第5話 挑戦、変わる勇気
第5話 挑戦、変わる勇気 P.2
麗奈とは言うと、ご機嫌そうに職員室に向かっていた
心の内で笑っていた
ラッキーラッキー♪
数学のプリントすぐに出せば問題ないけど掃除当番代わってもらっちゃった♪
健斗くんには悪いけど、でも今頃健斗くん結衣ちゃんといっぱいお話してるんだろうなぁ
という企みがあって、麗奈は健斗と掃除当番を代わったのだ
健斗くんって意外と頼み事を断れないタイプだもんね〜
麗奈は職員室に向かう廊下を歩いている途中、健斗の言葉を思い浮かべた
『麗奈っ!!俺さっ!!お前のこと好きかもっ!!』
『勘違いすんなよっ!?お前のバカで能天気で、おっちょこちょいで、マジで訳分かんねぇとこが好きだってこと!!』
そう言ってくれた健斗くん……本当に嬉しかった……
それは自分も言ったことと同じようなことを言ってくれた
つまりは、麗奈を認めてくれた瞬間だったから
健斗くんは、麗奈にとってすごく大切な存在なんだ。家族であり、親友であり、とても大切な存在……大好きな存在なんだ……
だから健斗くんがいなくなるなんてことは考えたくない
あの日、健斗くんが「過去に戻りたい」って言ったとき……健斗くんがどこか遠くへいなくなるような気がして、すごく寂しかった……
そんなこと言わないで欲しかった……
だから悲しくなって寂しかった……涙が溢れてきたんだ
けどどうしてか……抱き締めたくなったのか……
あの時も麗奈はどうして健斗にキスをしたのか……自分でもさえ分かっていなかった
別に健斗のことが好きだからとかじゃなかった
でもどうしてだろうか……
健斗に対して、少しずつ芽生えている不思議な気持ちに麗奈は気づいていなかった
職員室にいる数学の先生にプリントを提出して麗奈は職員室をあとにした
さて、健斗くんも待ってることだし教室に戻ろうと考えていたときだった
「なぁ」
ふと後ろから声を呼びかけられ麗奈はふと後ろを振り返った
するとそこには……
爽やかな笑顔を送る一人の美男子が立っていた
背が高くてサラッとした綺麗な茶髪……まるで芸能人みたいな顔立ち……
そう、俗に言うイケメンの男の人が麗奈に笑いかけていた
麗奈は周りを見渡した。自分に話しかけてきたんじゃないと思って……
けどそのイケメンはまた微笑みながら言ってきた
「君、大森麗奈ちゃんだよね?」
ふと自分の名前を呼ばれ、麗奈は顔を赤らめてゆっくりと頷いた
低い声で柔らかい落ち着く声だった
どうして私の名前を知ってるんだろう?
っていうか、誰?
「何やってんの?こんなところで」
「え……別に……」
何やってんのって訊かれてもなぁ……
その人はただ麗奈を見つめて、微笑んでいた
麗奈はふと上履きを見た
上履きの色は赤……確か健斗くんが言ってた……
1年は緑、2年は黄色、3年は赤だって
だからこの人……3年生か……
「あの〜……どこかで会ったりしましたっけ?」
麗奈は少々戸惑い気味でその人に言うと、その人は静かに言ってきた
「麗奈ちゃん、この学校で有名だよ?東京から来た美少女だって……」
「はぁ……」
そんなことないけどなぁ〜……
麗奈はそれを聞いてはぁっと息を吐きながらその人を見た
するとその人は爽やかな笑顔を見せてきた
「確かに可愛いね」
「えっ!?」
麗奈は胸が高鳴って、顔を赤くした
いきなり、何を言い出すんだこの人……
「照れてる麗奈ちゃんも可愛いね」
「わ、私、人待たせてるから……」
麗奈は走ってそこから逃げていった。
逃げだしたのには理由があった。突然そんなことを言われて恥ずかしかったのと……
何だか怖かったからだった
麗奈が走って去っていくのを見て、そのイケメンの人は微笑んでいた
何を考えているのか……一体誰なのか……
「何やってんだよあいつは……」
健斗は外を眺めながら、麗奈を待ちながらため息を吐いていた
ちょっと遅すぎじゃねぇか?
ちょっとプリント出しに行くだけだろうが……
そんなに時間が掛かるはずがねぇのに……
健斗はそう思いながらふとさっきの早川の表情を思い出していた
寂しそうな表情だったな……
一体何を考えていたんだろうか……
どんな理由でも、早川にあんな表情をして欲しくなかった
どんな理由でも……
そんなことを考えていると、突然教室のドアが開く音がした
健斗は振り向くとそこには顔を赤くして息を荒くしている麗奈がいた
健斗は麗奈を見ると呆れるようにため息をついた
「ったく……おせぇよ。何やってたんだよ」
健斗がそう言うと、麗奈は小さな声で「ゴメン」と呟いた
「今日バイトあんだから。遅れたら店長に悪いだろ」
と健斗が鞄を持ってため息をついていると、ふと麗奈の様子が変だった
麗奈は息を落ち着かせようと呼吸を整えていた
「……どうした?」
健斗が聞くと麗奈は健斗を見て首を横に振った
「別に?何か、陸上部見てたら私も走りたくなって、全力疾走してきただけ」
健斗はそれを聞くと笑いながら首をかしげた
「あいっかわらず訳分かんねぇやつだな」
「まぁね。さっ、行こっか」
と麗奈はにっこりと微笑んで、健斗から鞄を受け取ると教室をあとにした
「つーかさ、お前部活入ったりしないわけ?」
健斗が訊くと、麗奈はふと思い出すような言い方をしてきた
「そうだね〜……」
「もうここに来て1ヶ月以上は経つんだし、もうすぐ7月だぜ?早く決めとけよ」
「でもなぁ〜……結局面白そうな部活とかないしさ」
「テニス部は?楽しかったんじゃないの?」
靴を履き替えながら、麗奈はゆっくりと頷いた
「多分……本格的にやるとしたら続かないと思う」
「……お前さ、何やってきたんだ?」
昇降口を抜けながら麗奈は首をかしげた
「何って?」
「だから、スポーツとかそういうのだよ」
麗奈はしばらく考えた。しばらくの間沈黙が流れた
「スポーツは……やってないなぁ……あ、ピアノとかなら」
「ピアノ?へぇ〜……意外だな」
「少しだけね。お母さんがピアノ弾いてるのを聞いて私もやりたいって思ったんだ」
と麗奈は笑いながら言ってきた。そんな麗奈を見ながら健斗もふと笑った
「ピアノ部なんかないもんな」
「あったらいいのにね〜……」
健斗は自転車の鍵を開けるとふと思いついた
「じゃあさ、吹奏楽とか弦楽部とかそういう音楽関連なやつやれば?」
「あ〜……」
「吹奏楽は結構いい成績残してるみたい。弦楽部も……やってみれば?」
「でもなぁ〜……マナも結衣ちゃんもいないと心細いしなぁ」
健斗はそれを聞いて呆れるようにため息をついた
「バカだなぁ。そこで友達作ればいいじゃん」
「うん……」
健斗は心配そうな表情を浮かべている麗奈を見てからかうように言った
「ふぅ〜ん……麗奈さんは寂しがり屋なんだな〜」
「べ、別にっ!?そんなことないよ。分かった。考えとくよ」
健斗はむきになる麗奈が可笑しくって声を立てて笑った
「何が可笑しいの?」
「アハハ♪何でもねぇよ」
と健斗は言うと自転車を動かして、麗奈を後ろに乗せた
「さて……じゃあ行くか」
まだ明るい中健斗たちは校舎を後にしようとした
が……
「ねぇちょっと止まって」
と麗奈が言ってきたので、健斗は素直に校門付近で自転車を止めた
「何だよ。忘れ物?」
「今日健斗くん、バイトなんだっけ?」
「そうだよ」
「私どうすればいいの?」
「どうすればいいって……途中まで送るからバスで帰れよ」
「バスって?あそこバス通ってないんでしょ?」
健斗はそれを聞いてはっと気がついた
そっか……こいつにまだちゃんと説明してなかったな……何だかんだ言って、バイトの日にいっしょに帰るのが初めてだった
「確かに家の前にはバス通ってないけど、ほら車道に出る道があんだろ?」
「三丁目公園の方?」
「そうそう。そこにはバスが通ってるから。こっからそこまで行けば40分くらいで帰れるよ」
健斗がそういうと麗奈は不満そうな顔をした
「え〜?面倒臭いよ〜」
「仕方ねぇだろ?ほら、行くぞ」
健斗が自転車をまたこぎはじめようとすると麗奈が言ってきた
「そうだ!!じゃあさ」
「ん?」
「じゃあさ、私もいっしょに健斗くんのバイト先に行っていい?」
「ダメ」
健斗が素っ気なくいうと麗奈はしばらく口を開けていた
「え〜?何で?いいじゃぁん」
「あのな、俺遊びに行くわけじゃねぇんだよ」
「そんなこと分かってるよ」
「バイト先にいたら邪魔になんの。大人しく家に帰れよ」
「そんなこと言ってさ?私健斗くんの邪魔になったことある?」
何だか……あのときと同じ会話を繰り返してるような気がする……
「どうだかな……」
すると麗奈は健斗の背中を叩いてきた
「いってぇなっ!!前と同じことしてんじゃねぇよ」
「行くって言ったら行くもんっ!!」
「何様!?つーかお前が自転車に乗れるようになればいいんじゃん。たった10秒くらい乗れたら満足してんの」
「だって練習しなくてもいいって言ったの健斗くんじゃん」
「誰も練習するななんて言ってねぇよ。無理すんなっつったの」
「だから無理しないようにしてるんだよ」
「結局無理って決めつけてんの?」
「だって……」
「だってじゃない。とにかくバス停まで送るから」
健斗がそれを言ったきり、麗奈はもう何も言って来なかった
それが気になって、健斗はゆっくりと後ろを振り返った
すると麗奈は悲しそうな表情を浮かべていた
それを見たら、健斗は心が痛んだ
そんな表情されると……
若干涙目だし……でも……なぁ……
またチラッと麗奈を見る……
………
………
「麗奈」
麗奈は返事をしなかった。健斗は面倒臭そうに頭を思いっきり掻いた
「……分かったよ……分かったから」
「えっ!?本当に!?」
突然元気を取り戻してきた麗奈に健斗は呆れるようにため息をついた
「その代わり、絶対邪魔すんなよ?」
「さっすが健斗くんっ!!女の子の涙に弱いんだねっ!?」
「うるせ〜。つーか分かったか?」
「はぁ〜い♪」
こいつがこう軽い返事をするといつも真逆なんだよな
と健斗は不安に思っていた
まぁでも……店長も麗奈に会いたいと言ってたし……大丈夫かな
いささか不安だったが、健斗は深くため息をつくとRyuまで自転車を走らせていった
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