
健斗はそのまま続けた
「翔がいなくなる前の俺は……毎日に迷いとかなかった。けど今は……毎日が迷いだらけだよ」
健斗はははっと笑いながら言った
「だからこうやって、嫌なことからみんな逃げちゃえばいいんだよな?そうした方が楽だし……考えていくのがバカみてぇだよ」
健斗はそう言って、団子を一口食べた
そうだよ
逃げちゃえばいいんだよな
全てから、嫌なことなんかみんな忘れて
こうやって空を見て鳥のさえずりを聞いて
団子を食ってお茶飲んで
のんびりとしてもいいんだよな……
辛いことがあったら忘れちゃえばいいし
自分が無理して変わることもない
これが本当の俺だから……
こんな考え方しか出来ないんだよ俺は……
そんなごちゃごちゃ考えたくないんだよ
俺は小説の主人公や、ドラマの中の人間でも何でもない
ただの田舎に住む普通の高校生なんだから……
深く考える必要はない
嫌だったら
辛かったら
そこから忘れて逃げればいいんだから
だから今はすがすがしい
前の自分に戻りつつある自分にほっとしてきた
やっぱ、こういうのが……本当の俺なんだよなぁ……
「……ん?」
健斗はゴンタを見ると、ゴンタは健斗を威嚇していた
急に臨戦体制みたいな形になって健斗に唸っていた
「な……何だよゴンタ……」
と言い、ゴンタに手をさしのべると……何とゴンタが健斗の服に噛みついてきた
健斗はびっくりして、手を引いた
「な、何すんだよ」
しかしゴンタはまた健斗に噛みついてきた
体当たりなどもしてきた
こんなときのゴンタは、怒っているんだ
何で?
ゴンタは健斗に向かって吠えながら、健斗に何度も体当たりをしてきた
「やめろって!!何だよ急にっ!!」
何を興奮してるのかわからなかった
するとゴンタはまた健斗の服に噛みついた
「は、離せよっ!!」
ゴンタははなさなかった
健斗を強い力で引っ張っていた
健斗はゴンタに引っ張られると、自転車のところで止まり、ゴンタは健斗に向かって何度も吠えた
「ワンッ!!ワンッ!!ワンッ!!ワンッ!!」
「……嫌だよ」
健斗はゴンタを見ながら、そう呟いた
「行きたくねぇよ……何で俺が行かなきゃなんねぇんだよ」
しかしゴンタは健斗の足に噛みついて、引っ張ろうとする
「やめろってっ!!」
健斗が怒鳴りながら、ゴンタを足から離す
しかしゴンタは興奮したままやめようとしなかった
健斗はゴンタを無視し、また縁側に座り深くため息をついて、お茶を飲もうとした
……が、ゴンタが飛び乗ってお茶や団子をめちゃくちゃにしやがった
健斗はそれで完全にキレた
「いい加減にしろよっゴンタァッ!!!」
ゴンタは一瞬ビクッとしてひるんだが、吠えてきて健斗を引っ張ろうとする
健斗はそれを振り払った
「嫌だって言ってんだろっ!?もう何も考えたくねぇんだよっ!!」
ゴンタと健斗はしばらく睨みあった
「何で俺が嫌われた人のために勝負すんだよっ!!もう訳が分かんねぇよっ!!ほっとけよっ!!」
健斗がそう怒鳴ると、ゴンタはしばらく健斗を見つめていた
吠えもせず、ただ健斗を見つめていた
するとゴンタは走って家の中へと入っていった
「おいゴンタッ!!」
ゴンタを呼ぶとゴンタは止まらず構わず家の中へ入っていった
健斗はそれを見ると……しばらく佇む
深くため息をついて、ゴンタがめちゃくちゃにした団子やお茶を片付けていた
ゴンタにまで裏切られた思いだった
何でこんなにみんなして、俺を追い詰めるんだろう
俺が何をしたって言うんだよ……
何もしたくないのに……俺は……
健斗は片付ける手を止めて、イライラした想いから床を思いっきり叩く
「クソッ!!!」
するとだった
家からゴンタが戻ってきた
何かをくわえて……それを健斗の前に持ってきて、何度も吠えた
健斗はゴンタが持ってきたものを見て、しばらく黙り込んでいた
ゴンタが持ってきたもの……それは……
「ゴンタ……これ……」
健斗はそれを手にとった
「翔の……スパイク……」
そう
机の下に保管しておいた翔のスパイクだった
久しぶりに見る……翔のスパイク……
mizunoの白に青いデザインが入った、当時2万くらいしたスパイク……
少しボロがあったが……使えないことはないスパイク
それは当たり前だ
健斗が定期的にちゃんと磨いていたから……
健斗はしばらくそれを持ってゴンタを見た
「……ゴンタ……」
ゴンタの想いがスパイクを持ってきてもらったことを通じて生まれた、何だか不思議な気持ち……
胸の中で燃えるように熱くなるこの気持ちは……前にもどこかで感じた……
健斗はしばらくスパイクを見つめたまま、動かなかった
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